間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

9.好敵手と書いてともだちと読む

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 5月の頭、僕はクラスメイトで人気者の秋山千才くんと金網で戦う。大人気ないとなろうが、僕は秋山くんを全力でぶちのめす。それが、契約を交わしリングに上がる格闘家としての礼儀と教えられたから。

 戦闘モードに入った僕は、土日も練習の為に費やす。今日は『ある用事のため』に、隣町まで電車に乗って行こうとしたのだけど。

「何でキミ達も居るの?せっかくの休みなのに」
「いやぁ、久島が普段どんな練習してっか気になってよ」
「せ、せめて応援というか、手伝いたいなと」
「今後秋山と喧嘩するときの参考に」
「ダメだよ本田くん」
「チッ……」

 あの日以来、僕と伊佐美くん、山城くんに、本田くんは、僕の『付き人』として休日の練習に付き合うと言って来たのだ。何もそこまでとは思ったが、あの2年2組からハブられた4人組、仲良くしようやとこのチームが結成された。

 なおチーム名は決まってない。というか、ハブられ4人が傷舐め合ってるだけだから、秋山くんぶちのめしたら解散すると思われる。

「んで?隣町のジムまで行って久島は何すんだ?」

 いつもの地元のジムでは無いのかと伊佐美くんに聞かれて、僕は頷いた。

「うん、ブレイキングケイジのグローブってオープンフィンガーグローブだからさ、慣れる為に知り合いの総合格闘技ジムに今日は出稽古に行く」
「オープンフィンガー?」
「これ、素手に近いやつ」

 知らない人はまぁ知らないよね、山城くんが分からないので、そのグローブの写真をスマホで調べて見せてあげた。

「えっ、ブレイキングケイジってグローブこれなの?」
「そー、より素手に近いから……さらに痛いよね」
「カッケーなこれ、グッズで欲しいわ」
「最近は、このグローブでキックボクシングするルールもあるんだよね」

 ここ最近は、ボクシンググローブではなく、このオープンフィンガーをつけてキックボクシングを行うルールや、団体もあると説明した。僕はこのグローブを使った事無いし持ってない、残念ながら所属ジムには無いとなれば……他所を頼るしかない。

 学校ではぼっちだった僕だけど、外に出れば同じ志を持つ同志が居る。今日は『彼』を頼ろうと決め、隣町まで電車に乗ったのだ。

「じゃあ、降りようか」

 目的の駅に着いて、伊佐美くん達に降りると伝えた。『波浜町』の隣に位置する『高月市』という街……僕は駅から出て、その場所まで皆を率いて歩く。

 歩いて5分ほど、土曜日の昼間のそのジムはなかなかの活気に包まれていた。

「K-ストライク、ど、ど?」
「ドージョー、道場だね海外っぽいよね」

 伊佐美くんが看板を見て最後に詰まったので教えてあげる。今回助けを乞うたのはこの『K-strike Do-Jo』というMMAジムだった、僕は早速、ドアを開けて挨拶した。

「こんにちは、久島です、出稽古に来ました」
「イーッス!」
「ざーっス!」

 挨拶をした瞬間、ミット打ちをしている人も、スパーをしている人もそれぞれ挨拶してきた。この雰囲気について来た3人は気圧された、ガチガチの体育会系だからなぁ……なんて思いながら、1人の少年が寄ってきて、僕は彼を呼んだ。

「やぁやぁ久島くん、話聞いたよー」
「町田くん、ありがとう、相談に乗ってくれて」

 茶髪の爽やかな、汗をかいてこれまた色気あるハーフっぽいイケメンが現れた。

 彼は町田真一。

 僕と共にこの地区からBOFユースに参加し、同じファイナル4に上り詰めた『高校生総合格闘家』である。

 つまり彼は『全国で四番目に強い高校生キックボクサー(本職総合格闘家)』である。

「でーキミらは……もしかして体験入会?」

 爛々と輝く青い虹彩に射抜かれた3人は、彼の爽やかイケメン笑顔にたじろいだ。うん、彼はすごいベビーフェイスなのだ、表向きは。

 で、今まで見て来た秋山くんというリア充マウンティングイケメンと違うから、慄いていると思われる。

「いや、違うんっスよ俺ら久島の付き添いで……」
「お邪魔でなければ、入っても?」
「いいでございましょうか?」

 3人は、これただの付き添いとか失礼極まりなくないかと思って、畏まった。その3人に町田くんは爽やか笑顔で答えた。

「久島くんの友達かぁ!いいよいいよ!是非入って見学して行って!何なら今日、MMAを知って入門考えてよ!」

「「「お、お邪魔します」」」

 是非中にと招かれた伊佐美くんに、山城くん、本田くんは、これがまじのイケメンかと浄化されながら、ジムの中にお邪魔するのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いやはや、キミがブレイキングケイジ出るって話聞いたからさ、遂に一緒にアメリカの金網を目指してくれるのかと期待したけど、成る程そうか、喧嘩売られたんだね」
「負けはしないけど、舞台もルールも相手も特異だからさ、しっかりとやれる事はやっときたいんだ」

 練習着のキックショーツにラッシュガードへ着替えた僕と、近場の壁に座した伊佐美くん達。そして町田くんが、此度なブレイキングケイジ出場の経緯を聞いて頷く。

「とりあえずさ、その対戦相手の秋山千才くんの動画あるかな?何かやってる、練習とかの」
「いや、それが……素人なんだ」

 まず分析しようかと、和かに彼が練習してる動画を見せてと言うが、マジのガチの素人故に無いと僕が言えば、ふむと町田は顎に手を当てた。

「成る程、彼はYouTuberだよね?なら彼のチャンネルの動画、見せてよ何でもいいからさ」
「あ、うん、わかった、あスマホ……」
「久島くん、僕のスマホ使って」
「お、気が利くなーキミ!」

 ならば彼のチャンネルの動画から、色々推察してみようかと町田が言えば、スマホはロッカーにしまった久島に、山城がこれをと取り出した。

 町田くんが、山城くんからスマホを受け取る。既に手際よく検索かけて出した、秋山千才率いるYouTuberチャンネル『クリアユース』を見ると……。

「はは、キミら運が良いよ」
「どうしたんですか?」

 町田くんが笑ったので山城くんが、何かあったのか尋ねて、画面を指差したら……新しい動画が昨日投稿されていた。

 タイトルはーー。

『友達とブレイキングケイジで殴り合いをする為に、ミット打ちをやってみた』だった。

「あいつ、本当にふざけてんな!?」
「まーまー抑えなよ、良い情報が手に入った幸運を喜ぼうよ兄弟」
「う、うす、兄弟?」

 まさかの秋山陣営、ミット打ち動画を公開。どこかは知らないがスペース借りて、ボクシンググローブはめた秋山くんが、浦和くんにミットを持ってもらい、ミット打ちをする10分の動画だ。ふざけやがって吐き散らす伊佐美くんに、落ち着きなよと笑う町田。

「んじゃ再生」

 そして再生してーー。

『その脱毛!ちょっと待って!!』

 ……広告を律儀に待ち、動画は始まった。

『どうも皆さん!透き通るーー』

「「「「「スキップ」」」」」

 クソみてぇな挨拶をスキップして、早速ミット打ちを皆で見ることにした。

 動画の中で、秋山くんがワンツーを浦和くんのミットに叩き込む。ミットの位置は素人だけど、音はいい。パンチスピードも、素人らしくはないなと僕にもわかった。

「体格いいね、スポーツやってた奴だ、格好だけでパンチの打ち方は……これは多分教則動画を見て真似たって感じかな、身長は176~180くらいで……体重は75~80?真面目にやったらいいとこ行くんじゃない?」

 少し見ただけだ、町田くんはスラスラと秋山くんのデータを次々露わにしていくので、本田くんは驚いた。

「分かるんですか?」
「まあね?ある程度見たら……」

 そう語る町田くんが、動画の中の秋山くんのアッパーカットを見た瞬間、僕も3人も驚く事を言った。

「野球か、やってたの」

 さっきの経緯で、彼が『過去野球をしていた』とは僕も、伊佐美くんも、山城くんも、本田くんも言ってない。なのに今のアッパー一つ見ただけで、過去のスポーツ経験まで町田くんは暴いて見せたのだ。

「そ、そうです、どうして?」

 山城くんが何故わかったのかと尋ねて、答えを町田くんは言った。

「腰の振り方がそうだ、力の伝え方が分かってる……過去に野球やってた人が格闘技始めて中々のとこまで行ったりするんだよね……」
「な、なぁおい久島ぁ、格闘家って皆こんなに分析鋭いんか?俺ちょっと怖ぇんだけど?」

 いや、これが町田真一くんだ。

 町田くんは、その人の動きを見るだけで、過去何をやっていたか、そして精神性まで見抜く。

 僕も一年前に県大会決勝で、彼に見抜かれた果て判定負けしてし準優勝での関西ブロック出場だった。

 僕の高校アマチュア試合戦績、2敗の内の1敗がこの町田くんで、もう1人が久瀬くんなのだ。

 町田くんはあの試合『判定に助けられた、実質僕の負けだよ』と言うけど、判定であれ負けは負けだと僕は受け入れている。

「自信あるね、恐怖心がないと言うか……うん乗り越えたと言う自負があるみたい、今まで失敗も挫折もない、全て思いのままにして来たって感じか……」

 呟く町田くんの表情が、険しくなっていく。余程強敵で才能が秋山くんにはあるのかなと僕は、彼の変わりゆく表情を見つめ……動画はタップされ停止した。

「どう、町田くん……」

 キミから見て彼はどうだ、そう尋ねた僕に……町田くんはトーン二つ下がった声で言った。

「こいつ、クソ舐めくさっとんな」

 やはり、彼の逆鱗にも触れるほど、秋山くんは舐め腐ってるらしい。
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