間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

文字の大きさ
12 / 93
一章.ブレイキングケイジ編

10.悪魔を宿した左足

しおりを挟む
 町田くんがめちゃくちゃキレている、さっきまで和やかムードが一気に氷点下まで下がった。ガチのやつであった、特に町田くんが県大会準決勝で、心も肉体も砕き切った、フルコンタクト空手上がりの選手にした目をして、ため息吐くや僕に言うのだ。

「久島くんさぁ……変わってくれない?こいつ僕が二度とナマ言えないくらいボコボコのぐしゃぐしゃにしてやるからさ」

 そして変われとまで言い出したので、いやちょっと待てよと僕は遮った。

「それやったら僕が逃げたみたいになるじゃん、僕がしっかりぶちのめすからさ、ね?」
「むー……つかさ、気づいてるか分からないけど……こいつキミを倒す気でいるよ」

 遮ったところで告げられる。秋山くんの思惑に、僕ははぁ?となった。

「今のミット打ちで分かったよ、こいつさぁ、キミを身長差と体重差で倒そうとしてるんだ、安直な考えが見え透いてる、誰かに聞いたんだよ、階級差による威力の違い……勝てると思ってんだよキミに」

 あ、そうなんだ。

 秋山くんが、僕に。素人の、ちょっとスポーツやってた秋山くんが、何の希望を見出したか知らないけど、そんな淡く脆い天望を持っているのかと、僕はから笑いが出てしまった。

 すくりと立ち上がる、僕は町田くんに尋ねた。

「作戦、どうしようかな」

 町田くんも立ち上がる、そして答えてくれた。

「あいつの攻撃ごと薙ぎ払え、久島くんの蹴りで」

 そう言った町田くんは、棚からキックミットを取り出して両腕に取り付けながら語り出した。

「野球やってるなら選球眼持ってて目がいいと仮定しよう、あの舐めた勘違い野郎は、キミの左のミドルに合わせて右ストレートを被せて踏み込んでくる、構えて」

 何も言わずに始まる作戦会議に、シームレスに始まったと伊佐美くん達が驚き壁際に邪魔にならないように下がった。僕がサウスポーに構えたのに対し、町田くんはキックミットを持ったままオーソドックス、左手前に構えた。

「サウス対オーソ、鏡合わせとなればキミからは左ミドルが絶好の武器になる、対してあいつは……踏み込んで右で身体を少し角度変えればストレートが簡単に当たる、キミはよく知ってるよね」

 キックミットを携えたまま、身体を少し移動させて踏み込み、ストレートを僕の顔にゆっくり放つ町田くん。

「久島くんは、兎に角得意な左を蹴れ、1分間の試合なら開始直後から全力で蹴りに行って、心も腕も肋骨も折って、金網に追い詰めて……蹴り殺してやれ」

 最早作戦どころではない、速攻と力の真正面対決の提案。それに対して僕は懸念材料を一つ彼にぶつける。

「……カウンターが来たら?」

 そのカウンターが来たら?食らったら?その問いに、町田くんは笑った。

「鍛え抜いた格闘家の身体が……たかが体重差があるだけなスポーツやめてる素人の拳一発でグラつくの?久島くん?」

 挑発であり叱咤激励だった。

「あはっ、それ言われたらさ、やるしかないじゃん」
「蹴っておいで、ミットはあの勘違いやろーの脇腹だ、肋骨砕いてやれ!」
「しゃあっ!」

 気合い一閃、町田くんのキックミットに向け、僕は左のミドルキックを放った。


 ド ゴ ォオオ ンン !!!


 およそ、ミットから鳴ったとは思えぬ轟音に、ジムの全ての音がかき消された。

 ジム内の練習生や、プロすらも。

 その響き渡る音に、動きが止まった。

「ほ……んとにさぁ……逃げ続けが正解だったよ、あの時の試合……」

 ミットを持った町田も、痺れよろける久島の蹴りに、あの時逃げ切って正解だったと呟く。

「……秋山、これ、死ぬんじゃね?」
「爆撃機の……爆音?」
「……線香、買っとくか帰りに」

 壁際の伊佐美くん達が、そんな事言ってたけど。そうなるかもね、僕は秋山くんをぶちのめすために練習してるんだ。

 格闘技はプロでもアマでも、契約書には万が一の死亡も受け入れると記されている。

 だからこの試合で、秋山くんが死んでも……僕は構わないと思っている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「やってるなー、素人なりに」
「あ、あの高校生のチャンネルっすか?」

 ブレイキングケイジ会場となる、波浜総合体育館に金網リングが運ばれ設営される中、パイプ椅子に座りながら朝原光流はスマホで、ブレイキングケイジに殴り込んだ地元学生YouTuberの秋山千才が、ミット打ちをチームメンバーと行なっている動画を鑑賞していた。

 懐かしさすら感じる、自分もこうして……不良や元ヤクザ、暴走族が参加するアマチュア団体に、ミット打ちやストリートファイトの動画を送り試合に出ていた事を。

 そこでトーナメントを勝ち、こうして成り上がりここまで来て、今度は自分がかつて発掘してもらったように、団体と興業を作り上げた。

「まぁ、所詮素人っすね……そこらのヤンキー相手なら1分やりあえるかもしれないっすけど」

 背後から覗くスタッフもまた、朝原と同じだった。確かに肉体も鍛えた、スポーツマンである、地力は持っているらしい。

「無知って怖いね、アマチュアでもBOFのファイナル残った奴だよ?学生プロも混じった中の上位4人に喧嘩売るんだからさぁ……」

 だが、相手が悪すぎる。

 格闘技界隈でBOFのユースファイナリスト4人は、未来のスーパースターなのだから。

『日本キック界の特異点』 久瀬秀一郎
『古流幻想の体現者』           篠月涼
『伝統派空手の雄』               町田真一

 そして

『悪魔を宿した左足』   久島秀忠

 その一人に、単なる学生YouTuberが、矜持を踏みにじり、唾吐き喧嘩をふっかけ怒らせてしまったのだ。

「久島くんと秋山くんさ、第一試合にしたんだ、何故かわかる?」

 朝原が、この二人を第一試合に組んだ理由分かるかと言われて、え?そもそも第一にこの試合させるのかとスタッフは驚く。

「まぁ……盛り上がるからっすか?」

 あのBOFのユースファイナリストだから、視聴数と初動の派手さだろうかと考えたスタッフに、朝原は笑って言った。

「うち、参加者が参加者だから怪我多いじゃん?一試合目だったらスムーズに救急車動かせるからさ、後だと遅れて死んだら寝覚め悪いもん」
「あー……」

 そっちかと、スタッフは納得した。

「賭けない?久島が……10秒以内に倒すか超えて倒すか」
「うわっ際どい……じゃあ、ギリ10秒超えて10秒38とか」
「じゃあ俺10秒以内に久島が勝つな、負けたら5万な」
「あーいっすねー、耐えれっかなぁこの秋山くん」

 二人は『秋山が勝つ』賭けはしなかった。

 久島が『10秒以内に勝つか否か?』それだけで賭けを行っていた。

 そして、ブレイキングケイジ興業『地方喧嘩戦線』の、幕は上がる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...