間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

11.千才くんが糞尿の海に沈んだぁ!

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 5月、ゴールデンウィーク。

 波浜総合体育館……ここに今日、様々な『ワル』が集っていた。

 待ったなし、1分間の真剣勝負の為に。地元じゃ負けなしのヤンキー、裏を取り仕切るギャング集団、今やアングラの境を失いつつある地下格闘技集団。そして、そんな『非日常』の危険な匂いが気になって観覧に来たパンピーに、『FUJIN』からの朝原光流ファンを源流とした者達。

『ブレイキングケイジ~地方喧嘩戦線~』

 この興業のオーディションに通った地方喧嘩自慢が戦う舞台に……異物な存在とばかりに、僕はパイプ椅子に座ってタオルを被って集中していた。

「しかし、ええんか久島くん……わざわざ試合と同じ減量で60キロにしてから戻しまでして?相手75キロあるのに」
「僕の、彼への礼です、喧嘩ではなく格闘技の試合で、本気でぶちのめすために」

 姫原オーナーに尋ねられた。まさか本番さながら減量までして、戻しまでしたのかと。今回の試合は『無差別級』として扱われた、減量なんて知らないだろう秋山くんに僕が合わせた。だから、僕はわざわざ減量せずそのままの体重で来てもいいのだ。

 しかし、僕は減量した。そして、前日計量からの戻しで試合と同じ感覚で望んだのだ。

 何故か?

 それは本気だから。

 この試合を喧嘩の延長ではない、格闘技の試合として全力で戦う為に、僕は減量し、計量し、戻して今日を迎えた。それをする事で、自身が今格闘技としてこの舞台で戦う事を

 しかし……こんな大会に、セコンドとして姫原オーナーは出っ張ってくれ事には感謝極まりない。

 流石に関係者として伊佐美くん達も入ることはできず、今は多分わざわざサブスク契約してPPVチケットを購入して配信を見ているのかもしれない。

 本来ならチケット買って見に来るらしかったが、会場チケットは今回、体育館というなかなかに大きな箱だから、通常席なら取れると見たら完売していたらしい……ブレイキングケイジの勢いと人気はやはりあるんだなと理解した。

「久島選手、試合時間です、スタンバイお願いします」
「はい!」

 控室代わりの総合体育館内スペースに、声が響く。他の出場者もグローブの確認や、軽いスパーで確認しているのが見えた。

「容赦せんでええからな、あっちが仕掛けたんや、思いっきりぶちのめしてこい」
「はい」

 入場ゲートに立ち、アナウンスを待つ。もう逃げられない、僕も秋山くんも、これから……どちらかが倒れるまで。

 違う。

 秋山くんをぶちのめすまで、この試合は終わらない。

『只今より!ブレイキングケイジ、地方喧嘩戦線!第一試合を行います!!』

 場内アナウンスと共に、観客の声も伝わった客層が客層だからか声やら活気がすごいなと感じつつ僕は、体を揺らしたり足首を回して入場コールを待つ。

『ブルーゲートより!秋山千才選手の入場です!』

 鳴り響く音楽は、流行り系のヒップホップに甘いアイドル系で、自身が主役とばかりの歌詞、こういう曲は知らないんだよなぁと、僕は自身の出番を待ちながら、今このPPVでどんな実況当てられてるのかななんて考えて、リラックスする。

『レッドゲートより……久島!秀忠選手の!入場ですっっ!』

 ついに、コールされた名前。入場曲のイントロが始まり、僕はゆっくりと歩き出す。

 あれは誰だ?
 
 誰だ?

 誰だ!?

 あれはデビル!!

 デビルマン!デビルマン!!

 懐かしきアニメのヒーローソング、勝手に決められたけど今は気に入ってるその曲と共に花道を歩き、金網を見上げた。

 既に入ってる秋山くんの左右には、浦和くんと、また知らない人……恐らくYouTuberの伝手でセコンドを連れてきたのだろう。素人じゃないと何となく思いながら、僕はガウンを脱いで姫原さんに渡す。

 審判にはめたグローブを確認され、ボディチェックも完了してから、僕は姫原さんに向き直り頭を下げた。

 姫腹さんは手を合わせて僕が頭に嵌めたムエタイの飾り、モンコンを外して……僕は金網への階段を上がって入り口で頭を下げて、広々とサイドステップと身体を軽やかに回転させ、観客を煽って応える。

 自身のコーナー、金網の為壁際に一度行くと、レフリーが僕と秋山くんに中央へ来るようにジェスチャーした。

「頭突き、肘打ち、金的、および指を使った攻撃、目潰しを禁止します、倒れた相手への追撃も禁止、両者フェアにアグレッシブに戦ってください、グローブ合わせて」

 僕は……いつもならグローブを合わせる。しかしあえて、グローブを合わせずに背を向けてコーナーに戻った。

「よし、何も言わん、さっさと勝って来い」
「はい」

 姫原オーナーの好きに戦えという指示に頷き、僕は秋山くんに振り返って構えた。

「ジャッジ!ジャッジ!ジャッジ!!」

 レフリーがジャッジを指差し確認した、いよいよ始まる!

「ッッファイっ!!」

 会場にゴングが鳴り響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「無理するなよ……彼とまともに戦ったら怪我じゃ済まない」
「わかってますよ」

 僕はこの日のために準備した。

 ある程度練習したし、YouTuberの繋がりからセコンドと指導をしてくれる総合格闘家をお金を払い来てもらった。

 久島くんの話を聞いたセコンドの……まぁ有象無象の格闘家は僕にこう言った。

『1分間逃げろ、お前が勝てる奴じゃない、とにかく逃げて時間稼ぎしないと、お前取り返しつかないぞ』

 そんな事できるわけないし、する気もない。

 確かに筋肉のラインはすごいけど、身長も体重も僕が上だ。

 遠くからパンチを放っていけば、判定で僕が勝てる、体重差はそれだけ酷だと素人なりに知っている。

 ゴングが鳴り響いた、僕も構えた、カッコつけなサウスポー……そして左の蹴りがくる!ここだ!

 僕は踏み込み、右のストレートを放つ!あたる!ドンピシャ!野球で速球を打って来た僕に、そんな蹴りが当たる訳ーー。

 瞬間、僕の世界が揺れた。

 え?何……?これ、身体が……脊椎や、内臓が、全部揺れてる。

 まるで、巨人が僕を握りしめてシェイクしたような、そんな振動ーー。

 僕の右ストレートが、空を切って……彼の、久島の右足脛が、僕の脇腹に……おかしいくらい減り込んでいた。

「か、はっ……」

 込み上げてくる、内容物……そして脳にシグナルが届く。

『痛い』

 こんな、こんな痛み知らない!!なんなんだよこれ!!車が突っ込んできたのかと、僕は何とか下がるもののーー。

「シィイッ!」

 久島は既に二発目を、同じ左の蹴りを放っていた!避ける!?足が、もたついて動かない!防げばーー!

 バッ ヂィイ ンンン!!

 音が響いた、右腕が痺れて、上げていた右腕がまるで、糸を失った操り人形のように!がくんと感覚を無くし下がる!その蹴りに僕は、金網まで下がってしまった。

 迫ってくる!久島が!!何なんだよ!?知らないよこんな強いなんて!?ただの同じ高校生のアマチュアじゃないの!?

 逃げないと!逃げないと!!横、どっちに!?早く!!はやーー

「ッシィイアア!!!」

 最後に聞いた、人ならざる『化け物』の咆哮。

 僕の意識は、顔面への衝撃と共に彼方へ飛び去っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ブレイキングケイジの金網リングが、凄まじい音を立てて揺れた。

 美形の顔面に突き刺さる、左の膝頭。その背後には金網……跳び膝蹴りと金網によるサンドイッチ。

 着地したと同時に、秋山は金網の男性に前のめりにやかましい音を立てて倒れ、締められた魚のようにビクン!ビクン!と痙攣していた。

 真っ白の、おろしたてらしいMMAショーツの尻が、じわりと茶色に染まり、黄色の水分がマットに広がり始めた。

「ストーーップ!!」

 終了のゴングとレフリーの声が鳴り響く、僕は糞尿に塗れ痙攣する彼を見下ろしながら背を向けて、手を上げ声援に答えた。

 ああ、何て短く、虚しい試合なんだろう。

 虚無感しか残らないな。

 僕はそのまま、開けられた金網から出て、退場していった。


 ブレイキングケイジ~地方喧嘩戦線~

 第一試合

 勝者、久島秀忠

 決まり手 左跳び膝蹴り

 試合時間……0分06秒43

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