間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

文字の大きさ
14 / 93
一章.ブレイキングケイジ編

12.尊厳を踏み躙った報い

しおりを挟む
 救急車のサイレンが聞こえる。

 最後の膝で顔面砕けたんだろうな、そんな感触だったもの。たった6秒の試合、いざ終わったら虚しさにいっぱいで、僕は控室のパイプ椅子に座り、姫原さんに無言で渡された市販のスポドリを開けて、一口飲んだ。

「お見事、秒殺KOだな久島くん」
「朝原さん」

 第二試合前の、秋山の粗相による清掃から時間ができたらしい。朝原光流自らが、会いにきて、僕は流石に椅子から立とうとしたが、手を前に出され座ったままでいいと示される。

「視聴者あの瞬間一気に跳ね上がってね、いやはやイイ宣伝になった、やっぱり格闘技は派手な勝ち方しないと客が来ないからさ」
「ありがとうございます」

 そんなつもりはない、ただぶちのめしただけ、結果的にそうなっただけと伝える僕に、朝原さんは妖しく笑いながら言う

「けどさ、キミも結構ひどい奴だな……本当は最初の一撃目をハイキックにして、失神で倒せたろ?わざわざ丁寧に、三発も全力、しかも最後は顔面に膝……彼、右の肋骨数本に上腕骨が折れて、顔面は粉砕骨折してて運ばれたよ?頚椎も捻挫して……半年は病院なんじゃないかな?可哀想に」

 見抜かれていた、僕は少し顔を歪めた。

 実際そうだ、最初の蹴り……ミドルではなくハイキックならば、意識を刈り取ってあんな怪我せず綺麗に倒せた自覚があった。

「最初のミドル、カウンターごと潰しに行ったね?キミの威力とスピードだからこそ出来る芸当だ、相手が殴ってこようと構わず蹴ってしまえば防御になる……これが脇腹に当たり、肋骨を砕いて痛みと恐怖を刻み込む」

 そして、僕が秋山くんを再起不能にするまでの流れすらも朝原さんは解剖し、露わにしていった。

「二発目、肩を狙った高めのミドル、その威力で秋山くんの右上腕が折れて肩も脱臼させた、これでガードはできなくなり……金網に蹴り込まれ逃げられない彼に……三発目、左の跳び膝で顔面を粉砕……心も体も砕く見事な流れだよ」

 全てを、狙って行ったわけではない。

 素人の秋山くんなら、一撃喰らったら恐怖と衝撃から判断が鈍ると思ったし、足もすくむだろうと思った。そうしたらあとは流れだった、蹴りで倒すある程度の段階は組み立てて、それを行っただけ。

「朝原さんは……」
「うん?」
「僕がこんな勝ち方して、大人気ないと思いますか?」

 朝原さんに僕は尋ねた、素人相手にムキになった僕は大人気ないかと。朝原さんはニヤリと笑った。

「世間はそうだけど、ここであいつ誓約書にサインして金網に上がったから何も言えねーよ?あいつが久島くんの尊厳に踏み込んで、ツバ吐いて喧嘩売った結果、失禁脱糞KOしたんだから……」

 世間はそう言うだろうなと、しかし俺は秋山の礼を欠いた行いの果てに起きた自業自得だと、朝原さんは言い切った。

「まぁさ、ブレイキングケイジ見てる奴は派手好きだし、調子乗った輩がリングに這いつくばるのを安全なとこでバカにして笑ってみたい奴ら居るし、需要にはなったよね……感謝してるよ久島くんには」

 朝原さんはそう言うや、僕の手を握って握手し、手を離した。手のひらに何やら握らされて、開いてみれば……栄一が数枚握らされていた。

「え!?は!?」
「ファイトマネーとは別に、俺からのお捻り、それで友達と美味いもの食って遊んできなよ?」

 それじゃ、と手を上げて朝原さんは解説席へ戻って行った。僕は、手の中の栄一数枚を見て、姫原オーナーに言う。

「これも、ファイトマネー扱いですかね?」
「ええよそんな、美味しいもの食べに行き」

 ファイトマネーのうち、3割はマッチメイク等の為の謝礼に、ジムへ収める必要がある、だからこれも納めなければならないのかと確認したら、流石にそこからは取らんよと僕は諭された。

 なお……全て試合を終えた後の授賞式で、僕は『ベストバウト賞』で賞金が上乗せされたその総額は……ジムへの謝礼を抜いて70万、まだアマチュアでプロですらないのに支払わられて、通帳を見た父親に闇バイトを疑われた。

 さらに数日後、勝利者賞でスポンサーとなっている健康食品会社からプロテインやらBCAAやら、学生が手を出すと割高な様々なサプリメントが送られて、そりゃブレイキングケイジ出るのも視野に入れるよなと太っ腹ぶりに唖然とする事になる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...