間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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五章前編 "5人目の怪物"編

2.実は、試合2日後に修学旅行なんだよね……

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 JKB……総称は『ジャパンキックボクシング連盟』であり、所謂マイナー団体である。

 だが……マイナーだから下部団体というわけではない。JKBは歴史ある、由緒正しき『老舗団体』と呼ばれ、その始まりは1980年代から続き、今なお存続している長命の団体だ。というか、興行歴ならBOFの大先輩だ。

 このJKBから、やがては中堅からメジャー団体、海外団体へ名選手が輩出されて活躍しており、かつての選手の経歴にも、この団体のベルトを保持したファイターが居たりする、即ち『登竜門』の役割を担っている団体だ。

 その現役チャンピオンであり、学生プロを推薦で引き入れて来た、それだけBOFプロモーターの目にかかったという事になるわけだ。ここで優勝すれば、一気にトッププロへの道は開ける事になる。

「では抽選方式ですが、こちらのくじを引いてから、そのくじの順番にトーナメントの好きな枠を埋めていただく形になります……シード権を持った久島選手からどうぞ!」

 司会に呼ばれて椅子から立ち上がり、用意されたくじ箱の置かれた机に歩き、僕はその中に手を入れる、ボール型かとごろごろ中をかき混ぜ、これかなと取り出しーー。

「あっ……」

番号を見た瞬間、あっ……と僕は言ってしまった。

「これは、8番です!まさかの最後!久島選手ありがとうございます」

 こういったトーナメントによるくじ抽選、どの相手を戦うか?というのも戦略の一つであったりする。この8人中4人が勝ち上がり、大晦日に戦うわけだが……着実に次へ進む為の相手の選考は不可欠だ。

 その中で最後の8番目を取ってしまった僕は選択権がない、誰が相手でも戦わなければならない事になったのだ。まぁ、誰が相手だろうと負けるつもりは毛頭無いわけだけど……。

 次々と、くじが引かれ、順番が決まっていく。選択権の無い僕は、最早見届けるだけになり……。

「獅子元選手が1番となりました!では、そのままトーナメントの表に名前のプレートを貼っていただきましょう!」

 推薦枠の獅子元くんが、1番を取った。そして、トーナメント表のプレートへ早速向かい、獅子元くんが選んだのはーー。

「獅子元選手、一戦目1番を選びました!ありがとうございます、では続いて2番の松原選手!」

 第一戦目1枠、オープニングファイト最初の試合を選択した。2番目を取ったのは松原くんだったらしい、彼の性格なら……マイナーチャンプ狩りに意欲を持ちそうだが……僕の方を一度見て、彼が選んだのは。

「おっと離れましたね、三戦目1枠を松原選手は選択!では次に、鈴木選手!」

 第三戦目1枠、獅子元くんを避けた、というより僕と戦う為に空きを作った、という感じらしい。

 枠は次々埋まっていき……そして、僕が戦う相手は自動的に決まる。

「では、8番久島選手は、第一戦2枠となりました!これで、今年のBOFユースファイナル8のマッチメイクが決定いたしました!」

 僕の対戦相手は……JKBキックボクシングチャンピオン、獅子元博之選手となった。初戦から、ファイナル4唯一の参加者と、外部団体チャンピオンの戦い……。

 学生チャンピオンとの戦いを回避した結果、空きはそこだけになってしまった、という事になる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 試合順と相手が決まり終えた、僕含めた8名が壇上の席に座り、ここからは意気込みやらを答える質疑応答となった。

 さて……この座る順番というのが中々に面白い。対戦相手と『極力距離を離す』という事になっていて、背後には係員がスタンバイしている。対戦相手の獅子元博之くんが、遥か先、反対側1番奥に座っていた。

 所謂『乱闘対策』である。

 昔はあまりなかったが……今は多い傾向らしく、さらにはこの会見もまた格闘技の試合の一幕、ショーとして捉える節がある。

 そして、プロの前座でアマチュアとは言え、こう言った場を設けられれば、盛り上げることもまたプロの仕事、やがてプロを目指す者にとっては重要な場所であり良い機会なのかもしれないと、僕は考えた。

「獅子元選手、相手は昨年度のファイナル4の久島選手とのマッチメイクとなりましたが……何かコメントございますか?」

 オープニングの、興行でも初戦となった僕の試合の相手……まずは彼からと格闘技系雑誌の記者が質問を放ち、マイクを取った彼は……嬉々として言い放った。

「はっきり言って……消化試合っすね、楽勝と思ってます」

 自信満々に、ベルトを抱えたままの彼は記者向けて言い放った。マイナー団体だろうが、老舗の層も熱い伝統すら感じる団体の王者、その強さを自負している、そう言葉から僕は感じた。

「久瀬?篠月?町田?で、久島?未来のモンスター4って言われてますけど、皆分かってないんスよね……あの3人は、俺に負けるのが怖いからプロ契約して、2人はシード権放棄したんっすよ」

 が、その言葉を聞いた僕は……流石にいらっとした。自分は別に構わない、構わないが……こいつ、久瀬くんや篠月くん、町田くんまでこき下ろしやがったと。

 下を向いて聞いていたが、流石に首が獅子元くん側に向いてしまった。お前程度が3人に勝てるとでも思っているのか、長々伝統に縛られた惰性で存続しているような、腐敗済みな団体でイキってるチャンピオン如きが!?

「9月の試合で久島くん倒して、優勝して……で契約取ったらすぐ、そこで見てる久瀬くん倒して?俺が唯一のモンスターって証明してやりますよ」

 さらには、今回プロデビューするまだ席に座る久瀬くんにまで挑発をした。こいつ、僕を見てすらいないんだなと、あぁ、そんな感じな事言うのかと僕はちょっと落ち着いた。

 去年だったら、月並みな事しか言えなくてそれを加工されてヒールキャラにされたんだよなぁ……と、ここまで舐め腐ってヒールをやる相手に僕は……さてどう返してやろうかと考えた。

「ありがとうございます、では久島選手、意気込みをお願いします」
「あ、はい……えー……」

 順番が来てしまった、僕は内心怒りを抱えているけど、コメントで吐き散らすのは気に食わなかった……けど、何か言い返してやりたいなと考えを巡らせた。

 何かないかな……となる中、横二つ先に居た松原くんを見て……そう言えばと思い出した。

 確か修学旅行が、試合の後に控えていたなと。

「松原くん、うちの修学旅行って……たしか9月15日からだよね?」
「は?え?何、今聞く?」
「だよね、BOFが日曜日13日で……試合の2日後だよね?」
「……そうだが?」

 唐突にまさかの質問を僕から向けられ驚く松原くん、しかし彼は律儀に答えてくれた。よし、じゃあこう返してやるかと僕は、笑って記者に答えた。

「BOFが9月13日東京で、僕と松原くんが同じ学校なんですよね……だから、試合終わったら帰って来て、また2日後に神奈川、千葉、東京の3泊4日修学旅行なんです、またここに来るんですよね……」

 試合への意気込みではなく、その2日後の修学旅行がある事を、記者に僕は言い放った。そして、最後にこう締めくくった。

「だから、獅子元くんに勝って修学旅行をいい気分で送りたいなと思ってます」

 試合2日後に修学旅行がある、だから勝って良い気分で楽しみたい。

 このコメントを、どう捉えるだろうか?

 高校生らしい、透き通った悪意無いコメントに聞こえるか?そう捉えてもらってもまあいい。

 だけど獅子元くん……キミなら、どう捉えるよ?さぁ反応を見てみようーー。

「テメェ!?」

 椅子を立ち上がり、こっちに走って来たところを係員から止められた。だろうなと、僕は立たずに押さえ込まれた獅子元くんを見ながら、顔は無表情だが内心で笑った。

 何か、プライド高そうなオラオラ系だったし、まさか乱闘しにかかるとは思わなかったけど。

「あれかテメェ!ああ!?俺は眼中に無いってか!!修学旅行の片手間に倒すってか!!テメェ試合の時に覚悟しとけよ!?修学旅行欠席どころか三ヶ月入院させてやるからな!!」

 そう、プライドが高く、好戦的な人間ならば、今のコメントはそう捉えてもおかしくは無い。

 真意はつまりこうだ。

『お前なんか修学旅行より重要じゃないし、片手間に倒せるから眼中にありませんよ』

 である。

「ヒールが板に付いて来たのぉ、久島くん」
「いや本当……どうしてこうなったのか……けど、今はこれもありかなと思ってます」

 背後の椅子、それぞれの選手の付き人として座っていた姫原オーナーから、ニヤニヤ笑ってキャラが立って来たと言われた。望んだキャラではなく、BOFから仕立て上げられたキャラだが、実は気に入ってたりすると僕は姫原オーナーに笑みを見せて着席した。

 二ヶ月後の9月……僕は、彼と東京の代々木第二体育館で、対峙する。

 その前哨戦は、僕が勝った……としてもいいだろうかと思いながら、引きずられた獅子元くんを眺めながら思ったのであった。
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