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五章後編 "5人目の怪物"編
プロローグ 夏休み2日目、ジムにて。
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夏休みが来た。
補修も何一つ無く、懸念していた恋愛に関しても……斜め上の方向に行ったが一応は解決した。
学校の課題をしっかりやり通し、あとは9月の試合に向けて肉体と、作戦を組み立てるだけ。何もしがらみや、悩みはとりあえず無くなった。
「おー……止まらんやん、めっちゃ打つねぇ?」
「ラウンド重なるごとに回転数上がってんな」
姫原オーナー、そして出稽古に来た大迫さんが、僕のスマホを覗き込み、獅子元くんの試合を見て感想を漏らした。1ラウンド3分間止まらない手数に、ラウンドを積み重ねていくと手数が落ちるどころか、寧ろ手数が上がってきていると大迫さんが呟いた。
落ちない手数に、それをさらにペースアップしてなお疲労を見せないスタミナ……それが、9月に戦う僕の対戦相手、獅子元博之だ。
マイナー団体、しかし老舗の由緒正しい登竜門的団体のチャンピオンで、プロデビューしてから7戦で未だ無敗。アマチュアのオープン大会やキックボクシング地方大会も参加して、そちらでは負けているものの優勝経験がある高校生プロ。
このまま中堅団体を経てから、BOFへの契約も十分見込める彼が、わざわざアマチュアのBOFに来た理由は……僕含めた『モンスター4』への挑戦もあるらしい。
「それで、久島くんは何か対策は考えとるんか?」
オーナーから、この相手に対してどう戦っていくのか尋ねられた。こういう試合になると、基本はオーナーや先輩選手がある程度作戦や弱点を教えてくれるのが普通なのかもしれない。
しかし、僕のジムの姫原オーナーは『まず、自分で考える』を、ジムの門下生に教えていた。リングに上がり、セコンドこそ付くが戦うのは自分自身、だから自分で考え戦う力を付けさせるのだと。
「……早い内に倒す、ができればいいですね……相手のラッシュに飲まれて判定なりレフリーストップされたらこっちが負けますから」
僕が掲げた勝ち方は『早期決戦』だった。BOFユースは、2ノックダウン制、1ラウンドに2回ダウンを奪ったらTKO勝ちとなる。
相手が自分の得意なラッシュでこちらを飲み込む前に……左を蹴りまくりダウンを奪い勝つ……いつも通りの僕の戦い方だ。
「蹴りの得意な選手ともやってなかったか?出入りも早いぞこいつ……しかも、今まで一度もプロではダウンしてないみたいだが?」
ここから、さらに煮詰めていく。大迫さんからのアドバイスで、動画を確認すれば……獅子元くんは確かにパンチの波状攻撃から勝つパターンが多いが、ただそればかりではない。
しっかり攻撃を避け、防御している。距離の詰め方、間合いの管理もできている。戦い方もメリハリがついて攻撃一辺倒ではない……ベルトを獲得している力量が窺えた。
しかも、プロになってからダウンを一度もした事が無い打たれ強さすら持っている……。
「他に何か、無いかな……」
もっと情報は無いか……僕は一度動画を止めて、彼の所属する、ジャパンキックボクシング連盟のサイトから、彼のプロフィールを見て、戦績を確認した。
現在無敗の、7戦7勝1KOの、輝かしい戦績……それを見て僕は、あれ?と違和感に気付いた。
「7回勝って……KO1回だけ?派手に攻めてる割には……」
「ホンマやな……さっきの試合も確か判定やったな……」
獅子元くんは、派手な戦い方の割に、その無敗の経歴の中でKOは一回しか無かった。5KOくらいはしている、そんな手数だったがこれはなんだと……僕は動画サイトで彼のKOした試合を探した。
昔なら逐一ビデオを探すか、記事を見つけるか、偵察に行かない限り情報は得られないだろうが、今はマイナー団体すらチャンネルを経営して情報が得られるのは助かる。
獅子元くんの、唯一KOした試合は、即座に見つかった。どうやらデビュー3戦目、相手もまた、かつてBOFと契約したがリリースされた若手中堅の選手。
その試合もまた、獅子元優勢で進み……動きがあったのは2ラウンド残り半分を切った頃……獅子元くんの右ストレートが当たり、ダウンを奪った。
すぐ立ち上がった相手、多分フラッシュダウン……ダメージはあまり無い、避けようとしたところを当てられ、派手に倒れたから取られた、そんなところだなと僕は推察した?
試合が再開するや、猛攻に出てコーナーに追い詰めて、獅子元くんがラッシュで畳み掛ける。10秒近く撃ち込まれた、ここでレフリーが割って入りゴングが鳴った。
ラッシュから逃れられ無い為、戦意喪失と見たレフリーストップによる、TKO。これが、獅子元博之唯一のKO勝ち試合だった。
「確かにKOやけど……もしかして、獅子元くんは……」
「KOできるパンチや……キックを持ってない?」
戦いの日が近づく中、僕は対戦相手のあり様を丸裸にしていく。
試合まであと1ヶ月と25日。
7月21日、夏休み2日目……波浜ジムでの事であった。
補修も何一つ無く、懸念していた恋愛に関しても……斜め上の方向に行ったが一応は解決した。
学校の課題をしっかりやり通し、あとは9月の試合に向けて肉体と、作戦を組み立てるだけ。何もしがらみや、悩みはとりあえず無くなった。
「おー……止まらんやん、めっちゃ打つねぇ?」
「ラウンド重なるごとに回転数上がってんな」
姫原オーナー、そして出稽古に来た大迫さんが、僕のスマホを覗き込み、獅子元くんの試合を見て感想を漏らした。1ラウンド3分間止まらない手数に、ラウンドを積み重ねていくと手数が落ちるどころか、寧ろ手数が上がってきていると大迫さんが呟いた。
落ちない手数に、それをさらにペースアップしてなお疲労を見せないスタミナ……それが、9月に戦う僕の対戦相手、獅子元博之だ。
マイナー団体、しかし老舗の由緒正しい登竜門的団体のチャンピオンで、プロデビューしてから7戦で未だ無敗。アマチュアのオープン大会やキックボクシング地方大会も参加して、そちらでは負けているものの優勝経験がある高校生プロ。
このまま中堅団体を経てから、BOFへの契約も十分見込める彼が、わざわざアマチュアのBOFに来た理由は……僕含めた『モンスター4』への挑戦もあるらしい。
「それで、久島くんは何か対策は考えとるんか?」
オーナーから、この相手に対してどう戦っていくのか尋ねられた。こういう試合になると、基本はオーナーや先輩選手がある程度作戦や弱点を教えてくれるのが普通なのかもしれない。
しかし、僕のジムの姫原オーナーは『まず、自分で考える』を、ジムの門下生に教えていた。リングに上がり、セコンドこそ付くが戦うのは自分自身、だから自分で考え戦う力を付けさせるのだと。
「……早い内に倒す、ができればいいですね……相手のラッシュに飲まれて判定なりレフリーストップされたらこっちが負けますから」
僕が掲げた勝ち方は『早期決戦』だった。BOFユースは、2ノックダウン制、1ラウンドに2回ダウンを奪ったらTKO勝ちとなる。
相手が自分の得意なラッシュでこちらを飲み込む前に……左を蹴りまくりダウンを奪い勝つ……いつも通りの僕の戦い方だ。
「蹴りの得意な選手ともやってなかったか?出入りも早いぞこいつ……しかも、今まで一度もプロではダウンしてないみたいだが?」
ここから、さらに煮詰めていく。大迫さんからのアドバイスで、動画を確認すれば……獅子元くんは確かにパンチの波状攻撃から勝つパターンが多いが、ただそればかりではない。
しっかり攻撃を避け、防御している。距離の詰め方、間合いの管理もできている。戦い方もメリハリがついて攻撃一辺倒ではない……ベルトを獲得している力量が窺えた。
しかも、プロになってからダウンを一度もした事が無い打たれ強さすら持っている……。
「他に何か、無いかな……」
もっと情報は無いか……僕は一度動画を止めて、彼の所属する、ジャパンキックボクシング連盟のサイトから、彼のプロフィールを見て、戦績を確認した。
現在無敗の、7戦7勝1KOの、輝かしい戦績……それを見て僕は、あれ?と違和感に気付いた。
「7回勝って……KO1回だけ?派手に攻めてる割には……」
「ホンマやな……さっきの試合も確か判定やったな……」
獅子元くんは、派手な戦い方の割に、その無敗の経歴の中でKOは一回しか無かった。5KOくらいはしている、そんな手数だったがこれはなんだと……僕は動画サイトで彼のKOした試合を探した。
昔なら逐一ビデオを探すか、記事を見つけるか、偵察に行かない限り情報は得られないだろうが、今はマイナー団体すらチャンネルを経営して情報が得られるのは助かる。
獅子元くんの、唯一KOした試合は、即座に見つかった。どうやらデビュー3戦目、相手もまた、かつてBOFと契約したがリリースされた若手中堅の選手。
その試合もまた、獅子元優勢で進み……動きがあったのは2ラウンド残り半分を切った頃……獅子元くんの右ストレートが当たり、ダウンを奪った。
すぐ立ち上がった相手、多分フラッシュダウン……ダメージはあまり無い、避けようとしたところを当てられ、派手に倒れたから取られた、そんなところだなと僕は推察した?
試合が再開するや、猛攻に出てコーナーに追い詰めて、獅子元くんがラッシュで畳み掛ける。10秒近く撃ち込まれた、ここでレフリーが割って入りゴングが鳴った。
ラッシュから逃れられ無い為、戦意喪失と見たレフリーストップによる、TKO。これが、獅子元博之唯一のKO勝ち試合だった。
「確かにKOやけど……もしかして、獅子元くんは……」
「KOできるパンチや……キックを持ってない?」
戦いの日が近づく中、僕は対戦相手のあり様を丸裸にしていく。
試合まであと1ヶ月と25日。
7月21日、夏休み2日目……波浜ジムでの事であった。
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