間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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五章後編 "5人目の怪物"編

8.久島緊急ブレーキ

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 別に……『皆と仲良く』なぞ、考えちゃいないし、それができるとは思ってすらいない。

 だが、手を差し出すだけで、秋山くんが怯え切って後退りする様を見て、僕はいつもの校舎裏で、いつものメンバーで昼食を食べながら……やはりあの時、一撃で意識を断っていれば、また違ったのだろうかと考えた。

 話す暇すら無い……いや、そもそも……手を差し出して僕は、引き上げて、立たせて……何がしたかったのかと思い返す。

 あのいざこざは終わったから、許したよと吐いてやりたかったのか?なんとも偉そうに、何様だ自分はとため息が湧き出た。

「辛気臭いのう、お前もやっぱり秋山帰ってきて苛立っとんか?」

 狂犬ぶりは鳴りを潜めたが、伊佐美くんも不機嫌な顔をしていた。終わった事でも、彼はまだ秋山の所業を許してはいないらしい……。そんな伊佐美くんに、僕は尋ねてみた。

「伊佐美くんは……秋山にはやっぱり来てほしくなかったの?学校……僕は、あの3発と恥辱の世界公開脱糞失禁KOで禊ぎにした、とは思ってるけど……」

 まだキミは、秋山千才を許せないのか?僕はあのブレイキングケイジで、それ以上彼に恥辱や制裁は与える気はないがと語る。伊佐美くんは……少し唸り、僕を見ずに違う場所へ視線を移して、それから纏まったとなって口を開いた。

「お前も山城も、終わったいうのは納得した……まぁ、俺はそもそも関係無いしな……山城へのやらかしにイラって来て、それだけの部外者やし……ただ、まぁ……なんやろな、またツラ見たら一学期のこと思い出して……のうのう笑って元通りみたいな態度が気に食わんかったっちゅうか……」

 自省の気持ちはあるらしい、そもそも自分は、秋山の『屋上ブレイキングケイジ』を、僕と見に行って山城くんを運んだだけ、そしてただ同調して秋山打倒を掲げただけで、伊佐美くん自身は秋山くんに恨みは無いのだから。

 まぁ、嫉妬はしてたから、それで乗っかってたのも彼にはあるかと、僕はビタミンサプリを口に含み、水で飲み下した。

「ま、何にせよだ……秋山の率いていたクリアユースは霧散している、今更秋山が何かやろうにも、土壌も仲間も居ない……放っておいていいんじゃあないか?」

 本田くんはコンビニ弁当を食べ終え、緑茶を飲んでから、秋山への今後の対応を語った。最早クリアユースは空中分解し、秋山の持つ権力も、縁による繋がりも無くなり好き勝手もできなくなっている。目くじら立てて争う関係では無いだろうと彼は言い切った。

「そうだよね、で……久島くん……クラス委員長、どうするの?秋山くん帰って来たし」

 本田くんのいう通り、わざわざ突っかかる必要もない関係だろうと山城くんが頷けば、僕に話を振った。本来のクラス委員長は秋山だ、その秋山にクラス委員長の肩書きは返すのかと聞かれて、僕は即断した。

「無論、返す」

 本来のクラス委員長は、秋山千才である。

 彼が帰って来たならば、彼がその人を全うすべきだ。

 僕が敷いていた恐怖政権は終わって元通り……とまではいかないが、それでも力と恐怖の支配より、秋山千才という人間の『和』ならば、以前の様にとまでならずとも、僕の恐怖政権の1那由多倍マシだと思われる。


「……その本心は?」

 が、伊佐美くんがニヤつきながら尋ねて来たので、僕は笑って彼に本心をぶちまけた。

「もー疲れたから辞めたい」
「そらそうやな」

 こんな仕事やってられるか、やれる奴がやればいい。そもそも、自分は秋山から色々あってやらされた身なのだからと僕は語った。


「つーわけで、クラス委員長を秋山くんに返上したいのですが……」
「ほう……まぁ、代理でやってたから道理でもあるな」

 というわけで、僕は昼食を早めに切り上げ、職員室へ赴き担任の岩田先生に相談した。岩田先生は、確かにそれは『道理』ではあると、話の始まりは賛同してくれた。本来のクラス委員長は秋山千才だ、その秋山千才が戻ったならば、彼がその任を行うのが真っ当な話だろうと思っていた。

「しかし久島、お前は既に委員長として仕事をこなしているだろう?」

 しかし、岩田先生は語る。お前は既に、クラス委員長として責務を果たし、クラス運営を行っているではないかと。こんな返しは僕も予想してなかった……これで分かった、秋山と話をして引き継ぎをしろ、それで終わると思っていたのだ。

「えっ……いや……あれは、ダメなやり方でしょう、流石に」

 僕は岩田先生に、待ってくださいと進言する。僕のクラス運営、委員長としてのあり方は『あってはならない』形だ。恐怖と暴力で統率して、例えそれが成り立っていても、現代日本社会の公立高校であってはならない事だろうと。

 そうでもしなければ、体育祭を超えられなかったのは事実だが、間違った政権運営と重々理解しながら、何とか切り抜けた。

 だから、本来のちゃんとした形にする為にも、秋山千才の下のクラスに戻すべきだと僕は思っていた。

「だから秋山くんに委員長を復帰してもらって……それで終わりでは?」
「……久島くん……果たしてそれを、クラスメイトは受け入れるかな?」

 岩田先生は言う、秋山千才の委員長復帰を、クラスは受け入れるのかと。僕は断言しようとした。

「いや、そりゃ勿論受けーー」

 断言しかけて……僕は止まった。

 本当に、そうか?

 今のクラスの雰囲気は果たして、秋山千才の委員長復帰を……望んでいるのか?

 一学期、僕や伊佐美くん達の、軽はずみな言葉から『体育祭不参加』が現実になりかけて、クラス内で分裂が起こった。

 僕は、ギリギリ立ち止まれたのかもしれない……と言うより、放り投げようとした『責任感』が、足首を枷の様に拘束して待ったをかけてくれたのかもしれない。

 また自分の、勝手な言動が、連鎖反応を起こして大問題をクラスに起こしかねないとなった僕は、ギリギリ止まる事ができた。

「……すいません、岩田先生……ちょっと一旦、ちゃんと考えます」
「うん、分かった」
「失礼……しました……」

 さっきまで軽かったはずの肩が、めちゃくちゃに重たい。これが責任、の重さなのだろうか?僕は職員室から退室すると、丁度予鈴が鳴り響き、そのまま教室へ戻るのであった。
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