転生賢者は魔法を忘れない

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第1章

初めての魔法理論

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リオネル「魔法は、想像から生まれ、理論で形をなす。感情だけで使おうとする者は、炎に焼かれて終わるのだよ」

そう語るのは、今日の担当教師――リオネル先生。
若いが天才肌で知られ、すでに“王都魔法騎士団”への出向経験もあるという。
銀の眼鏡にすらっとした体型、知的で少し冷たい雰囲気。

教室は段差付きの講義室で、生徒たちは半円状に並んだ机に座っている。

アイリスは窓際の席に座りながら、ふと黒板の魔法陣に目を向ける。

(……懐かしい。あの陣式、私が生み出したやつじゃん……)

リオネルは黒板にチョークで魔法式を描きながら言った。

リオネル「この《エア・スラッシュ》の基本陣は、今から三百年前の“白銀の賢者”によって体系化された。だが、なぜこの形が理にかなっているか――それを理解せねば、ただの猿真似だ」

周囲の生徒たちがざわつく。

生徒A「白銀の賢者って、伝説級じゃん」
生徒B「本当にいたの?って言われてるくらいだし」
生徒D「女だったって噂もあるよね」

アイリスは平然とノートを取っているふりをしながら、内心苦笑する。

(いや……いたよ、ここに。しかも今、ここに座ってるし……)

だが、そんな冗談も言えないほど、リオネルの授業は厳しかった。

リオネル「そこの君――アイリス・グラン。前に出て、この魔法式を“解釈”してみなさい」

アイリス「えっ、私?」

突然の指名に教室中がどよめく。

(うわ……油断してた……)

だが前世では“教える側”だったアイリスにとって、これは正直サービス問題。

彼女は静かに立ち上がり、チョークを取って黒板の前に立つ。

アイリス「この陣の意味は、“風を断つ”ではありません。“空間に風の軌道を通す”ことによって断面を生じさせる構造です。中心の回転紋様は、ただの見栄えじゃなく、“安定化のキー”です」

一瞬、教室が静まり返る。

リオネルは、驚きとも警戒ともつかぬ目で彼女を見た。

リオネル「……どこで、それを?」

「ほ、本で読みました。」

アイリスは無邪気に微笑んだ。が、その内容は完全に“学者レベル”だった。

(やばい、やりすぎたかも)

――こうして、彼女は初日から教師の目に留まることになる。
けれどそれは、学園に眠る“禁書”や“古の遺跡”へとつながる、第一歩でもあった――。


授業が終わり、アイリスがノートを閉じようとしたそのとき――
突然、教室の空気が変わった。

レオン「お前、何者だ?」

声をかけてきたのは、一際目立つ生徒――レオン=アークレイド。
赤い髪に高貴な顔立ち。名門アークレイド公爵家の嫡男であり、王都魔法学院から特待生として編入されたというエリートだ。

彼は真っすぐアイリスを見据えていた。

レオン「魔法式の理解度、精霊反応、魔力制御……普通の村娘で済むレベルじゃないな」

アイリス「……ありがとう?でも、さっきのはただ本が好きで、書いてある事をそのまま言っただけなんだ」

笑って受け流そうとするが、レオンの瞳は鋭く光る。

レオン「それでごまかせるなら、この場で確かめてみるか?」

周囲の生徒たちがざわつき始める。

生徒C「まさか、実技勝負……?」
生徒G「うわ、レオン様が自分から仕掛けるなんて……」

「場所は中庭、形式は《模擬戦》。教師の許可は取ってある。拒否する理由はあるか?アイリスグラン」

アイリスは一瞬だけ沈黙し、そしてため息をつく。

アイリス「うっ……わかった。やろう」

(本当は目立ちたくない。でも、これ以上疑われるよりマシか)


中庭に集まる生徒たちの視線を受け、二人は向かい合った。

「レオン=アークレイド、炎系魔法の高位適性」
「アイリス・グラン、属性不明――初戦」

教師が宣言し、杖を上げる。

「――始め!」

レオンが先に動いた。

レオン「《ファイヤーアロー》!」

四方から襲いかかる鋭い炎の弓。
それをアイリスは、わずかに右足をずらすだけで回避する。

(ファイヤーアローか……読める……癖、構成。三百年前と変わらない)

レオン「次だ。――《ファイヤーバースト》!」

地面を抉る一撃。
アイリスは杖を構えず、静かに囁いた。

アイリス「……《光刃展開(ライト・レイザー)》」

ぱん、と音を立てて空間に十数本の光の刃が浮かび、魔法を切り裂いて消し去る。
観客の生徒たちがどよめいた。

レオン「……なっ……!?」

レオンの顔色が変わる。次の瞬間、彼の前に光の刃が一斉に迫る――が、寸前で止まる。

アイリス「はい。ここまで」

アイリスが手を下ろすと、光の刃はすうっと消えていった。

「致命傷は避けるって、学園のルールがあるよね?」

冷静なアイリスの言葉に、レオンは言葉を失った。

レオン「お前……何者だ……?」

アイリス「ただ、本好きな君の同級生だよ」

にっこりと笑うアイリス。
だが、その背にただよう魔力の気配は、誰もが見間違えようのない“本物の賢者のそれ”だった。
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