転生賢者は魔法を忘れない

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第1章

封印の扉、そして“私自身”との邂逅

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次の日の夜、深夜零時。
学園地下の《封印書庫》の前に立つアイリスの手には、夢で渡された“精神結晶の鍵”が握られていた。

扉には、六重の結界と古代の封印術式――普通の魔術士では、そもそも認識すらできない結界。
だが、鍵が輝くと同時に、静かに“第七層”への扉が開いた。

中は――一面の空白だった。

本も棚も何もない。
ただ、空間の中央に一冊の書がぽつりと浮かんでいる。

銀白の装丁、淡く揺れる魔力。
そしてその本に、アイリスが触れた瞬間――

 

《記憶領域・投影開始》

空間が歪み、彼女の意識は白く染まった部屋へと引き込まれる。

目の前に現れたのは、もう一人のアイリス。

いや、それは――かつて世界を導いた“白銀の賢者”アイリス本人だった。

今と少し見た目は違うけど……これは私だ…
その瞳は、今の自分よりはるかに鋭く、深く、そして……どこか哀しげだった。

「……ようやく来たのね。今の“私”。」

「……あなたは、私?」

「そう。そして、私でもうない」

記憶の中のアイリスは微笑んだ。
だがその笑みには、罪と後悔がにじんでいる。

「私たちは、かつて“賢者”としてこの世界を守っていた。
七人の仲間とともに、戦い、封印し、魔法の理を築いた」

「……それは、うっすらと……覚えてる。でも――」

「そう。“あの日”のことは思い出せていないわね。私が、封じたから。あなた自身の中に」

現アイリスは息を呑む。

「私たちは最後の戦いで、禁術を使った。
“魂と世界をつなぐ魔法”――その代償で、多くのものを失った。
仲間も……魔法そのものも、世界に深い爪痕を残してしまった」

前世のアイリスは、ゆっくりと手を差し出す。
その掌には、小さな光の粒――記憶の断片が揺れている。

「これは“記憶の核”。あなたがこれを受け入れれば、前世の知識も魔法も取り戻せる。
でも同時に、“あの日の決断”も――受け継ぐことになる」

「……賢者として?」

「違う。“個人として”。」

「それでも、あなたは選べる。
この鍵を砕けば、記憶は永遠に戻らない。
でも、受け取れば――世界の命運は、再びあなたの手に委ねられる」

少しの沈黙のあと、現アイリスは小さく笑った。

「私は、どんな事でも“忘れない”って、心に決めたから。……全部受け取るよ」

「……ありがとう、今の私」

光が爆ぜる。

その瞬間、記憶が流れ込む。

かつての仲間の名前、戦った敵、失ったもの、取り戻したもの。
戦場で叫んだ声も、仲間の笑い声も、ぜんぶ。

――それらが、彼女の中に重なっていく。


再び、封印書庫にて

目を開けたとき、アイリスは涙を流していた。

でもその目は、迷いのない賢者の光を帯びていた。

「……全部、戻ってきた」

彼女の杖がわずかに浮き、魔力が反応する。
魔法陣がなくても詠唱できる、“かつての完全な魔法”が蘇っていた。

その背で、学園長ゼレフの声が響く。

「――歓迎しよう、“白銀の賢者”よ。
この時代は、再びお前を必要としている」

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