6 / 7
第1章
微笑む観察者
しおりを挟む特別合同演習の翌日、アイリスは静かな中庭のベンチに座っていた。
日差しは柔らかく、風には精霊の気配がまじっている。
シリウス「珍しいな。ひとりでこんなとこにいるなんて」
声をかけてきたのは、銀髪の三年生――シリウス=ヴェイル。
上級生の中でも別格の魔力を持ち、学園でも“天才”と呼ばれる人物。
彼はアイリスの隣に勝手に腰を下ろすと、にこにこしながら言った。
シリウス「昨日の演習、見てたよ。すごかったね。
特にあの“光刃”の制御と、魔力の分散術式。普通じゃあんな精度出せないよ」
アイリス「ありがとうございます。でも、あれは……偶然、うまくいっただけで」
シリウス「へえ。偶然ねぇ。じゃあ、あの“光の撹乱結界”も偶然かな? ……あれ、記録に残ってない術式だよ。魔導書にも載ってない。
使えるのは、少なくとも数百年前の術式構築理論を理解してる人間だけだ」
(――やっぱり、気づかれてる)
アイリスは顔に出さず、静かに言った。
アイリス「シリウス先輩って、いろんなことに詳しいんですね」
シリウス「まあね。“監視対象”の調査も仕事のうちだから」
彼の目が、一瞬だけ鋭くなった。
シリウス「……僕は『観察が得意』なんだ」
風が吹き抜け、アイリスの髪が揺れる。
シリウス「君、たぶん“忘れてる”ふりしてるだけだよね。――“自分が何者か”ってこと」
アイリスは何も言わなかった。ただ、じっと彼を見返した。
その沈黙に、シリウスは苦笑する。
シリウス「……まあ、別にいいよ。今のところ、君は敵じゃない。
でも覚えておいて。学園の“封印”は、そう簡単に触れていいものじゃないから」
彼は立ち上がり、歩き出す。
その背中に、アイリスはひとことだけ問いかけた。
アイリス「……あなたは何のために、そんなに探ってくるの?」
シリウスは、振り向かずに答えた。
シリウス「“過去を知る者”が現れたら、学園が動く。
そして――“過去を知る者”は、たいてい災いを連れてくるんだよ」
そう言って、彼の姿は陽光の中に消えた。
夜・アイリスの部屋
窓際に座りながら、アイリスは独り言のように呟く。
(……シリウス=ヴェイル。やっぱり、ただの天才じゃない……)
魔法の才能だけじゃなく、知識と警戒心…
彼が敵になるなら、油断はできない。
けれど。
(……それでも、私はもう逃げない)
指に光る魔導指輪が、微かに共鳴した。
その夜――
眠りについたアイリスの意識は、深い闇の中に吸い込まれていった。
そして次の瞬間、彼女は見知らぬ白い空間に立っていた。
そこは何もない、ただの光に満ちた空間。
しかし、その中に“ひとつの影”が現れる。
「……目覚めたか、“白銀の賢者”。」
その声は、懐かしく、そして深い。
目の前に立っていたのは、一人の青年。
黒髪に深紅のローブ、鋭い瞳に揺れる静かな炎。
かつて――アイリスが前世だったころに共に戦った**“紅蓮の賢者・カイ”**。
アイリス「……カイ……?」
声に出した瞬間、記憶の蓋が少しずつ軋んで開き始める。
封印されていた“かつての仲間”の姿と、あの日々の断片がよみがえる。
カイ「お前が目覚めたと聞いて“鍵”を送りに来た。
このままじゃ、また同じことを繰り返す。お前は、“あの封印”を開けねばならない」
アイリス「……あの封印?」
カイ「《第七の書庫》――かつて我々賢者が、自らの魔法と記憶を封じた場所。
そこにある“真理の断章”が、今の時代に必要になる」
アイリス「でも……まだ私には、全部思い出せてない……」
カイ「思い出す必要ない。……お前は……忘れない者”だからな。魔法も、心も、仲間も。
――だから、これを預けよう」
カイの右手に、光の鍵が現れる。
それは、魔導の紋様と古代文字で構成された**“精神結晶の鍵”**。
心に共鳴することでしか、扉を開けることのできない特別な封印解除道具だった。
カイ「この鍵を使えば、封印の書庫の最奥《第七層》に触れることができる。
ただし――そこに踏み込めば、もう後戻りはできない。
“賢者の宿命”に、再び立ち向かうことになる」
アイリス「……うん。もう、逃げないよ」
しっかりと鍵を受け取り、手に握った瞬間――
辺りの光が砕け、夢は静かに終わった。
⸻
翌朝・目覚めの中で
アイリスはベッドで目を覚まし、胸元に重さを感じて手を伸ばす。
そこには――夢で渡された**“精神結晶の鍵”**が、現実のものとして存在していた。
アイリス「……夢じゃなかった」
アイリスの目は真っ直ぐに前を見据える。
(今こそ、思い出すときだ。私が……“何を守れなかったのか”を)
そしてその日の午後、学園長から一通の手紙が届く。
───
《封印書庫:特別許可通知》
アイリス・グラン殿
あなたに、特別に《封印書庫》への入室許可を与える。
入室は深夜零時、学園地下第三区画にて。
ゼレフ・バルネア(学園長)
───
(さすが……お見通しってわけね)
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる