転生賢者は魔法を忘れない

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第1章

推薦状と選ばれし者たち

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その日、朝の授業が終わったあと、アイリスのもとに一通の手紙が届けられた。
宛名は、手書きの筆跡でこう記されていた。

《推薦通知:特別合同魔法演習への参加命令》

アイリス「……合同魔法演習……?」

教室がざわつく。近くの生徒が顔を青くしながらつぶやいた。

生徒A「一年生で、合同演習に招待? あれって、毎年上級生の精鋭しか選ばれないって……」

生徒F「教師の“直接推薦”がなければ無理なはずだよ。普通はか三年か四年の選抜組じゃないと……」

アイリスは手紙を開き、内容を確認する。





アイリス・グラン殿

あなたの優れた魔導理論および実技力を高く評価し、来週開催される
年次特別合同演習クラスへの参加を許可する。

授業では同じ複合実践を通じ、適性と応用力を見極める。
詳細は別途説明会にて伝える。

推薦者:理論魔法担当講師 リオネル・クレイン
監修:ルミナリア魔法学園 学園長 ゼレフ・バルネア



(うわ、がっつり監視されてる……推薦してるのリオネル先生じゃん!勘弁してよ…)

でも、逃げないと決めたのは、自分だ。

(だったら、真正面から受けてやろうじゃない)

彼女は静かに封筒を閉じる。


翌週、学園の訓練塔――通称《練魔塔》に、選抜生たちが集められた。
塔は魔力制御結界に覆われており、実戦さながらの演習が可能な施設だ。

そこにいたのは、各年の代表と教師陣。
そして、三年のトップクラスに立つ生徒たち――“黄金組”の存在だった。

「やあ、君が噂の新入りか?」

声をかけてきたのは、三年の主席――シリウス=ヴェイル。
飄々とした態度だが、その魔力量は教員をも上回ると言われる天才。
長身に銀髪、常に笑っているような目つきが印象的な青年だ。

シリウス「一年生が選ばれるなんて、なかなかないんだよ? 教師たちが何を見込んだのか、興味あるなあ」

アイリス「……期待されてるわけじゃなくて、観察されてるだけかもね」

アイリスは落ち着いた口調で返す。シリウスは、ほう、と笑った。

シリウス「ますます面白い」

演習内容は、三人一組での模擬戦――
一人は攻撃、一人は防御、もう一人はサポート。
チームごとに与えられた任務を遂行し、魔力量、判断力、連携を評価される形式だった。

アイリスのチームは、
• アイリス(1年・魔法制御)
• ラークス(1年・雷系魔法の実力者)
• メイベル(1年・治癒魔法・精霊師)

という異例の混成チームに編成された。

(……これ、絶対“試してる”よね……1年生のみで構成されたグループ……)

だがアイリスは構わず、杖を握りなおす。

「やるしかない。今の私を、見せてあげる」

そして、鐘が鳴る。

――“実力”だけがものを言う場所で、
かつての賢者は、再びその力を解き放とうとしていた。



ラークス「はあ? 俺が先陣切るって言ってんだろ。回りくどい精霊魔法なんて待ってられるかよ!」

ラークスが苛立ち気味に叫ぶ。
彼は1年の中でもかなり目立つタイプで雷系魔術士。才能はあるが、直情型で独断専行タイプ。

対するメイベルは冷静沈着で大人しい…
癒しと結界に特化した精霊術士で、戦術行動を重視する慎重派だった。

メイベル「あなたはいつもそう。力任せに突っ込んで、味方のことを考えていない。だから昔の実戦演習でも味方を巻き込んだのよ」

2人は昔からの仲らしい。

ラークス「うるせえな……! あれは状況判断が――」

アイリスは、2人の口論を黙って聞いていた。
だがその間にも、演習は刻一刻と始まろうとしている。
今回の任務は「魔獣討伐&制圧地域の安全確保」――模擬戦とはいえ、実戦に近い演習だ。

(このままだとバラバラに動くと、全滅になりかねない……)

彼女は、一歩前に出ると、落ち着いた声で言った。

アイリス「……じゃあ、こうしましょう」

2人の視線が集まる。

アイリス「ラークスさんは前衛特化で単体火力に優れる。でも、それだけだと動きが読みやすい。そこで、私が【光障壁】で位置をカモフラージュして、奇襲を仕掛ける形にする」

ラークス「……カモフラージュ?」

アイリス「うん。魔力を“散らす”ことで、敵が本命の位置を見誤るの。
私がそれをやってる間に、メイベルさんには後方から【精霊の風】を使って風圧の壁を形成してもらう。これは防御にもなるけど、ラークスさんの雷の導線にもなる」

ラークス「つまり……俺の雷を、風で“誘導”するってことか?」

アイリス「そう。敵の感覚器官も混乱させられる。直線だけじゃなくて“曲がる雷”が撃てるの。
それならラークスさんの一撃を活かせるし、メイベル先輩の防御ラインも維持できる」

2人は一瞬、黙り込んだ。

ラークス「……やってみろ。その“光の撹乱”とやら」

メイベル「確認できたら、風の支援に入るわ。でも、2人とも無茶はしないこと」

アイリス「もちろん!」

メイベル「あと、私たち同じ学年でしょ?タメ口でいいわ」

ラークス「確かに、俺も硬いのは嫌いだ」


アイリス「分かった!メイベル、ラークス改めてよろしく!」

アイリスはにこっと笑って、杖を構えた。


戦闘開始。
演習場に出現したのは、魔力で作られた幻獣――双頭の狼型魔獣《ディルファング》。

通常の初級魔術士なら手こずる強敵だが、チームはすでに機能し始めていた。

アイリス「【光散結界・フェイズアウト】」

アイリスが詠唱すると、三人の魔力波が拡散され、敵の感知能力が狂う。
ディルファングが混乱している間に、ラークスが一気に踏み込む。

ラークス「――喰らえ、《雷閃・砕牙(らいせん・さいが)》!」

放たれた雷撃は一瞬で曲線を描き、風の流れに乗って敵の側面に命中。
爆発とともに地面が裂け、魔獣がひるむ。

メイベル「援護するわ!《癒風の精霊よ、盾となれ》!」

風精霊が広がり、ラークスの進路を守る結界を作る。
それが魔獣の反撃を防ぎ、見事にバランスの取れた“連携攻撃”が成立した。

最後は、アイリスが小声で呟いた。

「……《制光結印》」

光の鎖が魔獣の脚を絡め、動きを封じる。
倒れた敵に、チーム全員の魔力が集中し、演習1戦目は――終了。


ラークス「……やるじゃねえか。まさか、俺の魔法が曲がるなんてな」

ラークスがぼそっと言った。

メイベル「あなたが褒めるなんて珍しいわね」


アイリスは照れ笑いを浮かべていた。

アイリス「実はちょっとだけ、昔に……作戦会議を考えたりする仕事してたんです。」

ラークス&メイベル「……?」

昔っていつの事だよって言わんばかりの顔をしていた。

もちろんそれが“賢者”のことだとは、誰も気づかない。

だが、観客席から彼女を見ていた学園長ゼレフは、ひとり静かに目を細めていた。

(やはり……“彼女”か……。間違いない……長生きするものじゃな)



最後の演習も終わり、魔力が静まった訓練場の空気。
倒れた幻獣の残骸が光の粒子となって消えていく中、アイリスは静かに息を吐いた。

アイリス「……ふぅ。なんとかなった、ね」

ラークス「おい、アイリス」

少しぶっきらぼうな表情のまま、不器用に言葉を続けた。

ラークス「……悪かった。最初、お前のこと完全になめてた。けど……見直した」

メイベル「私もだわ」

今度は、冷静だったメイベルが口を開いた。
精霊の気配を背にまとったまま、やわらかく微笑んでいる。

メイベル「あなたの噂は聞いていたけど、ただの魔術オタクじゃなかったのね。作戦も魔力制御も、相当練習してきたってわかる。……本当に一年生?」

アイリス「うん。ちょうど一年前くらいに……生まれ変わったばかりだから」

ラークス「は?」

「ううん、こっちの話」

アイリスははにかむように笑った。

ラークスは照れ隠しのように頭を掻きながら言う。

ラークス「まあ、その……もしまたチーム組む機会があったら、頼む。悪くねえ戦いだった」

メイベル「ええ。あなたとなら、また組んでもいいわ。長い付き合いだしね……もちろんアイリスも」

メイベルがすっと手を差し出す。
アイリスは、その手を自然に握り返した。

アイリス「じゃあ、今度は模擬戦じゃなくて、どこかの実戦任務でも行ってみたいかも。
三人なら、いいチームになれそう」

三人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。

それは戦場のあとにしか生まれない、“本物の絆”の始まりだった。


その夜、女子寮にて

寮の窓辺で星空を見上げながら、アイリスは思った。

(2人とも強かったなぁ~)

(前世では、誰かと本当の意味で“並んで戦う”なんてなかったしな……)

けれど今は、そうじゃない。

(今の私は、“ひとり”じゃない)

魔法を忘れなかった少女が、今度は“絆”を学び始めた。
それこそが、かつての賢者にはなかった、新たな力。

その背後で、指に嵌めた魔導指輪が、静かに光を放っていた。

まるで、“仲間”という存在に共鳴しているかのように。

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