私をおいていかないで

るい

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微妙な空気

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 馬車に揺られ、すでにテントなどが設営され始めている魔物溢れる山間部の少し手前の地点に着く。馬車から降りればそれぞれのテントへ案内され、色々とやることをしていればあっという間に時は過ぎた。
 ここへ着いたのは夕方で今は星が煌々としていたが周りは各々にやることがあるのか忙しそうだ。しかし私は意味もなく人の様子を見ていた。明日の朝から討伐が始まるため、私などの主戦力として動く者たちには休息が与えられており、暇なのだ。
 こういった事態に慣れていないので眠れそうにもなく、静かにしていれば明日のことをいろいろ考えてしまう。だからこうして気を紛らわしていたのだが、視界にこちらに向かってくる人物が入った。

「久しぶり! 元気にしてた? 相変わらず冴えない感じ?」
「久しぶりだね……、きみは相変わらず元気そうだ」

 私の前に来た、可愛らしい見た目の少年は「まあね! それより迷子? 冴えないのがずっと立ってるなあと思えばレドとは笑える」と馬鹿にするように言う。

「時間を潰しているだけだよ。それよりきみも魔法士として参加していたんだ」

 国の魔法士である証の白いローブを着る彼は胸を張り、自信の見える表情で口を開く。

「ふふふ、僕は優秀だからね、今回抜擢されたんだ!」

 凄いだろうと全身で表す彼に「凄いよ、さすがシャルだ」と褒める。「そうだろう、そうだろう」と彼、シャルは気分良く頷く。確か私と同じ代に魔法士として所属したはずなので今回の抜擢は本当に素晴らしいことだ。

「でもレドも魔法士かと思えば騎士なんて驚き。所属場所、間違えてるでしょ」

 心底不思議そうに聞くシャルに私は苦笑いになる。

「まあ、これでも剣術嗜んでたからではないかな……」

 自分でも魔法士として所属すると思っていたが蓋を開ければ騎士になっていたのだ。要因とすれば後継者として剣術をしていたことが近接もいけると判断されたのだろう。

「あー、なるほど、確かにやってたね。弟に圧倒されてたけど……」
「言わないでほしいな……」

 苦い思い出をこの幼馴染に掘り返されるのは辛く、俯く。するとその様子を見たシャルは私の背中を叩いた。

「そういえばレド、あのディアとバディなんだって? 本当についてないね、きみって」
「ああ、やっぱりそっちまで話いってるのか……」

 魔法士と騎士では関わりが頻繁ではないため、話題がかぶるのは珍しいがあのディア関係では話が出てもおかしくない。

「まあね、でもレドのコンプレックスを具現化したような相手とバディって上手くいってるの?」

 いつもの様子とは違い、本心から心配するように聞くシャルに「根は優しいよね」と心で私は思いながら微笑む。そして「大丈夫だよ」と返し、続けた。

「ディアはものすごく人が出来てるから。本当にバディが私で申し訳ないところ……」
「へえ、そこまで。あっ噂をすれば……」

 シャルの言葉に「どうしたんだい?」と言い私は彼の向く方を見た。そこには私たちの方へ軽く片手をあげて歩いてくるディアがいた。私も控えめだがディアへ手をあげて応える。

「テントにいないと思えばこんな所にいたのかい?」

 私たちの前に来たディアは私を見てから隣にいるシャルを見た。そして「シャルさんだろう? パーティー以来だ、久しぶり」と挨拶する。顔見知りだったのかシャルも同じように「はい、お久しぶりです」と私の時とは正反対の礼儀正しさで対応していた。まあ、シャルからすれば高位な貴族という繋がりしかないため当たり前だろうけれど。

「ところで私に何か用事でもあっただろうか?」

 わざわざ私のテントまで足を運んだらしいディアにそう聞けば、彼は一度笑ってから口を開いた。

「いや、ただ暇でレドといつも通りおしゃべりでもしようかと」

 なるほどと私は頷く。確かにいつもこの時間帯は私の部屋にディアは居座っていた。

「仲良いんだ、安心した。それなら僕はお暇するよ、レドと違って忙しいからね」

 ディアとの関係を見たシャルは一度ディアへ一礼すると私にひらひらと手を振り背中を向ける。そんなシャルに私は「心配してくれてありがとう。シャルなら大丈夫だと知ってるけど、どうか明日は気をつけて」と背中に投げかけた。

「分かってるよ、弟にボコボコにされてる冴えないレドの方が気をつけるべき。バイバーイ」

 くるりと振り返り揶揄うように言いたいことを言って去るシャルに私は笑ってしまう。

「親しいようだね、彼と」

 私たちの掛け合いを見ていたディアにそう言われ、「幼馴染なんだ」と私が返せば彼は羨ましそうな表情になる。

「私もレドと幼馴染が良かったよ」

 予想外な言葉に私はなんと返せばいいんだと思ってしまった。そして思いつかない焦りからか「ありがとう」と意味がわからない返しをしてしまう。

「ふふ、でも過去には戻れないから親友の位置で我慢するかな……」

 こちらを見る彼に驚きながら「親友?」と私は繰り返してしまった。すると彼は眉を下げ、落ち込んだ表情で「私では駄目だった?」と聞いてくる。

「えっ、いや、そういうことではないんだっ」

 誤解だ、というように首を横に振る私にひとまず分かってくれたのか、彼の表情が戻る。私は安心からひとつ息を吐いて、言葉を続けた。

「この私がディアと親友なんてつり合わないだろう? だから考えたこともなくて驚いたんだよ」

 もっと私が立派であれば彼ともつり合いがとれたと思うが今の私では友達でいられることすら奇跡なほどだ。その彼が私を親友としてくれようとした事実には素直に嬉しく笑みを浮かべてしまう。しかし反対に目の前の彼は悲しそうにして「私とレドは対等だよ……」と言った。あまり見たことのない彼の悲しい表情と声色から私の笑みは引っ込み反射的に謝ろうと口を開きかけるも「おーい、ディア、少しいいか?」と彼を呼ぶ声に遮られる。呼ばれたことで彼は「すまない、行ってくるよ」と残し行ってしまう。
 
 微妙な空気でディアと別れてしまい、困った私はどうしようと悩み、気を遣った兵士に休んだ方がいいと言われるまでこの場に突っ立ていた。


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