ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?

浅野明

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第一章 新しい世界

獣人の家

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「おい、なんで俺まで水浸しなんだよ!」

必要がないだろう、と嫌そうにグレイはそういって、腕を一振り。一瞬で水が蒸発してしまう。さすがは火の精霊王といったところか。しかし、彼は自分だけをきれいにすると、水浸しの獣人は放置したまま特に気にする様子もない。残念ながら、精霊には他人もついでに乾かしてあげるといった親切心には縁がないようである。

「なんとなくよう。細かいことを気にするのは良くないわよう」

もっと大人にならないと、と肩をすくめてつぶやくシャナ。どう見てもわざとなきはするが、二人は特別仲が悪いというわけではないようだ。蓮から見ればありえない過激さだが、単なるいたずらであろう。ちなみに、シャーレイは我関せずと蓮の頭の上でうとうとしている。

それより気になっているのは、水をかけられた犬の獣人が、突然憑き物が落ちたかのようにおとなしくなっていることである。先ほどまであれほどとげとげしかった気配は鳴りを潜め、呆然として、困惑しているようにも見える。

「‥…お、俺は」

「ウィザー?どうしたの?」

突然の変化に、シュウと呼ばれた猫の獣人が、こちらも困惑した様子で問いかける。

「いや、なんだか頭の靄が晴れたような…なんで俺はあんなに苛立ってたんだろう。ああ、いきなり怒鳴ってすまなかった、お客人」

顔の険が取れて落ち着いた犬の獣人は、よくよく見れば穏やかで人のよさそうな顔つきをしている。いったいなんだってあんなに尖っていたのだろうか。そういうお年ごろ?とはいえ、本人もよくわかっていないようだが。

「仕方ないわよう。変な呪いがかけられてたのよう」

「呪い?」

あっさりとしたシャナの言葉に首をかしげる。そう言えば、呪いがどうとか言っていた。もしかしてシャナが水をぶっかけたのは、解呪のためだろうか。

「シャナ?さっきの水は⋯」

「ふふふっ」

「そんなキラキラした目で見るのはヤメロ!コイツのあれは単なる腹いせだ。レンに怒鳴ったのが気に入らなかったんだろ」

呆れたように肩をすくめて言ったのはグレイ。とばっちりを受けただけの彼が、一番の被害者かもしれない。どうやら、ちょっとした呪いなら頭から大量の水をかける必要性はなく、一滴の水を口のにいれれば済む話だったらしい。その話を聞いて、完全に嫌がらせだな、と連も納得した。

「えっと、ウィザーがごめんね。とりあえずこっちきて」

シュウが今にも倒れそうな家の中をどんどん進んでいく。さすがにここまで来て帰るわけにもいかないので、仕方なくついていこうとしたが、グレイがさりげなく前にでて蓮の安全を確保してくれる。ただし、脚元は板がめくれていたりささくれ立っていたりで、非常に歩きにくく、彼らのペースについていくのは一苦労だ。とくに、蓮の体は小さいから余計である。シャナも先ほど家の入口に入ったあたりから、表情は変わらないもののわずかに蓮に身を寄せて何事か警戒しているように見受けられる。シャーレイは相変わらず蓮の頭の上でうとうとしているが。

意外と奥行きがある家。入り口を入ったすぐのところにあるのは大きめの食堂っぽい部屋。小さな子供が4人いて、隅っこに固まっている。一番年長であろう蓮と年の変わらないような男の子が、警戒するようにこちらを見ている。

その奥の扉を開けると、ベッドが置いてあり、少女が一人座っていた。

「母様、起き上がって大丈夫なの?」

シュウと、ウィザーと呼ばれていた獣人が慌てて少女に駆け寄る。

「ええ、今は気分が良いの」

寝ていろ、というウィザーの言葉に少女は首を振ってはかなげにほほ笑んだ。頭の上にはウサギのような2つの耳がついているので、ウサギの獣人だろうか。青銀の髪と赤い瞳もまた、ウサギを連想させる。

「‥‥母様?」

どう見ても、少女は蓮と同じくらい(現在の肉体年齢だ。精神年齢の方ではない)にしか見えないのだが。シュウと少女を見比べて、首をかしげる。下手をすれば、シュウよりも年下にも見える。これで親子とか、ちょっとない。もしかして、獣人特有の何かだろうか?それとも究極の若作り?そういえば、テレビに出ていた女優さんだって、10年たっても20年たっても大して外見が変わらないような女性もいたな、と思い出す。いや、でもウサギの獣人から猫の獣人って生まれるものなのだろうか。疑問が尽きない。というより、疑問しかない。これが異世界。ファンタジーで全てが許されるが故の現象なのであろうか。

「あらあ、ずいぶんときつい呪いねえ」

「呪い?」


「レンには見えるはずぞな。よく視るぞな」

いつの間にか起きていたらしいシャーレイにいわれて、じっと目を凝らしてウサギの少女を視る。

「げ、なんか蛇みたいなのが絡みついてる」

ライムグリーンの蛇である。呪いいというからには黒っぽい何かを想像していただけに、輝く緑のウロコは予想外のインパクトが。正直、めちゃめちゃ気持ち悪い。

「見えるのか?!」

ウィザーが驚いたような顔で蓮をみてくるが、それどころではない。

「むう、吐きそう・…」

おどろきの気持ち悪さに、蓮は蛇から目をそらした。

「それは呪いに当てられておるのだ」

ぺしぺしと、シャーレイがあってないような小さな羽根で蓮の頭をたたくと、気分が良くなってきた。どうやら、呪いの影響を払ってくれたようだ。蓮の頭の上で寝ているだけではない。割とお役立ちな精霊である。さすがは精霊王といったところか。威厳はないけど。

「まあ、精霊様方。このような姿で失礼しますわ」

「問題ない。獣人の姫よ」

「‥‥姫?」

スラム街の奥の居間にも崩れそうな小屋に寝ているウサギがお姫さま?まあ、確かに古代中国でも座を追われた皇帝とか結構な生活だったっけな、とぼんやり思い出すが、それにしても姫・…、確かに美人だけれども。

「あれは獣人族の姫君よう。確か今代皇帝の5番目の娘だったかしらあ?」

シャナは情報通らしい。ちなみに、グレイは小さな精霊に耳打ちされているのを見てしまった。シャーレイはなんとなく匂いでわかったらしい。鳥って鼻が利くのかしら?というか、グレイがあまりにも堂々としていたので、普通に知っていると思っていたが、耳打ちしていた小さな精霊が蓮の方を向いて舌を出していたので、知らなかったっぽい。堂々としていると、知ったかができるよね。

「あの子から特別な運命の力を感じるんだ。きっと母様を治してくれます」

いまだに解けない母様の謎。しかし、なんとなく聞ける雰囲気ではない。あと、蓮には何もできない。なぜなら、どんな力があるのか全く把握していないからだ。せめて最近は待っているソシャゲのキャラにしてくれればよいものを、なぜこんな昔のゲームから引っ張り出してきたのか。あのガチャ、もしかして金の玉ってハズレなのでは、と疑ってしまう。

何はともあれ、椅子もないので仕方なくたったまま、獣人たちの事情を聴くことになった。いや、さすがにここでハイサヨナラと帰れないよね?そこまでメンタル鋼でできていない蓮なのだった。



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