その世界に竜騎士団ができるまで

悠誠(ハルカマコト)

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第四章 ~学園期・入学編~

第四十三話 「笑顔」

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「ったくさぁ、『魔力』なしは端のほうを歩きなよ」
「そうだよねぇ、魔法が使えないんじゃ、どうせ騎士にはなれないんだからさー」
「だよねー、だよねー、なれっこないよねー」

「うぅ、ごめん……なさい……」

 レンとキースと共に、食堂へと続く通路を進んでいると、途中である出来事と遭遇してしまった。

 ……これあれだよね。
 いわゆるその、いじめって……やつだよね?

 ファンタジー世界でも、地球とはこういうところは変わらないんだな。
 人が集まり、集団となる。そうすると必然的にその中で階級が生まれてしまい、力なき者は力ある側から虐げられる可能性が高くなるって感じだ。

 全てが全て、そうなるというわけじゃない。

 だが、この世界での貴族社会では『魔力を持っていない』ことが、そのままマイナスになってしまうらしい。
 その中にいなければ、誰からも特別視されることもない普通であることが、その中にいることで悪い意味での特別になってしまう。

 ならばどうするか。

 本当はがらっと環境を変えるのが、一番手っ取り早いんだけど。
 ――生まれた家を変えるってのは、そう簡単には……できないよな。

「おい……あれ、なにかあったのか」
「なになに、ん~、なんか女の子が固まってお話してるね?」

 レンが眉をひそめ、キースが首をかしげた。
 そして俺は――

「お、おいユウリ」
「あれ、君も混ざりにいくのかい?」

 一歩、踏み出した。

「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 そして、真っ直ぐと前を見て――声を出す。

 俺に気付いた女の子三人が、驚いたようにこちらを向いた。
 まず俺を見て、次に後方にいるレンとキース……そして、アイリスに視線を向ける。

「な、なに?」
「なんか用なの……?」
「……ドラ、ゴン?」

「なあ、魔力がないのか?」

 俺の言葉を聞いて、三人組はバツの悪そうな顔から一転して、ぱあっと笑顔を見せた。

「そ、そうなんだぁ! こいつ魔力なしだよ、学園に来る意味なくない? だって騎士になれないじゃん!」
「そうそう、だから今のうちから格付けを済ましておこうと思ってるの。その方がお互いのためでしょ?」
「ドラゴン初めて見た~。水色でとってもキレイ……」

「ああ、答えてくれてありがとう。でも俺が聞いたのは――君たちじゃないんだ」

「「「――え?」」」

「え……?」

 俺が聞いたのは、この子だ。
 三人組に迫られ、壁際に追い詰められたうえ尻もちをついてしまっている……薄い桃色の髪で目を覆い隠している女の子のほうだ。

 そういやピンクの髪とか初めて見たな……さすがファンタジー、現実には考えられないものでも平然と存在する。
 三人組のほうは、金髪が二人に茶髪が一人だから特別珍しくもない。

 ……随分と目立つんだろうな、その体質で、その髪色じゃ。

「君は、魔力を持っていないの?」
「……はい」
「そっか。じゃあさ、もう一つ質問……いいかな」
「…………はい」

 桃色の髪を持つ女の子は、前髪で目が隠れているため表情が伺いにくい。
 だがこちらを見て、俺の質問にゆっくりと頷いた。

「この状況、君はどう思ってる?」
「……えと、どういう……意味ですか……?」

 伝わらないか……難しいな。
 どう聞けばいいのか。

 そうだよな、「どう思ってる」かなんて、決まってるよな。
 嫌に決まってる。他人から敵意を向けられて喜べるやつなんて、いたとしても本当に少数だ。

 俺がこの女の子に聞きたいのは、そんな当たり前のことじゃないんだ。

「君自身が、この状況をどうしたいのか。それが知りたいんだ」

 今の状況を仕方ないと受け入れてしまっているのか、それとも――

「い、いや、です……なんとかしたいと、思っています……」

 ――『覆したい』と、思っているのか。
 俺が聞きたかったのは、それだけなんだ。

「答えてくれてありがとう。その言葉を、君の口から聞けてよかった」
「もしかして、た、助けて……くれるんですか……?」
「いや、助けない」
「…………そう、ですよね」
「味方になるんだ。俺は君がこの状況を『なんとかできる』まで、手伝いたいと思っている」
「――え」

 もし、俺がこの世界に来てから努力して持ちえた力を総動員して、この女の子を助けたとする。
 それが成功したとしよう。周りはみんな魔法が使えるんだから、難しいかもしれない。だからこれは仮定の話、もし助けることができたら。

 だけどそれは――『いま』助けることができただけなんだ。

 結局、状況は変わらない。
 この女の子に魔力がないことは変わらないし、ふりかかる悪意を跳ね除ける力はないままだ。

 なんなら俺もターゲットに加わるかもしれない。

 俺が持っているのは『翻訳』という能力なんだから。
 騎士には、なれないかもしれない可能性が高い。

 下手に関わると、二人で一緒に周囲からはぶられ、いじめられるだろう。
 まあ、俺にはアイリスがいてくれているから、最悪酷いことにはならないかもだ。
 けれど四六時中傍にいられるわけじゃない。

 ここは学園だ、俺一人になった途端に、今のこの女の子と同じ状況が作られるだろう。
 この女の子だって、一時の助けでは完全には救われない。

 だから、そうならないように――

「俺も、君と一緒にどんな状況もひっくり返す力を持てるよう頑張る。だから君も、俺と一緒に頑張って欲しい」
「…………」
「それを受け入れてくれるなら、俺は大手を振って君の味方になれる。一緒に悩むことができる。一緒に、頑張ることができる」
「……はい」

 他者のいじめに介入するというのは、想像している以上に難しいと思ってる。

 ――自分も一緒にいじめられてもいいという覚悟を持っていない奴が、手を出すべきではない。

 そう、俺は思うんだ。

「どう、かな」
「…………あ、あの」
「うん」
「あの……うぅ……」

 続く言葉を出せず、桃色の髪を持つ女の子は少し俯いてしまう。

 ……やっぱいきなりは、難しいかな。
 こんなこと聞かれても、咄嗟に答えなんて出せないよな……。

 とりあえずは、この状況だけでもなんとかしてみるか。
 まずは起き上がらせて、三対一から三対二の状態まで持ち込んでみよう。

 話をするのは、それからでも遅くない。

 俺は、そっと手を差し出した。

「…………」

 桃色の髪を持つ女の子は、言葉を出さないままその手を取り、静かに立ち上がる。
 女の子の背は、俺より少しだけ低かった。

 前髪に隠れている瞳は、まだ俺と視線が合わない。

「ちょ、ちょっと貴方いきなりなんなわけ!?」
「そうよそうよ! 貴方は関係ないでしょ!」
「ドラゴン、ほわわぁ~、かぁわい~」

 振り返ったときに、ちょうど三人組の女の子は声を出した。
 だが俺が視線を向けたのは、女の子たちの少し上だった。

 俺よりも背の高い男子二人が、三人の後ろに立っていたからだ。

「……なるほど、君はそういう男なんだなユウリ。大変興味深い」
「はっはぁ、ユウリ、女の子とお話するときは僕も交ぜておくれよ!」

 そして――

「パパ、なにやってるの?」

 ――アイリスが、ゆっくりとこちらに歩いてきていた。

「ド、ドラゴンっ、きゃああっ、こっちこないでよおっ!」
「いやっ、たべ、たべられるううっ!」
「あああっ、ドラゴンちゃぁ――――……っ」

 ドラゴンが行動し始めたことに驚き、恐怖した二人の女の子が、もう一人の女の子を連れ出して走り、この場から去っていってしまう。

「……おにごっこ?」

 アイリスが、三人が去っていったほうを見ながら首をかしげていた。

 んー……、間違いなく鬼ごっこではないから、追いかけなくてもいいと思う、アイリスさんよ。

「ふむ、アイリスが恐いのだな。こんなに興味深いのに、不思議だ。大変興味深い」
「そうだねぇ? こーんなに可愛い女の子なのにっ、不思議だねっ!」
「やあっ、またあっ、きいろいの、やなの~っ! パパたすけてええぇっ」

 キースがアイリスへと抱きつき、それを必死に嫌がるアイリスの図、再び。

 そっか。出会ったときから、なーんかおかしいなと思ってたら、これか。
 この二人にはドラゴンに対する恐怖が、ないんだな。

「……お前ら二人が特殊なだけだと思うぞ」
「その評価は心外だな。そもそもアイリスが危険だと認定されたのなら、ここへ入れるはずがないだろう。私は正常だ、ユウリ」
「そうだよねぇ~、可愛いは正義さっ、可愛ければ僕はなんでも受け入れるよ! だから女の子は全員受け入れるのさぁ~!」
「やあああっ、きいろいのっ、はなれてええっ」

「……ふふっ」

 桃色の髪を持つ女の子が、その光景を見て微笑んだ。

「あー……俺たちさ、これから食事にいくんだ。よければ君も一緒にどう?」
「……はい、よろしいのであれば、ぜひご一緒に」
「俺はユウリ=シュタットフェルト。ええと、君の名前を聞いてもいいかな」

「……あたしの名前はステラです、『ステラ=ヴァレンタイン』。助けてくれて、ありがとうございます……シュタットフェルト、さん」

 桃色の髪を持つ女の子が、挨拶と一緒に会釈したことで髪が一瞬――持ち上がった。

 ――桃色の髪に、少し赤みがかった茶色の瞳。

 こうして俺は、ステラという『魔力なし』の女の子と知り合ったのだ。

 前髪から解き放たれたステラの笑顔は、とても魅力的だった。
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