龍は暁に啼く

高嶺 蒼

文字の大きさ
242 / 248
第三部 新たな己への旅路

大森林のエルフ編 第10話

しおりを挟む
 「そうか。そういう事情で君はこの大森林にやってきたんだな」


 ようやく納得できたというようにシェズは頷き、雷砂はそんな彼女を見ながら思わず苦笑した。
 やはり自分のような年齢の子供がここに来るのは、おかしいことらしい。


 「しかし、己を鍛えるために龍の峰の龍神族を訪ねるとは、なんともスケールの大きな話だな」


 感心したような声音に、そんなもんかな?と雷砂は首を傾げる。


 「そうかな?オレはただ、知り合いの龍神族にすすめられたから来てみただけなんだけど……」

 「……龍神族が知り合いにいるという事がまず、ものすごいことだと思うんだが」

 「そう?あんまりそういうすごい一族の人って印象は無いんだけどなぁ」


 イルサーダの整った顔を思い出しながら雷砂は答える。
 そのせいなのかは分からないが、遠い旅空の下で、


 「……くしゅっ」

 「あら、団長。風邪でもひいた?」

 「いえ。別に体調は悪くないんですが……誰かが私の噂話でもしてるんでしょうかねぇ?」


 そんなやりとりがあったのだが、雷砂はもちろん知りようが無いことだ。


 「……まあ、いい。で、雷砂は大森林を抜けて龍の峰を目指すための案内役を探してるんだな?」

 「うん、そう。シェズ、誰かそういうことをしてくれる人、しらない?」

 「知らないか、と言われてもな」

 「あ、知らないならいいんだよ?大雑把な地図はあるし、元々自分一人でどうにかしようと思ってたんだし」

 「大雑把?どんな地図なんだ??」

 「ああ、うん。これ」


 言いながら、雷砂は荷物の中からイルサーダが持たせてくれた地図を取り出してシェズに見せた。


 「……これは、あれだな。もはや地図とはいえないレベルだ」

 「やっぱり?」


 シェズの言葉に、そんな気はしてたんだよね、と雷砂があっさり頷く。
 落胆はない。
 そもそも、嬉々として差し出されたこの地図を受け取った瞬間から、あまり役に立ちそうにないなぁ、とは思っていたのだ。
 が、かといってそれに代わる地図などなく、まあ、なんとかなるだろう、とその地図を片手に大森林に挑んだ訳なのだが。


 「誰がこんな適当な地図を用意したんだ?子供の落書きレベルだろう?これは」

 「これ?さっき話した知り合いの龍神族の人が書いてくれたんだ」

 「……」


 文句を言っていたシェズだが、雷砂の言葉で一瞬固まる。
 龍神族にほのかな憧れがある彼女は、何とも言えな顔で雷砂を見た。


 「えっと、一生懸命書いてくれたみたいなんだけど、その人も龍の峰の出入りは飛んでいくから、正直大森林は上から見下ろした事しかないみたいでさ」

 「そっ、そうか。そ、それなら仕方ないかもしれない。よ、よーく見てみれば、大きな特徴はちゃんと書かれてる……ような……気が、しない……でも……」

 「……いいんだよ?無理に褒めなくても。大雑把な地図なのは確かだしね」


 シェズは地図の良いところ探しをなんとかしようとしたが、その言葉はだんだんと尻すぼみになり。
 しょんぼりした彼女を慰めるように、雷砂はそっとその肩に手を乗せた。
 さて、その頃。


 「……へくちっ」

 「……やっぱり風邪じゃない?馬車の中で寝てたら?」

 「いえ、これはきっと雷砂が一人旅の寂しさに、私の事を考えているせいに違いありません。ああ見えて、雷砂は寂しがり屋さんですからねぇ」

 「ちょっと団長、熱で脳味噌が溶けちゃった?雷砂が寂しがりなのは私もよ~く知ってるけど、そんな時に団長なんかを思い浮かべる訳ないでしょう?雷砂が想うなら、私のことに決まってるもの」

 「……言いますねぇ、セイラ。貴方には優しさってものがないんですか?」

 「優しさ?団長に関してはさっきと今と、風邪の心配をしてあげただけで打ち止めよ。雷砂にだったら、いくらでも優しくしてあげるんだけど、ね」


 遠い遠い空の下、そんなやりとりがあったことなど、やっぱり雷砂には知りようがなく。


 「……まあ、悪い人じゃないんだけどね、イルサーダも」


 そんな風にぽつりと呟きつつ、なんだか落ち込んでしまったシェズを慰める。
 そうしながら、思い出すのは愛しい人の面影だ。


 (セイラ、元気にしてるかなぁ)


 イルサーダを思い出したことから芋づる的に、大切な人の顔を思い出し、彼女が側にいないことを少し寂しく思いながら、口元に優しい笑みを浮かべる。
 その後も、次から次へと自己主張をする大事な人達が頭にぽんぽん浮かんできて、結果、寂しがってる余裕などなくなり。
 ようやく復活したシェズに、


 「雷砂?」

 「ん?」

 「なんだか、妙に楽しそうだな?」


 と、不思議そうに首を傾げられる。
 そんな彼女に、何でもないよ、と返した時には、心に浮かんだ寂しさはもうすっかりどこかへ行ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...