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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第四十話
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小さな体から想像も出来ないくらいの力で絡みつかれ、うつ伏せに押し倒された。
首筋にかかる暖かい少女の息づかい、次いで鋭い何かに首の皮膚を突き破られる感触に息をのむ。
一瞬の苦痛。
だが、その痛みはすぐに緩和され、代わりに妙にむず痒いような感覚が首筋から体に広がった。
「んぅ……」
妙に甘ったるい声が口から漏れて、慌てて己の手を口元へ押し当てる。
少女をはね飛ばしたいが、体の力が思うように入らなかった。
少女は無心に雷砂の首に吸いついている。
喉を鳴らす音が聞こえてくるから、恐らく血を吸っているのだろう。
(この、妙に力が抜ける感じも、そのせいなのか?)
そんなことを思いつつ、何とか少女の拘束から逃れようと暴れるが、彼女は執拗に絡みつき、それを許してはくれなかった。
途中、アリオスとその後ろに付いて二人の冒険者が入ってくるのが見えた。
アリオスが雷砂の名を呼び、こちらに来ようとするのが分かったので、目でそれを制す。
こんな情けない姿を間近で見られるのはごめんだった。
これから先、一生からかわれ続けかねない。
雷砂はぐっと体に力を入れ、少女の体を排除しようとした。
しかし、やはり思った通りの力が入らない。
何とか出せて、いつもの3分の1程度。
普通の人間相手であればそれでも十分かもしれないが、人外の存在である少女にはまるで効果がないようだった。
しばらく、無言の闘争が続いた。
妙な脱力感に加え、首を吸われる度に体中を這い回るようなむずがゆさが兎に角うっとおしい。
雷砂は苛立ちを押さえて、ぐっと奥歯を噛みしめる。
そうしていないと、変な声が漏れ出そうなのだ。
遠くの方でアリオスと冒険者達が話しているが、その会話に耳を澄ます余裕もない。
雷砂は無言のまま、機会を待つ。
だが、それほど待たずにその機会は訪れた。
少女の唇が雷砂の首から離れたのだ。彼女自身の満足そうな吐息と共に。
それと同時に、少女からの拘束もわずかに緩む。
その好機を、雷砂は逃さなかった。
今の自分に出せる全力で少女をはねのけ、距離をとる。
いつもの自分とは思えないほどのつたない動きに舌打ちをしつつ、少女に向き直った瞬間、力の入らない足がふらついて思わず片膝を地に落とした。
それをみた少女が、紅い瞳をまあるく見開き、それからちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。
「雷砂の魔力が美味しくて、ちょっと食べ過ぎちゃった……」
ごめんね?となんとも悪気なく謝る相手を、なんとも毒気を抜かれた思いで見つめる。
そんな雷砂を見ながら、彼女は続けた。
「大丈夫?まだ遊べそう??手加減、する???」
心配そうに、きれいな形の眉毛をへにょりと歪めながら。
(まったく、なんの冗談だよ)
雷砂は苦笑を浮かべて立ち上がった。膝は笑っているが、何とかなる。
敵である少女に心配され、手加減の提案までされ。これはもう、笑うしかない。
自分はもう、彼女を殺すことは出来ないだろう。
目の前の少女の中に、人と同じ心を見つけてしまったから。
(取りあえずはこの遊びを終わらせて、それからどうするか考えよう)
体がけだるく、細かいことを考えるのが億劫だった。
目の前の少女を叩きのめし、どっちが上かをしっかり教え込む。
ようはペットのしつけと一緒だ。
(流石に疲れたから、ちゃっちゃとすませよう……)
そんなことを考えながら、ぐっぐっと拳を握る。
いつもの力はまだ戻らない。
少しずつ、それこそ全体の数%ずつは戻って来ているような気はするが、早期解決を目指すにはちょっとどころか大分足りない。
雷砂は、ちょっと考えてから、ふとひらめいた考えにぽんと手を打った。
蜘蛛の体に刺さったままの愛剣をちらりと見て、口の端に笑みを刻む。
「ロウ?」
呼び方の、微妙なニュアンスを敏感に感じ取ったのだろう。
一瞬で雷砂の前に馳せ参じたのは、剣の姿のロウではない。
銀の髪の狼少女は、ふさふさのしっぽをちぎれんばかりに振って、雷砂の前にお座りをしている。
見目麗しい少女の姿でそのポーズはいかがなものかとは思うが、今はそれにつっこむだけの気力もなかった。
故に、雷砂は単刀直入に要請する。
「血と魔力を吸われて力が出ない。ロウ、何とかしてくれるか?」
そのお願いに、ロウは目を輝かせた。
「分かった!!マスタ、ちゃんと飲んでね?」
「ん?ああ、わかった」
何を飲めばいいのかと聞く隙もなく、狼少女の体が雷砂の腕の中に飛び込んでくる。
反射的にその体を抱き留めた瞬間、唇に温かくて柔らかいものが押し当てられた。
そして、それは巧みに雷砂の唇を割り、ぬるりと熱い固まりが口腔に忍び込んでくる。
「ふぅ、ん……んんっ!?」
文句を言いたくても、舌がからめ取られ言葉を発することすら出来なかった。
目の前には、ロウの顔。
なんでこうなったーと思いつつも、雷砂はロウのキスを受け入れ、さっきの言葉を思い出す。
激しく舌を絡めつつ、流し込まれるのはロウの唾液だ。
妙に甘く感じるそれを口の中に受け止めつつ、飲めと言うのはこれのことかと納得した上で、コクリと喉をならした。
甘くなめらかな液体は雷砂の喉を通り、体内へ。
その瞬間、腹の底から力がわき上がるのを感じた。
(もう少し、ほしいな)
まだ足りないと、今度は雷砂の方からロウの舌をからめ取り、吸い上げる。
ロウの細い体がビクリと震えたことにも気づかないほど熱心に。その体をきつく抱きしめるようにして。
「んっ、んぅっ……」
ロウの唇から愛らしい声が漏れ、銀の尾がボンッと膨れ、更に力なく垂れ下がるまで味わい尽くして甘露を飲み尽くし、やっと雷砂は愛おしい狼を解放した。
拳を、握る。
さっきまでの無力感が嘘のように力がみなぎっていた。
白い少女へ向き直る。
少女は、嬉しそうに雷砂を見つめていた。
「すごいね、雷砂。元通り。ううん。元通りより、すごい」
「待たせたな。手加減はいらない。さっさとはじめて、さっさと終わらせようか」
感嘆の言葉が少女の唇からこぼれ落ちるのを聞きながら、雷砂はまだわずかに濡れたままの唇に、艶やかな笑みを刻んだ。
決着の為の戦いが、幕を上げる。
首筋にかかる暖かい少女の息づかい、次いで鋭い何かに首の皮膚を突き破られる感触に息をのむ。
一瞬の苦痛。
だが、その痛みはすぐに緩和され、代わりに妙にむず痒いような感覚が首筋から体に広がった。
「んぅ……」
妙に甘ったるい声が口から漏れて、慌てて己の手を口元へ押し当てる。
少女をはね飛ばしたいが、体の力が思うように入らなかった。
少女は無心に雷砂の首に吸いついている。
喉を鳴らす音が聞こえてくるから、恐らく血を吸っているのだろう。
(この、妙に力が抜ける感じも、そのせいなのか?)
そんなことを思いつつ、何とか少女の拘束から逃れようと暴れるが、彼女は執拗に絡みつき、それを許してはくれなかった。
途中、アリオスとその後ろに付いて二人の冒険者が入ってくるのが見えた。
アリオスが雷砂の名を呼び、こちらに来ようとするのが分かったので、目でそれを制す。
こんな情けない姿を間近で見られるのはごめんだった。
これから先、一生からかわれ続けかねない。
雷砂はぐっと体に力を入れ、少女の体を排除しようとした。
しかし、やはり思った通りの力が入らない。
何とか出せて、いつもの3分の1程度。
普通の人間相手であればそれでも十分かもしれないが、人外の存在である少女にはまるで効果がないようだった。
しばらく、無言の闘争が続いた。
妙な脱力感に加え、首を吸われる度に体中を這い回るようなむずがゆさが兎に角うっとおしい。
雷砂は苛立ちを押さえて、ぐっと奥歯を噛みしめる。
そうしていないと、変な声が漏れ出そうなのだ。
遠くの方でアリオスと冒険者達が話しているが、その会話に耳を澄ます余裕もない。
雷砂は無言のまま、機会を待つ。
だが、それほど待たずにその機会は訪れた。
少女の唇が雷砂の首から離れたのだ。彼女自身の満足そうな吐息と共に。
それと同時に、少女からの拘束もわずかに緩む。
その好機を、雷砂は逃さなかった。
今の自分に出せる全力で少女をはねのけ、距離をとる。
いつもの自分とは思えないほどのつたない動きに舌打ちをしつつ、少女に向き直った瞬間、力の入らない足がふらついて思わず片膝を地に落とした。
それをみた少女が、紅い瞳をまあるく見開き、それからちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。
「雷砂の魔力が美味しくて、ちょっと食べ過ぎちゃった……」
ごめんね?となんとも悪気なく謝る相手を、なんとも毒気を抜かれた思いで見つめる。
そんな雷砂を見ながら、彼女は続けた。
「大丈夫?まだ遊べそう??手加減、する???」
心配そうに、きれいな形の眉毛をへにょりと歪めながら。
(まったく、なんの冗談だよ)
雷砂は苦笑を浮かべて立ち上がった。膝は笑っているが、何とかなる。
敵である少女に心配され、手加減の提案までされ。これはもう、笑うしかない。
自分はもう、彼女を殺すことは出来ないだろう。
目の前の少女の中に、人と同じ心を見つけてしまったから。
(取りあえずはこの遊びを終わらせて、それからどうするか考えよう)
体がけだるく、細かいことを考えるのが億劫だった。
目の前の少女を叩きのめし、どっちが上かをしっかり教え込む。
ようはペットのしつけと一緒だ。
(流石に疲れたから、ちゃっちゃとすませよう……)
そんなことを考えながら、ぐっぐっと拳を握る。
いつもの力はまだ戻らない。
少しずつ、それこそ全体の数%ずつは戻って来ているような気はするが、早期解決を目指すにはちょっとどころか大分足りない。
雷砂は、ちょっと考えてから、ふとひらめいた考えにぽんと手を打った。
蜘蛛の体に刺さったままの愛剣をちらりと見て、口の端に笑みを刻む。
「ロウ?」
呼び方の、微妙なニュアンスを敏感に感じ取ったのだろう。
一瞬で雷砂の前に馳せ参じたのは、剣の姿のロウではない。
銀の髪の狼少女は、ふさふさのしっぽをちぎれんばかりに振って、雷砂の前にお座りをしている。
見目麗しい少女の姿でそのポーズはいかがなものかとは思うが、今はそれにつっこむだけの気力もなかった。
故に、雷砂は単刀直入に要請する。
「血と魔力を吸われて力が出ない。ロウ、何とかしてくれるか?」
そのお願いに、ロウは目を輝かせた。
「分かった!!マスタ、ちゃんと飲んでね?」
「ん?ああ、わかった」
何を飲めばいいのかと聞く隙もなく、狼少女の体が雷砂の腕の中に飛び込んでくる。
反射的にその体を抱き留めた瞬間、唇に温かくて柔らかいものが押し当てられた。
そして、それは巧みに雷砂の唇を割り、ぬるりと熱い固まりが口腔に忍び込んでくる。
「ふぅ、ん……んんっ!?」
文句を言いたくても、舌がからめ取られ言葉を発することすら出来なかった。
目の前には、ロウの顔。
なんでこうなったーと思いつつも、雷砂はロウのキスを受け入れ、さっきの言葉を思い出す。
激しく舌を絡めつつ、流し込まれるのはロウの唾液だ。
妙に甘く感じるそれを口の中に受け止めつつ、飲めと言うのはこれのことかと納得した上で、コクリと喉をならした。
甘くなめらかな液体は雷砂の喉を通り、体内へ。
その瞬間、腹の底から力がわき上がるのを感じた。
(もう少し、ほしいな)
まだ足りないと、今度は雷砂の方からロウの舌をからめ取り、吸い上げる。
ロウの細い体がビクリと震えたことにも気づかないほど熱心に。その体をきつく抱きしめるようにして。
「んっ、んぅっ……」
ロウの唇から愛らしい声が漏れ、銀の尾がボンッと膨れ、更に力なく垂れ下がるまで味わい尽くして甘露を飲み尽くし、やっと雷砂は愛おしい狼を解放した。
拳を、握る。
さっきまでの無力感が嘘のように力がみなぎっていた。
白い少女へ向き直る。
少女は、嬉しそうに雷砂を見つめていた。
「すごいね、雷砂。元通り。ううん。元通りより、すごい」
「待たせたな。手加減はいらない。さっさとはじめて、さっさと終わらせようか」
感嘆の言葉が少女の唇からこぼれ落ちるのを聞きながら、雷砂はまだわずかに濡れたままの唇に、艶やかな笑みを刻んだ。
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