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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第五十四話
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いつかの夜のように、並んで歩く。
アレサの手を引いて。彼女の歩く速度に、足並みを揃えて。
縋るように雷砂の手を掴んだまま、アレサは周囲を見回しながら歩く。
たった数日離れただけなのに、妙に懐かしい町並みをむさぼるように見つめながら。
そしてやがて。
視界の隅に、彼女が一番見たかったものが入ってきた。
それは小さな家だ。
アレサと母親と、二人でずっと暮らしてきた家。
暖かくて愛おしく、アレサの帰りを待っていてくれる人がいる場所。
気が付けば。アレサは雷砂の手を離して駆けだしていた。
扉を開け、家の中へ駆け込む。
リビングに、母の姿はなく、アレサは迷うことなく母親の寝室へと向かう。
病気の母が床についているだろう事は、容易に想像できたから。
寝ているかもしれない。そう思って、静かに寝室のドアを開ける。
ベッドの上に、目を閉じて横になっている母の姿があった。
数日前、最後に見たときより細くなってしまった気がする。
アレサは泣きたいような気持ちで母親のそばに行くと、筋張った母親の手をそっと両手で握った。
もともと浅い眠りだったのだろう。
人の気配に反応して目を開けた彼女の目が、アレサを認めてまあるく見開かれる。
「ただいま。お母さん」
アレサは微笑み、そう告げる。
その瞳から、涙が一筋頬を伝ってこぼれた。
「アレサ?本当にアレサなの?夢、じゃないのよね?」
「うん。心配かけて、ごめんなさい」
握ったままの母の手に頬をすり寄せ、心からの謝罪の言葉を唇に乗せる。
母がここまでやつれてしまったのはきっと自分のせいだと分かってしまったから。
ただでさえ病で弱っていたのに、娘の身の上を心配する余りに体調を更に悪化させてしまったのだろう。
アレサの目には、母親が今にも死んでしまいそうに見えた。
「アレサ、あなたなのね?帰ってきたのね??」
「うん。帰ってきたよ。もう、大丈夫。ずっとお母さんのそばにいるから」
だから早く元気になってと、声に出さずに願う。
「ああ、神様!!」
細い腕が思いのほか力強くアレサを引き寄せ、すっかり薄くなってしまった胸へと抱きしめる。
アレサは母親の背中に腕を回してぎゅっと抱きついた。
懐かしい母の匂いを胸一杯に吸い込むと、何故か次から次へと涙が溢れてきた。
「お、おかぁさぁぁん」
声を上げて、アレサは泣いた。それまで我慢していた感情を吐き出すように。
母親も、そんな娘をぎゅうっと抱いて涙をこぼす。
そうして抱き合ったまま、二人は再会の喜びの涙を流し続けた。
その姿をそっと見守る視線があることも、気づかないままに。
抱き合い、涙を流す二人の様子を見た後、雷砂はそっと寝室のドアを閉めた。
何故かこぼれ落ちた涙を拭い、雷砂はセイラの事を思う。
なんだか無性に、セイラに会いたかった。
だが、その前にやるべき事をやらねばならないと、雷砂はリビングのテーブルの上にアレサの母親の薬の材料を並べていく。
それらを一つ一つ丁寧に処理をして、無心に調合した。
しばらくして気が付けば、用意した材料の分の薬を作り終え、テーブルの上には薬の包みの小山がこんもりと。
雷砂はそれを眺めて一つ頷き、仕上げとばかりに薬の材料と調合比を記した紙を薬のそばにそっと置いた。
そして、お金の入った皮袋を腕輪から取り出すと、それもまたテーブルの上へ。
アレサを身請けするために集めて、余ったお金。それはもう、雷砂には必要がないものだった。
まあ、あっても困らないだろうが、お金は必要な時に稼げばいい。
必要なだけのお金を稼ぐ手段も力もあるし、このお金が少しでもアレサ達の役に立つならそれにこしたことはないのだから。
それから食料のストックを確認して、少しだけ足しておく。
二人がお腹を空かせて来た時に、最低限お腹を満たせる料理が作れるくらいには。
最後に、家の出入り口に立って忘れたことはないか、もう一度確認してから、雷砂はちらりとアレサの母親の寝室へ目を向けた。
だいぶ時間がたったが、二人とも出てくる様子がない。
恐らく、二人して泣き疲れ、そのまま眠ってしまったのだろう。
雷砂は微笑み、それから静かに家の外へ。
閉めた扉の前で、草原でよく使っていた魔除けの言葉をぶつぶつ唱えて、そっとその場を後にした。
魔除けの言葉は悪しきモノを遠ざけるお守りだ。
雷砂が草原で使った時も、驚くくらいの効き目があった。
きっとアレサ達が目を覚ますまで、二人の平穏な時間を守ってくれることだろう。
(ま、気休めにすぎないんだろうけどな)
そんなことを思いながら、雷砂はアレサの家に背を向けた。
雷砂は知らない。
雷砂が何気なく使っている魔除けの言葉がどうして効くのか、その理由を。
この世界には、精霊のような力あるモノになりきれない小さきモノ達が溢れている。
個々の力は弱いが、彼らは確実に存在しているのだ。
人の目には見えないだけで。
雷砂の言葉は、そんな小さきモノ達に確実に届いていた。
彼らは雷砂の体から漏れ出る力のおこぼれをもらう代わりに、雷砂の言葉に応えてくれるのだ。
その結果が魔除けの効果と言うわけだ。
まあ、その事実に雷砂はまるで気が付いてないわけなのだが。
雷砂がそれに気づくのはまだもうしばらく先の事になりそうだった。
「さぁて、帰ろうかな」
呟くようにそう言って、雷砂はゆっくりと歩き出す。帰ろうと思える場所があることを幸せに思いながら。
雷砂にとって帰るべき所は大切な人がいる場所だった。
そこで自分を待つ人の顔を思い浮かべ、雷砂はその口元にそっと優しい笑みを浮かべた。
アレサの手を引いて。彼女の歩く速度に、足並みを揃えて。
縋るように雷砂の手を掴んだまま、アレサは周囲を見回しながら歩く。
たった数日離れただけなのに、妙に懐かしい町並みをむさぼるように見つめながら。
そしてやがて。
視界の隅に、彼女が一番見たかったものが入ってきた。
それは小さな家だ。
アレサと母親と、二人でずっと暮らしてきた家。
暖かくて愛おしく、アレサの帰りを待っていてくれる人がいる場所。
気が付けば。アレサは雷砂の手を離して駆けだしていた。
扉を開け、家の中へ駆け込む。
リビングに、母の姿はなく、アレサは迷うことなく母親の寝室へと向かう。
病気の母が床についているだろう事は、容易に想像できたから。
寝ているかもしれない。そう思って、静かに寝室のドアを開ける。
ベッドの上に、目を閉じて横になっている母の姿があった。
数日前、最後に見たときより細くなってしまった気がする。
アレサは泣きたいような気持ちで母親のそばに行くと、筋張った母親の手をそっと両手で握った。
もともと浅い眠りだったのだろう。
人の気配に反応して目を開けた彼女の目が、アレサを認めてまあるく見開かれる。
「ただいま。お母さん」
アレサは微笑み、そう告げる。
その瞳から、涙が一筋頬を伝ってこぼれた。
「アレサ?本当にアレサなの?夢、じゃないのよね?」
「うん。心配かけて、ごめんなさい」
握ったままの母の手に頬をすり寄せ、心からの謝罪の言葉を唇に乗せる。
母がここまでやつれてしまったのはきっと自分のせいだと分かってしまったから。
ただでさえ病で弱っていたのに、娘の身の上を心配する余りに体調を更に悪化させてしまったのだろう。
アレサの目には、母親が今にも死んでしまいそうに見えた。
「アレサ、あなたなのね?帰ってきたのね??」
「うん。帰ってきたよ。もう、大丈夫。ずっとお母さんのそばにいるから」
だから早く元気になってと、声に出さずに願う。
「ああ、神様!!」
細い腕が思いのほか力強くアレサを引き寄せ、すっかり薄くなってしまった胸へと抱きしめる。
アレサは母親の背中に腕を回してぎゅっと抱きついた。
懐かしい母の匂いを胸一杯に吸い込むと、何故か次から次へと涙が溢れてきた。
「お、おかぁさぁぁん」
声を上げて、アレサは泣いた。それまで我慢していた感情を吐き出すように。
母親も、そんな娘をぎゅうっと抱いて涙をこぼす。
そうして抱き合ったまま、二人は再会の喜びの涙を流し続けた。
その姿をそっと見守る視線があることも、気づかないままに。
抱き合い、涙を流す二人の様子を見た後、雷砂はそっと寝室のドアを閉めた。
何故かこぼれ落ちた涙を拭い、雷砂はセイラの事を思う。
なんだか無性に、セイラに会いたかった。
だが、その前にやるべき事をやらねばならないと、雷砂はリビングのテーブルの上にアレサの母親の薬の材料を並べていく。
それらを一つ一つ丁寧に処理をして、無心に調合した。
しばらくして気が付けば、用意した材料の分の薬を作り終え、テーブルの上には薬の包みの小山がこんもりと。
雷砂はそれを眺めて一つ頷き、仕上げとばかりに薬の材料と調合比を記した紙を薬のそばにそっと置いた。
そして、お金の入った皮袋を腕輪から取り出すと、それもまたテーブルの上へ。
アレサを身請けするために集めて、余ったお金。それはもう、雷砂には必要がないものだった。
まあ、あっても困らないだろうが、お金は必要な時に稼げばいい。
必要なだけのお金を稼ぐ手段も力もあるし、このお金が少しでもアレサ達の役に立つならそれにこしたことはないのだから。
それから食料のストックを確認して、少しだけ足しておく。
二人がお腹を空かせて来た時に、最低限お腹を満たせる料理が作れるくらいには。
最後に、家の出入り口に立って忘れたことはないか、もう一度確認してから、雷砂はちらりとアレサの母親の寝室へ目を向けた。
だいぶ時間がたったが、二人とも出てくる様子がない。
恐らく、二人して泣き疲れ、そのまま眠ってしまったのだろう。
雷砂は微笑み、それから静かに家の外へ。
閉めた扉の前で、草原でよく使っていた魔除けの言葉をぶつぶつ唱えて、そっとその場を後にした。
魔除けの言葉は悪しきモノを遠ざけるお守りだ。
雷砂が草原で使った時も、驚くくらいの効き目があった。
きっとアレサ達が目を覚ますまで、二人の平穏な時間を守ってくれることだろう。
(ま、気休めにすぎないんだろうけどな)
そんなことを思いながら、雷砂はアレサの家に背を向けた。
雷砂は知らない。
雷砂が何気なく使っている魔除けの言葉がどうして効くのか、その理由を。
この世界には、精霊のような力あるモノになりきれない小さきモノ達が溢れている。
個々の力は弱いが、彼らは確実に存在しているのだ。
人の目には見えないだけで。
雷砂の言葉は、そんな小さきモノ達に確実に届いていた。
彼らは雷砂の体から漏れ出る力のおこぼれをもらう代わりに、雷砂の言葉に応えてくれるのだ。
その結果が魔除けの効果と言うわけだ。
まあ、その事実に雷砂はまるで気が付いてないわけなのだが。
雷砂がそれに気づくのはまだもうしばらく先の事になりそうだった。
「さぁて、帰ろうかな」
呟くようにそう言って、雷砂はゆっくりと歩き出す。帰ろうと思える場所があることを幸せに思いながら。
雷砂にとって帰るべき所は大切な人がいる場所だった。
そこで自分を待つ人の顔を思い浮かべ、雷砂はその口元にそっと優しい笑みを浮かべた。
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