龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~

小さな娼婦編 第五十七話

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 「セイラ、成功!」


 リインがぱっと顔を輝かせて、姉を振り向く様子を雷砂はきょとんとして見つめた。
 成功ってなに?と言うのが素直な思いだ。


 「セイラの言うとおりにしたら、本当に恋人にしてもらえた」


 リインは嬉しそうだ。
 嬉しそうに笑う顔が可愛いからいいのだが、彼女のいう事が理解しきれずに首を傾げた。
 これは、あれなのだろうか。セイラもグルだったという認定でいいのか?
 そんな事を思いつつセイラを見つめれば、セイラも心からの笑顔を浮かべてリインを抱きしめた後、少しだけ申し訳なさそうに雷砂の前に立った。


 「セイラも、グルだった?」

 「ごめんね、雷砂」

 「オレ、本当に悩んだのに」


 セイラもリインもひどいよ、と上目遣いに二人を軽く睨めば、


 「ごめんなさい。でも、私の気持ちは本当。それに、こうでもしないと雷砂の恋人にはなれそうになかった」


 だから仕方がないと、謝りつつもやや開き直り、リインは雷砂をぎゅっと抱きしめた。


 「セイラは私のお願いを聞いてくれただけ。怒らないで?」

 「……わかってる。怒らないよ」


 ため息混じりに雷砂は答える。
 そんな雷砂の頬を撫で、セイラは真っ直ぐに雷砂を見つめた。


 「好きよ、雷砂」

 「……うん。オレも好き」

 「あなたを私だけのものにしておきたい気持ちももちろんあるの。当然よね。あなたが、誰よりも好きなんだもの。でも、それは無理って事も、分かってる」

 「オレは、セイラが望むなら……」

 「そうね。私が望めばあなたはそうしてくれる。でも、きっとつらい思いをするわ。私はそれがイヤなのよ」


 セイラは微笑む。


 「今日、ミカに会ったわ」

 「……ん」

 「誤解しないでね、雷砂。私は怒ってなんかいないわよ?それに、私、ミカの事、結構好きだわ。真っ直ぐで、明るくて。雷砂を好きな者同士、仲良くなれるって思ったの。雷砂も、ミカが好きでしょう?」

 「……うん。セイラへの好きとはちょっと違うけど」

 「ミカと二度と会えなくなったら、辛いでしょ?」

 「……うん。会えなくなるのは、イヤだ」


 しょぼんとして答える雷砂の髪を、セイラは愛おしくてたまらないというように撫でる。
 そして、腕を伸ばしてそっと抱きしめた。


 「一度あなたに恋をしてしまったら、ただの友達のままでなんかいられない。諦めるには、離れるしかない。あなたに受け入れてもらえないなら。ミカの気持ちは良く分かるの。私も、同じように思うから」


 雷砂はセイラの背中に腕を回してきゅっと抱き返した。
 すがるように、しがみつくように。
 捨てないでと、そんな声が聞こえた気がして、セイラは雷砂を抱く腕に力を込める。


 (私が雷砂を捨てるなんて事、あるはずがない。雷砂を捨てられる人なんて、きっといるはずないのに)


 なのに、そのことを雷砂だけが分からない。
 雷砂以外の誰もが、彼女が特別だと分かっているのに。

 人の心をこれでもかというくらい、がんじがらめに捕まえておいて、それなのに捨てられるのは自分の方に違いないと不安がっている。
 誰よりも強いはずなのに、時々見せるそんな弱さが愛おしいと思う。
 守ってあげたいと、そう思わせる。

 セイラは困ったように笑い、雷砂の額に唇を寄せる。
 どう言ったら伝わるのだろうか。そんな事を、不安に思う必要など無いのだと。
 だが、口にして伝えても、正確には伝わらない気がした。
 だから、


 「愛してるわ、雷砂」


 ただ、愛を告げる。


 「あなたが辛いと私も辛い。あなたが幸せなら、私も幸せだわ。本当よ?心からそう思うの。嘘じゃない」

 「オレも、セイラが幸せだと幸せだよ」

 「ほんと?じゃあ、私達、ずっと幸せでいられるわね」


 セイラがにっこりと笑い、それにつられたように雷砂もかすかに笑みを見せた。


 「私も、仲間にいれて。二人の世界はずるい。……たまになら、いいけど」


 いいながら、リインが二人の間に突っ込むようにして抱きついてくる。
 セイラの腕がリインの体にそっと回され、そして、雷砂を見つめた。


 「私以外の恋人が増えるなら、最初の一人はミカじゃなくてリインがいいって思ったの。もちろん、ミカがダメな訳じゃないわ。これはただの私のわがまま。でも、雷砂はきっと、リインを受け入れてくれるって、思ったの」


 私の思った通りになったわね、とセイラが艶やかに笑う。
 そんな彼女の顔を見上げながら、雷砂はやっぱりセイラが好きだと改めて思った。
 次いでリインの顔を見上げて、彼女の事も好きなのだと思う。
 二人への好きは少しずつ違うけれども、同じように大切で愛おしい。


 「いいのかな?オレばっかり甘やかしてもらってる気がする」


 雷砂は情けない顔で、双子の姉妹の顔を交互に見る。
 セイラとリインはよく似た顔を見合わせて、それから揃って弾けるような笑顔を見せた。


 「いいのよ。私達が雷砂を甘やかしたいんだから」


 いいながらセイラが雷砂の頬にキスをすれば、


 「むしろ、もっともっと甘えてほしいくらい」


 リインもそう言って反対側の頬にキスを落とす。


 「好きよ、雷砂」

 「好き、雷砂」


 二人から改めて想いを告げられた雷砂は、一瞬どうすれば正解なのか分からないというような、複雑な表情を浮かべた。
 それから自分の気持ちを確かめるように、自分の想いを整理するようにぎゅっと目を閉じ、改めて二人の顔を見上げる。
 そして至極まじめな顔をして二人の手を取り、


 「オレも、好きだよ」


 改めて己の想いを言葉にして伝えた。
 そして微笑む。淡く頬を染め、少し照れくさそうに。それは、文句なしに可愛い笑顔だった。
 それを見たセイラとリインは一瞬息を止め、それから二人で赤くなった顔を見合わせた。


 「えっと、まずはお風呂?」

 「そうね。一人ずつ?それとも三人一緒??」

 「……ここはきっと、三人一緒が正解」

 「いい判断だわ。そうしましょう!」


 きらきらした瞳を見交わして、二人はがしっと手を握りあう。
 なんだかとても意気投合しているようだ。
 そして、その勢いのまま、雷砂の方に向き直り、とてもいい笑顔でお風呂にいこうと告げる二人。
 雷砂は身の危険を感じて、ちょっとひきつった笑いを浮かべた。


 「えっと、その。オレは、一人で入りたい、かな」


 消極的に希望を述べてみたが、


 「却下」


 そう答えたリインに右手をとられ、


 「さ、みんなで洗いっこするわよ~」


 うきうきした声のセイラに左手を握られる。
 どこにも逃げ場は無かった。
 二人に手を引かれ、風呂場に向かう。
 まるで連行されている気分だったが、つないだ手の温かさになんとなく心がほっこりした雷砂は、その口元に小さな笑みを浮かべるのだった。

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