龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第一部 幸せな日々、そして旅立ち

第七章 第四話

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 部屋の扉を控えめにノックする音に、セイラは顔を上げた。
 昨日色々あったから、今日は部屋で大人しくしていたのだ。
 他の座員達は、興業の天幕に練習に出かけている。
 本当はセイラも行きたかったが、ジェドやリインに来るなと言われ、仕方なく部屋に籠もっていた。

 そんなこんなで今日のセイラは少し機嫌が悪い。
 昨日はあんな事やこんな事を雷砂に対してしてしまい、起きてすぐ謝ろうと思ったのに、目を覚ましてみればもう雷砂は居なかった。
 ジェドの話によれば、早朝から呼び出され、出かけてしまったらしい。

 セイラが良く寝ていたから起こさずに行ったとの事だが、そんな気を使わずに起こしてくれれば良かったのに、と雷砂が悪いわけではないのに何だかイライラしてしまい、そんな自分に更にイラつくという悪循環。
 体を動かして発散してしまいたかったのにそれすら禁じられ、今のセイラはとにかくムシの居所が悪かった。

 そんな気持ちのまま、どうせ部屋を訪れるものは知り合いしか居ないだろうと、不機嫌な顔を隠さずに勢いよくドアを開けたセイラは、そんな自分の行動をすぐに後悔する。
 そこにいたのは良く知らない男だった。
 恐らく宿の人間だろう。機嫌の悪そうなセイラの様子に、ひどく恐縮しているようだ。

 「舞姫様、お忙しいところ失礼いたします」

 別に忙しくなんか無かった。ただ機嫌が悪かっただけだ。
 だが、素直にそう答えるわけにも行かず、

 「・・・・・・えーっと、何か?」

 愛想笑いを浮かべて問いかける。


 「あ、はい。つかぬ事をお聞きいたしますが、こちらの部屋に泊めていただいております雷砂はもう戻っておりますでしょうか?」

 「雷砂なら、朝出かけたままですけど、何かご用ですか?」

 「あ、いえ。雷砂に大事な用事があると、村の子供が来ておりまして。分かりました。雷砂は不在と伝えて・・・・・・」

 「雷砂に大事な用事?じゃあ、私が代わりに聞きましょう」


 部屋に1人で行るのにも飽きてきた所だった。
 セイラはそう決めて、宿の者の返事も待たずに、1枚薄物を羽織りいそいそと部屋を飛びだした。

 「え、あ、ま、舞姫様!?」

 そんな声が後ろから追いかけてくるが知ったことではない。
 セイラは先程とは打って変わって上機嫌で階下へと降りた。
 そしてそのまま宿の玄関先に向かうと、雷砂と同じくらいの年頃の男の子が、びっくりしたようにセイラを見上げた。
 セイラは少年に微笑みかけ、

 「雷砂に用事があるのはあなた?」

 そう問いかける。
 少年ーキアルは年上の美人に話しかけられ真っ赤になった。
 だが、すぐにここに来た目的を思い出し、セイラの顔を見上げる。


 「はい。あ、あの、ライは?」

 「雷砂は朝から出かけてまだ帰らないのよ。良かったら、私が伝言を聞くけど、どうかしら?」


 そんなセイラの返答を受けて、キアルはがっかりしたように肩を落とした。
 しかし、思い直したように一つ頷き、


 「じゃあ、伝言をお願いします。村はずれの林に母さんと居るから、なるべく早く来てほしいってキアルが言ってたと伝えてもらえますか?」

 「あなたと、あなたのお母さんが村はずれの林に居るから、なるべく早く行くように雷砂に伝えればいいのね?キアル」

 「はい。お願いします」


 キアルは頷き、頭を下げた。
 セイラはそんな少年の礼儀正しい様子をじっと見つめながら、少しだけ眉を寄せる。
 思い詰めた顔をしていると思った。余裕がない、追いつめられた人の顔。
 それがなんだか気にかかった。

 そんなセイラの様子に気づくことなく、少年はあっさりと背を向けて宿を出て行こうとする。
 その背中に思わず声をかけそうになった時、後ろから足音が聞こえてきた。
 振り向いてみればさっき部屋を訪ねてきた男が近づいてくる。
 セイラはこれを幸いとして、男を捕まえ、雷砂への伝言を頼む。さっきの男の子からの伝言を一言一句違わぬように気をつけながら。
 そして、雷砂が帰り次第、すぐに伝えるように念を押した後、軽い足取りで先に出て行った少年の後を追った。

 宿を出てみれば、まだ少年の背中が見えていたので、早足で追いかける。
 追いついて声をかけると、彼はびっくりしたようにセイラを見上げ、1人じゃ危ないから一緒に行くと伝えると、困ったような顔をした。
 だが、セイラがどうしても意志を曲げないことが分かると、小さく1つため息をつき、彼女の同行を受け入れた。

 ただ、どうしても譲らなかったのは、母親と2人で話したいから、林の外で待っていてほしいという事。
 これに関しては、危ないから声の聞こえないギリギリまで一緒に行く、と言っても頷いてはくれなかったので、仕方なくセイラの方が折れる他なかった。
 そうして2人でぶらぶら歩きながら村はずれへと向かう。
 雷砂のことや村のこと、好きな女の子の事、そんな他愛ない話をしながら、2人はゆっくりと林を目指し歩くのだった。

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