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第一部 幸せな日々、そして旅立ち
SS シンファの部族会 4
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競技会は、シンファとラージャンの一騎打ちの様な展開になっていた。
他にも参加者は多数いたが、2人の水準にまるで届いていなかったからだ。
だが、一騎打ちといっても4つの競技のうち、これまでの3つはシンファに軍配が上がっている。
残すは最後の競技である「格闘」のみである。
落ち着いた様子で向かい合うシンファを見つめながら、ラージャンはこれまでの競技の事を思い返していた。
最初の競技は「走」だった。
定められた距離を一斉に走り、速かったものが勝ちという単純な競技だ。
ラージャンは走ることはさほど得意では無かったが、とにかくシンファに食らいついて走ろうと心に決めていた。
だが、出走直後にその心は折れた。信じられないくらいの勢いのスタートダッシュ。
その勢いでは最後まで持つまいと、彼女の背中を求めて必死に足を動かしたが、次に彼女を見たのはゴールした後。
ラージャンは息も絶え絶えだったのに、彼女は涼しい顔をして次の競技の準備をしていた。
彼女がこちらを見たので、ついつい見栄を張って、
「俺は走るのが苦手ですが、シンファ殿は得意なんですね。感服しました」
と声をかけたら、
「まあ、苦手ではないな。雷砂は私より速いが」
そんな答えが返ってきた。
雷砂、という名前が彼女の唇から出たことにイラっとする。
昨日の彼女の理想像は雷砂という彼女の養い子に違いないという情報は得ていた。
獣人族ではなく人族の子供だという。
人族の子供が獣人に勝るなどあり得ないーそんな傲った思いが、ついつい口を出てしまった。
「脆弱な人族の子供が我ら獣人にかなうなど、俺には信じられないな。あなたの言う雷砂もなにか卑怯な手段を使ってるに違いないさ」
その瞬間、目の前に誰かの身体が割って入ってきた。
「シンファ、いきなり殴ろうとするのはやめてくれ。部族間の諍いのもとになる」
低い落ち着いた声は、恐らくライガ族のザズのものだろう。
どうやら、間に入ってかばってくれたようだった。
「・・・・・・雷砂を、悪く言うからだ」
少し拗ねたような声で彼女がぼそっと答える声がする。
だが、目の前を大きな背中に遮られ、彼女の姿は見えなかった。
「あ、あの・・・・・・」
「ラージェン殿、あなたも怪我をしたくなければ無闇に雷砂を貶すのはやめた方がいい。シンファは本当に雷砂を大切にしているんだ」
彼女を怒らせた事を謝罪しようとしたが、こちらを振り向いたザズに言葉を遮られ、諭された。
納得仕切れないものはあるが、おとなしく頷いておく。
そんな神妙な様子に安心したのか、やっとザズが目の前からいなくなったのでシンファを探すと、もう彼女は次の競技の場所へと向かっていた。
彼女の背中を見送りながら思う。シンファは情が深い女性なんだと。
情が深いからこそ、養い子に対する悪口にあれほど敏感に反応したのだ。
雷砂の事は気に入らないが、今後は悪くいわないように気をつけた方が良さそうだなーそんな風に思いながら彼もシンファの後を追って次の競技の為移動するのだった。
次の競技は「弓」だった。
定められた距離から定められた的へ弓を射る。決着が付かない場合は少しずつ的から距離をとっていく形式だ。
この競技でも最後に残ったのはシンファとラージャンだった。
最後には動かない的では埒があかないと、的になる玉を連続で10個投げ、当たった矢の本数で勝者を決めようということになった。
ラージャンは普段から弓を使った狩りを良くしており、動く的を射ることには自信があった。
だが、7本くらいはいけるかと思っていた矢は、実際には5本しか当たっていなかった。
審査員からは5本でも十分すごいと誉められたが。
そしてシンファの番になり、彼女はラージャンの成績などまるで気にならないという様に落ち着いて弓を構えていた。
合図とともに的が宙に投げられると共に、すごい速さで矢を射っていく。
10本すべての矢を放ったところで、彼女がぽつりとつぶやいた言葉が偶々耳に入ってきて思わず己の耳を疑った。
彼女は心底いまいましそうに、
「ちっ、1本外したか」
そう、言ったのだ。
1本外したと言うことは、9本は当てたという自信があると言うことなのかと、ラージャンは信じられない思いで彼女の横顔を見た。
まさか、それはないだろうと思ったが、結果は9個の的を矢が貫き、残りの1個も矢がかすめていたようだ。
ものすごい腕前だ。
ラージャンは落ち込んだが、それでも笑顔で彼女をほめたたえた。
「す、すごいですね。シンファ殿以上の弓の名手は中々いないでしょう」
「いや、うちの雷砂なら的を外すことは無かったはずだ。あいつは目も腕も規格外だからな」
ちらりと横目でラージャンを見ながら、再び雷砂を持ち上げてくるシンファ。
もちろんイラっとしたが、ラージャンはさっきの失敗を忘れてはいなかった。
「シンファ殿以上とは、雷砂・・・・・・殿はすごいんですね」
さっきは悪く言って失敗したので、今度は誉めてみることにしたのだ。
「そうだろう!!雷砂はすごいんだ」
シンファが顔を輝かせた。
よし、成功だ!ーそう思ったのもつかの間。
雷砂を誉められて大層喜んだシンファは、次の競技の開始まで延々と雷砂の自慢話をラージャンにきかせてくれた。
疲れ果てた表情で次の競技に挑みながら、誉めるのも失敗だ、とラージャンは肩を落とした。
3つ目の競技は「剣」だった。
この競技は1対1の勝ち抜き戦だ。ラージャンは順当に勝ち抜き、決勝でシンファと当たった。
はっきり言おう。
シンファは強かった。
ラージャンではまるで歯が立たず、気がつけば剣を飛ばされ尻餅をつき、喉元に剣を突きつけられていた。
素直に負けを認めると、彼女が手を引いて立たせてくれた。
あんなにすごい剣の使い手とは思えないくらい、柔らかな手だった。
もうさっきまでの失敗はすまいと、黙って頭を下げて彼女から離れる。
悪く言ってもダメ、誉めてもダメ。
それなら最初から雷砂の話題が出ないように彼女との会話を避ければいいのだ。
次の競技は格闘だ。
男と女の筋力差、体格差もあるから、次の競技は自分に有利なはず。
次の競技で勝ってそれからゆっくりと彼女と会話をすればいい。
今は黙って彼女から距離を置こうーそう思って次の競技の為に移動しようとしたが、何故か後ろから手を捕まれた。
振り向くと、なんだか期待に満ちた顔のシンファがいる。
その顔を見て悟った。
ああ、彼女はさっきみたいに雷砂の話がしたいんだな、と。
ラージャンはがくんと肩を落とす。
見事なまでに男扱いされていない自分が哀れだった。
だが、次の競技で勝負をつけてやると決意を新たにし、ラージャンはひきつった笑顔でシンファの話を聞いてやるのだった。
そんなこんなで現在に至る。
今日一日で、ラージャンはずいぶんと雷砂の事に詳しくなってしまった。
会ったことすらないが、なんだか親近感を覚えるほどだ。
だが、彼女だけは譲れない、と正面に立つシンファを見つめる。
彼女が好きなのだ。昨年さっくりと振られたが、それでも諦めきれなかった。
この「格闘」の競技で彼女を組み伏せて、もう一度スタートラインに立つ。
彼女を自分に惚れさせてみせる。
ラージャンは固く拳を握った。
彼女と恋人同士になって、あんな事やこんな事や、とにかく人に言えない色々な事をしまくるのだ。
ついつい妄想が激しくなり、鼻の下を伸ばしていると、
「勝負の最中に考え事をするとは余裕だな?」
そんな冷めた声が耳に飛び込んできた。
ぐるんと視界が回る。
気がつけばラージャンは地面に叩きつけられ、仰向けに転がされていた。
いつの間に開始の合図があったのか?まるで気づいていなかった。
だが、格闘の試合は3本勝負。
先に2本先取した方が勝ちというルールだ。1本取られたが、まだ負けたわけではない。
気を取り直して立ち上がり、構える。
シンファも同じように構えたが、何故か呆れたような顔をしてこちらを見ている。
何を見ているんだろうと内心首を傾げ彼女の目線を追うと、さっきの妄想のせいだろう。
なんだか色々と元気になった自分の股間が目に入ってきた。
はっとして彼女に目を移す。何とも言えない沈黙が2人の間に横たわっていた。
ラージャンの視線を受け、彼女もなんだか気まずくなったのだろう。微妙に視線を逸らし、
「元気で結構な事だな」
軽くそんな嫌みをぶつけてきた。
「こっ、これは、その・・・・・・くそっ」
なんとか言い訳したかったのだが、言葉が出てこない。
仕方がないので、ごまかすように前に出た。
彼女から1本取り返して、うやむやにしてしまおうと。
だが、シンファはそれ程甘くは無かった。
「うう・・・・・・股間を大きくしたまま突進してこられるのは、なんだか嫌な感じだな」
心底嫌そうにそう言いながら、ひらりとラージャンの突進を交わす。
すれ違いざまに彼の襟首をつかみ、バランスを崩した彼の足下をすくうように足払いをかけた。
なす術なく後ろに倒れるラージャン。
すぐさま体勢を整えようとはしたが、その前にシンファの拳が風を切る音と共に顔面に迫った。
避けられようはずのない攻撃に恐怖が膨れ上がる。
思わず目を閉じる。
が、衝撃はいつまでたってもやってこなかった。
おそるおそる目をあけると、寸止めされた拳が鼻先にあって、ゴクリと唾を飲む。
「負けを、認めるか?」
「は、はひ。ま、参りました」
素直に、負けを認めた。そうする他無かった。
こうして、競技会の幕は下りた。
4種の競技とも、シンファが圧勝するという結果で。
当然の事ながら、シンファが誰かを恋人に選ぶことはなく、大々的に開催されシンファをうんざりさせたお見合い会は失敗に終わったのだった。
波乱の部族会が無事に終わり、後は帰るだけとなったシンファは、来た当初とは打って変わってご機嫌だった。
「シンファ、ご機嫌だな?」
「ああ。競技会の勝者の景品を色々もらったし、今年の部族会も、最初はどうなることかと思ったが、結果的にはそれ程悪くなかったな」
ザズのそんな問いかけにも笑顔で答え、まとめた荷物を足下に置き、大きく伸びをする。
借りていたパロの掃除ももう終わったし、後は本当に帰るだけ。
帰ったら今回手に入れた景品を雷砂に見せて土産話をしてやろうと考え、口元をほころばせた瞬間、
「シンファ殿」
名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのはジンガ族の若長。確か名前はラージャンだった。
今回の競技会で唯一シンファに食いついてきた相手なので流石に名前も覚えていた。
「ラージャン殿」
「今回はあなたにかなわなかったが、次に会うときはきっと、あなたに勝ってみせます」
きりっとした顔で、そんな青臭い宣戦布告。
笑い飛ばさず、シンファは真摯にそれを受け止めた。
「ああ、いつでもお受けしよう」
「では、あなたの雷砂にラージャンがよろしく言っていたとお伝えください」
「わ、私の雷砂・・・・・・こほん。わ、分かった。ラージャン殿の言葉、私の雷砂にきちんと伝えよう。では、道中お気をつけて」
「シンファ殿も。では」
さわやかな笑顔をシンファに向け、それから颯爽と去っていく青年。
シンファはぼーっとその背中を見送る。
だが、決して彼に見ほれているわけではない。
さっきのラージャンの言葉を反芻しているのだ。「あなたの雷砂」というその言葉を。
それに気づいているザズは重々しいため息を漏らす。
「ラージャン殿と、ずいぶん仲良くなったな?」
「ん?ああ。競技会では彼と色々話したからな。彼は特に雷砂の話がお気に入りでな」
上機嫌なシンファに、ただお前が雷砂の話をしたかっただけだろうと、心の中でつっこみを入れるザズ。
このままではシンファの子離れは難しいのかもしれない。
集落に戻ったら、ジルヴァンにも相談してみないとなーそんなことを真剣に考えるザズなのだった。
他にも参加者は多数いたが、2人の水準にまるで届いていなかったからだ。
だが、一騎打ちといっても4つの競技のうち、これまでの3つはシンファに軍配が上がっている。
残すは最後の競技である「格闘」のみである。
落ち着いた様子で向かい合うシンファを見つめながら、ラージャンはこれまでの競技の事を思い返していた。
最初の競技は「走」だった。
定められた距離を一斉に走り、速かったものが勝ちという単純な競技だ。
ラージャンは走ることはさほど得意では無かったが、とにかくシンファに食らいついて走ろうと心に決めていた。
だが、出走直後にその心は折れた。信じられないくらいの勢いのスタートダッシュ。
その勢いでは最後まで持つまいと、彼女の背中を求めて必死に足を動かしたが、次に彼女を見たのはゴールした後。
ラージャンは息も絶え絶えだったのに、彼女は涼しい顔をして次の競技の準備をしていた。
彼女がこちらを見たので、ついつい見栄を張って、
「俺は走るのが苦手ですが、シンファ殿は得意なんですね。感服しました」
と声をかけたら、
「まあ、苦手ではないな。雷砂は私より速いが」
そんな答えが返ってきた。
雷砂、という名前が彼女の唇から出たことにイラっとする。
昨日の彼女の理想像は雷砂という彼女の養い子に違いないという情報は得ていた。
獣人族ではなく人族の子供だという。
人族の子供が獣人に勝るなどあり得ないーそんな傲った思いが、ついつい口を出てしまった。
「脆弱な人族の子供が我ら獣人にかなうなど、俺には信じられないな。あなたの言う雷砂もなにか卑怯な手段を使ってるに違いないさ」
その瞬間、目の前に誰かの身体が割って入ってきた。
「シンファ、いきなり殴ろうとするのはやめてくれ。部族間の諍いのもとになる」
低い落ち着いた声は、恐らくライガ族のザズのものだろう。
どうやら、間に入ってかばってくれたようだった。
「・・・・・・雷砂を、悪く言うからだ」
少し拗ねたような声で彼女がぼそっと答える声がする。
だが、目の前を大きな背中に遮られ、彼女の姿は見えなかった。
「あ、あの・・・・・・」
「ラージェン殿、あなたも怪我をしたくなければ無闇に雷砂を貶すのはやめた方がいい。シンファは本当に雷砂を大切にしているんだ」
彼女を怒らせた事を謝罪しようとしたが、こちらを振り向いたザズに言葉を遮られ、諭された。
納得仕切れないものはあるが、おとなしく頷いておく。
そんな神妙な様子に安心したのか、やっとザズが目の前からいなくなったのでシンファを探すと、もう彼女は次の競技の場所へと向かっていた。
彼女の背中を見送りながら思う。シンファは情が深い女性なんだと。
情が深いからこそ、養い子に対する悪口にあれほど敏感に反応したのだ。
雷砂の事は気に入らないが、今後は悪くいわないように気をつけた方が良さそうだなーそんな風に思いながら彼もシンファの後を追って次の競技の為移動するのだった。
次の競技は「弓」だった。
定められた距離から定められた的へ弓を射る。決着が付かない場合は少しずつ的から距離をとっていく形式だ。
この競技でも最後に残ったのはシンファとラージャンだった。
最後には動かない的では埒があかないと、的になる玉を連続で10個投げ、当たった矢の本数で勝者を決めようということになった。
ラージャンは普段から弓を使った狩りを良くしており、動く的を射ることには自信があった。
だが、7本くらいはいけるかと思っていた矢は、実際には5本しか当たっていなかった。
審査員からは5本でも十分すごいと誉められたが。
そしてシンファの番になり、彼女はラージャンの成績などまるで気にならないという様に落ち着いて弓を構えていた。
合図とともに的が宙に投げられると共に、すごい速さで矢を射っていく。
10本すべての矢を放ったところで、彼女がぽつりとつぶやいた言葉が偶々耳に入ってきて思わず己の耳を疑った。
彼女は心底いまいましそうに、
「ちっ、1本外したか」
そう、言ったのだ。
1本外したと言うことは、9本は当てたという自信があると言うことなのかと、ラージャンは信じられない思いで彼女の横顔を見た。
まさか、それはないだろうと思ったが、結果は9個の的を矢が貫き、残りの1個も矢がかすめていたようだ。
ものすごい腕前だ。
ラージャンは落ち込んだが、それでも笑顔で彼女をほめたたえた。
「す、すごいですね。シンファ殿以上の弓の名手は中々いないでしょう」
「いや、うちの雷砂なら的を外すことは無かったはずだ。あいつは目も腕も規格外だからな」
ちらりと横目でラージャンを見ながら、再び雷砂を持ち上げてくるシンファ。
もちろんイラっとしたが、ラージャンはさっきの失敗を忘れてはいなかった。
「シンファ殿以上とは、雷砂・・・・・・殿はすごいんですね」
さっきは悪く言って失敗したので、今度は誉めてみることにしたのだ。
「そうだろう!!雷砂はすごいんだ」
シンファが顔を輝かせた。
よし、成功だ!ーそう思ったのもつかの間。
雷砂を誉められて大層喜んだシンファは、次の競技の開始まで延々と雷砂の自慢話をラージャンにきかせてくれた。
疲れ果てた表情で次の競技に挑みながら、誉めるのも失敗だ、とラージャンは肩を落とした。
3つ目の競技は「剣」だった。
この競技は1対1の勝ち抜き戦だ。ラージャンは順当に勝ち抜き、決勝でシンファと当たった。
はっきり言おう。
シンファは強かった。
ラージャンではまるで歯が立たず、気がつけば剣を飛ばされ尻餅をつき、喉元に剣を突きつけられていた。
素直に負けを認めると、彼女が手を引いて立たせてくれた。
あんなにすごい剣の使い手とは思えないくらい、柔らかな手だった。
もうさっきまでの失敗はすまいと、黙って頭を下げて彼女から離れる。
悪く言ってもダメ、誉めてもダメ。
それなら最初から雷砂の話題が出ないように彼女との会話を避ければいいのだ。
次の競技は格闘だ。
男と女の筋力差、体格差もあるから、次の競技は自分に有利なはず。
次の競技で勝ってそれからゆっくりと彼女と会話をすればいい。
今は黙って彼女から距離を置こうーそう思って次の競技の為に移動しようとしたが、何故か後ろから手を捕まれた。
振り向くと、なんだか期待に満ちた顔のシンファがいる。
その顔を見て悟った。
ああ、彼女はさっきみたいに雷砂の話がしたいんだな、と。
ラージャンはがくんと肩を落とす。
見事なまでに男扱いされていない自分が哀れだった。
だが、次の競技で勝負をつけてやると決意を新たにし、ラージャンはひきつった笑顔でシンファの話を聞いてやるのだった。
そんなこんなで現在に至る。
今日一日で、ラージャンはずいぶんと雷砂の事に詳しくなってしまった。
会ったことすらないが、なんだか親近感を覚えるほどだ。
だが、彼女だけは譲れない、と正面に立つシンファを見つめる。
彼女が好きなのだ。昨年さっくりと振られたが、それでも諦めきれなかった。
この「格闘」の競技で彼女を組み伏せて、もう一度スタートラインに立つ。
彼女を自分に惚れさせてみせる。
ラージャンは固く拳を握った。
彼女と恋人同士になって、あんな事やこんな事や、とにかく人に言えない色々な事をしまくるのだ。
ついつい妄想が激しくなり、鼻の下を伸ばしていると、
「勝負の最中に考え事をするとは余裕だな?」
そんな冷めた声が耳に飛び込んできた。
ぐるんと視界が回る。
気がつけばラージャンは地面に叩きつけられ、仰向けに転がされていた。
いつの間に開始の合図があったのか?まるで気づいていなかった。
だが、格闘の試合は3本勝負。
先に2本先取した方が勝ちというルールだ。1本取られたが、まだ負けたわけではない。
気を取り直して立ち上がり、構える。
シンファも同じように構えたが、何故か呆れたような顔をしてこちらを見ている。
何を見ているんだろうと内心首を傾げ彼女の目線を追うと、さっきの妄想のせいだろう。
なんだか色々と元気になった自分の股間が目に入ってきた。
はっとして彼女に目を移す。何とも言えない沈黙が2人の間に横たわっていた。
ラージャンの視線を受け、彼女もなんだか気まずくなったのだろう。微妙に視線を逸らし、
「元気で結構な事だな」
軽くそんな嫌みをぶつけてきた。
「こっ、これは、その・・・・・・くそっ」
なんとか言い訳したかったのだが、言葉が出てこない。
仕方がないので、ごまかすように前に出た。
彼女から1本取り返して、うやむやにしてしまおうと。
だが、シンファはそれ程甘くは無かった。
「うう・・・・・・股間を大きくしたまま突進してこられるのは、なんだか嫌な感じだな」
心底嫌そうにそう言いながら、ひらりとラージャンの突進を交わす。
すれ違いざまに彼の襟首をつかみ、バランスを崩した彼の足下をすくうように足払いをかけた。
なす術なく後ろに倒れるラージャン。
すぐさま体勢を整えようとはしたが、その前にシンファの拳が風を切る音と共に顔面に迫った。
避けられようはずのない攻撃に恐怖が膨れ上がる。
思わず目を閉じる。
が、衝撃はいつまでたってもやってこなかった。
おそるおそる目をあけると、寸止めされた拳が鼻先にあって、ゴクリと唾を飲む。
「負けを、認めるか?」
「は、はひ。ま、参りました」
素直に、負けを認めた。そうする他無かった。
こうして、競技会の幕は下りた。
4種の競技とも、シンファが圧勝するという結果で。
当然の事ながら、シンファが誰かを恋人に選ぶことはなく、大々的に開催されシンファをうんざりさせたお見合い会は失敗に終わったのだった。
波乱の部族会が無事に終わり、後は帰るだけとなったシンファは、来た当初とは打って変わってご機嫌だった。
「シンファ、ご機嫌だな?」
「ああ。競技会の勝者の景品を色々もらったし、今年の部族会も、最初はどうなることかと思ったが、結果的にはそれ程悪くなかったな」
ザズのそんな問いかけにも笑顔で答え、まとめた荷物を足下に置き、大きく伸びをする。
借りていたパロの掃除ももう終わったし、後は本当に帰るだけ。
帰ったら今回手に入れた景品を雷砂に見せて土産話をしてやろうと考え、口元をほころばせた瞬間、
「シンファ殿」
名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのはジンガ族の若長。確か名前はラージャンだった。
今回の競技会で唯一シンファに食いついてきた相手なので流石に名前も覚えていた。
「ラージャン殿」
「今回はあなたにかなわなかったが、次に会うときはきっと、あなたに勝ってみせます」
きりっとした顔で、そんな青臭い宣戦布告。
笑い飛ばさず、シンファは真摯にそれを受け止めた。
「ああ、いつでもお受けしよう」
「では、あなたの雷砂にラージャンがよろしく言っていたとお伝えください」
「わ、私の雷砂・・・・・・こほん。わ、分かった。ラージャン殿の言葉、私の雷砂にきちんと伝えよう。では、道中お気をつけて」
「シンファ殿も。では」
さわやかな笑顔をシンファに向け、それから颯爽と去っていく青年。
シンファはぼーっとその背中を見送る。
だが、決して彼に見ほれているわけではない。
さっきのラージャンの言葉を反芻しているのだ。「あなたの雷砂」というその言葉を。
それに気づいているザズは重々しいため息を漏らす。
「ラージャン殿と、ずいぶん仲良くなったな?」
「ん?ああ。競技会では彼と色々話したからな。彼は特に雷砂の話がお気に入りでな」
上機嫌なシンファに、ただお前が雷砂の話をしたかっただけだろうと、心の中でつっこみを入れるザズ。
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最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
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しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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