龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~

水魔の村編 第二十一話

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 「初代の巫女であるユンが村へ戻り、水魔様の言葉を伝えた翌日、ユンの言葉通りに雨が降りました。更にその翌日、ユンは水魔様の言いつけ通り、泉へと向かいました。その際、ユンの言葉を疑った時の村長が同行したそうです」

 「疑り深い男だったのよ。今の村長と同じ、嫌な奴だったのね」

 「水魔様は、ユンが同行した村長に今後も守りを与える代わりに、条件を提示しました」

 「条件?」

 「ええ。1つは彼が定めた巫女を、月に1度は泉に訪問させること。その理由として、彼はもっともらしく、力を得るために精気を貰うのだと告げたようです」

 「精気?そんなの本当に吸うのか?」


 雷砂の質問に、アスランは苦笑しながら首を横に振る。


 「いいえ。水魔は人と同じく普通の食事から栄養を摂取できます。精気云々は、彼の口実だったんです。巫女を、確実に自分の元へ呼ぶための。彼は、自分を嫌悪しない巫女の心根を、とても気に入っていたんだと思います」


 優しい眼差しで、アスランは言葉を紡いでいく。
 とても近しい人を語るように。


 「もう1つの条件として、彼は巫女以外の人間が泉周辺に立ち入ることを禁じました。最後に巫女を決める方法は指名制とし、現巫女と水魔様の両者の同意をもって決定する事を当時の村長に認めさせ、村とその守り神としての水魔様の共存が始まりました」

 「なるほどな。水魔と村の関係はよく分かった。だが、どうして今の村長は水魔を敵に回したんだ?守り神としての水魔の存在は、村にとって悪いものじゃないと思うけど」


 雷砂の疑問に、アスランとイーリアがそっと目を見交わした。
 アスランが小さく頷き、イーリアが強い眼差しで雷砂を見つめる。


 「じゃあ、そこは私から説明する。水魔様と村の関係はずっと良好だったの。村の人達は彼の力の恩恵を受けて、それなりに豊かに暮らしていた。でも、先代の巫女の時代に、そのバランスが崩れたのよ」


 話しながら、イーリアはアスランの方を伺うようにチラチラと見ている。
 アスランは、少し辛そうな顔をしていた。
 2人の話にでている水魔とは恐らくアスランとは違う存在だろう。

 ふと、セアの言葉を思い出した。
 森にいるアスランの父は守り神でもあると話してくれた、その言葉を。

 水魔がアスランの父であるのなら。
 今、その水魔はどこにいるのだろう。この泉の守り神たる存在は。


 「先代の巫女は、すごく綺麗な人だった。彼女は水魔様に恋をして、そして水魔様も彼女を特別に想うようになったの。1部の村人からの反対もあったけど、おおむね祝福されて、先代の巫女と水魔様は夫婦になって、そして子供も産まれた。その子供が・・・・・・」


 そこで言葉を切って、イーリアはアスランに目配せをする。
 アスランも頷いて、雷砂の瞳を見つめた。


 「その子供が、僕です。僕は、先代巫女である母と、村の守り神である水魔との間に生まれました」

 「少し前まで、アスランは普通の子供だった。水魔様の血が流れているとは思えないくらい弱いただの人間で、お母さんと一緒に村に暮らしていたの」

 「なるほどな。で、なにがどうなって今の状況になった?水魔や先代の巫女、今の巫女はどうしている?」


 少なくともこの泉の周辺に、その気配は感じられない。
 本来なら、この泉から離れるはずのない、アスランの父たる水魔の存在さえも。


 「今の巫女は私」

 「イーリアが?」


 雷砂は目を見張り、目の前の少女を見た。
 だが、セアは言ってなかっただろうか。イーリアは次の巫女だ、と。


 「セアが、イーリアは次の巫女だって言ってたぞ?」


 その言葉に、イーリアもアスランも、そっと目を伏せた。辛そうに。
 先に顔を上げたのはイーリアだった。


 「セアは間違っていないけど、まだ知らないの。先代の巫女ーアスランのお母さんが、もうこの世にいない事を」

 「先代の巫女は、亡くなったのか・・・・・・」

 「ええ。でも、ただ自然に亡くなった訳じゃない」

 「どういう事だ?」

 「母は、はめられたんです。そして、父をおびき出すための餌にされた・・・・・・」

 「一体誰が、そんなことを?」


 答えは分かっている気がした。
 だが確証は無く、雷砂はアスランに問いを投げかける。
 その問いと、雷砂の真っ直ぐ眼差しを受け、アスランの瞳が悲しげに揺れた。
 そしてゆっくりと、重い口を開く。


 「村長に。母は村長に捕らえられ、父はそれを救うためにここを飛び出し、そしてー」

 「2人とも、殺されたのよ。村長に」


 アスランは悲しそうに、イーリアは憎々しげに。
 雷砂が半ば予想していた犯人像を裏切ることなく、2人は犯人は村長である事を雷砂にはっきりと告げたのだった。

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