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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第三十一話
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開け放たれた扉から小屋の中へ飛び込むと、薄暗い室内に天井から吊られた女の姿が見えた。
そして、その魅惑的な女体に絡みつく醜悪な男の後ろ姿が。
ぎりりと歯を噛みしめて、雷砂は背中の傷の痛みも忘れて男の襟首をつかみ、後ろへ放り投げた。
「セイラ、今下ろしてやるからな!」
剣を一閃してセイラを吊していたロープを切ると、雷砂は力なく崩れ落ちてきたセイラを抱き留めた。
温かな身体をぎゅっと抱きしめ、
「遅くなってゴメン」
小さく謝ると、雷砂はセイラを抱え上げて小屋を出る。
倒れたままの村長は取りあえず放置して、セイラを安全な場所へ移動させることを優先させたのだ。
小屋から駆けだし、斜面を駆け下りる。そこにはもう、赤い目の青年の姿は無かった。
逃げられたかーと口惜しく思いながらも、雷砂は異形の残骸が残る山肌を慎重に降りていく。
すぐにアスランやイーリアの姿が見えてきたので駆け寄ると、イーリアもこちらに駆け寄ってきた。
「な、何してたのよ!?急に姿が見えなくなるから心配したじゃない」
そう訴えられて、雷砂は小さく首を傾げる。
雷砂が青年と対峙していた場所は、ここからも十分に見える範囲だった筈だ。
「姿が、見えなかった?」
「そうよ。急に見えなくなって」
急に見えなくなったーその単語にはっとする。
おそらくあの青年は、結界の様なものを張って一時的に雷砂を隔離していたのだろう。
そのまま雷砂をなぶり殺すことも出来ただろうに、そうしなかったのはなぜだろうか。
しばし考えるが答えが出ず、雷砂はその疑問を保留して、
「そうか。ごめんな。心配をかけたな」
素直に謝った。
どんな理由があったにしろ、イーリアが心配をしてくれたのは確かだったから。
「べ、別にいいけど。それより、その人がさらわれた人?助けてきたの?」
のぞき込んできたイーリアに頷きを返し、
「ああ。彼女を寝かせたいんだけど、下に敷く布とか無いかな?」
問いかけながら3人の顔を見回すと、ジルゼが黙って上着を脱ぎ、地面へ敷いてくれた。
「ジルゼ、ありがとう。助かるよ」
「いえ」
屈託なく微笑み礼を述べる雷砂をまぶしそうに見つめて、ジルゼは小さく答えて顔を背けた。
雷砂の腕の中にいる女性を直視する事が出来なかったのだ。
操られていたとはいえ、彼女をさらわれたのは、自分の手引きのせいだったのだから。
雷砂は優しくセイラを横たえ、その頬をそっと撫でた。
「あの、これを」
アスランが、赤い顔で自分の上着を差しだしてくる。
「すまないな、アスラン」
雷砂は微笑みその上着を受け取って、服を切り裂かれ露わになった彼女の胸を覆い隠した。
乱暴に扱われたのだろう。彼女の上半身は所々に内出血があり、白く形のいい胸は血で汚れていた。
雷砂は唇を噛みしめ、間に合わなかった自分を責めた。
見たところ、服を乱されているのは上半身だけだから、ギリギリ間にあったとも言えるのかもしれない。
しかし、それならいいと言うわけにもいかなかった。
血の気の失せたセイラの顔を見つめ、彼女の白い手を取って頬に押し当てる。
「ごめん、セイラ」
「・・・・・・なんで、謝るの?」
不意に聞こえたセイラの声に、はっとして彼女の顔を見る。
いつの間に目を覚ましたのか、彼女は微笑み雷砂を見上げていた。
「助けに来てくれるって信じてたわ。ありがとう、雷砂」
言いながら上体を起こして抱きしめてほしいとせがむ彼女をぎゅっと抱きしめる。
彼女の手が雷砂の背中に回り、ある一点で止まる。
「雷砂?何でこんなところに固いものを生やしてるの?」
当然の疑問に、雷砂はあっと声を上げる。
はっきり言って忘れていたが、赤い目の男の置きみやげのナイフが刺さったままだった。
セイラを助け、連れ出すのに夢中ですっかり忘れていた。その、痛みさえも。
「えーと、な、なんでもない」
ごまかすように笑ってみるが、セイラは半眼で背中を見せるように促した。
雷砂は困った顔をしたものの、結局はセイラに逆らえずに彼女の方へ背を向けた。
その背中を見て、セイラは息をのむ。
雷砂の背中の右側に、それなりの大きさのナイフが根本まで刺さり、その背中は流れる血で赤く染められていた。
セイラは震える手を、ナイフの束へと伸ばす。
「大丈夫だよ。オレが結構頑丈なのは、セイラも知ってるだろ?こんな怪我、大したことないよ」
「バカ。大したこと無い訳ないじゃない。こんなに血を流して・・・・・・」
「う・・・・・・ごめん」
「抜いた方がいいわよね?まだ、終わりじゃないんでしょう?」
「うん、もう一働きしないとすまなそうだ。このままだと戦いにくいから抜いてもらってもいい?」
「分かった」
セイラは頷き、思い切りよくナイフを引き抜いた。
栓が外れた傷口から再び血が溢れはじめたのを見て、何か手頃な布は無いかを自分の周りを見回したとき、誰かの手が布を彼女の前へ差しだした。
驚き、見上げた先にいたのはまだ年若い少女。
「私の服の裾の切れ端だけど、良かったら使って」
イーリアは照れ隠しの様に少しぶっきらぼうにそう言って、手の中の布をセイラに押しつけた。
「ありがとう、イーリア」
雷砂が礼を言い、
「あなた、イーリアっていうの?ありがとう、助かるわ」
セイラも微笑み、彼女からその布を受け取った。
そして、その布を使って雷砂の傷口をきつく縛って止血する。
「痛くない?」
「ん、大丈夫。ありがとう、セイラ」
軽く腕を動かし、問題なく動くことを確かめながら、雷砂がセイラの方へ向き直る。
セイラの顔を見て、困ったように微笑み、
「嫌なこと、させてごめんな?セイラ」
泣きそうな顔のセイラの頬にそっと唇を寄せて抱きしめる。
雷砂の腕の中、セイラの身体がかすかに震えていた。
「嫌なんて思ってない。でも、あなたが傷つくのを見るのはやっぱり辛いわ、雷砂」
「うん、ゴメン」
「足手まといになってごめんなさい。その怪我、きっと私のせいよね?」
「違うよ。これは、オレが油断したせい。セイラのせいなんかじゃないよ」
「でも」
言い募ろうとするセイラの唇に、そっと指を押し当てる。それ以上言うなと言うように。
そして微笑んだ。優しく、愛おしそうに。
「すぐ、帰ってくるから。そしたら、傷を舐めっこしような」
軽い口調でそんな風に告げて、雷砂は立ち上がる。
その視線の先にある山小屋の入り口にふらふらと揺れる人影が見えた。
その人影に向かって、雷砂はゆっくりと歩き始める。
セイラはその背中に向かって思わず手を伸ばし、だがすぐに拳を握る。雷砂を引き留めようとする自分を、戒めるように。
握りしめた拳を胸元へ引き寄せ、セイラは祈るように雷砂の背中を見つめた。
そして、その魅惑的な女体に絡みつく醜悪な男の後ろ姿が。
ぎりりと歯を噛みしめて、雷砂は背中の傷の痛みも忘れて男の襟首をつかみ、後ろへ放り投げた。
「セイラ、今下ろしてやるからな!」
剣を一閃してセイラを吊していたロープを切ると、雷砂は力なく崩れ落ちてきたセイラを抱き留めた。
温かな身体をぎゅっと抱きしめ、
「遅くなってゴメン」
小さく謝ると、雷砂はセイラを抱え上げて小屋を出る。
倒れたままの村長は取りあえず放置して、セイラを安全な場所へ移動させることを優先させたのだ。
小屋から駆けだし、斜面を駆け下りる。そこにはもう、赤い目の青年の姿は無かった。
逃げられたかーと口惜しく思いながらも、雷砂は異形の残骸が残る山肌を慎重に降りていく。
すぐにアスランやイーリアの姿が見えてきたので駆け寄ると、イーリアもこちらに駆け寄ってきた。
「な、何してたのよ!?急に姿が見えなくなるから心配したじゃない」
そう訴えられて、雷砂は小さく首を傾げる。
雷砂が青年と対峙していた場所は、ここからも十分に見える範囲だった筈だ。
「姿が、見えなかった?」
「そうよ。急に見えなくなって」
急に見えなくなったーその単語にはっとする。
おそらくあの青年は、結界の様なものを張って一時的に雷砂を隔離していたのだろう。
そのまま雷砂をなぶり殺すことも出来ただろうに、そうしなかったのはなぜだろうか。
しばし考えるが答えが出ず、雷砂はその疑問を保留して、
「そうか。ごめんな。心配をかけたな」
素直に謝った。
どんな理由があったにしろ、イーリアが心配をしてくれたのは確かだったから。
「べ、別にいいけど。それより、その人がさらわれた人?助けてきたの?」
のぞき込んできたイーリアに頷きを返し、
「ああ。彼女を寝かせたいんだけど、下に敷く布とか無いかな?」
問いかけながら3人の顔を見回すと、ジルゼが黙って上着を脱ぎ、地面へ敷いてくれた。
「ジルゼ、ありがとう。助かるよ」
「いえ」
屈託なく微笑み礼を述べる雷砂をまぶしそうに見つめて、ジルゼは小さく答えて顔を背けた。
雷砂の腕の中にいる女性を直視する事が出来なかったのだ。
操られていたとはいえ、彼女をさらわれたのは、自分の手引きのせいだったのだから。
雷砂は優しくセイラを横たえ、その頬をそっと撫でた。
「あの、これを」
アスランが、赤い顔で自分の上着を差しだしてくる。
「すまないな、アスラン」
雷砂は微笑みその上着を受け取って、服を切り裂かれ露わになった彼女の胸を覆い隠した。
乱暴に扱われたのだろう。彼女の上半身は所々に内出血があり、白く形のいい胸は血で汚れていた。
雷砂は唇を噛みしめ、間に合わなかった自分を責めた。
見たところ、服を乱されているのは上半身だけだから、ギリギリ間にあったとも言えるのかもしれない。
しかし、それならいいと言うわけにもいかなかった。
血の気の失せたセイラの顔を見つめ、彼女の白い手を取って頬に押し当てる。
「ごめん、セイラ」
「・・・・・・なんで、謝るの?」
不意に聞こえたセイラの声に、はっとして彼女の顔を見る。
いつの間に目を覚ましたのか、彼女は微笑み雷砂を見上げていた。
「助けに来てくれるって信じてたわ。ありがとう、雷砂」
言いながら上体を起こして抱きしめてほしいとせがむ彼女をぎゅっと抱きしめる。
彼女の手が雷砂の背中に回り、ある一点で止まる。
「雷砂?何でこんなところに固いものを生やしてるの?」
当然の疑問に、雷砂はあっと声を上げる。
はっきり言って忘れていたが、赤い目の男の置きみやげのナイフが刺さったままだった。
セイラを助け、連れ出すのに夢中ですっかり忘れていた。その、痛みさえも。
「えーと、な、なんでもない」
ごまかすように笑ってみるが、セイラは半眼で背中を見せるように促した。
雷砂は困った顔をしたものの、結局はセイラに逆らえずに彼女の方へ背を向けた。
その背中を見て、セイラは息をのむ。
雷砂の背中の右側に、それなりの大きさのナイフが根本まで刺さり、その背中は流れる血で赤く染められていた。
セイラは震える手を、ナイフの束へと伸ばす。
「大丈夫だよ。オレが結構頑丈なのは、セイラも知ってるだろ?こんな怪我、大したことないよ」
「バカ。大したこと無い訳ないじゃない。こんなに血を流して・・・・・・」
「う・・・・・・ごめん」
「抜いた方がいいわよね?まだ、終わりじゃないんでしょう?」
「うん、もう一働きしないとすまなそうだ。このままだと戦いにくいから抜いてもらってもいい?」
「分かった」
セイラは頷き、思い切りよくナイフを引き抜いた。
栓が外れた傷口から再び血が溢れはじめたのを見て、何か手頃な布は無いかを自分の周りを見回したとき、誰かの手が布を彼女の前へ差しだした。
驚き、見上げた先にいたのはまだ年若い少女。
「私の服の裾の切れ端だけど、良かったら使って」
イーリアは照れ隠しの様に少しぶっきらぼうにそう言って、手の中の布をセイラに押しつけた。
「ありがとう、イーリア」
雷砂が礼を言い、
「あなた、イーリアっていうの?ありがとう、助かるわ」
セイラも微笑み、彼女からその布を受け取った。
そして、その布を使って雷砂の傷口をきつく縛って止血する。
「痛くない?」
「ん、大丈夫。ありがとう、セイラ」
軽く腕を動かし、問題なく動くことを確かめながら、雷砂がセイラの方へ向き直る。
セイラの顔を見て、困ったように微笑み、
「嫌なこと、させてごめんな?セイラ」
泣きそうな顔のセイラの頬にそっと唇を寄せて抱きしめる。
雷砂の腕の中、セイラの身体がかすかに震えていた。
「嫌なんて思ってない。でも、あなたが傷つくのを見るのはやっぱり辛いわ、雷砂」
「うん、ゴメン」
「足手まといになってごめんなさい。その怪我、きっと私のせいよね?」
「違うよ。これは、オレが油断したせい。セイラのせいなんかじゃないよ」
「でも」
言い募ろうとするセイラの唇に、そっと指を押し当てる。それ以上言うなと言うように。
そして微笑んだ。優しく、愛おしそうに。
「すぐ、帰ってくるから。そしたら、傷を舐めっこしような」
軽い口調でそんな風に告げて、雷砂は立ち上がる。
その視線の先にある山小屋の入り口にふらふらと揺れる人影が見えた。
その人影に向かって、雷砂はゆっくりと歩き始める。
セイラはその背中に向かって思わず手を伸ばし、だがすぐに拳を握る。雷砂を引き留めようとする自分を、戒めるように。
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