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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
SS 忠実なる僕の想い 1
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その姿をとるその瞬間までは、純粋な忠誠心しかなかった。
それなのに、人の姿を模した瞬間から、世界は鮮やかに色づいた。それまでのモノクロの世界に戻るのをためらってしまうほどに。
変わらなかったのは、愛する主への忠誠心だけ。
驚いたように目を見張る主の体をむしばむ毒を吸いだし、主の血液ごと飲み下す。
その甘美な甘さに、半ば陶然としながら。
すべての毒を吸い出した後は、その傷口を舐めることで癒した。自分には、それが出来ることが分かっていたから。
癒し終わり、主の顔をぼんやりと見つめていると、その手が伸びてきて口のあたりを優しくこすった。
でも、思った通りの結果にならなかったのだろう。
主は少し困った顔をして、それからそっと顔を近づけてきた。
徐々に大きくなる主の顔。ロウが、大好きな綺麗な顔。
その唇が、そっとロウの唇に触れた。
その瞬間、人間のメスー少女形態をとったロウの胸が震えた。
主の唇はロウの唇を優しくついばみ、それから唇の周りを舐めた。丁寧に、愛情を込めて。
恐らく、自分の唇の周りが汚れていたのだろうと、ロウは主の行動を推測する。
だが、そんな推測は胸の動悸を鎮める役には立たず、ロウは静かに狼狽していた。
そして、淡々と作業する主の唇に何となく体がほてってしまい、
「ん・・・・・・マスター」
そんな甘ったるい声が自分の口からこぼれ落ちて、無表情に驚愕した。
やることを終えた唇が離れる瞬間、何とも寂しいような物足りないような気持ちになって、思わず主の唇を目で追ってしまった。
まだ表情をうまく作ることが出来ず、再びぼんやりと主の顔を見ていると、ありがとうの言葉と共に頭をそっと撫でられた。
その優しい感触が嬉しくて、なんだか胸がくすぐったい。少女形態になっても残っている耳と尻尾が自然と動いてしまう。
獣の形態をとっていた時と、忠誠心は変わらない。
だが、人の姿をとった瞬間から、そこにまだ理解しきれない鮮やかな色をした感情が加わった。
分かるのはただ、主が好きで好きで仕方がないということ。なんとも離れ難く、片時もそばを離れたくないと思ってしまう。
それは今までなかった感情だった。
まだ、やらなければならないことが残っているのだろう。
またなーそう言い置いて主が離れていく。
いつもであれば、再度主の声がかかるまで、自由に過ごしていた。
獣の形態で野山で過ごしたり、時には姿を無くして主の中で眠っている事もある。だが、今はとにかく主の姿が恋しかった。
いつもの様に無の状態にかえって主の体に戻る事など思いつきもしない。
ロウは親に捨てられた子供のような顔をして、もう影すら見えなくなってしまった主の後を追う。
空気中に残った、そのかぐわしい芳香を頼りにして。
しばらくして、ロウは再び主が自分を呼ぶ声を聞いた。
思ったより近くから聞こえたその声に歓喜し、勢いよく主に突進して抱きついた。
己の胸に主の頭をかき抱き、もう離れないぞとその腰に足を巻き付ける。
だが、すぐに主の血の匂いに気がついた。怪我をしているのだ。
「マスター、けが?」
いいながら主の顔を伺うと、なぜか少しひきつったような表情で頷き、
「あ、ああ。治してくれるか?」
そんな言葉。
「ロウ、なおす!」
勢いよく返事を返し、主の傷に舌をはわせた。
やはり主の血の味は美味しくて、夢中になって舐めていると、あっという間に傷口はふさがってしまい、なんだか物足りないような気持ちになる。
主に傷ついてほしくないと思うのに、その血をもっと舐めたいと思ってしまう。そんな矛盾した思いに、ロウは少しだけ複雑な気持ちになる。
だが、その気持ちについてよく考える前に、再び主が移動しようとしたので、ロウは慌ててその背中にしがみついた。
置いて行かれるのが嫌だったから。
主の苦笑する気配。
でもとがめることなく、主はそのまま歩いていった。しがみついたロウを、背中に張り付けたまま。
ゆっくり歩く主の体の振動を感じながら、ロウはただ幸せを感じていた。
それなのに、人の姿を模した瞬間から、世界は鮮やかに色づいた。それまでのモノクロの世界に戻るのをためらってしまうほどに。
変わらなかったのは、愛する主への忠誠心だけ。
驚いたように目を見張る主の体をむしばむ毒を吸いだし、主の血液ごと飲み下す。
その甘美な甘さに、半ば陶然としながら。
すべての毒を吸い出した後は、その傷口を舐めることで癒した。自分には、それが出来ることが分かっていたから。
癒し終わり、主の顔をぼんやりと見つめていると、その手が伸びてきて口のあたりを優しくこすった。
でも、思った通りの結果にならなかったのだろう。
主は少し困った顔をして、それからそっと顔を近づけてきた。
徐々に大きくなる主の顔。ロウが、大好きな綺麗な顔。
その唇が、そっとロウの唇に触れた。
その瞬間、人間のメスー少女形態をとったロウの胸が震えた。
主の唇はロウの唇を優しくついばみ、それから唇の周りを舐めた。丁寧に、愛情を込めて。
恐らく、自分の唇の周りが汚れていたのだろうと、ロウは主の行動を推測する。
だが、そんな推測は胸の動悸を鎮める役には立たず、ロウは静かに狼狽していた。
そして、淡々と作業する主の唇に何となく体がほてってしまい、
「ん・・・・・・マスター」
そんな甘ったるい声が自分の口からこぼれ落ちて、無表情に驚愕した。
やることを終えた唇が離れる瞬間、何とも寂しいような物足りないような気持ちになって、思わず主の唇を目で追ってしまった。
まだ表情をうまく作ることが出来ず、再びぼんやりと主の顔を見ていると、ありがとうの言葉と共に頭をそっと撫でられた。
その優しい感触が嬉しくて、なんだか胸がくすぐったい。少女形態になっても残っている耳と尻尾が自然と動いてしまう。
獣の形態をとっていた時と、忠誠心は変わらない。
だが、人の姿をとった瞬間から、そこにまだ理解しきれない鮮やかな色をした感情が加わった。
分かるのはただ、主が好きで好きで仕方がないということ。なんとも離れ難く、片時もそばを離れたくないと思ってしまう。
それは今までなかった感情だった。
まだ、やらなければならないことが残っているのだろう。
またなーそう言い置いて主が離れていく。
いつもであれば、再度主の声がかかるまで、自由に過ごしていた。
獣の形態で野山で過ごしたり、時には姿を無くして主の中で眠っている事もある。だが、今はとにかく主の姿が恋しかった。
いつもの様に無の状態にかえって主の体に戻る事など思いつきもしない。
ロウは親に捨てられた子供のような顔をして、もう影すら見えなくなってしまった主の後を追う。
空気中に残った、そのかぐわしい芳香を頼りにして。
しばらくして、ロウは再び主が自分を呼ぶ声を聞いた。
思ったより近くから聞こえたその声に歓喜し、勢いよく主に突進して抱きついた。
己の胸に主の頭をかき抱き、もう離れないぞとその腰に足を巻き付ける。
だが、すぐに主の血の匂いに気がついた。怪我をしているのだ。
「マスター、けが?」
いいながら主の顔を伺うと、なぜか少しひきつったような表情で頷き、
「あ、ああ。治してくれるか?」
そんな言葉。
「ロウ、なおす!」
勢いよく返事を返し、主の傷に舌をはわせた。
やはり主の血の味は美味しくて、夢中になって舐めていると、あっという間に傷口はふさがってしまい、なんだか物足りないような気持ちになる。
主に傷ついてほしくないと思うのに、その血をもっと舐めたいと思ってしまう。そんな矛盾した思いに、ロウは少しだけ複雑な気持ちになる。
だが、その気持ちについてよく考える前に、再び主が移動しようとしたので、ロウは慌ててその背中にしがみついた。
置いて行かれるのが嫌だったから。
主の苦笑する気配。
でもとがめることなく、主はそのまま歩いていった。しがみついたロウを、背中に張り付けたまま。
ゆっくり歩く主の体の振動を感じながら、ロウはただ幸せを感じていた。
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