龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~

小さな娼婦編 第五話

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 翌朝、雷砂は非常に窮屈な姿勢で目を覚ました。
 割り当てられた宿の部屋のベッドは広く、まだ十分に余裕はある。なのになんでこんなに窮屈なのか。
 その理由は、雷砂を抱き枕に眠るセイラにあった。

 雷砂の左側にいる彼女は、雷砂の頭を胸の谷間に挟むように抱きしめてすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
 首はしっかり固定され、左足もセイラの足がからみついていて動きそうに無かった。

 なら、右側は自由に動くのではと思うがそうはいかない。
 右側には、雷砂の腕を枕に眠るリインがいる。
 雷砂の方に顔を向けて眠るリインの顔は幸せそうで、その手はしっかりと雷砂の服の胸元を掴んでいた。

 と、いうわけで右腕も動かせそうにない。
 では、右足はどうか。
 右足くらいは動かせそうなものだと思うが、足下にはなぜかロウが眠っていた。
 狼の姿ではなく、もちろん少女の姿で。
 彼女は両手両足で雷砂の右足を抱え込み、眠っていた。とっても心地良さそうに。

 そんなわけで、せっかく朝早く目覚めたものの、雷砂が自由にできるのは目と口くらいで。
 だが、自分が動くことで3人を起こしてしまうのも忍びなく、雷砂は結局再び目を閉じるのだった。





 セイラ達と朝食を食べ、宿で彼女達と別れた雷砂は町の中にただ一軒だけ存在する薬屋へ足を運んでいた。
 ぎっと音を立てて古い扉が開くと、中から香るのは乾燥した薬草の様々な香り。
 それを懐かしく感じながら、雷砂はゆっくりと店の中へ足を踏み入れた。


 「やあ、いらっしゃい」


 初老の店主が、穏やかに声をかけてくる。
 雷砂は一通り店の中を見回してから、そこに自分の求める薬草が無いことを確認して、その在庫の有無を店主に問うた。

 なんといっても、今日雷砂が求めにきたのは比較的高価な部類の薬草だ。
 店頭に出さずに在庫だけ保管している場合も無いわけではない。

 だが、今回は運悪く在庫を切らしているらしい。
 というか、ここ最近は新たな商品を入荷すること字体ほとんどないのだという。
 不思議に思って事情を問うと、2、3ヶ月ほど前から街道筋に強い魔物が現れ、商人が町を訪れなくなったのだという。

 その話を聞いて、雷砂は首を傾げた。
 雷砂達はその街道を通って昨日この町に着いたのだ。
 その際、魔物の陰は無く、なんの問題もなく通行することが出来た。
 そのことを告げると、店主は大げさに目を見張って、


 「そうかい。それは運が良かったねぇ。もしかしたら丁度騎士団が魔物を退けたか追い払った所だったのかもしれないねぇ」


 しみじみとそう言った。
 騎士団、と聞いて雷砂は少し首を傾げた。
 確かに、アルレービオは大きな町だが、騎士団が駐屯する程とも思えない。
 素直にその疑問をぶつけてみれば、店主は大きく頷きながら、


 「ああ、その疑問はもっともだねぇ。騎士団はこの町のものではなくて、町の商人ギルドと町議会の総意で領主様にお願いして派遣して貰ったんだよ。町の自警団程度じゃどうにもならないし、冒険者ギルドの方でも手を焼いていたからねぇ」


 丁寧にそう教えてくれた。
 雷砂が頷き礼を言うと、年老いた店主は微笑ましそうに目尻を下げた。

 必要なものがこの薬屋には無いことが分かったし、そのまま店を出ていこうとしたが、ふと思いついてこれから採取しようと思っている薬草の名前をあげて、どこに行けばあるのか聞いてみた。

 普通なら企業秘密として教えてくれないのだろうが、雷砂の外見が幼い事が効いたのだろう。
 店主は対して警戒せずに教えてくれた。
 その薬草なら、鉱山に向かう途中の森でほとんど手にはいるよ、と。
 雷砂は素直に礼を言い、今度こそまっすぐに店を出た。




 森で薬草を採取するのは後回しにして、まずはイルサーダから借りた鳥に手紙を持たせて、獣人族の村へ飛ばすことにした。
 シンファ宛に書かれた手紙には、あるお願い事を書き記しておいた。

 雷砂が旅立つとき、あの人は村へ戻っていなかったがそろそろ時期的に戻っている頃だろう。
 その事を期待しての手紙だった。
 その人が居てくれさえすれば、手紙に記した雷砂の願い事など、あっという間にクリアしてくれるはずだ。
 もし居ない場合でも、まあ、何とかなるだろう。少々、時間は掛かりはするだろうが。

 鳥の足に手紙を括り付け、大空へ解き放つ。
 美しい青い羽根を持つ小鳥は、雷砂の頭上を旋回した後ゆっくりと遠ざかり、空の青に溶けるようにあっという間に見えなくなった。

 雷砂はそれを見送り、それから再び行動を開始した。
 手紙のお願い事が効力を発揮するまでそれなりの時間がかかる。
 ならばそれまでに出来ることを出来るだけやっておこうと、雷砂は薬屋の店主から教えられた森へと、足早に向かうのだった。

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