龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~

小さな娼婦編 第六話

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 日の傾きかけた町の中を、アレサは軽い足取りで歩いていた。
 今日も仕事は決まらなかったが、腕の中には買い足してきた食料がある。
 昨夜、雷砂が食べ物を買うようにと置いていってくれたお金で買い物をしてきたのだ。

 5つも年下の子のくれたお金を使う事に躊躇しなかったと言えば嘘になる。
 だが、お金を手にして複雑な顔をするアレサに雷砂は言ったのだ。

 あげるわけじゃないから、ちゃんとご飯を食べて仕事を見つけるように、と。
 そうすれば、あっという間にお金なんて返せるよ、そう言って雷砂は惚れ惚れするような笑顔で笑った。

 だからアレサは思うのだ。
 早く仕事を見つけて、出来るだけ早く雷砂にこの恩を返そう、と。

 お金のことだけではない。
 雷砂は今頃、アレサの母親の為の薬草を手に入れるために動いてくれているはずだ。
 雷砂が作ってくれた薬を飲めば、きっとお母さんの病気は良くなると、アレサは信じていた。
 雷砂が嘘を言うわけがないと、ただ信じた。

 昨日会ったばかりの相手をどうしてここまで信用できるのか、自分でもよく分からない。
 だが、心がそう告げるのだ。雷砂は、信じていい相手なのだと。

 どうやって恩返しをしようかと考えると、今から心が弾む。
 貰った分だけ返すのでは気が済まない。
 何か雷砂が好きなものを、好きなことを贈りたい。

 考えながら、アレサは口元を緩めた。
 雷砂の事を考えるのは楽しくて、なんだか心がほっこり温かになるのだった。

 そうこうするうちに、気がつけばもう家のすぐ近くまで来ていた。
 少し早足に家に向かうと、なぜだか家のドアが開け放たれている。
 それを見た瞬間、なぜか背筋が冷たくなった気がした。嫌な、予感がしたのだ。

 更に足を早めて家へ駆け込む。
 母親の事が、心配だった。

 家の中に入ると目に飛び込んできたのは、見知らぬ男達。
 妙に柄の悪そうな、目つきの悪い男達だった。
 そして、彼らに取り囲まれるようにして小さくなっている母の姿が見えた。
 腕の中から食料を詰め込んだ袋が落ちて、決して小さくは無い音を立てる。
 その音にはっとしたように、母の目がアレサを見た。


 「ア、アレサ」

 「お母さん、この人達、誰?」


 2人の声に反応したように男達の視線がアレサに突き刺さる。
 その値踏みするような目線に、アレサは思わず身震いをした。


 「これはこれは、ずいぶんと可愛いお嬢ちゃんじゃねぇか」


 舌なめずりをするような声音に鳥肌が立つ。
 はっとしたようにその男の顔を見た母親が、


 「む、娘には関係無いことです。手を出さないでください。アレサ、ここは良いからどこか外へ行ってらっしゃい」


 そう言いながら、アレサを強い眼差しで見つめた。
 逃げなさいと、その目が語っているのが分かった。
 だが、足がすくんで言うことを聞かなかったし、それに母を見捨てて逃げるつもりは無かった。
 アレサは唇をかみしめ、じろじろと自分を見つめるリーダー格の男を睨むように見上げた。


 「奥さんよぉ。関係ねぇこたぁねぇだろう?なんたって親父さんがやらかしたことなんだぜ?」

 「お父さん?お父さんが、いったい何をしたって言うのよ?」

 「アレサ!良いから、早くいきなさい!!」


 動きだそうとしないアレサに向かって、母親が必死の形相で叫ぶ。
 その頬に、男の大きな手の平が飛んだ。


 「さっきからうるせぇんだよ、ババア!俺ぁあんたの娘と話してるんだ。少し黙ってろ」


 吹き飛んで床に倒れ込む母親の姿を見て、アレサの足の金縛りが解けた。
 男達の間を縫うように母親へ駆け寄り、その体を抱き起こす。


 「お母さん、大丈夫!?」

 そう声をかけるが返事はない。
 殴られた衝撃で意識が朦朧としているようだった。
 アレサは母を殴った男をきっと睨みあげる。


 「お母さんは病気なのよ!殴るなんてひどいじゃない!!」


 だが、男はそんなアレサの言葉などまるで気にした様子もなく、ひょいと手を伸ばしアレサの両頬に指を食い込ませて掴んだ。


 「気が強ええ娘だ。でも、まあ顔はなかなかだな」


 言いながらアレサの顔を観察し、それからもう片方の手で彼女のまだ発展途上の胸をまさぐった。


 「体は貧弱だが、まだ若ぇからな。もうちょいすれば、ちったぁ育つだろ」

 「ちょ、何を!やめてっ!!」


 暴れるアレサに顔を寄せ、その頬をべろんと長い舌で舐めあげる。
 そうして間近でアレサの瞳をのぞき込み、


 「味も悪かねぇ。あっちの具合はどうだろうなぁ?なぁ、今までに男をくわえ込んだことはあるのか?」


 ニヤニヤ笑いながら問いを重ねる。
 その言葉の意味を理解した瞬間、アレサの頬に血が上った。
 振り上げた手の平が男の頬にぶつかって、鈍い音を立てた。

 男はすぅっと目を細め、アレサの胸をぎゅっと掴んだ。
 まだ芯の残る若い果実を力任せに握り潰され、少女は痛みに顔をしかめる。
 だが涙目になりながらも、その目はしっかりと男を睨みつけていた。


 「元気で結構。その反応から見るに、初物みてぇだな。味見ができねぇのは残念だが、まあ、初物の方が高く売れるしな」

 「高く、売れる?」

 「そうだ。よーく聞けよ、お嬢ちゃん。あんたの父ちゃんは俺達から借金しててな。それをあんたの母ちゃんがいつまで立っても返してくれねぇから、今日はわざわざ俺達が受け取りに来てやったってわけなのよ」

 「しゃ、借金・・・・・・」

 「うそよ!あの人が借金なんて、そんな!!」


 呆然とアレサが呟き、母親は否定の声をあげる。
 男の手が、再び母親の頬を張った。


 「だから、いちいちうるせぇんだよ。さっきも丁寧に説明してやったろ?借用書も、確認させてやったじゃねぇか」

 「あんな一瞬じゃ分かりません。もう一度、もう一度見せてください!!」

 「何度見たって同じなんだよ。あんまりしつけぇと、殺しちまうぞ?売り物にもならねぇ年増は必要ねぇんだよ」


 吐き捨てるようにそう言った後、男はギラリとした目でアレサを見た。


 「なぁ、お嬢ちゃん。親父の借金は、娘が責任をとるべきじゃねぇのか?」

 「でも、うちにお金なんて。借金って、どのくらいなんですか!?」


 アレサの質問を受けて、男がはっとバカにしたように笑う。


 「お嬢ちゃんが想像出来ねぇくらいの大金さ。それに、このうちに金がねぇことなんて、承知の上さ。今日は他のものを貰っていく」

 「他の、ものを?」

 「おう。思ってたよりも上玉だからな。売り飛ばせば借金の半分くらいにはなるかもな。後はまあ、せいぜい稼いで貰うさ」


 男は歯をむき出しにして笑い、アレサの足の間にぐっと手を差し入れる。
 そして女の子の大切な部分に指先をわずかに潜り込ませた。
 痛みにうめくアレサの顔を、心底楽しそうに見つめ、その耳に息を吹き込むようにして囁く。


 「ココを使ってな」


 呆然とするアレサを、男達が抱え上げ連れて行く。
 追いすがろうとする母親を、リーダー格の男は容赦なく蹴り飛ばし、倒れ伏したその体に唾を吐きかけ、悠々と家を出て行った。

 残されたのは、母親ただ1人。
 彼女はまともに動こうとしない体を呪い、アレサの名を呼んで号泣することしか出来なかった。

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