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第一部 幼年期

第五十三話 スキルの効かない同世代 

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 「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」


 何とも言えない授乳タイムが終了し、はっと我に返ったマチルダは困った顔で頬を染め、そう言いおいてお手洗いに向かってしまった。
 その後ろ姿を見送りながらシュリは思う。


 (パンツ、濡れちゃったんだな……)


 と。
 まあ、元女であるから、女性の体のメカニズムは知っているつもりだ。
 とはいえ、前世での自分が気持ちよくてパンツをビチョビチョにしてしまう場面に遭遇することは一度もなかったが。

 なま暖かい眼差しでマチルダを見送った後、シュリは自分と同じくベッドの上に取り残された乳兄弟に目を向ける。
 リア、という同じ年の女の子に。

 リアは上手にお座りをして、こちらを見ていた。
 ぽやぽやした黒髪に、大きな黒い瞳。
 年が年だから女の子として見るという感じにはならないが、可愛らしい顔立ちの子だった。

 後は若いお二人で……という訳ではないだろうが、せっかく2人でここにいるのだ。
 少しは交流しとくかと、シュリは気合いを入れて立ち上がる。
 安定感の悪い歩行技術と、安定感の悪い足場。
 組み合わせは最悪だが、持ち前のバランス感覚で何とかリアの元へたどり着く。
 ぺたんとベッドにお尻を落とし、至近距離からリアの顔を見つめた。


 「あう!」


 右手を挙げて、にぱっと笑ってみるが、リアの反応は見事なまでに無い。
 彼女は無表情にシュリを見つめている。

 普通だったら、大体この辺りで相手がぽっと頬を赤らめたり、異常な好意を示したりするのだが、今回に限ってはそれがない。
 恐らく、リアが同じ年であり年上でないからなのだろう。


 (年上キラーって名前なだけあって、効果はやっぱり年上限定か。あんまり好かれすぎるのも疲れるから、それくらいでいいんだけどね)


 年上から異常な愛情を寄せられることだけでも疲れるのに、同世代や年下からも必要以上に好かれたら疲れて仕方がないだろう。
 そんなことを思うシュリはすっかり失念していた。自分の持つ、もう一つの好感度補正能力の事を。

 称号[両性をそなえし者]はこの称号を持つ者の特権として、男女問わず好意の上昇を早める効果があるのだ。
 まあ、ユニークスキルである[年上キラー]ほどの即効性はないのだが。
 ともあれ、リアの冷たい反応は常にちやほやされ続けているシュリにとっては新鮮なものだった。

 幼なじみってのもいいものだなぁ~などとのんきに思いながら、にじにじと近寄ると、何を思ったのかリアの手が伸びてきて、おもむろにシュリのキラキラした銀髪を鷲掴みにした。
 恐らく、光っていて目を引いたのだろう。
 リアは無表情なりに目を輝かせ、むぎゅーっと手の中の髪を力任せに引っ張った。


 「ふぎっ!?」


 これにはさすがのシュリも悲鳴を上げた。
 なんといっても髪を根本から根こそぎにする勢いなのだ。もうすでに十数本単位ではいってしまったかもしれない。


 (いたっ!痛いって!!やめ!!!は、ハゲちゃうからぁっ)


 心の中の悲鳴はもちろんリアには届かない。
 リアは非常に楽しそうにシュリの髪を引っ張っている。
 引っ張る度に悲鳴が漏れるのも趣深いのだろう。
 なんとなく恍惚とした表情をしているように感じるのは気のせいだろうか。いや、恐らく気のせいでは無いはずだ。


 (なんなの!?このあふれんばかりのSっ気は!!)


 頭皮から伝わる痛みに半泣きになりながら、シュリは決死の覚悟で頭を引く。少々の犠牲は覚悟の上で。
 その甲斐あって、数本の犠牲はあったものの何とかリアの手から髪の毛を取り返し、両手で頭を押さえる。
 もう、髪を捕まれてなるものかとばかりに。

 そんなシュリをみたリアがにたぁっと笑った。
 見た目が可愛いのに、とても残念な笑顔だった。
 普通に笑えば可愛いのにもったいない、そんなことを思った瞬間、リアの両手がシュリのふくふくほっぺに伸びた。


 「ふぎぃぃ!!」


 シュリの口からさっきより大きな悲鳴が上がる。
 シュリの可愛らしいほっぺたは、リアの小さな手で左右に引かれ、面白いくらいに伸びていた。

 その感触が面白かったのだろう。
 リアはにやにや笑いながら、シュリのほっぺたを伸ばして遊ぶ。
 遊ばれているシュリはもちろんたまったものではない。
 両手を使って何とかリアの手を引きはがそうと試みるものの、リアがシュリの頬を掴んで離さないせいで、引けば引くほど痛みが倍増する。


 「はうっ、はううっっ」


 助けを呼びたいのだが、口を左右に引かれているせいで、上手く言葉にならず、気の抜けた声しか漏らせない。
 大きな目から涙がこぼれて、べしょべしょと顔を濡らす。
 ひくっひくっと喉は震え、気の抜けた鳴き声が閉じられない口からこぼれた。

 特に泣こうとも泣きたいとも思わなかったが、恐らく痛みに関する防衛反応でもあるのだろう。
 気がつけば、シュリはかなり盛大に泣いていた。

 しかし、それでも全く頬を引っ張る手を緩めないリアは、なんというか大物になるかも知れない。
 悪い方向に行かないように、きちんと方向付けしてあげる必要はありそうだけどーそんな事を頭の中で冷静に考えつつ、体は順調に泣き続ける。
 その声を聞きつけたのか、トイレの方から慌てた様な足音が聞こえてきた。


 「こ、こらっ、リア!!なんて事を!!!」


 マチルダの声に、リアの手がぱっと離れた。
 シュリはほっとして両手でほっぺたを押さえる。
 熱を持ってジンジンしている患部をさすりながらほっと一息。
 だが、すぐさま体を持ち上げられてしまった。


 「シュリ君、だいじょ……やだ、ほっぺが真っ赤だわ。可哀想に」


 マチルダは痛々しそうに、シュリのほっぺたを見つめ、


 「ひ、冷やした方がいいかしら?でもあんまり冷たいとシュリ君が可哀想だし」


 柔らかな胸にシュリを抱きしめたまま、はっきり言ってテンパっている。
 シュリは黙って彼女の胸の谷間に頬を押しつけた。
 やわらくて滑らかな胸元の皮膚は、熱を持った頬よりヒンヤリしていて気持ちよかった。
 それを見たマチルダがはっとしたように、


 「シュリ君のほっぺより、おっぱいの方が冷たいのかしら。と、取りあえずおっぱいで冷やしてみましょうか」


 そんなことを言って、授乳するときのように、いやそれよりも遙かに大胆に両方の胸をさらけ出した。
 そして、大ボリュームの胸の谷間にシュリの顔をそっと挟み込んで、


 「ど、どうかしら?」


 と不安そうに首を傾げる。
 胸の谷間は少し蒸れて温かだったが、シュリの頬よりは冷たかった。
 それに柔らかな肉に挟まれている状態は気持ちよかったので、


 「ん!」


 と肯定の意味を込めて答えを返しておく。


 「そ、そう。良かったわ。少しの間こうしてましょうね?」


 ほっとしたようにそう答えるマチルダの声に、再び肯定の答えを返し、シュリは心地言い柔らかさに身を任せる。


 (あ~、大きいおっぱいってやっぱり良いなぁ)


 そんなことを思いながら。
 思い返せば、前世の自分はどちらかと言えば貧乳で、親友の桜を羨ましく思ったことも多々あった。
 桜は見事な美乳で、時々さわらせてもらうこともあったが、彼女の大きな胸はとても気持ちがいい触り心地だった。


 (なんか、色々思い出してきた。なつかしいなぁ)


 そう言えば、一度桜に無理なお願いをして困らせた事があったことも思い出す。
 あれは丁度、後輩に借りたドラクエに、遅ればせながらハマっていた時のことだ。
 ゲームの中に出てくる「ぱふぱふ」という行為の余りに謎めいた感じが気になって、桜に頼んだのだ。
 「ぱふぱふ」してほしい、と。
 あの時は、真っ赤になった桜から烈火のごとく怒られた。今となってはいい思い出だが。

 そこまで考えてはっとする。
 今の状況ーもしやこれこそが「ぱふぱふ」という奴ではなかろうか、と。
 そうに違いないと確信しつつ、シュリは恍惚と目を閉じる。
 そうかぁ、これがぱふぱふなのかぁ、と感慨深く思いながら。


 (ぱふぱふって、やっぱりいいものだったんだなぁ)


 頭の中でそんな風に呟きつつ、マチルダの胸の柔らかさにただ浸る。
 それは、シュリがそれまで以上におっぱい好きになった瞬間でもあった。
 
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