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第三→四部 旅路、そして新たな生活
第280話 王都への旅路はお約束がいっぱい③
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お忍び旅のようだったアズランとファラン一行は、結局自分たちの身分を明かすことはなかった。
本人達含め、護衛達から十分すぎるほどの感謝を受け取り彼らと別れたシュリは、再び馬車に乗り込み旅を再会した。
が、その旅はすぐに再び中断することになる。
その時、馬車の中でシュリは再びヴィオラの膝の上にいた。
ヴィオラはご満悦だが、ジュディスとシャイナとカレンのほっぺたはパンパンだ。
しかも時間と共にその膨らみは増しているように見える。
それもこれも、ヴィオラがシュリを堂々と独り占めしているせいだった。
「おばー様?」
「なぁに~? シュリ」
「僕、そろそろジュディスのお膝に……」
「だぁめ。シュリは私の膝にいるの」
「いやね? でも、馬車では順番に皆のお膝に乗せて貰うって約束……」
「ん~? でも、私はそんな約束してないし。ねぇ?」
「またわがまま言って。ほら、見てみてよ? このまま放置したらジュディス達のほっぺたが破裂しちゃうよ?」
「大丈夫よぉ、シュリ。人のほっぺたはそう簡単に破裂したりしないから」
どうにか事態を打開しようとつとめたのだが、ヴィオラはからから笑うだけで聞く耳を持たない。
シュリは諦めたような吐息を漏らし、ヴィオラの胸に背を預けた。
ぽよんと柔らかな二つの固まりを背中に感じながら、シュリは思う。
(ここ最近会ってなかったからかなぁ。おばー様のワガママがいつもよりしつこい……)
いつもはもう少し聞き分けがいいのになぁ、と思いつつ、シュリは目の前に三人並んで座っている愛の奴隷を片手で拝んだ。
三人はそんなシュリを見て、それから互いに目を見合わせて、仕方ないと諦めたように肩をすくめると頬にため込んだ空気を吐き出した。
しばらくはヴィオラの思うようにさせるしかないと、各自己を納得させたようだ。
これでどうにかしばらく内紛を抑えられそうだ、とほっとした瞬間、がたんと揺れて馬車が止まった。
ジュディスの目線がヴィオラに流れ、ヴィオラが小さく首を振る。
どうやら敵の襲撃が原因の停車ではないらしい。
音もなくカレンが立ち上がり、馬車の外へと向かう。
それほど時を消費せずに戻ってきたカレンの腕の中にもふっとした何かを見つけたシュリは、顔を輝かせヴィオラの膝から飛び降りた。
駆け寄りカレンの腕の中をのぞき込めば、そこにはまだ若い狼が抱き抱えられていた。
「どうやらこの狼が急に馬車の前に飛び出してきたようで……」
「ひいたの? もしそうなら手当をしてあげないと」
「いえ。馬車の急停止がぎりぎり間に合ったようですよ? ただ、驚いたせいか気を失ってるみたいで」
困ったように眉尻を下げるカレンの腕から、シュリはそっとその狼を引き受ける。
年若い狼とはいえシュリの腕には余る大きさだったが、幸い力だけは人一倍だ。
危なげなくその狼を運搬したシュリは、狼の体を座席の上に横たえると、その頭を己の膝に乗せてやった。
いわゆる膝枕という奴である。
それを見た女性陣四人は、何ともうらやましそうに妬ましそうに、気を失ったままの狼を見つめた。
シュリはそんな彼女達の視線に全く気づかないまま、狼の身体に本当に怪我はないか、あちこち調べるのに忙しい。
「ん~、特に怪我はなさそう、かなぁ。他の獣に咬まれたようなあとも無さそうだし。あ、この子、男の子だね」
あっちこっちひっくり返して確かめて、最後に足の間を見て性別を確認し、とりあえずは満足したらしい。
まだ成獣ほどには堅くなっていない毛皮を撫でながら、
「怪我はないけど、中々目を覚まさないね。よっぽど驚いたんだなぁ。かわいそ……」
かわいそうに、と言おうとしたが、その言葉は途中で遮られた。
ぐぎゅるるるるるぅぅぅ……
という獣の腹から聞こえた盛大な空腹のシグナルによって。
「……えっと、そ、そろそろご飯にしようか? ジュディス、お肉、あったよね? いっぱい」
「はい、シュリ様。シュリ様の健全な成長を妨げないよう、十分すぎるほどの肉をきちんと積み込んであります。ですから、客人の一人や二人の胃袋を満たすことなどたやすい事です」
「そ、そう。良かった。じゃあ、その十分すぎる量の肉をこの子の為に切り分けてあげてくれる? えーっと、この子の分は、生、がいいのかな??」
「いえ、焼いたものでいいのでは? 狼の生態に詳しいわけではありませんが、焼いた肉を食べられないということは無いはずです」
「そうだね。わかった。じゃあ、準備、しよっか」
「シュリ様はこのままここで。シャイナ、カレン、食事の準備をしますよ」
ジュディスの言葉に了承の返事を返した二人は、ジュディスと共に馬車を出て行った。
シュリは膝に狼の頭を乗せたまま、その背中を見送る。
狼は目を覚まさない。
そのお腹がきゅるるっと再び可愛らしい音をたて、シュリはその口元に笑みを浮かべた。
狼の毛皮を手の平で感じながら、シュリは思う。
この子は一体どこから来たんだろうな、と。
◆◇◆
気を、失っていた。
母親とはぐれ、腹を空かせて。
空腹で気を失うなんて、初めての経験だった。
まだ一人で狩りができるほど強くもなく、今までの狩りの時はいつも母親が一緒だった。
母親だけでなく、護衛の者達も。
だが、気がつけば一人になっていた。
初めての旅で浮かれすぎていたのかもしれない。
夢中になって獲物を追いかけている内に、母や護衛達と離れすぎてしまった。
母は自分を捜しているだろうか。きっと探してる。
護衛達も一緒に、必死で。
戻らなければと思うが、空腹で身体が言うことをきかない。
走ろうとしても、足は空を切るばかり。
思い通りにならない身体に思わずうなり声をあげたら、誰かの手が頭を撫でてくれた。
優しい手の平の感触と鼻腔をくすぐる甘い香りに、思わずくふんくふんと鼻を鳴らす。
そうするとなんだか美味しそうに焼ける肉の匂いまでしてきて、きゅるるっと腹が鳴り、彼はゆっくりと目を開けた。
◆◇◆
夢の中で走っているのか、狼の四肢が空をかく。
もどかしそうなうなり声をあげる狼の頭をなだめるように撫でてやると甘えるような鳴き声をあげた。
可愛いなぁと頬をゆるめ、美味しそうに焼けた肉を目の前に置いてあげる。
すると、鼻がひくひく動き、その目が開くのが見えた。
青い賢そうな瞳の狼は、ゆっくり頭をもたげて注意深く周囲を見回す。
そしてそれから目の前の肉を見た。
彼の目は、それを食べていいのか伺うように周囲を見つめ、最後にシュリの目をじっと見つめる。
シュリが微笑んで頷くと、彼は最初はおずおずと肉に口をつけ、すぐにガツガツと肉を平らげてしまった。
シャイナに合図して空いたお皿に新しい肉を置いてやると、それも瞬く間に食べてしまう。
それを三度ほど繰り返してやっと満腹になったのか、狼は満足そうな吐息をもらし、再び気持ちよさそうに眠ってしまった。
シュリは再びその頭を優しく撫で、それからようやく自分の食事を開始した。
そんなシュリの様子を、うっとりと幸せそうに見つめる女が三人。
おじさんは少し離れたところで、そんな彼女達をちょっぴり呆れたように見つめつつ、食事をとっている。
シュリは苦笑して、そんな彼女達に食事を促した。
「おばー様もみんなも、僕が食べてるのを見てないで、ちゃんとご飯を食べて。食べたら今日はここで野営しよう。急ぐ旅じゃないし、この子もゆっくり休ませてあげたい」
「そうですね。では、食事が終わったら野営の準備をしましょう」
ジュディスが同意し、シャイナとカレンも頷く。
ヴィオラも、肉の塊にかぶりつきながら頷いた。
御者のおじさんはシュリの言葉を受けてもう野営の準備に動き始めている。
シュリはそんな彼らの姿を頼もしそうに見つめ、肉の最後の一切れを飲み込んだ。
そして、膝に狼の頭を乗せて木にもたれ掛かり、シュリは[レーダー]を起動する。
色々な光点が動きまわっていた。
だが、その中でも特に忙しなく動き回っている光点の集まりが気になった。
何かを探すようにあっちに行ったりこっちに行ったり。
そうしながら、彼らは少しずつこっちへ近づいてきているようだった。
とはいえ、今のままのスピードでは、ここへ着くまでだいぶ時間はかかってしまいそうだが。
(ん~、この子の群れかなぁ? いつまでもここにいる訳にもいかないし、ちょっと確かめに行ってみようか)
そう思い立ち、立ち上がる。
「シュリ? どっか行くの??」
「うん。ちょっと気になる事があるんだ。行ってくる」
「一人じゃ危ないわよ? 私もいく」
「大丈夫だよ、おばー様。一人じゃ行かない。……シェルファ?」
ヴィオラが同行しようと立ち上がるが、それを制してシュリはシェルファを呼んだ。
名を呼ばれた瞬間、風が渦巻きシュリを包み込む。
シェルファの風だ。
「シュリ~、お待たせっ。ご用はなぁに?」
飛び出してきたシェルファが、むぎゅぅっとシュリを抱きしめてその唇を奪う。
ふれあった唇を通して魔力を渡すと、シェルファの風が喜びを表すようにその強さを増した。
「ここから少し北西の方に行きたいんだ。連れて行ってくれる?」
にっこり微笑みお願いすると、シェルファは役得とばかりにシュリを即座に抱き上げて空へと舞い上がった。
それを見上げたヴィオラがすねたように唇を尖らせる。
「んもぅ、シュリってば自分が守られる対象だって分かってるの?」
「おばー様こそ、本当に僕に護衛が必要って思ってる?」
そんな祖母の顔を見て、シェルファの腕の中、シュリは悪戯っぽく笑った。
そしてそのまま、ジュディスやシャイナ、カレン、それから御者のおじさんの見送りの言葉を受けつつ、北西の空へと飛びさったのだった。
本人達含め、護衛達から十分すぎるほどの感謝を受け取り彼らと別れたシュリは、再び馬車に乗り込み旅を再会した。
が、その旅はすぐに再び中断することになる。
その時、馬車の中でシュリは再びヴィオラの膝の上にいた。
ヴィオラはご満悦だが、ジュディスとシャイナとカレンのほっぺたはパンパンだ。
しかも時間と共にその膨らみは増しているように見える。
それもこれも、ヴィオラがシュリを堂々と独り占めしているせいだった。
「おばー様?」
「なぁに~? シュリ」
「僕、そろそろジュディスのお膝に……」
「だぁめ。シュリは私の膝にいるの」
「いやね? でも、馬車では順番に皆のお膝に乗せて貰うって約束……」
「ん~? でも、私はそんな約束してないし。ねぇ?」
「またわがまま言って。ほら、見てみてよ? このまま放置したらジュディス達のほっぺたが破裂しちゃうよ?」
「大丈夫よぉ、シュリ。人のほっぺたはそう簡単に破裂したりしないから」
どうにか事態を打開しようとつとめたのだが、ヴィオラはからから笑うだけで聞く耳を持たない。
シュリは諦めたような吐息を漏らし、ヴィオラの胸に背を預けた。
ぽよんと柔らかな二つの固まりを背中に感じながら、シュリは思う。
(ここ最近会ってなかったからかなぁ。おばー様のワガママがいつもよりしつこい……)
いつもはもう少し聞き分けがいいのになぁ、と思いつつ、シュリは目の前に三人並んで座っている愛の奴隷を片手で拝んだ。
三人はそんなシュリを見て、それから互いに目を見合わせて、仕方ないと諦めたように肩をすくめると頬にため込んだ空気を吐き出した。
しばらくはヴィオラの思うようにさせるしかないと、各自己を納得させたようだ。
これでどうにかしばらく内紛を抑えられそうだ、とほっとした瞬間、がたんと揺れて馬車が止まった。
ジュディスの目線がヴィオラに流れ、ヴィオラが小さく首を振る。
どうやら敵の襲撃が原因の停車ではないらしい。
音もなくカレンが立ち上がり、馬車の外へと向かう。
それほど時を消費せずに戻ってきたカレンの腕の中にもふっとした何かを見つけたシュリは、顔を輝かせヴィオラの膝から飛び降りた。
駆け寄りカレンの腕の中をのぞき込めば、そこにはまだ若い狼が抱き抱えられていた。
「どうやらこの狼が急に馬車の前に飛び出してきたようで……」
「ひいたの? もしそうなら手当をしてあげないと」
「いえ。馬車の急停止がぎりぎり間に合ったようですよ? ただ、驚いたせいか気を失ってるみたいで」
困ったように眉尻を下げるカレンの腕から、シュリはそっとその狼を引き受ける。
年若い狼とはいえシュリの腕には余る大きさだったが、幸い力だけは人一倍だ。
危なげなくその狼を運搬したシュリは、狼の体を座席の上に横たえると、その頭を己の膝に乗せてやった。
いわゆる膝枕という奴である。
それを見た女性陣四人は、何ともうらやましそうに妬ましそうに、気を失ったままの狼を見つめた。
シュリはそんな彼女達の視線に全く気づかないまま、狼の身体に本当に怪我はないか、あちこち調べるのに忙しい。
「ん~、特に怪我はなさそう、かなぁ。他の獣に咬まれたようなあとも無さそうだし。あ、この子、男の子だね」
あっちこっちひっくり返して確かめて、最後に足の間を見て性別を確認し、とりあえずは満足したらしい。
まだ成獣ほどには堅くなっていない毛皮を撫でながら、
「怪我はないけど、中々目を覚まさないね。よっぽど驚いたんだなぁ。かわいそ……」
かわいそうに、と言おうとしたが、その言葉は途中で遮られた。
ぐぎゅるるるるるぅぅぅ……
という獣の腹から聞こえた盛大な空腹のシグナルによって。
「……えっと、そ、そろそろご飯にしようか? ジュディス、お肉、あったよね? いっぱい」
「はい、シュリ様。シュリ様の健全な成長を妨げないよう、十分すぎるほどの肉をきちんと積み込んであります。ですから、客人の一人や二人の胃袋を満たすことなどたやすい事です」
「そ、そう。良かった。じゃあ、その十分すぎる量の肉をこの子の為に切り分けてあげてくれる? えーっと、この子の分は、生、がいいのかな??」
「いえ、焼いたものでいいのでは? 狼の生態に詳しいわけではありませんが、焼いた肉を食べられないということは無いはずです」
「そうだね。わかった。じゃあ、準備、しよっか」
「シュリ様はこのままここで。シャイナ、カレン、食事の準備をしますよ」
ジュディスの言葉に了承の返事を返した二人は、ジュディスと共に馬車を出て行った。
シュリは膝に狼の頭を乗せたまま、その背中を見送る。
狼は目を覚まさない。
そのお腹がきゅるるっと再び可愛らしい音をたて、シュリはその口元に笑みを浮かべた。
狼の毛皮を手の平で感じながら、シュリは思う。
この子は一体どこから来たんだろうな、と。
◆◇◆
気を、失っていた。
母親とはぐれ、腹を空かせて。
空腹で気を失うなんて、初めての経験だった。
まだ一人で狩りができるほど強くもなく、今までの狩りの時はいつも母親が一緒だった。
母親だけでなく、護衛の者達も。
だが、気がつけば一人になっていた。
初めての旅で浮かれすぎていたのかもしれない。
夢中になって獲物を追いかけている内に、母や護衛達と離れすぎてしまった。
母は自分を捜しているだろうか。きっと探してる。
護衛達も一緒に、必死で。
戻らなければと思うが、空腹で身体が言うことをきかない。
走ろうとしても、足は空を切るばかり。
思い通りにならない身体に思わずうなり声をあげたら、誰かの手が頭を撫でてくれた。
優しい手の平の感触と鼻腔をくすぐる甘い香りに、思わずくふんくふんと鼻を鳴らす。
そうするとなんだか美味しそうに焼ける肉の匂いまでしてきて、きゅるるっと腹が鳴り、彼はゆっくりと目を開けた。
◆◇◆
夢の中で走っているのか、狼の四肢が空をかく。
もどかしそうなうなり声をあげる狼の頭をなだめるように撫でてやると甘えるような鳴き声をあげた。
可愛いなぁと頬をゆるめ、美味しそうに焼けた肉を目の前に置いてあげる。
すると、鼻がひくひく動き、その目が開くのが見えた。
青い賢そうな瞳の狼は、ゆっくり頭をもたげて注意深く周囲を見回す。
そしてそれから目の前の肉を見た。
彼の目は、それを食べていいのか伺うように周囲を見つめ、最後にシュリの目をじっと見つめる。
シュリが微笑んで頷くと、彼は最初はおずおずと肉に口をつけ、すぐにガツガツと肉を平らげてしまった。
シャイナに合図して空いたお皿に新しい肉を置いてやると、それも瞬く間に食べてしまう。
それを三度ほど繰り返してやっと満腹になったのか、狼は満足そうな吐息をもらし、再び気持ちよさそうに眠ってしまった。
シュリは再びその頭を優しく撫で、それからようやく自分の食事を開始した。
そんなシュリの様子を、うっとりと幸せそうに見つめる女が三人。
おじさんは少し離れたところで、そんな彼女達をちょっぴり呆れたように見つめつつ、食事をとっている。
シュリは苦笑して、そんな彼女達に食事を促した。
「おばー様もみんなも、僕が食べてるのを見てないで、ちゃんとご飯を食べて。食べたら今日はここで野営しよう。急ぐ旅じゃないし、この子もゆっくり休ませてあげたい」
「そうですね。では、食事が終わったら野営の準備をしましょう」
ジュディスが同意し、シャイナとカレンも頷く。
ヴィオラも、肉の塊にかぶりつきながら頷いた。
御者のおじさんはシュリの言葉を受けてもう野営の準備に動き始めている。
シュリはそんな彼らの姿を頼もしそうに見つめ、肉の最後の一切れを飲み込んだ。
そして、膝に狼の頭を乗せて木にもたれ掛かり、シュリは[レーダー]を起動する。
色々な光点が動きまわっていた。
だが、その中でも特に忙しなく動き回っている光点の集まりが気になった。
何かを探すようにあっちに行ったりこっちに行ったり。
そうしながら、彼らは少しずつこっちへ近づいてきているようだった。
とはいえ、今のままのスピードでは、ここへ着くまでだいぶ時間はかかってしまいそうだが。
(ん~、この子の群れかなぁ? いつまでもここにいる訳にもいかないし、ちょっと確かめに行ってみようか)
そう思い立ち、立ち上がる。
「シュリ? どっか行くの??」
「うん。ちょっと気になる事があるんだ。行ってくる」
「一人じゃ危ないわよ? 私もいく」
「大丈夫だよ、おばー様。一人じゃ行かない。……シェルファ?」
ヴィオラが同行しようと立ち上がるが、それを制してシュリはシェルファを呼んだ。
名を呼ばれた瞬間、風が渦巻きシュリを包み込む。
シェルファの風だ。
「シュリ~、お待たせっ。ご用はなぁに?」
飛び出してきたシェルファが、むぎゅぅっとシュリを抱きしめてその唇を奪う。
ふれあった唇を通して魔力を渡すと、シェルファの風が喜びを表すようにその強さを増した。
「ここから少し北西の方に行きたいんだ。連れて行ってくれる?」
にっこり微笑みお願いすると、シェルファは役得とばかりにシュリを即座に抱き上げて空へと舞い上がった。
それを見上げたヴィオラがすねたように唇を尖らせる。
「んもぅ、シュリってば自分が守られる対象だって分かってるの?」
「おばー様こそ、本当に僕に護衛が必要って思ってる?」
そんな祖母の顔を見て、シェルファの腕の中、シュリは悪戯っぽく笑った。
そしてそのまま、ジュディスやシャイナ、カレン、それから御者のおじさんの見送りの言葉を受けつつ、北西の空へと飛びさったのだった。
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