♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第四部 王都の新たな日々

第322話 生徒会長の誤解と恋心

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 入学式の日に初めて言葉を交わし、見た目はともかく、なんだか可愛らしいなと感じた少年、シュリナスカ・ルバーノ。
 ちょっと変わった容姿となにやら事情がありそうな様子を心配し、何かあったら生徒会室を訪ねるように言っておいたのだが、中々姿を見せる様子がなく。
 あの少年は、学校生活になじめているだろうか、と密かに心配していた。
 その彼が最近、ようやく生徒会室に顔を出すようになり、パスカルは素直に喜んだ。

 喜びはしたのだが、なにやら様子がおかしくて困惑もしていた。
 彼は、パスカルを訪ねてきているのではなく、彼が会いに来るのはいつもパスカルが密かに想いを寄せている相手だった。

 生徒会書記の役職につく彼女の名前はミューラ。
 見た目は清楚で可愛らしく、性格は生真面目。
 シュリと彼女の出会いのきっかけは、放課後の教室の見回りをしていた彼女が、こぼしたバケツの水を掃除していたシュリを手伝った事だと聞いている。
 それを聞いたときは、彼女はなんて優しい人なんだろう、と感動したものだ。

 しかし、シュリとミューラ、2人の距離が急速に近づいていくにつれ、パスカルの胸を焦りにも似た感情がふさぐようになってきた。
 どうして2人の距離が近づいているのが分かるのか。
 わかりやすいのは、名前の呼び方である。
 最初、少々他人行儀に「シュリ君」と呼びかけていたミューラだが、その呼び方はあっという間に「シュリ」と呼び捨てにかわり。
 自分は未だに会長呼びなのに、とちょっと恨みがましく思ってしまう。
 そのシュリは、今日も生徒会室を訪れ、


 「ミューラ先輩、ちょっと来てもらえますか?」

 「なんですか、シュリ。ここではダメなんですか?」

 「えっと、ここではちょっと」

 「仕方ないですね。すみません、会長。少し出てきます」

 「あ、ああ。いってらっしゃい……」


 ミューラとそんな会話を交わし、連れだって出て行ってしまった。
 なんとももやっとした気分でそれを見送ったパスカルは、誤魔化すように咳払いをしてから立ち上がる。
 そして、


 「……ちょっと飲み物を買ってくるよ」


 そんな言い訳を残して、2人を追って生徒会室を後にした。
 部屋を出て、上への階段に向かう2人の背中をロックオンした彼は、当人たちに気づかれないようにこっそり追いかける。
 2人は、パスカルの尾行に気づかないまま屋上へ。
 パスカルは、2人の様子を屋上に続く扉の陰からこっそりのぞき見た。

 距離があるから流石に2人の会話の内容は分からなかったが、その姿はしっかり見ることができた。
 シュリがミューラを見上げ、何かを話しかける。
 ミューラがそれに何か言葉を返し、シュリの方へと身をかがめていく。

 そして。

 2人の影が絶妙な形で重なった。
 ミューラがこちらに背を向けているかたちなので直接見えたわけではないが、2人の姿は口づけをかわしているようにしか見えなかった。


 (ふ、ふたりの関係はそこまで……!?)


 パスカルはがーんと、分かりやすくショックを受け、かといってこの場で乱入する勇気もなく。
 音を立てないように慎重にドアを閉めると、意気消沈した様子を隠しきれないまま生徒会室へと戻った。
 そんな彼の姿に、周囲のみんながざわざわしている事にも気づかず、それほど時を置かずして戻ってきた恋する相手の不審そうな視線にも気づかないまま過ごし。


 「会長? 校内の見回りも終わりましたからそろそろ帰りましょう? 大丈夫ですか?」


 見回り当番だったミューラの心配そうな声に、現実へと引き戻された。
 パスカルの様子を伺うようにこちらを見つめるその瞳を、じっと見つめ返す。
 そして思った。
 失恋は確実なんだろうけど、やっぱりこの人が好きだなぁ、と。


 「大丈夫だよ、ミューラくん。戸締まりは僕がしていくから、君は先に帰っていいよ」

 「そうですか?」


 大丈夫だという言葉をちょっと疑う様子のミューラを安心させるように、パスカルは微笑んで見せ、生徒会室を出て行く彼女の背中を見送る。
 見送りながら、彼は心を決めていた。

 明日、彼女に想いを告げよう、と。

 ふられることは確実だろうけれど、想いを告げずにいたらいつまでも引きずってしまいそうだから。
 男らしく想いを伝え、きっぱりふられ、そうやってきちんと完全燃焼して、これまでと同様、同じ生徒会の一員として彼女とつきあっていく。


 (大丈夫。きっとそうできるさ)


 パスカルはそう自分に言い聞かせつつしっかりと戸締まりをし、明日の告白のシミュレーションをしつつ、帰途へついたのだった。

◆◇◆

 翌日。
 放課後の屋上にて。
 パスカルは決死の覚悟で想い人と向かい合っていた。
 かれこれ10分ほどそうしていたが、中々言葉が出てこない。


 「会長? 用事がないなら私はこれで……」

 「いっ、いや! もうちょっと……もうちょっとだけ君の時間を僕にくれないか?」


 このやりとりも、これで何度目か。
 そんな彼の言葉に、ミューラは諦め混じりの吐息を漏らす。
 彼女のそんな様子に、


 (彼なら、こんな無様な様子は見せないんだろうなぁ。美しい女性の心を掴んで離さない、百戦錬磨のシュリナスカ・ルバーノ君なら)


 無様な僕とは大違いだな、とこの場にいない少年の事を思い、思わず苦笑がこぼれた。
 だが、それが良かったのだろう。
 ガチガチだった緊張感がほんの少しやわらいで、パスカルは今度こそ、と思いつつ大きく深呼吸した。


 「ミュ、ミューラくん!!」


 想う人をまっすぐに見つめ、その名前を呼ぶ。


 「なんですか? 会長?」


 小首を傾げ、こちらを見つめ返すその様子が可愛らしくも愛おしい。
 パスカルはその口元に柔らかな笑みを浮かべ、


 「僕は君が好きだよ」


 そう告げた。
 思ったよりも簡単にその言葉が滑り出た事に、ちょっと驚きながら。
 だが、驚いたのは相手も同じだったようだ。
 最初きょとんとした顔をしていた彼女だが、言葉の意味が脳に到達したのかじわじわとその顔を赤くしていき、ついには真っ赤になった。
 言葉がでないのか、あうあうしている彼女が愛おしくて。
 パスカルはもう1歩だけ前に出て、


 「ミューラくん、君が好きだ」


 もう1度、そう告げる。


 「え? 好き? 会長が? 私を? ええっ!?」


 パスカルの告白に、ミューラは分かりやすく混乱していた。
 パスカルは、そんな彼女を見つめて切なさ混じりの苦笑をこぼし、


 「戸惑う君の気持ちは分かるよ。シュリナスカ君と交際している君に告白しようかどうしようか悩んだけど、ふられると分かっていてもどうしても僕の気持ちを伝えておきたくてね。僕のわがままで混乱させてすまない」


 正直に告げて頭を下げた。


 「いえ、そんな。お気になさら……は? 私とシュリが付き合ってる、って、なんですか? それ??」

 「え? 付き合ってるんだろう? 君たち」

 「付き合ってませんけど?」

 「し、しかし! 昨日の放課後、ここで2人で口づけをしていたじゃないか!!」

 「くちっ!? しっ、してません、そんなこと。シュリどころか、他の誰とも!!」

 「えええっ、そうなのかい!?」

 「そ、そうですよ! 私の初めての口づけは会長と……」

 「え? 僕と?」

 「なななな、な、何でもありません。とっ、とにかく。私はシュリとキスなんてしてませんから!!」

 「でも、確かに僕はこの目で……」

 「してないものはしてないんです! 会長の見間違えじゃ……あ。そう言えば」

 「な、なんだい? 忘れてただけで、やっぱりキスを……」

 「してませんってば。じゃなくて、昨日、そう言えば、メイクを直し……じゃなくって、え~、そう! 目にゴミが入ったというシュリの目を見てあげた時に顔を近づけました。くっ、口づけと勘違いされそうな行動と言えば、それくらいでしょうか」

 「目に、ゴミが?」

 「お疑いですか? 疑うなら、シュリにも聞いてみて下さい」

 「いや、疑いはしないさ。信じるよ。じゃあ、ミューラくんは別にシュリナスカ君に恋をしているとかそう言うわけじゃ……?」

 「違います。確かにシュリの事は可愛がっていますが、妹……いえ、弟みたいなもので。私は……。私が好きなのは……」


 ミューラの熱を帯びた瞳が、パスカルを見上げる。


 「私を好き、というのは本当ですか?」

 「うん。本当だ。僕は君が好きなんだ。ずっと前から。出会った時、可愛い人だと思った。そして、共に過ごす内に、君の生真面目さや優しさに心が惹かれた。気がついたときにはもう、きみ以外の人を考えられなくなっていたよ」

 「私だけ、ですか?」

 「そうだ。僕には君だけだ」

 「そう言う割には、入学式の日に綺麗な女性の胸元をのぞき込んでいたような印象がありますが?」

 「あ、あれは!? あ、あの人はシュリナスカ君の身内の方だ。僕は、彼女の案内をしていただけだよ。そりゃあ、僕も男だし、女性の胸には興味がないとは言い切れない。でも、どんな女性の胸よりも、僕の目には君の胸の方が魅力的に見えるよ!」


 どれだけ彼女を魅力的に思っているかを力説したら、なぜか半眼の瞳に迎えられた。
 じとーっとこちらを見た彼女は、


 「……会長。エッチです」


 と、一言。
 これには慌てて、そうじゃないんだ、と声を上げた。


 「そ、そうじゃなくて。さっきのはちょっとしたたとえ話で。第一、ミューラ君が胸の話をふってきたんじゃないか」

 「私が悪いとでも?」

 「そうじゃない、そうじゃないけど」


 なんて言ったらいいのか分からなくていいよどむと、そんなパスカルを見上げていたミューラが、いたずらっぽくクスリと笑った。


 「もういいですよ。ちゃんと分かりましたから。会長は、私だけが好きで、私の胸が好き。そう言うことですよね?」

 「だ、だから、胸の話はもう……」

 「いいですよ?」

 「え?」

 「いつか、見せてあげます」


 そう言って、ミューラはとても可愛らしい笑顔で微笑む。
 なにを? 、と首を傾げるパスカルの顔を見上げて。


 「私の胸なんかでいいのなら、見せてあげます。私も会長が、その、好き、ですから」

 「ほ、本当かい!?」

 「み、見せると言っても今すぐじゃないですよ? きちんと交際して、しかるべき時が来たら……」

 「そっちじゃなくて、僕を好きっていう方! ほ、本当に?」


 ミューラの両手をとりその顔をのぞき込むと、彼女は少し恥ずかしそうに目を伏せる。
 でもすぐに、熱のこもった眼差しでパスカルを見上げてはっきりと頷いた。


 「本当です。好きです」

 「本当に!?」

 「本当、ですよ?」

 「本当の、本当に!?」

 「だから、本当ですってば」

 「本当の、本当の、ほんと……」

 「しつこいですよ、会長。あんまり疑うなら、嫌いになっちゃいますよ?」

 「う、すまない。だけど、なんだか嬉しすぎて信じられなくて。だって君は、シュリナスカ君と付き合ってると思いこんでたし、今日、僕は君にふられるんだって思ってたから」

 「で?」

 「え?」

 「会長は、いつになったら私に交際を申し込んでくれるんですか? まさか、好きって言うだけで終わりじゃないですよね?」

 「も、もちろんさ!!」


 愛しい相手の言葉に応じるように、パスカルはついついにやけそうになる表情を引き締めた。
 そして、片膝をついて彼女の手をそっととり。
 パスカルは、由緒正しい作法にのっとって、愛しい女性に交際を申し込んだのだった。

◆◇◆

 「で、会長に僕の秘密を話してしまった、と」


 言いながらシュリは、出来立てカップルの2人を見上げた。


 「ごめんなさい、シュリ。でも、愛しい人に嘘は良くないでしょう?」

 「すまないな、シュリ君。だが安心してくれ。僕の口は岩よりも固いんだ」


 口々にそう言う2人を見つめ、シュリは微笑ましそうに目を細める。
 元より、愛し合う2人を責めるつもりはなかった。
 シュリの秘密を知る者は他にもいるし、その秘密が無限大に広がっていきさえしなければいいのである。


 「いいですよ。確かに恋人同士で秘密を持つのは良くないですし。これ以上秘密が広がらないのであれば問題ありません」

 「そうか。ありがとう。それにしても……ちょっといいかい?」

 「はい??」

 「君は本当に可愛かったんだなぁ。君のおばあ様が自慢していたとおり」


 言いながら会長はシュリのぐるぐるメガネを外し、それだけで一気に可愛さが増したシュリの顔をしみじみと見つめた。
 その余りに熱心な様子に、ミューラ先輩はちょっとむっとした顔をして、


 「ちょっとシュリ君を見すぎじゃないですか? 会長はシュリ君の素顔を見るの、禁止です」

 「え?」

 「シュリ君は可愛いですし、万が一会長がシュリ君を好きになっちゃったら困りますから」


 そんな可愛らしいヤキモチを焼く恋人に、会長は今にも溶けちゃうんじゃないかと言うような甘い眼差しを注いで、


 「それを言うならミューラ君のほうだろう? 君の方がシュリ君とは仲がいいし。君がシュリ君を好きになっちゃわないか、僕の方こそ心配だよ? だから、君が僕にシュリ君を見ることを禁じるなら、僕も君に同じ事をお願いしないといけないね?」

 「私は……。会長以外の男性は目に入りません。シュリはシュリという生き物ですから、恋愛の対象じゃないですよ? でも、心配してくれるのは嬉しいです」

 「僕だって、ミューラくん以外の人は目に入らないよ。シュリ君は、ほら、マスコット的な可愛らしさ、というか。とにかく、全く恋愛対象じゃないから安心して欲しい。でも、そうやって気にしてくれて嬉しいよ」

 「会長……」
 「ミューラくん……」


 シュリという生き物でマスコット。
 そう評価されたシュリは、目の前で甘々いちゃいちゃし始めた2人をあきれ顔で見上げる。


 (ま、まあ、2人が仲良くしていてくれた方が、僕としても助かるけどね)


 うん、お幸せに……、と心の中でそっと2人の幸せを祈りつつ、目の前で繰り広げられる甘い現実から、ちょっぴり逃避する。
 出来るだけ早く2人が通常空間に戻ってきてくれることを祈りつつ。
 でも、どう軽く見積もっても2人が我に返ってくれるまで、まだ大分時間がかかりそうだった。

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