♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

文字の大きさ
83 / 545
第一部 幼年期

第八十三話 ガナッシュ・クリマム

しおりを挟む
 ガナッシュ・クリマムが、愛と美の女神の加護を受けたのは、彼が13歳になった年のことだった。

 クリマム家の長男として生まれたガナッシュは、美しかった母親の美貌を受け継いだ美しさに、生まれた瞬間からちやほやされて育った。
 特に、彼の父親は美しいものに目がなかった為、とにかくガナッシュを可愛がった。
 愛息のわがままなら何でも聞いてやるその可愛がりように、物心つく頃には見た目は天使、中身は悪魔の小さな暴君がすっかり出来上がっていたのである。

 だからある意味、現在のガナッシュが出来上がってしまったのはそのせいもあるとも言える。
 まあ、もともとの本人の資質ももちろんあったのだろうが。

 蜂蜜色の髪に青い瞳、整った甘い顔立ちのガナッシュは、とにかく周囲から愛されて育った。
 だが、彼はそれだけでは満足せずに、更に多くを求めた。
 他の者へ向けられた愛情すらも自分のものにしようと、彼は時に意地悪く、時にずる賢く立ち回った。
 そして、周囲の人々が徐々に彼の見た目と中身がそぐわないことに気付き始めた頃、彼の人生に転機が訪れた。

 愛と美の女神の加護を受けたのである。

 その事実を知った瞬間、ガナッシュは驚喜した。
 与えられた恩恵も素晴らしかった。
 [魅了]はガナッシュが正に求めていた能力であり、彼は積極的にその能力を活用した。まずは近しい人から、そして徐々にそうでない人々へも。

 [魅了]の能力に人数制限はなかったが永続的ではなく、かかりやすい、かかりにくいといった個人差もあった。
 だが、たくさんの人へ能力を使ううちに、肉体的接触が深ければ深いほど、魅了の効果を及ぼしやすいことが分かってきた。
 それに気付いてから、ガナッシュは積極的に己の肉体を使うことも覚えた。

 更に、副次的効果として、長年魅了を掛け続けると、相手の性格さえも思う様に出来る事も分かってきた。
 いわゆる洗脳というやつだ。
 真面目な人間に悪事を働かせたり、信念を持つ人間に裏切りを働かせたり……思いつく限り、様々なことをやってきた。
 そうしてガナッシュは、徐々に自分の帝国を作り上げていったのである。

 だが、地方貴族である父の領地はちっぽけなもの。
 成長するにつれ、ガナッシュは物足りなさを感じるようになっていた。
 そんな時、彼はルバーノ家の実状を知った。

 ルバーノ家はクリマム家の本家筋にあたり、同じ地方貴族とはいえども、格が違った。
 地方都市であるアズベルグを治め、領地もクリマム家とは比べものにならないほどには広い。
 更に都合の良いことに、ルバーノの現当主には娘しかいなかった。
 そこに、付け入る隙があると、ガナッシュは考えた。

 それからは、己の地盤を固めつつも、ルバーノに入り込むための計画を練り続けた。
 少なくない数の間者を送り込み、ルバーノの情報も集め、当主には一人、弟がいることも知った。
 だが、その弟はずいぶん前に家を出奔しており、自分の計画の邪魔にはならないだろうと思っていた。
 あの日、ルバーノに放っていた間者の一人から、その情報を得るまでは。

 間者は言った。
 ルバーノに当主の弟が帰ってくる。そのことで当主はかなり浮かれているようだ、と。

 冗談ではないと思った。
 当主に息子はなく、彼は年の離れた弟を大層可愛がっていたと言うのは周知の事実。
 当主が戻ってきた弟を、後継に指名しないとも限らない。
 そうなってしまえば、ガナッシュの食い込む隙など全くなくなってしまうことだろう。

 そんなこと、許せるはずもなかった。
 ルバーノはいずれ自分のものになるのだ。それを邪魔する奴は、誰であろうと許しはしない。

 ガナッシュは、己の子飼いの盗賊団に早速連絡を取った。
 昔、自分の護衛係をしていた男をそそのかして作らせた、小遣い稼ぎの為の集団である。
 今までも、何度か汚れ仕事をさせていたが、今回も一働きしてもらうつもりだった。

 そうして、全てがうまくいったはずだった。
 娘達に取り入るための先方として、己の息のかかったメイドも送り込んだし、弟を失ったルバーノの当主にはもう、娘達しかいないーそのはずだったのに、誤算は小さな赤ん坊の形をして現れた。

 シュリナスカ・ルバーノ。ガナッシュが盗賊団に始末させたジョゼット・ルバーノの忘れ形見。
 その忌々しい赤ん坊は、母親ともども生き残り、ルバーノに取り入った。
 そして今や、立派なルバーノの跡継ぎ様である。

 そこにはガナッシュがいずれ入り込む予定だった。誰かがいてもらっては困るのだ。
 ガナッシュは、その赤ん坊も、父親同様死んでもらうことにした。

 まずは送り込んでいたメイドに打診したが、今は赤ん坊に注目が集まっており、下手に動くとバレてしまうと言う。
 ガナッシュは、渋々機会を待つことにした。アズベルグに送り込んだ間者達に、シュリの情報はどんな些細な事でも報告するよう、指示を飛ばして。

 だが、それほど待つことなく、機会は訪れた。
 シュリが護衛と二人、領主の所有する森の中の狩猟小屋を使うらしいと言うのだ。
 まだ、狩りを楽しむ年でもないだろうになぜとは思ったが、念の為、盗賊団を動かした。徒労に終わるだろうと、そう思いつつも。

 だが、そうはならず、ガナッシュの求めたものは、今、彼の目の前に居た。
 盗賊の頭領のザーズが、粗末な籠をガナッシュの前にそっと差し出す。
 ガナッシュは頷いてその中をのぞき込み、そして雷に打たれたような衝撃を覚えた。

 そこには美があった。
 今まで己を写す鏡の中にしか見たことがないと思っていた、いや、それ以上の圧倒的な美が。

 かなわない、と思った。
 それと同時に思う。自分より美しい者など許せない。排除しなくては、と。
 だが、それを実行に移す前にその声が脳裏に響いた。
 それは甘美で華やかで魅惑的な声。
 かつて、13の年に加護を頂いたときに一度だけ、耳にしたことのある声だった。

 その声はこう言っていた。
 その子はアタシのものにするから手を出しちゃダメーと。
 神の声に、ガナッシュは逆らえない。
 シュリに向かって手を差し伸べるような姿勢のまま、彼は固まったように動けなかった。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

処理中です...