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第二部 少年期のはじまり
間話 王都へ~三人娘の珍道中~①
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シュリの後を追って王都を目指していた愛の奴隷三人娘は、追い剥ぎやら盗賊に襲われることもなく、順調に目的地に近づいていた。
馬を飛ばしに飛ばしての旅程だったので、馬はやや、グロッキー気味ではある。
が、彼女達は休憩の度に馬を励まし、王都についたら必ずゆっくり休ませることを約束し、なんとか馬の気力を持たせていた。
さて、明日中には王都に到着するという中、待ちに待っていた愛する主からの連絡がやっと来た。
もちろん、念話を使っての連絡であるから、三人とも旅程を一時中断して馬を下り、目を閉じて頭に響くシュリの声にうっとりと聞き惚れた。
しかし、その声が、またとんでもないことを言い始めたのである。
「ジュディス、シャイナ、カレン。なかなか連絡できなくてごめんね?やっとちょっと時間がとれたから……といっても、そんなに長く話せないんだけど、取りあえず僕は問題なく元気だから安心してね。で、前に連絡したときは王都に向かうって言ったんだけど、王都での用事が済んだから、次の場所に今、向かってるところなんだけど……」
「「「つ、次の場所!!!???」」」
三人の言葉が見事に重なった。シュリはびっくりしたように一度言葉を切り、
「そ、そうだけど。な、何か問題、あったかな??」
改めて恐る恐る尋ねた。
「あ、驚かせてしまって申し訳ありません……実は、私達……」
「シュリ様がヴィオラ様にさらわれ……いえ、一緒に旅立たれた後……」
「領主様のご命令でシュリ君の後を追っていたんです」
「えっ!?そうなの??」
「「「はい……」」」
しょぼんという音が聞こえてきそうなほどに落ち込んだ声を出す三人に、シュリは思わず苦笑を漏らし、
「そっかぁ。で、三人は今どこにいるの?まだ、アズベルグの側だったら、戻っても……」
いいんだよ?と言おうとしたシュリの言葉を皆まで言わせず、
「いえ!戻ることは考えておりません!!戻ったら、シュリ様成分が枯渇して、どうにかなってしまうことは目に見えてますし!!!」
「今の私達には、一刻も早くシュリ様に合流して、シュリ様に可愛がって貰う事だけが心の支えになって持ちこたえているんです」
「それに、実はもう王都の側まで来てるんですよね、これが。ここからアズベルグへ戻るくらいなら、いったん王都で補給して、再びシュリ君を追いかけた方がいいかなぁ、なんて」
三人はそれぞれにそんな主張を述べる。
「なるほど。もう、王都の近くにいるなら、いったん王都で休んだ方がいいかもね。三人とも、疲れてるだろうし……」
「「「そうですね。馬が……」」」
「馬?」
「「「はい……」」」
「そ、そう。とにかく、僕も次に行く場所が分かったらちゃんと連絡するから。おじー様に会いに行く事になったんだけど、まだ場所がわからないんだよね……」
シュリはそう言って、なるべく早く連絡するから無理しないようにと三人に念を押してから、念話を切った。
目指す王都に最愛の人がもう居ないことをしった三人は、顔を見合わせて深いため息をついたのだった。
シュリのいない王都は、シュリが居なくてもそれなりにちゃんと賑わっていた。まあ、当然の事ではあるが。
三人は、あの後もう一度連絡してきてくれたシュリがすすめてくれた宿へまずは向かう。
子猫の遊び場亭という変わった名前の宿は、シュリのおばあ様であるヴィオラの知人の経営する宿であるらしい。
「すみません。一晩、宿をお願いしたいのですが……」
「……あいよ。らっしゃい」
三人を代表してジュディスが声をかけると、奥からいかにも恐ろしげな猛獣……いや、おそらく獣人族の男性がひょっこり顔を出した。
だが、見た目は二足歩行の猛獣にしか見えない。
白い虎の顔をしたその男性は、三人を見てなんとも恐ろしげに歯をむき出した。
たぶん、笑ったのだろう。
しかし、彼の顔を見慣れないジュディス達の目には、機嫌悪そうに威嚇されたようにしか見えなかった。
反射的に逃げ出そうとする足を、なんとかその場に押しとどめ、ジュディスはひきつった顔でその男を見上げる。
シュリの情報では、怖い顔のご主人の方が出てきたら、おそらく夫婦喧嘩中だろうとの事だった。
ご主人は顔が怖いだけの気のいい人だが、どうしても恐ろしければ、フィリアが通う高等魔術学院の学院長室を尋ねるか、冒険者養成学校を尋ねるようにとの事だった。
学院の方には奥さんが、学校の方には娘さんが居るはずだから、とシュリは言っていたが、まずはなにをするにしても馬を預けなければ動きにくい。
ジュディスは決死の思いで目の前の猛獣……いや、シュリの知り合いの宿屋の主人を見上げた。
「あ、あの、や、宿は、おおお、お願い、出来ますか?へへへ、部屋は一つでも、い、いいんですが、ううううう、馬を三頭、あず、あず、あず、あずかって、い、頂ければ……」
「……あんた、根性あるなぁ?誰かの紹介か?」
初対面の相手におびえられる事が日常茶飯事になっている宿屋の主人・ハクレンは感心したようにジュディスを見る。
その視線が、さらに彼女を怯えさせることになるとも分からずに。
だが、どんなに怖くとも、ジュディスもここで退くわけにはいかない。
なんと言っても、敬愛する主・シュリが紹介してくれた宿なのだ。
彼女達にはここに泊まる以外の選択肢など、あるわけがなかった。
「わ、私の主、シュリナスカ・ルバーノ様から、この宿をすすめられまして……」
「シュリナスカ……ああ、シュリの事か。そぉかぁ。あのちび助のねぇ。しかし、残念だったな?シュリとそのばーさんは、昨日出てったんだ。すれ違いだったな。宿泊と馬の預かりだな?部屋も馬厖もガラガラだ。ベッドが三つ入った部屋もあるし、個室も人数分あいてるが、どうする?」
「……大部屋で結構です。馬を預けて荷物を置いたら、少し外出をしたいのですが……」
「はいよ。馬は俺が引き受けるから、あんた達は部屋に荷物を置いてきたらいい。ほれ、これが部屋の鍵だ」
無造作に放られた鍵をなんとか受け取って、頭を下げる。
ハクレンはそんな三人にひらひらと手を振って、馬を連れに行くために宿を出て行った。
残された三人は何とも言えない表情で顔を見合わせ、それから大きく息を吐き出したのだった。
馬を飛ばしに飛ばしての旅程だったので、馬はやや、グロッキー気味ではある。
が、彼女達は休憩の度に馬を励まし、王都についたら必ずゆっくり休ませることを約束し、なんとか馬の気力を持たせていた。
さて、明日中には王都に到着するという中、待ちに待っていた愛する主からの連絡がやっと来た。
もちろん、念話を使っての連絡であるから、三人とも旅程を一時中断して馬を下り、目を閉じて頭に響くシュリの声にうっとりと聞き惚れた。
しかし、その声が、またとんでもないことを言い始めたのである。
「ジュディス、シャイナ、カレン。なかなか連絡できなくてごめんね?やっとちょっと時間がとれたから……といっても、そんなに長く話せないんだけど、取りあえず僕は問題なく元気だから安心してね。で、前に連絡したときは王都に向かうって言ったんだけど、王都での用事が済んだから、次の場所に今、向かってるところなんだけど……」
「「「つ、次の場所!!!???」」」
三人の言葉が見事に重なった。シュリはびっくりしたように一度言葉を切り、
「そ、そうだけど。な、何か問題、あったかな??」
改めて恐る恐る尋ねた。
「あ、驚かせてしまって申し訳ありません……実は、私達……」
「シュリ様がヴィオラ様にさらわれ……いえ、一緒に旅立たれた後……」
「領主様のご命令でシュリ君の後を追っていたんです」
「えっ!?そうなの??」
「「「はい……」」」
しょぼんという音が聞こえてきそうなほどに落ち込んだ声を出す三人に、シュリは思わず苦笑を漏らし、
「そっかぁ。で、三人は今どこにいるの?まだ、アズベルグの側だったら、戻っても……」
いいんだよ?と言おうとしたシュリの言葉を皆まで言わせず、
「いえ!戻ることは考えておりません!!戻ったら、シュリ様成分が枯渇して、どうにかなってしまうことは目に見えてますし!!!」
「今の私達には、一刻も早くシュリ様に合流して、シュリ様に可愛がって貰う事だけが心の支えになって持ちこたえているんです」
「それに、実はもう王都の側まで来てるんですよね、これが。ここからアズベルグへ戻るくらいなら、いったん王都で補給して、再びシュリ君を追いかけた方がいいかなぁ、なんて」
三人はそれぞれにそんな主張を述べる。
「なるほど。もう、王都の近くにいるなら、いったん王都で休んだ方がいいかもね。三人とも、疲れてるだろうし……」
「「「そうですね。馬が……」」」
「馬?」
「「「はい……」」」
「そ、そう。とにかく、僕も次に行く場所が分かったらちゃんと連絡するから。おじー様に会いに行く事になったんだけど、まだ場所がわからないんだよね……」
シュリはそう言って、なるべく早く連絡するから無理しないようにと三人に念を押してから、念話を切った。
目指す王都に最愛の人がもう居ないことをしった三人は、顔を見合わせて深いため息をついたのだった。
シュリのいない王都は、シュリが居なくてもそれなりにちゃんと賑わっていた。まあ、当然の事ではあるが。
三人は、あの後もう一度連絡してきてくれたシュリがすすめてくれた宿へまずは向かう。
子猫の遊び場亭という変わった名前の宿は、シュリのおばあ様であるヴィオラの知人の経営する宿であるらしい。
「すみません。一晩、宿をお願いしたいのですが……」
「……あいよ。らっしゃい」
三人を代表してジュディスが声をかけると、奥からいかにも恐ろしげな猛獣……いや、おそらく獣人族の男性がひょっこり顔を出した。
だが、見た目は二足歩行の猛獣にしか見えない。
白い虎の顔をしたその男性は、三人を見てなんとも恐ろしげに歯をむき出した。
たぶん、笑ったのだろう。
しかし、彼の顔を見慣れないジュディス達の目には、機嫌悪そうに威嚇されたようにしか見えなかった。
反射的に逃げ出そうとする足を、なんとかその場に押しとどめ、ジュディスはひきつった顔でその男を見上げる。
シュリの情報では、怖い顔のご主人の方が出てきたら、おそらく夫婦喧嘩中だろうとの事だった。
ご主人は顔が怖いだけの気のいい人だが、どうしても恐ろしければ、フィリアが通う高等魔術学院の学院長室を尋ねるか、冒険者養成学校を尋ねるようにとの事だった。
学院の方には奥さんが、学校の方には娘さんが居るはずだから、とシュリは言っていたが、まずはなにをするにしても馬を預けなければ動きにくい。
ジュディスは決死の思いで目の前の猛獣……いや、シュリの知り合いの宿屋の主人を見上げた。
「あ、あの、や、宿は、おおお、お願い、出来ますか?へへへ、部屋は一つでも、い、いいんですが、ううううう、馬を三頭、あず、あず、あず、あずかって、い、頂ければ……」
「……あんた、根性あるなぁ?誰かの紹介か?」
初対面の相手におびえられる事が日常茶飯事になっている宿屋の主人・ハクレンは感心したようにジュディスを見る。
その視線が、さらに彼女を怯えさせることになるとも分からずに。
だが、どんなに怖くとも、ジュディスもここで退くわけにはいかない。
なんと言っても、敬愛する主・シュリが紹介してくれた宿なのだ。
彼女達にはここに泊まる以外の選択肢など、あるわけがなかった。
「わ、私の主、シュリナスカ・ルバーノ様から、この宿をすすめられまして……」
「シュリナスカ……ああ、シュリの事か。そぉかぁ。あのちび助のねぇ。しかし、残念だったな?シュリとそのばーさんは、昨日出てったんだ。すれ違いだったな。宿泊と馬の預かりだな?部屋も馬厖もガラガラだ。ベッドが三つ入った部屋もあるし、個室も人数分あいてるが、どうする?」
「……大部屋で結構です。馬を預けて荷物を置いたら、少し外出をしたいのですが……」
「はいよ。馬は俺が引き受けるから、あんた達は部屋に荷物を置いてきたらいい。ほれ、これが部屋の鍵だ」
無造作に放られた鍵をなんとか受け取って、頭を下げる。
ハクレンはそんな三人にひらひらと手を振って、馬を連れに行くために宿を出て行った。
残された三人は何とも言えない表情で顔を見合わせ、それから大きく息を吐き出したのだった。
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