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第四部 王都の新たな日々
第364話 オーギュストへの褒美は
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2人の精霊をつけ、キルーシャを送り出し。
色々やりきった感を漂わせたシュリが[月の乙女]の拠点に帰ってきたのは、夕ご飯の時間になる頃だった。
今日の食事当番はフェンリーだった様で、色合いにもこだわった見た目も華やかな料理が並んでいる。
フェンリーはこんな感じで結構女子力の高い料理を器用に作り、品数も多い。
逆にジェスは、細々作るのは面倒なタイプらしく、テーブルの中央に大皿料理がどかーんと置かれる感じだし、アガサは男の人が好きそうながっつりした精力補給に長けた食材をふんだん無く使ったこてこてな料理が得意なようだ。
[月の乙女]の拠点に滞在させてもらっている間は女性陣が交代で食事の準備をしてくれたが、みんなそれぞれの個性が満載で飽きがこない。
といっても、商都への滞在は今日で2日目だから、飽きようもないのだが。
ちなみに、初日に作ってくれたのがジェスで、2日目の今日がフェンリー。
アガサの料理に関しては話題に出ただけの情報だから、本当かどうか分からない。
ただそんなことを口に出すと、今度2人きりでごちそうするとか言われそうなので、余計な事は言わずにただにっこりしておいたが。
シュリは作ったいただいたものをせっせと口へ運び、おいしくいただいた後、昨夜同様、作ってもらったんだからと片づけを申し出た。
実際、それが[月の乙女]の決まり事らしく、昨日はジェスが作ったからフェンリーが片づけ、シュリはそれを手伝った形だ。
「今日も片づけを手伝うのね。じゃあ、私も手伝うわ」
アガサも妖艶に笑ってそう言い、立ち上がる。
といっても彼女の手伝いは食器を洗ったり拭いたりすることではない。彼女がすること、それは……。
「はーい、シュリ。高さはどう?」
「あ~、うん。ちょうどいい、かな」
シュリを抱っこして洗い物をしやすくすること。
アガサは役得、とばかりにほくほくしながら、自慢のおっぱいをシュリにむぎゅむぎゅ押しつけてくる。
「ね~、シュリ?」
「ん? なぁに??」
「おっぱいはどう~?」
「……」
アガサのどうしようもない質問に、答えようもなくて無言で答える。
だってなんて答えたらいいと?
おっぱい気持ちいいよ~、とでも??
だが、そんなシュリの気持ちなどいざ知らず、アガサはシュリの沈黙を許してはくれなかった。
「ね? 気持ちよくない?? 気持ちいい、でしょ?」
むにゅんむにゅんとシュリに胸を押しつけながら、アガサがしつこく問いかけてくる。
これは答えないと終わらないなぁ、とか、昨日も同じ様なやりとりをしなかったっけ、とか思いつつシュリはふぅ、と小さく息をつき、
「……気持ちいいよ」
不本意ながらもそう答える。
「ふふふ~。でしょぉ~?」
とアガサが満足そうににんまり笑う気配。
そこから後は、押しつけられるおっぱいに若干むずっとする己の男の子も、横からうらやましそうに眺めてくるジェスの視線も無視して、無心に洗い物を片づけた。
そうやって片づけも終わり、それぞれの部屋に引き上げた後、シュリは今日の功労者であるオーギュストの部屋を訪ねた。
タペストリーハウスの中で、下着の制作に没頭していたオーギュストだが、
「オーギュスト?」
「シュリか? どうした?」
ノックの後にそろりと顔をのぞかせた主の愛しい姿に、艶やかな笑みで答えた。
作業の手を取めて立ち上がり、シュリを出迎えたオーギュストは、主の体をひょいと抱き上げて部屋の中へ招く。
そしてそのまま、ベッドの縁に腰掛けた。
向かい合わせに、シュリを膝に乗せるような形で。
「何か、俺に用事か? やっかいごとならすぐに片づけてやるぞ?」
間近に見える、いくら見ていても飽きない愛くるしい姿に目を細めつつ問いかける。
ふっくらとしたその唇を今すぐふさいでしまいたい衝動を押し殺しながら。
「言ってみろ。お前の願いなら、俺が何でも叶えてやろう」
そう言って笑うオーギュストは、女性体なのに男前で、だが妖艶で美しく色気がだだ漏れになっている。
女でも男でも、うっかりしたらころっと参ってしまいそうな色気は、男性限定で垂れ流されているアガサの色気とは少し違う感じがした。
とはいえ、どっちの色気も危険なことに代わりはないだろうが。
多種多様な色気に耐性のあるシュリは、ちょっとくらりとした頭を振ってから、オーギュストの元へやってきた目的を告げる。
今日、オーギュストが頑張ったご褒美をあげにきたんだよ、と。
なにがいい? と問われたオーギュストは真面目な顔で首を傾げる。
そして部屋の中を見回し、それから再びシュリを見た。
「……前にシュリがマネキンとかいう人形をくれただろう?」
「マネキン? ああ、うん! 確かに」
問われたシュリはほんのり首を傾げ、それからすぐにその事を思い出す。
確か、オーギュストが女性の下着を作り始めるようになってすぐ、胸の大きさの変更可能なマネキンを作ってあげたのだ。
まあ、オーギュストだけ、という訳ではなく、セバスチャンにも男性と女性のマネキンをプレゼントしているけど。
あれば便利かなぁ、と思って作ってあげたのだが、2人にはかなり好評だった事を思い出しつつ、シュリはオーギュストを見上げた。
「えっと、マネキンがもっと欲しいの?」
「ああ、そうなんだが……」
「そっか。じゃあ、すぐに作ってあげるよ」
そう言うが早いか、シュリは土魔法を展開する。
マッドパペットを作る要領で、つるっとした女性体のマネキンを作り上げていく。
全体的に固く光沢ある感じに仕上げていくが、ある意味一番重要な胸部装甲だけは柔らかで揺れる素材で仕上げる。
大きさの変更が出来る点と、手足の可動性と取り外し可能な仕様は前回の通りだ。
頭に毛はなく、つるんとしているが、顔立ちは美人になるように心がけた。
そうして出来上がったマネキンを、シュリは満足そうに見上げ、それからそっとオーギュストの方へ押し出した。
「はい、どうぞ。オーギュスト。大切に使ってね!」
にっこり笑って引き渡すが、出来上がったシュリ渾身のマネキンをみるオーギュストの表情は複雑そうで。
シュリはきゅうっと首を傾げる。あれ、何か間違ったかな、と。
「シュリ……これはこれですごく嬉しいんだが、俺が欲しかったマネキンは少々特殊なやつでな」
「特殊?」
「ああ。俺が欲しいマネキンは、シュリだ!」
「僕??」
「そうだ。シュリの服を作る時に使う、シュリそっくりのシュリマネキンが欲しい」
「あ~。なるほどぉ」
シュリはようやくオーギュストの求めるところを理解して頷いた。
「えっと僕の体型のマネキンって事だよね?」
「体型だけでなく、全てをシュリそっくりで頼みたい。その方がインスピレーションがわくからな」
「え~? そういうもの??」
「そういうものだ」
不審そうなシュリの問いかけに、重々しくオーギュストが頷く。
いまいち説得力に欠けたが、これは元々オーギュストへのご褒美なわけだし、と己を納得させ、シュリは再び土魔法を展開した。
「ん~と、僕そっくり……そっくりね」
さほどの苦労もなくシュリは自分のコピーを作り上げる。
少しだけ身長を上乗せして。
だが、それを見ていたオーギュストからすぐに指摘が入る。
「ん? それじゃ少し大きいだろう?」
並べて見比べた訳じゃないのに、どうしてすぐにその差が分かるのか。
つっこみたい気持ちはあったが、あえて無言で身長を低く調整する。
こういうことはスルーするのが一番、ということを経験的にシュリはしっかり学んでいた。
下手に踏み込むと、シュリへの異常なまでの愛を延々と語られる羽目になることがとにかく多いのだ。
きっと今回もそのパターンだろう、とシュリは達観しつつ己型のマネキンの修正を終えた。
今のシュリと身長、体型共にぴったり同じになるように。
よし、これで文句はないだろう、とオーギュストを見上げると、彼女は目を細め、解せない、と言わんばかりにシュリのマネキンを凝視していた。
あれ、何でだろう、と首を傾げるシュリの前で、彼女はシュリ型のマネキンをするするとなで回し、そして最後につるりとした足の付け根をなで上げてとても不満そうな顔をした。
「え、えっと、何かご不満でも??」
そんな彼女の顔を見上げて恐る恐る尋ねる。
答えは半ば予測出来たが、これはオーギュストの為のご褒美なのだ。
彼女の意見も一応は聞いておかなければならないだろう、と。
「いや、いい出来だと思う。もう1人のシュリがそのままここへ出現したようだ。ただ……」
「た、ただ?」
言いながら、オーギュストはその長い指先を再びシュリマネキンの足の付け根に伸ばした。
マネキンの、股間とも言うべき場所に。
「どうしてないんだ?」
本物のシュリにはあるべきモノがついていないその場所をなで回しながら、オーギュストは心底不思議そうに尋ねてくる。
「え? だって洋服を作るのに必要ないでしょ?」
オーギュストの疑問に、シュリも真顔であっさり答えた。
彼女が求めたのは、作った服を着せたり、服をあわせたりする為のもの。
あの部分はその用途に必要なものでは無いはずだ。
「必要ないよね?」
必要だと言い張られてもソレを付け足す気は無いシュリは、にっこり笑顔で念を押す。
その笑顔の圧に若干押されつつ、だがオーギュストもそう簡単には引き下がるつもりはないようだった。
「……確かに必要はないかもしれないが、あった方が俺は嬉しい」
オーギュストは真顔でそう返してきた。
「出来れば取り替え部品もあると助かる」
「取り替え部品??」
「ああ。普段の可愛いのと、大きくなった猛々しいのと」
普段の可愛いの、というところに若干カチンとしたが、そこに触れるのはやめておく。
下手にそこへつっこむと、シュリのソコがいかに可愛いかを延々と語られ、大切に育てている男の子のプライドを粉々に粉砕されかねない、と思ったからだ。
「マネキンに必要な機能以外は却下で」
「そんな!?」
シュリの言葉にオーギュストはガーンとショックを受けたような顔をし、だがあきらめ悪く食い下がった。
「い、いや! ソコのパーツは必要だ!! ほら、シュリの下着を作る時に、大きくなったシュリをきちんと収納出来るか確認する為にも!!」
「僕のはまだおっきくならないから、必要ないです! 以上!!」
食い下がりはしたが、若干ご機嫌斜めなシュリにあっさり却下され。
オーギュストはがっくり肩を落とした。
そのオーギュストの目の前で、シュリは己の作品の仕上げをする。
自分の色と同じように彩色し、色の劣化と本体の破損を防ぐために全体をコーティングしておく。
これでシュリのマネキンは半永久的にその姿を保つことが出来るはずだ。
後で妙な細工をされないように、つるっとした股間の辺りは特に重点的にコーティングし、各関節の可動具合を確かめたシュリは満足そうに頷く。
そしてにっこり微笑むと、己の作品をオーギュストに贈呈した。
「はい、オーギュスト。僕の形のマネキンだよ。僕の分身だと思って大事に使ってあげてね。変なことに使ったり、よからぬ目的の誰かに貸し出したりしちゃダメだからね??」
ジュディス辺りが聞きつけてレンタルに来たら大変だ、とシュリはオーギュストにしっかり釘をさしておく。
ジュディスに限らず、愛の奴隷達のシュリに関する嗅覚は恐ろしいまでなので全く油断出来ない、という事実に若干遠い目になったシュリの手からオーギュストの手へ、シュリマネキンが移動する。
オーギュストは思った以上の出来のシュリマネキンを感動したように見つめ、興奮に頬を染めて己だけのシュリをぎゅうっと抱きしめた。
みしっときしんだ音に、シュリは慌てて強化のコーティングを重ね掛けする事になったが、オーギュストが嬉しそうなのでシュリとしても非常に満足だった。
「すばらしいシュリマネキンだ。感謝する、シュリ。このマネキンと共に精進して、お前の為の下着や服を沢山作るからな」
「うん。頑張ってね」
オーギュストの決意表明に、シュリは当然の事ながら応援を返す。
その言葉に、オーギュストは奮起した。
結果、レース好きのオーギュストがレースを多用した下着やら服を量産する事になり。
それを試着したシュリは絶妙に透ける己の体を見下ろして思うことになる。
あのとき、頑張れなんて言わなきゃ良かった、と。
そんな風にシュリは後悔することになるのだが、シュリの周囲の女性陣からは高評価を受け、シュリの意志とは裏腹にシュリのレース衣装は次から次へと作られる事に。
そんな風にシュリは困ることになるのだが、それはちょっぴり未来の話である。
色々やりきった感を漂わせたシュリが[月の乙女]の拠点に帰ってきたのは、夕ご飯の時間になる頃だった。
今日の食事当番はフェンリーだった様で、色合いにもこだわった見た目も華やかな料理が並んでいる。
フェンリーはこんな感じで結構女子力の高い料理を器用に作り、品数も多い。
逆にジェスは、細々作るのは面倒なタイプらしく、テーブルの中央に大皿料理がどかーんと置かれる感じだし、アガサは男の人が好きそうながっつりした精力補給に長けた食材をふんだん無く使ったこてこてな料理が得意なようだ。
[月の乙女]の拠点に滞在させてもらっている間は女性陣が交代で食事の準備をしてくれたが、みんなそれぞれの個性が満載で飽きがこない。
といっても、商都への滞在は今日で2日目だから、飽きようもないのだが。
ちなみに、初日に作ってくれたのがジェスで、2日目の今日がフェンリー。
アガサの料理に関しては話題に出ただけの情報だから、本当かどうか分からない。
ただそんなことを口に出すと、今度2人きりでごちそうするとか言われそうなので、余計な事は言わずにただにっこりしておいたが。
シュリは作ったいただいたものをせっせと口へ運び、おいしくいただいた後、昨夜同様、作ってもらったんだからと片づけを申し出た。
実際、それが[月の乙女]の決まり事らしく、昨日はジェスが作ったからフェンリーが片づけ、シュリはそれを手伝った形だ。
「今日も片づけを手伝うのね。じゃあ、私も手伝うわ」
アガサも妖艶に笑ってそう言い、立ち上がる。
といっても彼女の手伝いは食器を洗ったり拭いたりすることではない。彼女がすること、それは……。
「はーい、シュリ。高さはどう?」
「あ~、うん。ちょうどいい、かな」
シュリを抱っこして洗い物をしやすくすること。
アガサは役得、とばかりにほくほくしながら、自慢のおっぱいをシュリにむぎゅむぎゅ押しつけてくる。
「ね~、シュリ?」
「ん? なぁに??」
「おっぱいはどう~?」
「……」
アガサのどうしようもない質問に、答えようもなくて無言で答える。
だってなんて答えたらいいと?
おっぱい気持ちいいよ~、とでも??
だが、そんなシュリの気持ちなどいざ知らず、アガサはシュリの沈黙を許してはくれなかった。
「ね? 気持ちよくない?? 気持ちいい、でしょ?」
むにゅんむにゅんとシュリに胸を押しつけながら、アガサがしつこく問いかけてくる。
これは答えないと終わらないなぁ、とか、昨日も同じ様なやりとりをしなかったっけ、とか思いつつシュリはふぅ、と小さく息をつき、
「……気持ちいいよ」
不本意ながらもそう答える。
「ふふふ~。でしょぉ~?」
とアガサが満足そうににんまり笑う気配。
そこから後は、押しつけられるおっぱいに若干むずっとする己の男の子も、横からうらやましそうに眺めてくるジェスの視線も無視して、無心に洗い物を片づけた。
そうやって片づけも終わり、それぞれの部屋に引き上げた後、シュリは今日の功労者であるオーギュストの部屋を訪ねた。
タペストリーハウスの中で、下着の制作に没頭していたオーギュストだが、
「オーギュスト?」
「シュリか? どうした?」
ノックの後にそろりと顔をのぞかせた主の愛しい姿に、艶やかな笑みで答えた。
作業の手を取めて立ち上がり、シュリを出迎えたオーギュストは、主の体をひょいと抱き上げて部屋の中へ招く。
そしてそのまま、ベッドの縁に腰掛けた。
向かい合わせに、シュリを膝に乗せるような形で。
「何か、俺に用事か? やっかいごとならすぐに片づけてやるぞ?」
間近に見える、いくら見ていても飽きない愛くるしい姿に目を細めつつ問いかける。
ふっくらとしたその唇を今すぐふさいでしまいたい衝動を押し殺しながら。
「言ってみろ。お前の願いなら、俺が何でも叶えてやろう」
そう言って笑うオーギュストは、女性体なのに男前で、だが妖艶で美しく色気がだだ漏れになっている。
女でも男でも、うっかりしたらころっと参ってしまいそうな色気は、男性限定で垂れ流されているアガサの色気とは少し違う感じがした。
とはいえ、どっちの色気も危険なことに代わりはないだろうが。
多種多様な色気に耐性のあるシュリは、ちょっとくらりとした頭を振ってから、オーギュストの元へやってきた目的を告げる。
今日、オーギュストが頑張ったご褒美をあげにきたんだよ、と。
なにがいい? と問われたオーギュストは真面目な顔で首を傾げる。
そして部屋の中を見回し、それから再びシュリを見た。
「……前にシュリがマネキンとかいう人形をくれただろう?」
「マネキン? ああ、うん! 確かに」
問われたシュリはほんのり首を傾げ、それからすぐにその事を思い出す。
確か、オーギュストが女性の下着を作り始めるようになってすぐ、胸の大きさの変更可能なマネキンを作ってあげたのだ。
まあ、オーギュストだけ、という訳ではなく、セバスチャンにも男性と女性のマネキンをプレゼントしているけど。
あれば便利かなぁ、と思って作ってあげたのだが、2人にはかなり好評だった事を思い出しつつ、シュリはオーギュストを見上げた。
「えっと、マネキンがもっと欲しいの?」
「ああ、そうなんだが……」
「そっか。じゃあ、すぐに作ってあげるよ」
そう言うが早いか、シュリは土魔法を展開する。
マッドパペットを作る要領で、つるっとした女性体のマネキンを作り上げていく。
全体的に固く光沢ある感じに仕上げていくが、ある意味一番重要な胸部装甲だけは柔らかで揺れる素材で仕上げる。
大きさの変更が出来る点と、手足の可動性と取り外し可能な仕様は前回の通りだ。
頭に毛はなく、つるんとしているが、顔立ちは美人になるように心がけた。
そうして出来上がったマネキンを、シュリは満足そうに見上げ、それからそっとオーギュストの方へ押し出した。
「はい、どうぞ。オーギュスト。大切に使ってね!」
にっこり笑って引き渡すが、出来上がったシュリ渾身のマネキンをみるオーギュストの表情は複雑そうで。
シュリはきゅうっと首を傾げる。あれ、何か間違ったかな、と。
「シュリ……これはこれですごく嬉しいんだが、俺が欲しかったマネキンは少々特殊なやつでな」
「特殊?」
「ああ。俺が欲しいマネキンは、シュリだ!」
「僕??」
「そうだ。シュリの服を作る時に使う、シュリそっくりのシュリマネキンが欲しい」
「あ~。なるほどぉ」
シュリはようやくオーギュストの求めるところを理解して頷いた。
「えっと僕の体型のマネキンって事だよね?」
「体型だけでなく、全てをシュリそっくりで頼みたい。その方がインスピレーションがわくからな」
「え~? そういうもの??」
「そういうものだ」
不審そうなシュリの問いかけに、重々しくオーギュストが頷く。
いまいち説得力に欠けたが、これは元々オーギュストへのご褒美なわけだし、と己を納得させ、シュリは再び土魔法を展開した。
「ん~と、僕そっくり……そっくりね」
さほどの苦労もなくシュリは自分のコピーを作り上げる。
少しだけ身長を上乗せして。
だが、それを見ていたオーギュストからすぐに指摘が入る。
「ん? それじゃ少し大きいだろう?」
並べて見比べた訳じゃないのに、どうしてすぐにその差が分かるのか。
つっこみたい気持ちはあったが、あえて無言で身長を低く調整する。
こういうことはスルーするのが一番、ということを経験的にシュリはしっかり学んでいた。
下手に踏み込むと、シュリへの異常なまでの愛を延々と語られる羽目になることがとにかく多いのだ。
きっと今回もそのパターンだろう、とシュリは達観しつつ己型のマネキンの修正を終えた。
今のシュリと身長、体型共にぴったり同じになるように。
よし、これで文句はないだろう、とオーギュストを見上げると、彼女は目を細め、解せない、と言わんばかりにシュリのマネキンを凝視していた。
あれ、何でだろう、と首を傾げるシュリの前で、彼女はシュリ型のマネキンをするするとなで回し、そして最後につるりとした足の付け根をなで上げてとても不満そうな顔をした。
「え、えっと、何かご不満でも??」
そんな彼女の顔を見上げて恐る恐る尋ねる。
答えは半ば予測出来たが、これはオーギュストの為のご褒美なのだ。
彼女の意見も一応は聞いておかなければならないだろう、と。
「いや、いい出来だと思う。もう1人のシュリがそのままここへ出現したようだ。ただ……」
「た、ただ?」
言いながら、オーギュストはその長い指先を再びシュリマネキンの足の付け根に伸ばした。
マネキンの、股間とも言うべき場所に。
「どうしてないんだ?」
本物のシュリにはあるべきモノがついていないその場所をなで回しながら、オーギュストは心底不思議そうに尋ねてくる。
「え? だって洋服を作るのに必要ないでしょ?」
オーギュストの疑問に、シュリも真顔であっさり答えた。
彼女が求めたのは、作った服を着せたり、服をあわせたりする為のもの。
あの部分はその用途に必要なものでは無いはずだ。
「必要ないよね?」
必要だと言い張られてもソレを付け足す気は無いシュリは、にっこり笑顔で念を押す。
その笑顔の圧に若干押されつつ、だがオーギュストもそう簡単には引き下がるつもりはないようだった。
「……確かに必要はないかもしれないが、あった方が俺は嬉しい」
オーギュストは真顔でそう返してきた。
「出来れば取り替え部品もあると助かる」
「取り替え部品??」
「ああ。普段の可愛いのと、大きくなった猛々しいのと」
普段の可愛いの、というところに若干カチンとしたが、そこに触れるのはやめておく。
下手にそこへつっこむと、シュリのソコがいかに可愛いかを延々と語られ、大切に育てている男の子のプライドを粉々に粉砕されかねない、と思ったからだ。
「マネキンに必要な機能以外は却下で」
「そんな!?」
シュリの言葉にオーギュストはガーンとショックを受けたような顔をし、だがあきらめ悪く食い下がった。
「い、いや! ソコのパーツは必要だ!! ほら、シュリの下着を作る時に、大きくなったシュリをきちんと収納出来るか確認する為にも!!」
「僕のはまだおっきくならないから、必要ないです! 以上!!」
食い下がりはしたが、若干ご機嫌斜めなシュリにあっさり却下され。
オーギュストはがっくり肩を落とした。
そのオーギュストの目の前で、シュリは己の作品の仕上げをする。
自分の色と同じように彩色し、色の劣化と本体の破損を防ぐために全体をコーティングしておく。
これでシュリのマネキンは半永久的にその姿を保つことが出来るはずだ。
後で妙な細工をされないように、つるっとした股間の辺りは特に重点的にコーティングし、各関節の可動具合を確かめたシュリは満足そうに頷く。
そしてにっこり微笑むと、己の作品をオーギュストに贈呈した。
「はい、オーギュスト。僕の形のマネキンだよ。僕の分身だと思って大事に使ってあげてね。変なことに使ったり、よからぬ目的の誰かに貸し出したりしちゃダメだからね??」
ジュディス辺りが聞きつけてレンタルに来たら大変だ、とシュリはオーギュストにしっかり釘をさしておく。
ジュディスに限らず、愛の奴隷達のシュリに関する嗅覚は恐ろしいまでなので全く油断出来ない、という事実に若干遠い目になったシュリの手からオーギュストの手へ、シュリマネキンが移動する。
オーギュストは思った以上の出来のシュリマネキンを感動したように見つめ、興奮に頬を染めて己だけのシュリをぎゅうっと抱きしめた。
みしっときしんだ音に、シュリは慌てて強化のコーティングを重ね掛けする事になったが、オーギュストが嬉しそうなのでシュリとしても非常に満足だった。
「すばらしいシュリマネキンだ。感謝する、シュリ。このマネキンと共に精進して、お前の為の下着や服を沢山作るからな」
「うん。頑張ってね」
オーギュストの決意表明に、シュリは当然の事ながら応援を返す。
その言葉に、オーギュストは奮起した。
結果、レース好きのオーギュストがレースを多用した下着やら服を量産する事になり。
それを試着したシュリは絶妙に透ける己の体を見下ろして思うことになる。
あのとき、頑張れなんて言わなきゃ良かった、と。
そんな風にシュリは後悔することになるのだが、シュリの周囲の女性陣からは高評価を受け、シュリの意志とは裏腹にシュリのレース衣装は次から次へと作られる事に。
そんな風にシュリは困ることになるのだが、それはちょっぴり未来の話である。
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