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第一部 幼年期

第四十話 朝の風景

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 「お父様、おはようございます。それから、お帰りなさい」


 食堂に入ると、長女のフィリアが駆け寄ってきてカイゼルに抱きついた。
 カイゼルは、優しく可愛らしい娘を見つめ、愛おしそうに目を細めた。


 「おはよう、フィリア。昨日は遅くなってすまなかったね」

 「いいえ、お父様。色々大変なことがあったんでしょう?仕方ないわ」


 娘の柔らかな金髪を撫でてから、いつもの定位置へと腰掛ける。


 「あなた、おはようございます」

 「ああ、おはよう」


 エミーユの挨拶に、カイゼルは微笑み返事を返す。
 彼女はまだご機嫌斜めだ。
 早くシュリに会わて彼女の気持ちを解きほぐしたいと思うが、その時間がとれるのは午後になるだろう。
 それまでに、やるべき事を色々すませておかなくてはならない。
 そんなことを考えていると、娘達が続々と食堂に集まり始めた。


 「おとうさま、おはよう」


 ぼそりと抑揚がない声は、次女のリュミス。
 見た目は絶世の美少女なのだが、いかんせん愛想が足りない。悪い子ではないのだが変わり者だ。
 まあ、カイゼルは娘のそんなところも愛していたが。


 「父様、おはよう!!おみやげは?」


 元気のいい声は三女のアリスだ。カイゼルは苦笑しながら彼女の頭を撫でる。


 「すまんな、アリス。今回はおみやげはないんだ」

 「ちぇ~」


 唇を尖らせる様子も可愛らしい。アリスは快活で明るいところが魅力だ。


 「とーさま」


 最後に現れたのは、四女のミリシア。まだ小さな彼女は、侍女の腕の中からこちらを見ている。


 「おはよう、ミリシア」


 声をかけ、侍女の腕から娘を抱き上げる。
 会わなかったのはほんの数日なのに、なんだか大きくなったような気がする。
 子供というものは、本当に成長が早い。何とも愛おしく、目を離し難い生き物だった。

 娘を抱きながら、カイゼルはまたシュリの事を考えていた。
 幼くして父を亡くした子供。不思議な魅力の、愛おしい甥っ子の事を。
 シュリのことを思いながら、カイゼルはミリシアを再び侍女の腕に返す。

 それから、個性豊かな4人の娘を順繰りに見つめた。
 さて、シュリはどの娘を気に入るだろうか?
 なんだったら、4人まとめてシュリに嫁がせてもいいんだがなと気の早いことを考えながら、カイゼルは食前の祈りを皆に促す。そして食事を始めた。
 朝食後、ジョゼの死をどうやって娘達に話したものかと考えながら。






 娘達への話は、上手くいった。
 ジョゼの死についてきちんと話をし、それぞれに理解させられたと思う。

 従兄弟になるシュリに関しても、娘達の反応はまずまずだった。
 特にフィリアは、シュリに会うのを楽しみにしているようだ。
 シュリとの結婚云々はともかく、まずは子供らしく仲良く過ごすようになってくれればと思う。
 シュリにも、そういう年の近い相手が必要だろう。だが、娘達の方がシュリより少々年長だ。
 そう考えると、シュリの世話役ー乳母も探さないといけないかもしれない。
 娘達の時は特に用意しなかったが、同じ年頃の乳兄弟が出来ればシュリも嬉しいかもしれない。
 早速ジュディスに探させようと、カイゼルは心のメモ帳に書き込んだ。

 そんなことを徒然考えながら、カイゼルは別棟で生活している両親の元へと向かっていた。
 彼らにも、ジョゼの死を伝えなければならない。そして、新たな孫の存在も。
 父も母も、ジョゼの死を大いに悲しみ、シュリの存在に喜びを感じることだろう。
 早く色々と手配をすませて、シュリを屋敷に連れ帰り、祖父母と対面させてやりたいものだと、カイゼルは再びシュリの事を考えるのだった。





 ジョゼの死を伝えると、老いた母は泣き崩れ、父は歯を食いしばった。そんな彼らの姿を見て、カイゼルも思わず己の目が涙で熱くなるのを感じた。
 3人で心ゆくまで悲しみの気持ちを共有し、それからシュリの話をした。

 彼らはすぐにでもシュリに会いたがったが、とりあえずもう少し待ってもらう事にした。
 まずは、シュリの将来について母親であるミフィーと腹を割って話し合う必要があったから。
 だが、なるべく早く祖父母と孫の対面を叶えるつもりではあったが。

 持ち帰ったジョゼの腕は埋葬の準備が整うまで、凍らせたまま箱に入れ、両親の元に安置しておくことになった。
 特に葬儀は行わず、家族だけでひっそり埋葬することになるだろう。ミフィーやシュリが、もう少し落ち着くのを待って。

 それにはまず、なんとしてでも妻にシュリやミフィーを受け入れて貰わないとーそんなことを考えながら、カイゼルは馬車の中、自分の傍らに座る妻の横顔を盗み見た。

 彼女はちらりともこちらを見ようともしない。
 こみ上げるため息を飲み込んで、カイゼルは馬車の窓から見える町並みへと目を移す。
 エミーユも、シュリに会えばきっと分かってくれるーそう自分に言い聞かせながら。

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