♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第二部 少年期のはじまり

第百六十九話 ダメっぽくてもやっぱり龍は龍でした

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 「さくら、タマとポチをお願い!タマ、ポチ、とりあえずそこで見てて!」


 シュリは叫び、[モード・チェンジ]で獣人形態へ。
 そのまま、ブレスに次いで繰り出された、堅い鱗に覆われた極太の尻尾による攻撃を避けて、イルルの足下へと入り込む。
 そして、ひょいひょいっとその体を駆け上がると、その脳天に思いっきり拳を落とした。

 普通であれば、悲鳴を上げるのは相手の方だ。弱い相手なら、悲鳴を上げるまもなく絶命する事だろう。
 しかし、今回悲鳴を上げたのはシュリの方だった。
 表皮が破れ、血がにじんでジンジン痛む拳を舌で舐めて癒しながら、シュリは激しく暴れてシュリを振り落とそうとする龍の背中から身軽に飛び降りる。


 「痛いのじゃ~~!!なにするのじゃっ!!!」


 一応痛みは感じたようだから、若干のダメージは通ったのだろう。
 だが、武器なしで倒すのは難しそうだと、シュリはクリエイトスキルで武器を作り出した。
 いきり立ったイルルが振り下ろした爪の隙間を縫うように避けながら、手元に出てきた武器を見下ろす。
 それは、なんだか大きな丸薬の様なものだった。


 (えっと……これ、武器??)


 ついついそんな疑問が浮かんでしまう形状である。


 (手榴弾的な何かなのかなぁ??)


 と思いつつ、その武器らしきものの効能をチェックする。


・びっくりするくらい体が敏感になる丸薬:これを飲むと、すべての感覚が十倍以上鋭敏になる。(注:効果には個体差があります)龍でも十分効果が出るビッグサイズ。飲ませるのは大変だけど、さあ、レッツ・チャレンジ!


 (うん……やっぱり僕のために作られる武器は大概がおかしい)


 何でだろうなぁと遠い目をしつつ、だが、せっかく出てきた武器だから使わないのはもったいないと、シュリはイルルの攻撃をかいくぐりながらその隙を探る。
 この丸薬を飲ませるにしても、まずはあのでっかい口元にいかなければならないだろう。
 そして、どうにかして口を開けさせて、この薬を飲ませる。
 言葉で言うのは簡単だが、実行するのは非常にやっかいだ。


 (やっかいだけど、なんとかしないとなぁ)


 振り下ろされた腕を避けて、ひょいとその腕に飛び乗り駆け上がる。
 イルルの口元を目指して。


 (えっと、まずは口をこじあけてぇ……)


 シュリはイルルの肩口から、その口元へと勢いよく跳び蹴りを食らわせた。


 「ぐわっ」


 と悲鳴を上げたイルルの牙と牙の隙間がわずかに開いた隙を逃さずに、その隙間に体をねじ込むようにしてこじ開ける。
 そして、こじ開けた隙間から、びっくりするくらい体が敏感になる丸薬を喉の奥に向かって放り投げた。


 「なっ、なんじゃ!?妾の口になにを??」


 困惑の声を上げるイルルを無視して、シュリは前世でどこからともなく仕入れていた豆知識・ペットに薬を飲ませる方法を思い出しつつ実行していく。


 (薬を喉の奥の方に入れたら、口を……閉じさせるっ!!)


 イルルの口から地面へと飛び降りたシュリは、うげぇ、なんかまずい気がするのじゃ、と騒ぐ彼女の隙だらけの顎に向かって跳躍し、勢いよく頭突きをお見舞いした。
 見事なアッパーを食らったイルルの顔が上を向き、無防備にさらされる。


 (んで、最後は上を向かせて、喉を優しくさする、だよねっ)


 頭突きの後、地面に向かってフリーフォールしながら、パパパパパンっとイルルの喉にリズミカルなジャブをプレゼント。
 その刺激を受けたイルルの喉が、ゴクリと動く。


 「む、むが~~!!の、飲んでしまったのじゃあぁぁ!!」


 その叫びを聞いて、シュリはほっとしたように笑う。
 よし、これで下地は出来た、と。
 イルルに飲ませた丸薬の効果が確かなら、彼女の感覚は普段の十倍以上になっているはず。
 味覚や嗅覚、皮膚の触覚、そして痛覚も。


 (よ~し、じゃあ、思いっきり嫌がらせをしちゃおうか)


 にやりと笑ったシュリは、再び武器を呼び出す。ここで極普通の武器が作り出されたら正直興ざめだが、いつものパターンなら……
 そう思いながら、自分の手の中に作り出された武器に目を落とす。
 それを見て、シュリはにぃと笑った。


 (そうそう。今回のパターンなら、こういう感じじゃないと面白くないよね)


・発酵しまくりのクサヤ:ご存じの通り、臭いが旨いのがクサヤだが、その域をはるかに通り越したクサヤ。味覚と嗅覚に訴える究極の臭さ。一度食べたら病みつきになる……かも?(注:一応食用です)
 

 (ふうん。最初の標的は味覚と嗅覚、かぁ)


 にやりと悪い笑みを浮かべて通常より大きめサイズのクサヤをしっかりと掴むと、匂いが周囲に漏れないように空気の膜でコーティング。
 用意周到に準備してシュリは再びイルルの口元めがけて飛び上がった。そして、


 「お口直しの魚だよ~」


 にっこり微笑んでそう声をかける。


 「む?口直し??機嫌をとっても無駄じゃが、中々気が利くのう。魚は好物じゃ」

 「良かった。僕の故郷の名産なんだ。食べてみてよ。よーく噛んでね??はい、あーん」

 「うむ!あ~~~」


 大きく開けられた口の中へ、手に持っていた特大のクサヤを投げ入れる。
 すぐにバクンと閉じられた口を見ながら地面へ降り立ち、シュリはちょっと離れた所でイルルの様子を見守る。


 「んむ、これは中々うまみが……うまみが……くっ、くっさ!!くさいのじゃあぁぁ!!は、鼻と目がツーンとするのじゃあぁぁぁ!!口が臭くて、鼻が臭くて……な、涙で……涙で前がみえんのじゃあぁぁ……」


 鼻と目と口を両手で覆って、龍の巨体がゴロゴロと転げ回る。
 シュリは距離をとって、それを危なげなく回避した。


 「シュリ……結構えげつないわね」


 いったん戦線を離脱してさくら達の元へ行くと、さくらから驚愕の眼差しを向けられた。


 「んん~?そう??」

 「ええ。えぐい攻撃だわ」

 「そっかなぁ~??」

 「……でも、そんな容赦のない所も素敵だわ」


 ぽっと頬を赤くするさくら。


 (容赦ないって言われるほど、ひどい事をしてるつもりは無いけどなぁ?怪我もさせてないし)


 シュリは首を傾げながら、さくらのツボが良くわからないなぁと思いつつ、油断なくイルルを見つめる。
 彼女がシュリの攻撃の影響下から脱するまで、もうしばらく時間がかかりそうだった。
 
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