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第四部 王都の新たな日々
第408話 夏の休暇のお約束①
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Q:夏遊びの定番と言えばなんでしょう?
A:水遊び
そう、水遊び。
プールに行ったり、海に行ったり。暑い夏を乗り切るために、水の中で遊んで涼をとる。
こちらの世界でもそれは同じらしく、夏の水遊びに定番の水着もちゃんとある。
機能的にもデザイン的にも前世の水着の方が先をいっているが、こちらの水着もそんなに悪くない。
前世で出回っていたものより若干保守的なデザインのものが多いが、それももうじき変わってくるだろう。
なぜならば、オーギュストの[悪魔の下着屋さん]で水着も扱うことが決まったからだ。
きっかけは今回の旅行のための水着をオーギュストに依頼したこと。
それを耳にした愛の奴隷達が、シュリ様と水遊びが出来るファランとアズランがうらやましすぎる、と状態異常を起こしかねない状況になったので、シュリは提案した。
帝国から戻ったら、水遊びに出かけよう、と。
その結果、女性陣からの水着の発注が殺到したオーギュストは、下着とはまた違う水着デザインの魅力にハマったらしく、もっと色々作ってみたい、と言いはじめ。
どうせ作るのならば収益に繋げましょう、とジュディスが商売っ気を出し、シュリの許可を受けて、水着の商品化が決定した。
そんな訳でシュリが今回渡された水着は男性用水着の試作品らしい。
愛の奴隷達女性陣と相談しながら作り上げたものらしいが、渡してくれた時のオーギュストの釈然としないような表情と、愛の奴隷達のとってもいい笑顔が、なんだかシュリを不安にさせた。
とはいえ、試作品と言うからには着用して感想を伝えなければならない。
そんなことを考えつつ、がさがさと袋を開けて中身を取り出したシュリの目が半眼になる。
取り出した水着は2つ。
どちらも非常に布地が少なく、非常に攻め攻めのデザインだった。
即座にオーギュストに念話をつなぐ。
(オーギュスト?)
(どうした? シュリ)
(渡された水着なんだけどさ……)
(そうか。見たのか)
(見たよ! どうなの!? あれ!?)
(いや、俺もどうかとは思ったんだが、ジュディス達が絶賛するものでな。人間の男の嗜好とはそういうものか、と)
(そんな訳ないでしょ!? あり得ないよ!!)
(そうか。シュリがいうならそうなんだろうな。で、どうだった?)
(どう、って。ダメダメだよ!!)
(どの辺りがダメだったんだ? 詳しく頼む)
どうやら、ダメっていうだけじゃ説明不足のようだ。
仕方ないなぁ、とシュリは渋々水着を身につけてみた。
サイズはぴったりだが、なんだか色々と落ち着かない。
(まず、1個目からいくよ? 布地が少ない、ぴっちりすぎて落ち着かない、Tバックな後ろがお尻に食い込む。っていうか、なんでTバックなの!?)
(ぷりっとしたキュートなお尻を隠してしまうなど犯罪です、と言われてな)
(……それ言ったの、シャイナでしょ)
(どうして分かった?)
(シャイナは僕のお尻が大好きだから! まあ、百歩譲って僕はまだいいよ? だって子供だし。でも、これを大人の男の人が身につけたら大変な事になるよ!? 大人になるとあるでしょ!? 隠しきれないもっこりとかもじゃもじゃとか!!)
(確かに、そうだな)
(水遊びに出かけて、もっこりとかもじゃもじゃとかごついお尻とかを奔放に見せびらかすマッチョさん達を見たいの!?)
(それは……。出来ればあまり、見たくはないな)
(なら、もうちょっと無難なデザインを考えておこうよ!?)
(わかった。そうしよう。じゃあ、1つ目のデザインは却下、と。シュリ、もう1つの方はどうだった?)
(……待って。着たくないけど、一応着てみるから)
言いながら、シュリはもう1つの水着を身につけた。
下のデザインは、まあ、さっきのよりは普通より。
だが、上もあるのはなぜだろう。
女性が身につけるビキニよりは布地が少ないがちょうど胸のある場所を隠せるデザインになっている。
だが、考えるより聞くが易し。
シュリは素直に問いかけた。
(ねえ、オーギュスト)
(なんだ?)
(男性用の水着なのに、何で上もあるの?)
(ああ、それか。シュリの可愛い乳首を周囲に見せびらかして、周りの奴らが野獣に変わったら大変だから、とのアドバイスがあってな)
(それ、カレンだね)
(よく分かったな?)
(まあ、みんなの趣味嗜好は僕が1番よく知ってるからね。じゃあ、次の質問。生地が透けそうに薄いのは何で?)
(透けそうもなにも、水にはいるとほぼ透明になるな)
(なんで!?)
(いや、水の中ではありのままの姿が1番美しい……いや、美味しそうだから、だったか?)
(ルビスとアビスには後で、ありのままの姿で泳げるような人には、水着なんて必要ないんだよって教えてあげなきゃいけないみたいだね……)
(そうだな。確かに、裸で大丈夫な奴に水着はいらないな)
(でしょ? じゃあ、最後の質問だけど)
(ああ)
(この水着、どうして鍵がついてるの?)
(それはだな。ありのままのシュリは素晴らしいが、よこしまな気持ちを抱く輩に襲われたら大変だから、と)
(ジュディスか……)
(ああ。無理に開けようとすると、毒が噴射する仕組みになっている)
(物騒すぎるでしょ!?)
(大丈夫だ。死にはしない。目に効果的な神経毒だからな。せいぜい目が見えなくなるくらいだ)
(十分危ないから!!)
ちょっとやりすぎな防犯対策に突っ込みつつ、シュリは使えない水着を脱いだ。
(とにかく、これも却下ね! さっきも言ったように、もっと普通の水着の試作をよろしく。試作品は僕がチェックするからね。もちろん、男性用だけじゃなく、女性用もだよ? ジュディス達に任せておくと、過激な水着ばっかりになっちゃいそうだし)
(了解した。シュリが戻ったら確認してもらえるように準備しておこう)
(よろしく。じゃあ、またね? みんなによろしく)
オーギュストとの念話を終えたシュリは、うーんと唸って腕を組む。
水着のリテイクは出来たけど、今日着る水着がなくなった、と。
モノ自体を突っ返した訳じゃないので、現物はもちろんこの場に残っているのだが、あれらを身につけてみんなときゃっきゃうふふする勇気は、シュリにはない。
(まあ、今日のところは[カメレオン・チェンジ]でしのいでおこうかな)
そういう意味ではオーギュストに水着を作ってもらわなくても良かったのだが、スキルで作った衣類より、オーギュストが丁寧に作ってくれた衣類の方が着心地がいい。
下着や水着のような、素肌に直接身につけるようなものは特に。
なので今回の水着もオーギュストに制作をお願いすることにしたのだが、デザインもしっかり自分でチェックしておくべきだった。
などと思いつつシュリは過激すぎる水着を念入りに封印し、己のスキルで無難なデザインの水着を作ってさっさと身につけた。
◆◇◆
「シュリ、準備は出来た?」
ノックの後、そんな言葉とともにファランが顔をのぞかせた。
「うん。大丈夫だよ」
答えつつ、ベッドから立ち上がったシュリを、ファランは遠慮なくじぃっと見つめた。
「な、なに?」
「……なんだか無難な水着だわ、って思って」
「え~? 男子の水着なんてこんなもんじゃない? アズランだって僕みたいな水着でしょ?」
「アズランはいいのよ。別にどんな水着でも。だけどシュリは、お抱えの下着デザイナーがいるくらいだし、きっと新しい奇抜な水着を用意してると思って楽しみにしてたのに」
期待はずれだと言わんばかりのファランの目から逃れるように、シュリはそっと視線をそらす。
奇抜な水着は、実はある。
荷物の奥底に封印した、あり得ない奇抜さの水着が。
もしファランに見つかったら、絶対にそっちにしろと言われそうだから、絶対に見つかるわけにはいかないが。
「……あ、新しい水着は、まだ開発中なんだよ。この夏中に売り出せるように頑張ってるけど、今年はモニターに配るだけになるかも。量産するのがちょっと厳しいし」
「ふぅん。女性用もあるの?」
「もちろん! むしろ下着同様、水着の主力も女性用だよ。男性用はついでにちょっと売り出すくらい、かな」
「じゃあ、そのモニターってやつに、私も立候補しようかしら? 新しいデザインの水着に興味があるし」
「ほんと? じゃあ、うちのデザイナーに伝えておくよ」
そんな会話をしながら部屋を出る。
ファランに気づかれることなく、奇抜な水着の埋蔵場所から離れられたことにほっとしつつ、シュリは改めてファランの水着姿を眺めた。
こちらの女性用水着は、ノースリーブの短パン丈のつなぎに短いスカートがついたようなデザインが多い。
布は水を吸っても重くなりにくいものが選ばれ、背中側についた伸縮性のあるひもを締めて水の中でも脱げにくいようにしっかりと体に密着させる。
シュリは、ファランの背中の、コルセットのようにしっかり締められた紐を見ながら、
「それ、苦しくないの?」
と素直な疑問を口にした。
「ん~。全く苦しくないと言えば嘘になるけど、布も紐も柔らかな素材だし、それほどでもないわよ? そこまできつく締めてないし。スタイルをよく見せようとしてあんまりぎゅうぎゅう締めると泳げなくなっちゃうしね。シュリは、水着見るの初めてなの?」
「うん。僕の育った場所はどちらかというと山の方だったし、近くに大きな湖もなかったし」
「ふぅん。そうなのね……で、どう?」
シュリの答えを聞いたファランは、なにを考えたのかその場でくるんとまわり、可愛らしくポーズを決めて見せた。
どう? 、と言われても、と思いつつ、感想を求められたシュリは小首を傾げてまじまじと彼女を見つめる。
「えっと、可愛いよ?」
「ありがと。でもやっぱりシュリは面白くないわね~」
「え!? どうして??」
「普通、初めて女の子の水着姿をみた男の子ってもっとドギマギするものじゃない? 顔を真っ赤にしたり、目を泳がせたり、ちらちら足とか胸元を見たり」
「あ、なるほど!!」
「アズランなんか、いまだに真っ赤になって直視できないのよ? 夏は毎年ここで水遊びをするし、もう慣れてもいいと思うのに」
「あ~。アズランは純情だからねぇ」
「アズランは純情すぎだけど、シュリは女に慣れすぎなのよ!!」
唇を尖らせ再び歩き始めたファランにそう指摘され、シュリは苦笑しつつ彼女の後をついて歩く。
そうして屋敷の中を通り抜け、裏口から外にでると、そこはルキーニア公爵家の別荘に隣接する、プライベートな湖岸だった。
「シュリ、水はまだちょっと冷たいけど気持ちいいぞ!」
先に来ていたらしいアズランが、湖の中からシュリを呼ぶ。
「うん、すぐいくよ。でも、準備運動してからね」
アズランの誘いにそう答えてから、シュリは早速準備運動を始めた。
そんなシュリを横目に、
「準備運動? シュリって真面目よね。私はレセルお兄さま達が合流してから水に入ることにするわ」
ファランはそう言って、日除けの下の敷物に腰をおろす。
(きっとレセルに、可愛くセットした髪型とか、水に濡れる前の水着とか見せたいんだろうなぁ)
なんて微笑ましく思いつつ、せっせと準備運動をこなす。
そうこうしているうちに、ジェスが遅れてやってきた。
仮面を付けたジェスも、もちろん水着姿だ。
でも、護衛として色々気にせずに動けるようになのか、少々布地が多めの水着だった。
彼女はシュリの姿を見つけると駆け寄ってきて、
「シュリ、遅れてすまない。だが、頼まれた手はずは整えてあるぞ」
そう耳打ちをした。
「ありがとう、ジェス。後は彼女の到着を待つばかりだね。到着したらイルル達が誘導してくれる事になってるから、僕らの次の仕事は彼女が姿を現したとき、かな」
「ああ。そうだな。うまくいくといいが」
「うん。そうだね。ジェス?」
「なんだ? シュリ」
「水着、似合ってる。きれいだよ」
「っっ……!!」
シュリのほめ言葉に、ジェスは一瞬でその首筋までもを赤く染めた。
「いっ、いや、だが、私のは、騎士が水練に使う無骨な水着で……。その、オーギュスト殿が試作品だと持たせてくれた水着もあったんだが、どうにも布地が少ないし、護衛として動くのに心許ない気がしてな」
「うん、その気持ちはよく分かる」
「うん?」
「ううん。なんでもない。でもそっか。騎士が訓練する時に使う水着なんだね」
「ああ。動きやすいし、それなりに防御力の高い布地で仕立てられているから、戦闘職には都合がいいんだ。だから、騎士は男も女もこの水着を身につける事が多くてな」
「男の人も?」
「そうだぞ。いざ戦わねばならぬ状況に陥った場合に、上半身が裸では心許ないだろう?」
「なるほど。確かに」
「まあ、一般的には、シュリのようなタイプの水着が主流だがな。シュリも、その、似合ってるぞ」
ジェスは恥ずかしそうにシュリの水着姿をちらちら見ながら、そう褒めてくれた。
「ありがと、ジェス」
褒め言葉を素直に受け止め、お礼を言うと、彼女はどこかホッとしたような、ちょっぴり残念そうな顔で言葉を続けた。
「出がけにジュディス殿から、シュリの水着は過激だから、理性を失って襲いかからないように、と厳しく言い含められていたから、内心ドキドキしていたんだ」
「そ、そう」
「理性を保たねば危険だと言われていたんだが、その水着なら理性を保てそうで安心だ。まあ、ちょっとドキドキはするがな」
「そ、そうだね?」
「そう言えば、鍵には気をつけろ、と言われていたんだが……」
「鍵……鍵かぁ」
「鍵って、なんのことだったんだろうなぁ?」
「さ、さあ? なんのことだったんだろーねぇ?」
ははは、と乾いた笑い声で誤魔化しつつ、シュリは全力でとぼけた。
そして、準備運動を終えたタイミングで、アズランの待つ水の中へと逃げ出したのだった。
A:水遊び
そう、水遊び。
プールに行ったり、海に行ったり。暑い夏を乗り切るために、水の中で遊んで涼をとる。
こちらの世界でもそれは同じらしく、夏の水遊びに定番の水着もちゃんとある。
機能的にもデザイン的にも前世の水着の方が先をいっているが、こちらの水着もそんなに悪くない。
前世で出回っていたものより若干保守的なデザインのものが多いが、それももうじき変わってくるだろう。
なぜならば、オーギュストの[悪魔の下着屋さん]で水着も扱うことが決まったからだ。
きっかけは今回の旅行のための水着をオーギュストに依頼したこと。
それを耳にした愛の奴隷達が、シュリ様と水遊びが出来るファランとアズランがうらやましすぎる、と状態異常を起こしかねない状況になったので、シュリは提案した。
帝国から戻ったら、水遊びに出かけよう、と。
その結果、女性陣からの水着の発注が殺到したオーギュストは、下着とはまた違う水着デザインの魅力にハマったらしく、もっと色々作ってみたい、と言いはじめ。
どうせ作るのならば収益に繋げましょう、とジュディスが商売っ気を出し、シュリの許可を受けて、水着の商品化が決定した。
そんな訳でシュリが今回渡された水着は男性用水着の試作品らしい。
愛の奴隷達女性陣と相談しながら作り上げたものらしいが、渡してくれた時のオーギュストの釈然としないような表情と、愛の奴隷達のとってもいい笑顔が、なんだかシュリを不安にさせた。
とはいえ、試作品と言うからには着用して感想を伝えなければならない。
そんなことを考えつつ、がさがさと袋を開けて中身を取り出したシュリの目が半眼になる。
取り出した水着は2つ。
どちらも非常に布地が少なく、非常に攻め攻めのデザインだった。
即座にオーギュストに念話をつなぐ。
(オーギュスト?)
(どうした? シュリ)
(渡された水着なんだけどさ……)
(そうか。見たのか)
(見たよ! どうなの!? あれ!?)
(いや、俺もどうかとは思ったんだが、ジュディス達が絶賛するものでな。人間の男の嗜好とはそういうものか、と)
(そんな訳ないでしょ!? あり得ないよ!!)
(そうか。シュリがいうならそうなんだろうな。で、どうだった?)
(どう、って。ダメダメだよ!!)
(どの辺りがダメだったんだ? 詳しく頼む)
どうやら、ダメっていうだけじゃ説明不足のようだ。
仕方ないなぁ、とシュリは渋々水着を身につけてみた。
サイズはぴったりだが、なんだか色々と落ち着かない。
(まず、1個目からいくよ? 布地が少ない、ぴっちりすぎて落ち着かない、Tバックな後ろがお尻に食い込む。っていうか、なんでTバックなの!?)
(ぷりっとしたキュートなお尻を隠してしまうなど犯罪です、と言われてな)
(……それ言ったの、シャイナでしょ)
(どうして分かった?)
(シャイナは僕のお尻が大好きだから! まあ、百歩譲って僕はまだいいよ? だって子供だし。でも、これを大人の男の人が身につけたら大変な事になるよ!? 大人になるとあるでしょ!? 隠しきれないもっこりとかもじゃもじゃとか!!)
(確かに、そうだな)
(水遊びに出かけて、もっこりとかもじゃもじゃとかごついお尻とかを奔放に見せびらかすマッチョさん達を見たいの!?)
(それは……。出来ればあまり、見たくはないな)
(なら、もうちょっと無難なデザインを考えておこうよ!?)
(わかった。そうしよう。じゃあ、1つ目のデザインは却下、と。シュリ、もう1つの方はどうだった?)
(……待って。着たくないけど、一応着てみるから)
言いながら、シュリはもう1つの水着を身につけた。
下のデザインは、まあ、さっきのよりは普通より。
だが、上もあるのはなぜだろう。
女性が身につけるビキニよりは布地が少ないがちょうど胸のある場所を隠せるデザインになっている。
だが、考えるより聞くが易し。
シュリは素直に問いかけた。
(ねえ、オーギュスト)
(なんだ?)
(男性用の水着なのに、何で上もあるの?)
(ああ、それか。シュリの可愛い乳首を周囲に見せびらかして、周りの奴らが野獣に変わったら大変だから、とのアドバイスがあってな)
(それ、カレンだね)
(よく分かったな?)
(まあ、みんなの趣味嗜好は僕が1番よく知ってるからね。じゃあ、次の質問。生地が透けそうに薄いのは何で?)
(透けそうもなにも、水にはいるとほぼ透明になるな)
(なんで!?)
(いや、水の中ではありのままの姿が1番美しい……いや、美味しそうだから、だったか?)
(ルビスとアビスには後で、ありのままの姿で泳げるような人には、水着なんて必要ないんだよって教えてあげなきゃいけないみたいだね……)
(そうだな。確かに、裸で大丈夫な奴に水着はいらないな)
(でしょ? じゃあ、最後の質問だけど)
(ああ)
(この水着、どうして鍵がついてるの?)
(それはだな。ありのままのシュリは素晴らしいが、よこしまな気持ちを抱く輩に襲われたら大変だから、と)
(ジュディスか……)
(ああ。無理に開けようとすると、毒が噴射する仕組みになっている)
(物騒すぎるでしょ!?)
(大丈夫だ。死にはしない。目に効果的な神経毒だからな。せいぜい目が見えなくなるくらいだ)
(十分危ないから!!)
ちょっとやりすぎな防犯対策に突っ込みつつ、シュリは使えない水着を脱いだ。
(とにかく、これも却下ね! さっきも言ったように、もっと普通の水着の試作をよろしく。試作品は僕がチェックするからね。もちろん、男性用だけじゃなく、女性用もだよ? ジュディス達に任せておくと、過激な水着ばっかりになっちゃいそうだし)
(了解した。シュリが戻ったら確認してもらえるように準備しておこう)
(よろしく。じゃあ、またね? みんなによろしく)
オーギュストとの念話を終えたシュリは、うーんと唸って腕を組む。
水着のリテイクは出来たけど、今日着る水着がなくなった、と。
モノ自体を突っ返した訳じゃないので、現物はもちろんこの場に残っているのだが、あれらを身につけてみんなときゃっきゃうふふする勇気は、シュリにはない。
(まあ、今日のところは[カメレオン・チェンジ]でしのいでおこうかな)
そういう意味ではオーギュストに水着を作ってもらわなくても良かったのだが、スキルで作った衣類より、オーギュストが丁寧に作ってくれた衣類の方が着心地がいい。
下着や水着のような、素肌に直接身につけるようなものは特に。
なので今回の水着もオーギュストに制作をお願いすることにしたのだが、デザインもしっかり自分でチェックしておくべきだった。
などと思いつつシュリは過激すぎる水着を念入りに封印し、己のスキルで無難なデザインの水着を作ってさっさと身につけた。
◆◇◆
「シュリ、準備は出来た?」
ノックの後、そんな言葉とともにファランが顔をのぞかせた。
「うん。大丈夫だよ」
答えつつ、ベッドから立ち上がったシュリを、ファランは遠慮なくじぃっと見つめた。
「な、なに?」
「……なんだか無難な水着だわ、って思って」
「え~? 男子の水着なんてこんなもんじゃない? アズランだって僕みたいな水着でしょ?」
「アズランはいいのよ。別にどんな水着でも。だけどシュリは、お抱えの下着デザイナーがいるくらいだし、きっと新しい奇抜な水着を用意してると思って楽しみにしてたのに」
期待はずれだと言わんばかりのファランの目から逃れるように、シュリはそっと視線をそらす。
奇抜な水着は、実はある。
荷物の奥底に封印した、あり得ない奇抜さの水着が。
もしファランに見つかったら、絶対にそっちにしろと言われそうだから、絶対に見つかるわけにはいかないが。
「……あ、新しい水着は、まだ開発中なんだよ。この夏中に売り出せるように頑張ってるけど、今年はモニターに配るだけになるかも。量産するのがちょっと厳しいし」
「ふぅん。女性用もあるの?」
「もちろん! むしろ下着同様、水着の主力も女性用だよ。男性用はついでにちょっと売り出すくらい、かな」
「じゃあ、そのモニターってやつに、私も立候補しようかしら? 新しいデザインの水着に興味があるし」
「ほんと? じゃあ、うちのデザイナーに伝えておくよ」
そんな会話をしながら部屋を出る。
ファランに気づかれることなく、奇抜な水着の埋蔵場所から離れられたことにほっとしつつ、シュリは改めてファランの水着姿を眺めた。
こちらの女性用水着は、ノースリーブの短パン丈のつなぎに短いスカートがついたようなデザインが多い。
布は水を吸っても重くなりにくいものが選ばれ、背中側についた伸縮性のあるひもを締めて水の中でも脱げにくいようにしっかりと体に密着させる。
シュリは、ファランの背中の、コルセットのようにしっかり締められた紐を見ながら、
「それ、苦しくないの?」
と素直な疑問を口にした。
「ん~。全く苦しくないと言えば嘘になるけど、布も紐も柔らかな素材だし、それほどでもないわよ? そこまできつく締めてないし。スタイルをよく見せようとしてあんまりぎゅうぎゅう締めると泳げなくなっちゃうしね。シュリは、水着見るの初めてなの?」
「うん。僕の育った場所はどちらかというと山の方だったし、近くに大きな湖もなかったし」
「ふぅん。そうなのね……で、どう?」
シュリの答えを聞いたファランは、なにを考えたのかその場でくるんとまわり、可愛らしくポーズを決めて見せた。
どう? 、と言われても、と思いつつ、感想を求められたシュリは小首を傾げてまじまじと彼女を見つめる。
「えっと、可愛いよ?」
「ありがと。でもやっぱりシュリは面白くないわね~」
「え!? どうして??」
「普通、初めて女の子の水着姿をみた男の子ってもっとドギマギするものじゃない? 顔を真っ赤にしたり、目を泳がせたり、ちらちら足とか胸元を見たり」
「あ、なるほど!!」
「アズランなんか、いまだに真っ赤になって直視できないのよ? 夏は毎年ここで水遊びをするし、もう慣れてもいいと思うのに」
「あ~。アズランは純情だからねぇ」
「アズランは純情すぎだけど、シュリは女に慣れすぎなのよ!!」
唇を尖らせ再び歩き始めたファランにそう指摘され、シュリは苦笑しつつ彼女の後をついて歩く。
そうして屋敷の中を通り抜け、裏口から外にでると、そこはルキーニア公爵家の別荘に隣接する、プライベートな湖岸だった。
「シュリ、水はまだちょっと冷たいけど気持ちいいぞ!」
先に来ていたらしいアズランが、湖の中からシュリを呼ぶ。
「うん、すぐいくよ。でも、準備運動してからね」
アズランの誘いにそう答えてから、シュリは早速準備運動を始めた。
そんなシュリを横目に、
「準備運動? シュリって真面目よね。私はレセルお兄さま達が合流してから水に入ることにするわ」
ファランはそう言って、日除けの下の敷物に腰をおろす。
(きっとレセルに、可愛くセットした髪型とか、水に濡れる前の水着とか見せたいんだろうなぁ)
なんて微笑ましく思いつつ、せっせと準備運動をこなす。
そうこうしているうちに、ジェスが遅れてやってきた。
仮面を付けたジェスも、もちろん水着姿だ。
でも、護衛として色々気にせずに動けるようになのか、少々布地が多めの水着だった。
彼女はシュリの姿を見つけると駆け寄ってきて、
「シュリ、遅れてすまない。だが、頼まれた手はずは整えてあるぞ」
そう耳打ちをした。
「ありがとう、ジェス。後は彼女の到着を待つばかりだね。到着したらイルル達が誘導してくれる事になってるから、僕らの次の仕事は彼女が姿を現したとき、かな」
「ああ。そうだな。うまくいくといいが」
「うん。そうだね。ジェス?」
「なんだ? シュリ」
「水着、似合ってる。きれいだよ」
「っっ……!!」
シュリのほめ言葉に、ジェスは一瞬でその首筋までもを赤く染めた。
「いっ、いや、だが、私のは、騎士が水練に使う無骨な水着で……。その、オーギュスト殿が試作品だと持たせてくれた水着もあったんだが、どうにも布地が少ないし、護衛として動くのに心許ない気がしてな」
「うん、その気持ちはよく分かる」
「うん?」
「ううん。なんでもない。でもそっか。騎士が訓練する時に使う水着なんだね」
「ああ。動きやすいし、それなりに防御力の高い布地で仕立てられているから、戦闘職には都合がいいんだ。だから、騎士は男も女もこの水着を身につける事が多くてな」
「男の人も?」
「そうだぞ。いざ戦わねばならぬ状況に陥った場合に、上半身が裸では心許ないだろう?」
「なるほど。確かに」
「まあ、一般的には、シュリのようなタイプの水着が主流だがな。シュリも、その、似合ってるぞ」
ジェスは恥ずかしそうにシュリの水着姿をちらちら見ながら、そう褒めてくれた。
「ありがと、ジェス」
褒め言葉を素直に受け止め、お礼を言うと、彼女はどこかホッとしたような、ちょっぴり残念そうな顔で言葉を続けた。
「出がけにジュディス殿から、シュリの水着は過激だから、理性を失って襲いかからないように、と厳しく言い含められていたから、内心ドキドキしていたんだ」
「そ、そう」
「理性を保たねば危険だと言われていたんだが、その水着なら理性を保てそうで安心だ。まあ、ちょっとドキドキはするがな」
「そ、そうだね?」
「そう言えば、鍵には気をつけろ、と言われていたんだが……」
「鍵……鍵かぁ」
「鍵って、なんのことだったんだろうなぁ?」
「さ、さあ? なんのことだったんだろーねぇ?」
ははは、と乾いた笑い声で誤魔化しつつ、シュリは全力でとぼけた。
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