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第三部 学校へ行こう
第百九十三話 いよいよ入学式……と、その前に
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入学式の朝、アズベルグ初等学校の校庭は、新入生やら在校生やら、たくさんの人で賑わっていた。
そんな中、校門をくぐってやけに目立つ集団が入ってくるのを見て、校庭にいた生徒達がざわめく。
その集団は、子供四人、大人三人、計七人の集まりだった。
三人の大人は、全員女性でそれぞれタイプの違った美人揃い。
御者服姿の蒼い髪の女性に、騎士っぽい格好をした茶色い髪の女性、そして秘書然とした金髪ボブの女性。
実にバラエティ豊かである。
彼女達は、おそらく前を歩く子供達の従者や護衛なのだろう。
この学校は貴族も通う都合上、従者を連れての登校を許容していた。
というか、せざるを得なかったというべきか。
なぜそうせざるを得ないのか。
それを知るには貴族と言う生き物の生態を知る必要性があるだろう。
そもそも、基本的に貴族というものは、自分で何かをするということが極端に少ない人種である。
何をするにも人の手を借りて行うことになれきっている者が非常に多く、結果従者がいないと日常生活に破綻をきたす者が後をたたない。
まあ、貴族の全てがそうだとは言わないが、そうじゃない者のほうを変わり者と呼ぶ程度には多いと言っておこう。
そんなわけで、一人で日常生活を送れない貴族の子供に単身で学校へ来られても、学校側は教育以外の人手をさく余裕は当然ない。
結果、学校側の面倒を避ける為にも、貴族は従者を連れて来てよしという決まりが出来上がったわけだ。
そういう諸々の事情から、子供達の後ろを三人の大人が付き歩いているのを不思議に思うことなく、生徒達は、次に前を歩く四人の子供へと視線を移す。
四人の内二人は、在校生達にとってはすでに見慣れた顔だった。
赤毛の姉妹アリス・ルバーノとミリシア・ルバーノは、このアズベルグの領主の娘であり、この学校では非常に有名な存在である。
アリスはその快活で気さくな性格と面倒見の良さから、上級生から下級生までの間で幅広く慕われ、困ったことがあればアリスに相談しろと言われるほど。
ミリシアは、その愛らしい顔立ちと人なつこい性格から、学校のアイドル的立ち位置確立していた。
更にあげれば、すでに初等学校を卒業し、中等学校に進学したリュミス・ルバーノは、そのミステリアスな魅力にハマったマニアなファンが多数存在し、秘密結社的な組織が作り出されるほど。
そして更に遡るなら、かつて初等学校・中等学校魔法科で生徒会長をつとめた実績を持つ長女のフィリア・ルバーノは癒し系の美少女として未だに有名であり、そのファンクラブも健在で年に一度は王都にいるフィリアを遠くから見守る為の集まりが必ず開催されているという。開催地はもちろん、彼女が現在居住している王都である。
そんなわけで、ルバーノ家の四姉妹は色々な意味でとても有名だった。
そして今、四姉妹の内の二人を見る生徒達の興奮はかなりのものであり、そうやって注目を浴びた結果、そんな彼女達と一緒にいる二人は何者だと言うことになる。
まずはルバーノの姉妹に釘付けになった視線は、自然と残りの二人へと向けられる事となった。
残る二人の内、一人は黒髪の女の子だった。
まっすぐでサラサラの髪を肩の辺りまで伸ばした、清楚で可愛らしい顔立ちに、生徒達はざわざわとざわめいた。
その可愛らしさは、決して横を歩くルバーノの姉妹に負けていないぞ、と。
だが、ルバーノ家の姉妹は四人。四女のミリシアで打ち止めのはず。ではあの子は一体なんなのか!?
突然目の前に突きつけられた謎に、生徒達は僅かな混乱とそれに勝る興奮を味わった。
だが、その謎を一旦横に置いておいて、アリスとミリシアに挟まれて歩く、最後の一人に目を向けた生徒達は、皆、一瞬言葉を失った。
話は逸れるが、実はこの学校の美少女率は中々高めだ。
その中でも、特にレベルが高いのはもちろんアリスとミリシアで、アリスは凛々しさを兼ね備える美貌で、ミリシアはとにかくその愛らしさで上位に食い込んでいた。
他にも、二人に負けず劣らずの美少女が少なからずいるこの学校の生徒は、かなり目が肥えている。そのはずだった。
しかし、そんな彼らの目から見てもなお、アリスとミリシアの間に挟まれて歩く人物の美貌はずば抜けていた。
肩を僅かに越える辺りまで、無造作に伸ばされた髪は輝くばかりの銀色。
瞳の色は菫色で、その色はアリスと同じルバーノの証。
顔立ちは驚くほどに整っているが、桜色の唇が柔らかく弧を描いて優しい笑みを形づくり、その端正な顔を愛らしくも可憐に彩っていた。
身を包む服装は少年のものだが、その姿は男装の少女の様にも見えて中性的。
半ズボンの裾からのぞく膝小僧すら愛らしい、まさに美の女神に愛されたような存在が、そこにいた。
まあ、さすがに本当に美の女神に愛されていると知るものは、本人とその従者以外、誰もいなかったであろうが。
とにかく、その輝かんばかりの美少女……いや、美少年ぶりに誰もがぽかんと口を開け、ぽーっと頬を染める。
そんな周囲の状況に、当の本人だけがこっそり冷や汗を流しているということなど、誰も想像することすら出来なかった。
背後にジュディス、シャイナ、カレンの三従者を従え、アリスとミリシアに挟まれて歩きながら、シュリは内心冷や汗をだらだらと流していた。
なぜならば、周囲の視線が余りに熱すぎたせいである。
みんながみな、アリスを見て、ミリシアを見て、リアを見て、そして最後にシュリを見てフリーズするのだ。
そして見る見る内に瞳がうるうるし始め、ほっぺたが赤くなってくる。
そして流れるのである。
あの、恐怖のアナウンスが。
それもエンドレスに。
相手がお子さまだから、正直油断していた。
しかし油断大敵とはよく言ったものだ。
お子さまだろうと年上は年上。最下級生のシュリに年下はおらず、同級生のみがぎりっぎりセーフといった状態である。
むしろ、子供であるが故に純粋で、感情の振り幅も大きい。
そのせいで、好感度の上がり方もハンパないようであった。
かろうじて、ひきつってはいるものの笑顔とよべる代物を顔に張り付け、左右から交互に発せられる姉様達の言葉に相づちを打ちつつ、思う。
[年上キラー]の表示を、選んだ人以外は非表示にしておいてよかった、と。
そうでなければ、学校の生徒名簿がさっくり出来上がってしまっていたに違いない。
そんなことを考えつつ、シュリは最近やっとバージョンアップしてくれた[年上キラー]のスキルに思いを馳せた。
ちょうど、[年上キラー]の被害者(?)が三桁の届いた辺りのことだった。
スキルのバージョンアップを告げるアナウンスが流れ、これ以上能力がアップしたらどうしようと戦々恐々として確認してみたところ、能力が上がるということは特になく、ただ、表示・非表示の欄がプラスされていた。
よくよく説明を読み込んでみれば、選択した人物以外の名前を非表示に出来ると言うので、早速自分の知り合いだけ選んで、他は非表示にした。
ちょっと冷たいようだが、表示していたところで何もしてあげられないのだから仕方がない。
そうしてから更に下の方まで説明を読むと、どうやら非表示にした相手の好感度の上昇はやや緩やかになるとの事。
更に、シュリとの接触がなければ、好感度は緩やかに低下していくこともあるという。
これにはシュリも大喜びで、知り合いの中から何人か、非表示にさせてもらった人も居た。
ほら、人妻のエミーユとか、ナーザとか。
特にナーザは、ハクレンが可哀想だし、シュリのことなどさっさと忘れてもらっちゃいたいのだが、それなりに関係性を深めた人の好感度はやはり下がりにくいようで。
たまーに見ると、下がるどころかじわじわと上がっているのが恐ろしかった。
今回のこのパンデミックも、非表示に出来ているからどうにか、ちょっと好きかも、くらいでみんなの好感度を押さえられている。
正に、バージョンアップ、万歳、である。
次のバージョンアップでは、いったいどんな機能が追加されるのだろうか。
バージョンアップが待ち遠しい。
とはいえ、次のバージョンアップがいつなのかはわからない。
今回のバージョンアップも実に突然で、事前予告など無かったし、何人落とせばバージョンアップですよ~という告知も無かった。実に不親切ではある。
今回が三桁に上がったところでバージョンアップだったので、次は四桁だろうか……シュリはその途方もない数字に、現実逃避気味に遠い目をするのだった。
そんな、たくさんの生徒から熱い視線を浴びるシュリを、これまた熱く見つめる五人の人影があった。
極力気配を消し、木立の中からそっと見守るように見つめるその眼差しの主は、ご想像の通りの人物達。
教師の扮装をしたヴィオラとミフィー、ポチとタマ、そして唯一生徒の格好をしているイルルであった。
さすがのヴィオラも、ちっこいイルルを先生としてごり押しする勇気は無かったようである。
「うわぁ、もってもて!!さすがは私の孫ね!!!」
ヴィオラが得意そうに小鼻をふくらませ、
「た、大変……こんなんじゃ、すぐにお嫁さんが百人……」
ミフィーはイルルによって植え付けられたトラウマを爆発させる。
「うほ~!さすがは妾のシュリじゃ。やはり強きオスはモテるものなのじゃ!!」
イルルは得意げな顔でうんうんと頷き、
「ああ~、シュリ様ぁ。早く撫で撫でして頂きたいでありますぅ」
「私の主、可愛すぎ……早く一緒に添い寝……」
ポチとタマは、うっとりした表情で欲望をうっかり口から漏らしていた。
そうしてひとしきりシュリをこっそり愛で、そのめだちまくった集団が校内へ消えたのを確認してから、五人は顔を見合わせて頷きあう。
「じゃあ、作戦通り、イルル以外は新任教師として潜入するから、私と一緒に行動ね。今年は、結構教師の入れ替わりもあるみたいだから、たぶんバレないですむはずよ!」
「う、うん。がんばってみる!私は先生、私は先生……」
「了解であります!」
「ん~、りょーかい」
ヴィオラの言葉に、イルルをのぞいた三人がうなずく。
ミフィーは生真面目にも己に自己暗示をかけようと努力をしながら、ポチはびしっと敬礼をしつつ、タマは非常に適当に。
そんな三人を見て、ヴィオラはうんうんと頷き、それから新入生を装っているイルルへと視線を移した。
「んで、イルルは新入生として潜入ね!本当は誰かつけてあげたいところだけど、残念ながらイルルと一緒に新入生のコスプレを出来そうな逸材がここには居ないからね~。まあ、同じ新入生を見つけて、一緒について歩くのが一番いいと思うわ。新入生はそれなりにいるし、上手く紛れ込めるわよ。うん、らくしょー、らくしょー」
「うむ。そうじゃな!妾にかかればらくしょーなのじゃ!!」
ヴィオラの言葉をちゃんと理解しているか疑問は残るが、わっはっはっと得意げに笑うイルル。
ポチは非常に不安そうにそんなイルルを見つめる。
が、本人には全く不安はないらしい。
胸に花を付けているのが新入生だと教えられた彼女は、
「む。あの派手なくるくる頭は胸に花をつけておるのぅ。よし、妾はあの娘について行くことにするぞ!ではな!!お主等も、気をつけるんじゃぞ~」
そう言うと、さっさと歩いて言ってしまった。
「は~い、いってらっしゃ~い。シュリに見つかんないようにねぇ~」
元気に出撃したイルルをヴィオラが朗らかに見送る。
そんな中、
「わ、私は先生っ、私は先生、私は先生……」
ミフィーはさっきから継続して休むことなく、己の自己暗示に精を出し、
「イルル様……なんだかイルル様が自信満々だと、逆にポチは不安でたまらなくなるのです……」
ポチは挙動不審なくらいにそわそわし、
「……んみゅう……なんだか、眠くなってきた」
タマはいつもの通り、マイペースに眠そうにしている。
何というか、見事なまでに協調性のない集団だった。
だが、ヴィオラはそんなことは気にしない。
「さ~、私達も入学式のある講堂に移動してさっさと先生の集団に潜り込んじゃいましょう!!いい?疑われたらこう言うのよ?ルバーノ家の紹介ですが、何か?って。こう言っとけば、とりあえずその場はしのげるわ!……たぶん」
「「「……たぶん??」」」
「大丈夫、大丈夫!堂々としてれば、誰も疑ったりしないって。さっ、行くわよ~」
お気楽にそう言うと、彼女はさっさと歩き出した。
おいて行かれそうになった三人が、ヴィオラの後を慌てて追いかける。
こうして、シュリの波乱の入学式が、いよいよ幕を開けようとしていた。
そんな中、校門をくぐってやけに目立つ集団が入ってくるのを見て、校庭にいた生徒達がざわめく。
その集団は、子供四人、大人三人、計七人の集まりだった。
三人の大人は、全員女性でそれぞれタイプの違った美人揃い。
御者服姿の蒼い髪の女性に、騎士っぽい格好をした茶色い髪の女性、そして秘書然とした金髪ボブの女性。
実にバラエティ豊かである。
彼女達は、おそらく前を歩く子供達の従者や護衛なのだろう。
この学校は貴族も通う都合上、従者を連れての登校を許容していた。
というか、せざるを得なかったというべきか。
なぜそうせざるを得ないのか。
それを知るには貴族と言う生き物の生態を知る必要性があるだろう。
そもそも、基本的に貴族というものは、自分で何かをするということが極端に少ない人種である。
何をするにも人の手を借りて行うことになれきっている者が非常に多く、結果従者がいないと日常生活に破綻をきたす者が後をたたない。
まあ、貴族の全てがそうだとは言わないが、そうじゃない者のほうを変わり者と呼ぶ程度には多いと言っておこう。
そんなわけで、一人で日常生活を送れない貴族の子供に単身で学校へ来られても、学校側は教育以外の人手をさく余裕は当然ない。
結果、学校側の面倒を避ける為にも、貴族は従者を連れて来てよしという決まりが出来上がったわけだ。
そういう諸々の事情から、子供達の後ろを三人の大人が付き歩いているのを不思議に思うことなく、生徒達は、次に前を歩く四人の子供へと視線を移す。
四人の内二人は、在校生達にとってはすでに見慣れた顔だった。
赤毛の姉妹アリス・ルバーノとミリシア・ルバーノは、このアズベルグの領主の娘であり、この学校では非常に有名な存在である。
アリスはその快活で気さくな性格と面倒見の良さから、上級生から下級生までの間で幅広く慕われ、困ったことがあればアリスに相談しろと言われるほど。
ミリシアは、その愛らしい顔立ちと人なつこい性格から、学校のアイドル的立ち位置確立していた。
更にあげれば、すでに初等学校を卒業し、中等学校に進学したリュミス・ルバーノは、そのミステリアスな魅力にハマったマニアなファンが多数存在し、秘密結社的な組織が作り出されるほど。
そして更に遡るなら、かつて初等学校・中等学校魔法科で生徒会長をつとめた実績を持つ長女のフィリア・ルバーノは癒し系の美少女として未だに有名であり、そのファンクラブも健在で年に一度は王都にいるフィリアを遠くから見守る為の集まりが必ず開催されているという。開催地はもちろん、彼女が現在居住している王都である。
そんなわけで、ルバーノ家の四姉妹は色々な意味でとても有名だった。
そして今、四姉妹の内の二人を見る生徒達の興奮はかなりのものであり、そうやって注目を浴びた結果、そんな彼女達と一緒にいる二人は何者だと言うことになる。
まずはルバーノの姉妹に釘付けになった視線は、自然と残りの二人へと向けられる事となった。
残る二人の内、一人は黒髪の女の子だった。
まっすぐでサラサラの髪を肩の辺りまで伸ばした、清楚で可愛らしい顔立ちに、生徒達はざわざわとざわめいた。
その可愛らしさは、決して横を歩くルバーノの姉妹に負けていないぞ、と。
だが、ルバーノ家の姉妹は四人。四女のミリシアで打ち止めのはず。ではあの子は一体なんなのか!?
突然目の前に突きつけられた謎に、生徒達は僅かな混乱とそれに勝る興奮を味わった。
だが、その謎を一旦横に置いておいて、アリスとミリシアに挟まれて歩く、最後の一人に目を向けた生徒達は、皆、一瞬言葉を失った。
話は逸れるが、実はこの学校の美少女率は中々高めだ。
その中でも、特にレベルが高いのはもちろんアリスとミリシアで、アリスは凛々しさを兼ね備える美貌で、ミリシアはとにかくその愛らしさで上位に食い込んでいた。
他にも、二人に負けず劣らずの美少女が少なからずいるこの学校の生徒は、かなり目が肥えている。そのはずだった。
しかし、そんな彼らの目から見てもなお、アリスとミリシアの間に挟まれて歩く人物の美貌はずば抜けていた。
肩を僅かに越える辺りまで、無造作に伸ばされた髪は輝くばかりの銀色。
瞳の色は菫色で、その色はアリスと同じルバーノの証。
顔立ちは驚くほどに整っているが、桜色の唇が柔らかく弧を描いて優しい笑みを形づくり、その端正な顔を愛らしくも可憐に彩っていた。
身を包む服装は少年のものだが、その姿は男装の少女の様にも見えて中性的。
半ズボンの裾からのぞく膝小僧すら愛らしい、まさに美の女神に愛されたような存在が、そこにいた。
まあ、さすがに本当に美の女神に愛されていると知るものは、本人とその従者以外、誰もいなかったであろうが。
とにかく、その輝かんばかりの美少女……いや、美少年ぶりに誰もがぽかんと口を開け、ぽーっと頬を染める。
そんな周囲の状況に、当の本人だけがこっそり冷や汗を流しているということなど、誰も想像することすら出来なかった。
背後にジュディス、シャイナ、カレンの三従者を従え、アリスとミリシアに挟まれて歩きながら、シュリは内心冷や汗をだらだらと流していた。
なぜならば、周囲の視線が余りに熱すぎたせいである。
みんながみな、アリスを見て、ミリシアを見て、リアを見て、そして最後にシュリを見てフリーズするのだ。
そして見る見る内に瞳がうるうるし始め、ほっぺたが赤くなってくる。
そして流れるのである。
あの、恐怖のアナウンスが。
それもエンドレスに。
相手がお子さまだから、正直油断していた。
しかし油断大敵とはよく言ったものだ。
お子さまだろうと年上は年上。最下級生のシュリに年下はおらず、同級生のみがぎりっぎりセーフといった状態である。
むしろ、子供であるが故に純粋で、感情の振り幅も大きい。
そのせいで、好感度の上がり方もハンパないようであった。
かろうじて、ひきつってはいるものの笑顔とよべる代物を顔に張り付け、左右から交互に発せられる姉様達の言葉に相づちを打ちつつ、思う。
[年上キラー]の表示を、選んだ人以外は非表示にしておいてよかった、と。
そうでなければ、学校の生徒名簿がさっくり出来上がってしまっていたに違いない。
そんなことを考えつつ、シュリは最近やっとバージョンアップしてくれた[年上キラー]のスキルに思いを馳せた。
ちょうど、[年上キラー]の被害者(?)が三桁の届いた辺りのことだった。
スキルのバージョンアップを告げるアナウンスが流れ、これ以上能力がアップしたらどうしようと戦々恐々として確認してみたところ、能力が上がるということは特になく、ただ、表示・非表示の欄がプラスされていた。
よくよく説明を読み込んでみれば、選択した人物以外の名前を非表示に出来ると言うので、早速自分の知り合いだけ選んで、他は非表示にした。
ちょっと冷たいようだが、表示していたところで何もしてあげられないのだから仕方がない。
そうしてから更に下の方まで説明を読むと、どうやら非表示にした相手の好感度の上昇はやや緩やかになるとの事。
更に、シュリとの接触がなければ、好感度は緩やかに低下していくこともあるという。
これにはシュリも大喜びで、知り合いの中から何人か、非表示にさせてもらった人も居た。
ほら、人妻のエミーユとか、ナーザとか。
特にナーザは、ハクレンが可哀想だし、シュリのことなどさっさと忘れてもらっちゃいたいのだが、それなりに関係性を深めた人の好感度はやはり下がりにくいようで。
たまーに見ると、下がるどころかじわじわと上がっているのが恐ろしかった。
今回のこのパンデミックも、非表示に出来ているからどうにか、ちょっと好きかも、くらいでみんなの好感度を押さえられている。
正に、バージョンアップ、万歳、である。
次のバージョンアップでは、いったいどんな機能が追加されるのだろうか。
バージョンアップが待ち遠しい。
とはいえ、次のバージョンアップがいつなのかはわからない。
今回のバージョンアップも実に突然で、事前予告など無かったし、何人落とせばバージョンアップですよ~という告知も無かった。実に不親切ではある。
今回が三桁に上がったところでバージョンアップだったので、次は四桁だろうか……シュリはその途方もない数字に、現実逃避気味に遠い目をするのだった。
そんな、たくさんの生徒から熱い視線を浴びるシュリを、これまた熱く見つめる五人の人影があった。
極力気配を消し、木立の中からそっと見守るように見つめるその眼差しの主は、ご想像の通りの人物達。
教師の扮装をしたヴィオラとミフィー、ポチとタマ、そして唯一生徒の格好をしているイルルであった。
さすがのヴィオラも、ちっこいイルルを先生としてごり押しする勇気は無かったようである。
「うわぁ、もってもて!!さすがは私の孫ね!!!」
ヴィオラが得意そうに小鼻をふくらませ、
「た、大変……こんなんじゃ、すぐにお嫁さんが百人……」
ミフィーはイルルによって植え付けられたトラウマを爆発させる。
「うほ~!さすがは妾のシュリじゃ。やはり強きオスはモテるものなのじゃ!!」
イルルは得意げな顔でうんうんと頷き、
「ああ~、シュリ様ぁ。早く撫で撫でして頂きたいでありますぅ」
「私の主、可愛すぎ……早く一緒に添い寝……」
ポチとタマは、うっとりした表情で欲望をうっかり口から漏らしていた。
そうしてひとしきりシュリをこっそり愛で、そのめだちまくった集団が校内へ消えたのを確認してから、五人は顔を見合わせて頷きあう。
「じゃあ、作戦通り、イルル以外は新任教師として潜入するから、私と一緒に行動ね。今年は、結構教師の入れ替わりもあるみたいだから、たぶんバレないですむはずよ!」
「う、うん。がんばってみる!私は先生、私は先生……」
「了解であります!」
「ん~、りょーかい」
ヴィオラの言葉に、イルルをのぞいた三人がうなずく。
ミフィーは生真面目にも己に自己暗示をかけようと努力をしながら、ポチはびしっと敬礼をしつつ、タマは非常に適当に。
そんな三人を見て、ヴィオラはうんうんと頷き、それから新入生を装っているイルルへと視線を移した。
「んで、イルルは新入生として潜入ね!本当は誰かつけてあげたいところだけど、残念ながらイルルと一緒に新入生のコスプレを出来そうな逸材がここには居ないからね~。まあ、同じ新入生を見つけて、一緒について歩くのが一番いいと思うわ。新入生はそれなりにいるし、上手く紛れ込めるわよ。うん、らくしょー、らくしょー」
「うむ。そうじゃな!妾にかかればらくしょーなのじゃ!!」
ヴィオラの言葉をちゃんと理解しているか疑問は残るが、わっはっはっと得意げに笑うイルル。
ポチは非常に不安そうにそんなイルルを見つめる。
が、本人には全く不安はないらしい。
胸に花を付けているのが新入生だと教えられた彼女は、
「む。あの派手なくるくる頭は胸に花をつけておるのぅ。よし、妾はあの娘について行くことにするぞ!ではな!!お主等も、気をつけるんじゃぞ~」
そう言うと、さっさと歩いて言ってしまった。
「は~い、いってらっしゃ~い。シュリに見つかんないようにねぇ~」
元気に出撃したイルルをヴィオラが朗らかに見送る。
そんな中、
「わ、私は先生っ、私は先生、私は先生……」
ミフィーはさっきから継続して休むことなく、己の自己暗示に精を出し、
「イルル様……なんだかイルル様が自信満々だと、逆にポチは不安でたまらなくなるのです……」
ポチは挙動不審なくらいにそわそわし、
「……んみゅう……なんだか、眠くなってきた」
タマはいつもの通り、マイペースに眠そうにしている。
何というか、見事なまでに協調性のない集団だった。
だが、ヴィオラはそんなことは気にしない。
「さ~、私達も入学式のある講堂に移動してさっさと先生の集団に潜り込んじゃいましょう!!いい?疑われたらこう言うのよ?ルバーノ家の紹介ですが、何か?って。こう言っとけば、とりあえずその場はしのげるわ!……たぶん」
「「「……たぶん??」」」
「大丈夫、大丈夫!堂々としてれば、誰も疑ったりしないって。さっ、行くわよ~」
お気楽にそう言うと、彼女はさっさと歩き出した。
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【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
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