♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第三部 学校へ行こう

第百九十七話 入学式騒動記~その頃のシュリ~

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 講堂の入り口で姉様達や、ジュディス達と別れた後、シュリはリアと一緒に教師の指示に従って新入生達の群れに加わった。
 ただ、この後壇上に上がる予定のあるシュリは、強制的に一番前の席が用意されていた。
 それを見たリアは、一番前の席などごめんだとばかりにさっさとシュリから離れていく。
 シュリはそんな薄情な幼なじみの後ろ姿を、若干恨めしそうに見送った。

 一番前の列で、見知らぬ同級生達に囲まれた席に座ったシュリは、ちょっぴり居心地の悪い思いをしながら前を見つめる。
 あー、何だか嫌な予感がするなぁ、とそんなことを考えながら。

 入学式の開始までまだ少し時間はあるが、周囲の同級生たちは、何だかシュリに気後れしているようで、誰も話しかけてきてくれない。
 なら自分から、と思うのだが、シュリがにこやかに話しかけようとすると、相手はなぜか恥ずかしそうに目をそらしてしまうのだった。


 (ボッチって、こんな気分なのか……)


 孤独だ……と、ちょっぴりアンニュイな気持ちになりながら、自分と離れた場所に座ったリアの姿をこそっと探す。
 彼女は最前列のシュリよりやや斜め後方に座っていて、隣に座る女子となにやら楽しそうに談笑していた。


 (……リアの裏切り者~!!)


 心の中で薄情なリアへの恨み言をこぼしつつ、シュリは唇を尖らせ視線を前方へと戻す。
 いつもならその身の内には五人の精霊がいて、孤独を感じる暇などないのだが、今シュリと一緒にいるのは一人だけ。
 その一人であるサクラも、今は深い眠りの中にある。
 その眠りが必要なものと分かってはいても、普段から過剰なほど人に囲まれているシュリとしては、寂しいなぁと感じずにはいられなかった。

 小さなため息をひとつ。
 そして何気なく周囲を見回したシュリは、今まさに講堂の入り口から入って来た二人組を見て、目をまぁるく見開いた。

 一人は見覚えのない人物だ。
 明るい金髪をゴージャスに縦に巻いて、ちょっと派手めだが可愛らしいドレスを着ている。そのいかにもお嬢様然とした姿を見ながら、シュリは思う。


 (わぁ~。もしかしてあれが縦巻きロールってやつ?はじめて見た……)


 なんか意外に可愛いかも、とそんな感想を抱きつつ、彼女と連れ立つ様に歩くもう一人の人物に目を映した。
 そっちは見間違えようがない程に見覚えのある人物。
 いつものように赤い髪をツインテールにし、可愛らしい服でその身を飾り、いかにも新入生風に擬態しているイルルを、シュリは半眼でみつめた。
 なに、やってるのさ……と呆れかえった心境で。
 しかし、イルルがそんなシュリの視線に気づくことはなく、遅れてきた二人は教師に誘導されて後ろの方の席へついた。


 「む、随分後ろじゃのう。これじゃあ、シュリの勇姿が……いや、妾、視力の調整ができたの、確か。ん、こうして、ズームすれば……うむ!問題なしじゃ」


 ズームできる視力ってどんなだよ!?と背後からかすかに聞こえたイルルの言葉に、シュリは内心突っ込みを入れる。
 周囲の他の新入生達の耳にも当然聞こえたようで、なにやらざわざわしていたが、イルルはそんなこと全く気にせずに満足顔だ。


 (……仕方ないなぁ、イルルは)


 眉尻をへにょりと下げて、シュリは困ったように笑う。
 勝手なことをして困った奴だなぁと思うのに、どうしても本気で怒る気になれないから本当に困る。


 (ここは飼い主として、きちんとしつけなきゃいけないんだろうけど)


 困ったなぁ、飼い主失格だなぁ、と思いつつもどこかでもう、イルルを許してしまっている自分がいた。
 手のかかる子ほど、バカな子ほど可愛いって本当なんだなぁと改めてしみじみと思いながら。
 でもまぁ、甘やかすのも大概にしないといけないから、後でちゃんと叱って罰も与えよう。
 ダメなことはダメと教える、それは飼い主の義務だろうから。
 これ以上、回りに迷惑をかけないようにね?と心の中でイルルにそっと話しかけ、シュリは視線を前に戻す。
 後方では、


 「どうしてワタクシがこんなに後ろの席なんですの!?断固抗議いたしますわ!!」


 と、イルルと一緒にいた縦巻きロールの子が騒いで、教師に諭されていた。
 縦巻きの子の鼻息の荒さはかなりだが、感情的なあの論調で教師を論破するのは難しいだろうなぁと苦笑しながら、シュリはふと思う。
 あれ、イルルがここにいるならポチとタマはどうしたんだろう、と。


 (あの二人がイルルを一人で放り出すはずないと思うんだけどなぁ)


 シュリは首をかしげながら何気なく周囲を見回した。
 すると、前方の教師たちが並んでいる辺りに見覚えのある顔を四つも見つけてしまったシュリは、思わず目をゴシゴシとこすってからもう一度見直してしまう。
 だが、見直したところで目に映る光景が変わることはなく、シュリは再び半眼になり、ちゃっかり先生ヅラをして入り込んでいるその四人に呆れ果てた眼差しを注いだ。


 (おばー様はともかく、ポチにタマ、それに母様まで……)


 ああ、頭が痛い状況って、こういうことをいうんだろうなぁ……シュリはぐりぐりとこめかみを揉みながらそんなこと思う。
 きちっと先生っぽい服で身を固めたヴィオラは、隣に座る本当の先生らしき女の人からなにやら話しかけられ、頭をペコペコ下げていた。
 その様子から察するに、ヴィオラはその真面目そうな先生から、注意されてるか怒られているかしているよう。


 (おばー様はもっとしっかり叱られて、きちっと反省した方が良いと思うんだ、僕……)


 おばー様はちょっと世間様をなめすぎだよ、とシュリは可愛らしく唇を尖らせて、注意しているひっつめ髪の先生を、心の中でこそっと応援するのだった。
 そしてとりあえず怒られているヴィオラは一旦横に置いておいて、残りの三人に目を移す。

 ミフィーはとにかく緊張している様子で、椅子に腰掛けたままガチガチに固まっている。
 意外と流されやすいミフィーのことだ。ヴィオラに軽く丸め込まれてこんな場所まで来てしまったのだろう。
 まあ、そのお陰でシュリの入学式にこうしてもぐりこめたわけだが、それが果たして良かったのか悪かったのか。
 あんなに緊張していては、周りのことなど見ている余裕などないに違いない。
 この入学式が終わった後、果たしてミフィーはその内容を覚えているのか……それは神のみぞ知るというやつである。

 シュリはミフィーの事をちょっぴり心配しつつ、次の人物へと目を向けた。
 その長身と短い髪がスポーティーで健全な雰囲気を醸し出す狼耳のポチは、四人の中で一番新任の教師らしさを醸し出していた。
 まさに、THE新人体育教師といった感じである。
 ポチが本当の先生なら、その優しそうで健全そうな空気と相まって、きっと子供達の人気者になれたことだろう。
 まあ、真っ赤っかな偽物の先生だから、そんな日は永遠に訪れないわけだが。

 ポチは緊張してはいるものの、ミフィーほど緊張の極致という程でもなく、なんとなく落ち着かない様子でそわそわと周囲を見回していた。
 その視線が、なんの運命のいたずらか、ポチを見ていたシュリの視線とガッツリ絡み合う。
 本人も悪いことをしていると重々承知しているのだろう。
 ぴきり、とポチが凍りつくのが遠目にもはっきりわかった。
 だが、シュリとしてはこの場でポチを追いつめる気など毛頭なく、ポチがヴィオラとイルルに巻き込まれたのであろうこともなんとなく承知していた。
 いうなれば、ポチはどちらかといえば被害者の立場であり、むしろ、大変だったねと同情のまなざしでシュリは愛犬……いや、愛フェンリルを見つめる。
 そして、心配しなくていいよと、そんな思いを込めて優しく微笑みかけた。

 が、その瞬間、ポチの尻尾がぼふんと膨らんだ。
 そしてその尻尾はあっという間にしおれ、狼耳はきゅうっと伏せられて、ポチの体がプルプルと小刻みに震え出す。
 更にその目は明らかに涙目で、その様子はご主人様に叱られたわんこそのものだった。


 (えっと、怒ったつもりはなかったんだけどなぁ)


 そ、そんなに僕の笑った顔って怖いのかしら、と頬に手をあてちょっぴり落ち込みつつ、これ以上ポチを怯えさせないようにそっと目をそらす。
 そしてそのまま最後の一人に目を移した。

 最後の一人、タマは絶賛安らかにお休み中だった。
 果たしてここに来る意味があったのかと思うほど、ぐっすりと眠りこんでいる。
 もし今シュリが自由に動けるなら、タマのそばへ駆け寄って、盛大に垂れ流されているよだれを拭き取ったあげたいところだがそうもいかない。

 しかし、よだれも気になったが、それよりももっと気になることがあった。
 それは、タマのわがままボディの中でも最もわがままな部分……すなわち、けしからんまでにビッグサイズのそのおっぱいである。
 今日の衣装はヴィオラが用意したもののようで、ヴィオラのサイズにあわせてつくられたもの。
 結果、ヴィオラはピッタリぴちっと着こなして、逆にミフィーはどこをとはいわないが、少しだぼつきがある様子。
 ポチは、身長がある分ピチピチ感はあるが、胸のサイズはヴィオラとそう変わりはないようで、問題なく収まっているからまあ、許容範囲内。

 だが、タマのアレはいけない。
 ヴィオラはどうしてあんな危険な代物を連れて来る気になったのか。

 ヴィオラのサイズに作られた服……つまり、ヴィオラの大おっぱいを収納するように設計されたものでは、タマの特大おっぱいをしまうにはどう考えても役不足だった。
 それでも途中までボタンを止めた努力は認めよう。
 しかし、その努力のかいもなく、わがまますぎるタマの二つの膨らみは、ぎゅっと押し込められたせいで出来上がった深い谷間を含め、その全容の三分の一以上を人様の目に晒してしまっていた。

 いかに幼い子供達が通う初等学校であるとはいえ、高学年にもなれば異性に強い関心を持つようになるし、教員には男性ももちろんいる。
 そんな彼らの目は、無防備にわがままボディを見せびらかし、すよすよと眠る女性に釘付けで、中には前傾姿勢を決して崩そうとしない人も多数見受けられた。
 健全な男子であれば仕方のないことなのだが、女性陣の目は冷たい。

 どうするんだよ、これ……と頭を抱えたい気持ちで思うが、どうに出来ようもないのが現実である。
 まさか駆け寄ってタマの胸元を隠すわけにもいかず、シュリは己の精神衛生のため、そっとタマから視線を外した。


 (今はどうにしようもないしなぁ……うん、放っておこう)


 男子の皆さん、無力な僕をどーかお許し下さい……そんな懺悔と共に吐息をもらし、一人で大人しく入学式の始まりを待とうと、椅子に深く腰掛け直したところで、念話が入ってきた。


 『シュリ』


 柔らかな声音でシュリの名を読んできた念話の相手は、水の精霊・アリア。
 シュリは優しく目を細め、それから恐らく大変な思いをしたであろう己の精霊をねぎらう言葉をかけた。


 『あ、アリア。余計な仕事をさせてごめんね?大変だったよね。お疲れ様~』

 『いえ。私達の担当はそれほど大変じゃなかったですわ。カイゼル・ルバーノにグラン、夫人のエミーユにはイグニスとシェルファ、エルジャバーノには私、というように分担してことに当たれましたし、私達の担当はしっかり無力化できたんですの。ただ、ちょっと想定外の事態が起きて……』

 『あ、うん。それは確認してる……』


 ついさっき、まさに目の前で。
 シュリは一瞬遠い目をし、だが頑張ってくれたアリア達を労ることも忘れない。


 『それはアリア達が悪いんじゃないと思うから気にしなくていいよ。他のみんなにもそう伝えてくれる?』

 『やはり、もうそちらに?』
 
 『うん、まあ、それなりに上手く潜り込んでるね~……僕にはバレバレだけど』

 『シュリが望むなら、すぐにそっちにいって捕まえますわよ?簡単ではないでしょうけど、まあ、四人でかかればどうにか……』

 『ん~、変につつくと余計に大変なことになりそうだからいいや。代わりに、後でするお仕置きでも考えておくよ……』


 アリア達も、そっちはいいから早くこっちへおいで、そう伝えてシュリは念話を終えた。
 入学式の開始まで後少し。
 シュリはため息を押し殺し、情報をシャットダウンするようにそっと目を閉じた。

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