♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第三部 学校へ行こう

第二百二話 ホームルームと自己紹介①

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 初等学校一年生の学校一日目は、特に授業と言うべき授業はなく、
 午前中に学校に関する説明やら、クラスの親睦やらの為のホームルームが行われた後、午後は特になにをするでもなく解散になる。
 本格的な授業の開始は、学校の二日目からのようだった。

 そんな訳で、登校してきた生徒達がみんな席に着き、ホームルームが始まる。
 クラスの人数は、ちょっと少な目で二十名ほど。
 シュリのクラスはSクラスなので、成績上位者二十名の集まりである。
 その為か、比較的真面目そうな生徒が多く、またそのほとんどは貴族かあるいは裕福な市民の子供のようだった。

 ルバーノの姉様達から事前に聞かされた情報によると、毎年、Sクラスは比較的真面目な生徒が多いらしい。
 貴族階級の中でも、子供にそれなりの教育を与え、きちんと知識を得ている層が多く集まるのがこのSクラスなのだそうだ。

 反対に、Bクラスには今まで教育を受けていなかった庶民が多く、ほのぼのとしつつ、学ぶことにはどん欲なのだとか。

 そんな中で、一番問題児が集まるのがAクラスで、中途半端な教育を受けて貴族風を吹かす子供が多く所属するのもこのクラスの特徴らしい。
 また、真ん中のクラスという事で、庶民と貴族が半々といった配分で集まることが多く、庶民と貴族のいざこざが起こりやすいのもこのクラスだった。

 一応学校側は、校内では貴族も庶民も身分は関係なく平等に扱うというスタンスをとっているが、それを揺るぎなく実行する事は中々に難しい事である。
 そんなわけで、多くの場合は庶民が割をくう羽目になる事が多いようだった。

 まあ、そんな学校内の事情はさておき、シュリのいるSクラスではホームルームの真っ最中であり、今まさにクラス内交流の為の定番、自己紹介が始まろうとしていた。


 「よーし。みんなに自己紹介をして貰うために、まずは先生がお手本を見せようなっ!うほん!!先生の名前はバッシュ・トスカナ。気軽にバッシュ先生と呼んでくれ。担当教科は基礎身体学と基礎格闘術だ。基礎身体学では、君達の年にあわせた体の作り方や運動方法を学び、基礎格闘術では武器を使わない格闘技の基礎や、護身術のような事を学んでいく。四年生までは基礎をみっちりやって、五年生以降は応用学に移っていく感じだな」


 バッシュ先生は、己の担当する学科についての簡単な説明を行い一旦言葉を切る。
 そんなバッシュ先生を、やっぱりなぁと見上げるシュリ。
 どっからどう見ても脳筋系だもん、とちょっぴり失礼なことを考えつつ。
 だが、それで自己紹介の見本は終わりかと思いきや、彼の自己紹介はまだまだ序の口だった。


 「先生の授業は早速明日から始まるから、先生と一緒にがんばろうな!!じゃあ、自己紹介を続けるぞ?先生の筋肉の中で一番自信があるのは、この上腕二頭筋だ。それから、大胸筋にも、まあ自信はある。いや、待て待て、先生の鍛え上げた広背筋も中々のものでな。それに、腹筋も結構いいんだぞ?綺麗に六つに割れてるから、見たい人は後で先生の所まで来なさい。思う存分見せてあげるからな!!」


 彼は得意そうに、独特なポージングを交えながら、己の筋肉自慢……いや、自己紹介をしていく。
 生徒達が付いていけず、ぽかんと口を開けていても、そんなのお構いなしである。
 彼のきわめて自己中心的な自己紹介は、まだ続いた。


 「ん?何々??先生に彼女はいるのかって?こらこら、そんなに先生の私生活が知りたいのかい?おませさん達だなぁ」


 いやいや、誰も質問なんかしてないよ、というクラス一丸となった心の中のつっこみが、バッシュ先生に伝わることなく、先生はわざとらしい一人芝居の後、


 「先生にとっては残念だけど、みんなにとっては幸運なことに、先生には彼女も奥さんもいないんだ。でも、だからといって、先生に恋しちゃいけないよ?もし好きになっちゃったとしてもその気持ちは君達が素敵なレディになるまでとっておいてほしいな。具体的には、そう……この学校を卒業するくらいまで?先生は、年齢的にきちんと見合った相手としかおつき合いしないって決めてるからね!」


 そんな微妙に気色悪い発言と共に、バチンと飛んでくるウィンク。
 なんというか、つっこみどころが満載なのだが、どうしたらいいのだろうか。

 まず第一に、バッシュ先生は決して格好良くはない。
 不細工とまでは言わないが、ちょっと暑苦しすぎて、もしシュリが女の子だったとしても好きになる要素など今のところ見あたらない。
 本人が自慢にしている筋肉も、筋肉を余すことなく見せるために来ているのだろう布地が少な目でぴたっとした服も、正直イケてない。
 というか、ちょっぴり気持ち悪い。
 せめて下半身だけはぴたっとした短パンをやめてほしかったと切に思う。
 きっと、クラスのみんなも同じ気持ちのはずだ……。

 そう言う点もふまえて、シュリはバッシュ先生のさっきの言葉を反芻する。
 一生懸命好意的に見ても、言うほど格好良くもないのに自意識過剰で、なんというか痛い。

 更に言わせてもらえるなら、先生はさっき、年齢的に見合った相手とおつき合いしたいというような発言をした。
 だが、先生はこの学校を卒業できる年までは我慢をするようにともいった。
 つまり、先生にとって、この学校を卒業できるくらいの年齢の女の子は恋愛対象になると言うことなのだろう。
 しかし、最短でこの学校を卒業した場合、そのときの年齢はまだ十二歳に満たないくらい。
 先生のような大人が相手にするには少々幼すぎるように思うのだが、どうなんだろう?

 まあ、犯罪行為を犯さなければ……あるいはきちんと相思相愛なら特に文句はない。
 現にシュリの周りはほぼ年上のお姉様ばかりだし。
 が、しかし。
 そんなちょっぴり特殊な趣味嗜好を受け持つ生徒達に堂々と明かすとは、勇気があるのか、ただバカなだけなのか、ちょっと判断に悩むところではあった。

 シュリがそんなことを考えている間にも、先生の自己紹介はとどまるところを知らない。
 もうそろそろ終わりにしてくれと、生徒達がげんなりしていることにも気づかずに、彼は言葉を紡ぐことをやめようとしなかった。


 「次にみんなが聞きたいのは、アレかな?先生の好みのタイプ。そうだろう?先生の好みのタイプは、ずばりサシャ先生だよ。美人でスタイルが良くて色気があって。もうたまらないと思わないかい?」


 六歳かそこらの子供だらけの教室で、そんな意見に同意を求められても正直困る。
 が、バッシュ先生がそんな空気を読むはず無いことを、徐々に学習し始めた生徒達は、ため息をそっとかみ殺した。
 そして思う。
 もう誰でもいいから、あいつを止めてくんねーかな、と。


 「いやぁ。一度でいいから、あの綺麗でクールな顔を、私の前でとろけさせてみたいものだよ。まあ、それも時間の問題だとは思うがね。ほら、私の魅力にかかれば、サシャ先生なんて、い・ち・こ・ろ……」

 「……私が、なんですって?」


 生徒達の願いが神に届いたのだろう。一瞬にして、教室の空気が零下に凍り付いた。
 がっちがちに凍り付いたバッシュ先生が、ぎぎぎ、と教室の入り口へと目を向ける。
 そこには、凍えるような冷たい表情のサシャ先生がいた。


 「こ、これはこれは、サシャ先生……い、いつからそこへ?」

 「……あなたの好みが私……という辺りからですね。バッシュ先生」

 「そ、そおですか。は、ははは。ま、まいったなぁ。いらっしゃったなら声をかけて下されば……」

 「いえいえ。ずいぶんと楽しそうにお話しされてましたので。ちなみに、私も少々自己紹介させて頂いても?」

 「も、もちろんですともぉ!!」


 バッシュ先生がそそくさと教壇を降り、代わってサシャ先生が教壇にあがる。
 彼女は涼しい眼差しで教室内を見回し、最後にシュリの上で視線を止めた。
 ぱちりとまっすぐ視線がぶつかってしまったが、不思議と怖いという印象は受けない。周囲のみんなは、サシャ先生の威圧感に少々怯えているようだったけど。

 だがそんな事は気にせずに、シュリは昨日助けて貰ったお礼も含め、にこりと微笑む。
 その瞬間、サシャ先生の頬がわずかに色づいた。
 彼女はほんの一瞬困ったように目を泳がせ……だが、すぐに平常心を取り戻してコホンと咳払いを一つ。
 それから教室内にまっすぐな視線を注ぎつつ、己の自己紹介を始めた。


 「Sクラスの皆さん、おはようございます。ようこそ、アズベルグ小等学校へ。私は皆さんの学年全体を受け持つ、サシャと言います。どうぞこれからよろしくお願いします。何か困ったことがあったら気軽に相談して下さいね。それから、先ほどのバッシュ先生のお話で、先生は私が好みのタイプだとおっしゃっていましたが……」


 サシャ先生はそこで言葉を切り、冷たい眼差しでぎろりとバッシュ先生を一睨みすると、


 「そう言っていただいた先生には大変申し訳ないのですけど、バッシュ先生は全く私の好みのタイプではありません。むしろ、もの凄く苦手なタイプですね。お互いの好みが合わなくて本当に残念ではありますけど」


 全然残念じゃ無さそうににっこり笑ってそう言いきった。
 バッシュ先生はうぐぐと呻き、目に見えて消沈する。
 だが、そんな彼を容赦することなく、サシャ先生は冷たい視線のまま、


 「さ、このクラスのホームルームは私が引き継ぎます。バッシュ先生は少し頭を冷やしてきたらいかがですか?」


 そんな風に提案という形の指示を出す。
 バッシュ先生はそれに逆らうことなく、しょんぼりと教室から出ていくのだった。
 ちょっと暑すぎの自意識過剰でウザい人ではあったが、そんな後ろ姿は少々哀れに見えた。
 だが、彼が出て行くと生徒達は明らかにほっとしたようで、空気も柔らかくなる。
 自分達の担任があんな人で、戸惑っていたのはどうやらシュリだけでは無かったようだ。

 サシャ先生は、見るからに弛緩した空気を引き締めるように二度手を叩き、生徒の注目を集めてから言った。
 さあ、自己紹介をはじめましょう?と。
 その言葉に、シュリは表情を引き締める。

 これから一人一人に与えられる自己表現の時間はシュリにとって正念場だった。
 ここで、新入生代表の時に付いてしまったシュリのイメージを塗り替えるのだ。
 無難に穏やかに自己紹介を終えて、僕ってそんな怖い人間じゃないんだよ?とアピールする。

 そして一人でもいい。
 どうにかお友達をゲットしたい。

 そんな密かな野望に燃えぐっと拳を握る、無難という言葉とは正反対の特性を持つ己をちっとも分かっていないシュリなのだった。
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