♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

文字の大きさ
248 / 545
第三部 学校へ行こう

第二百十四話 エリザベスは見た!?④

しおりを挟む
 「て、天国の様な地獄を見たのじゃ……」


 シュリの手で口に無理矢理突っ込まれたお菓子の甘美なる甘さによってやっと覚醒したイルルは、起きあがるないなや、ぷるぷる震えながらそんな言葉をこぼした。


 「わ、妾はこれから先、何があろーともジュディスだけは怒らせないように生きていくのじゃ……」


 イルルは許可も得ずにシュリの紅茶をずずっと飲み、青い顔でしみじみと呟く。
 よっぽどの恐怖体験をしたんだなぁと、シュリはイルルの頭を慰めるように撫でてあげる。
 まあ、自業自得ではあると思うけれど。

 エリザベスも、なんといって声をかけたらいいか分からないようで、紅茶を飲みつつ、ちらっちらっとイルルの方をうかがうばかり。
 結果、三人で黙り込んだまま黙々とお菓子を食べ、お茶を飲んだ。

 イルルに盗み飲みされて残り少なくなった紅茶を飲み干して、はふぅ、と息をつき、まだ目を泳がせているエリザベスを見ながら、さて、どうしたもんかなぁと思ったとき、部屋のドアを誰かがノックした。
 誰だろう?と思いながら、


 「はぁい。どうぞ??」


 と声をかけると、待ってましたとばかりに扉が開き、


 「シュリ、お友達が来てるんですって?」


 そんな言葉と共に、ミフィーが顔をのぞかせた。
 シュリはぱっと顔を輝かせ、たたたっと駆け寄ると、大好きな母親の体にぎゅっと抱きつく。


 「母様、ただいま!」

 「おかえり~、シュリ」


 抱きついてきた息子を、ミフィーもぎゅうっと抱き返し、そのなめらかなほっぺたにキスをした。
 シュリもミフィーのほっぺにチュッと返し、


 「それで、シュリの可愛いお友達を、母様に紹介してくれるのかしら?」


 とのミフィーの言葉に大きく頷いて、紅茶のカップを持ち上げたまま固まっているエリザベスの傍らへ駆け寄り、その手を取った。


 「ふぇ!?」


 いきなり手を握られたエリザベスが油断しきった声を上げるが、シュリは気にせずにミフィーの方を振り返る。


 「母様。僕のクラスメイトで隣の席のエリザベスだよ。エリザベス、あの人が僕の母様」

 「エリザベス、素敵なお名前ね。シュリと仲良くしてくれてありがとう。今日はゆっくりしていってね?」


 シュリの紹介に、ミフィーがにっこりと微笑んで、顔を真っ赤にしたエリザベスが慌ててソファーから立ち上がる。
 そしてそのまま、ぺこりと頭を下げた。
 右手にシュリの手、左手にティーカップを持ったまま、正直、優雅さのかけらもなく。


 「はっ、初めまして。お邪魔しておりますの。グルーミング家の長子、エリザベス・グルーミングですわ」

 「……エリザベス?母様は貴族出身じゃないから、そんなにかしこまらなくても平気だよ?」


 エリザベスの妙にかちこちとした挨拶に、シュリは小さく微笑むと、その耳元にそっと耳打ちをした。
 その言葉と、それと一緒に耳に届いた吐息に反応したように、ぴくんっと震えたエリザベスがシュリの手を振り払って耳を押さえる。
 そして、更に顔を赤くして、ちょっぴり涙目になった瞳でシュリをきゅっと睨んだ。


 (~~~~!!!かぁわいいなぁ)


 その様が、ちょっと意地悪をされてご機嫌斜めのご様子の子犬ちゃんに見えて、内心もだえるシュリ。
 エリザベスを見るシュリの目には、すっかりわんこフィルターがかかっており、ともすればその姿は、自分と同じ年頃の女の子ではなく、キャンキャン鳴く声も愛らしい、小型犬に映ってしまうのだった。

 そんな二人の仲の良さそうな様子に、シュリの内心など伺い知る由もなく、ニコニコと嬉しそうに笑うミフィー。
 彼女は、シュリとエリザベスの頭を交互に撫で、妾のも撫でるのじゃと差し出されたイルルの頭もついでに撫でて、それからはっとしたようにシュリの顔を見た。


 「あ、そうだ。ジュディスから伝言を頼まれてたのよ」

 「ジュディスから??」

 「うん、そう。ちょっと用事があるから、時間が出来たら来て欲しいって」


 ジュディスという単語を耳にしたとたん、顔を青くしてがたがた震えだしたイルルを見て、不思議そうに首を傾げたミフィーに告げられたのはそんな伝言。
 それを聞いたシュリもまた、首を傾げた。


 「ジュディスが僕に来て欲しいって??なんの用事だろ???……ま、行ってみれば分かるかぁ。ありがとう、母様。僕、ジュディスのところへ行ってみるよ」

 「どーいたしまして。じゃあ、母様は部屋に戻るわね?みんな、仲良くするのよ~?エリザベスちゃんも、ゆっくり遊んでいってね」


 最後までニコニコしたまま、ミフィーは部屋から出ていった。
 それを見送ったエリザベスがぽつりと呟く。


 「……貴方のお母様、お若いですわね」

 「そ?ありがと」

 「それに、美人ですわ」

 「ん~、母様は美人っていうより可愛らしさが際だつと思うんだけどな~。でもまあ、確かに美人だよね。うん」

 「……ワタクシ、マザコンって言葉を、いま改めて認識いたしましたわ」

 「う~ん。自覚はある。ま、ほめ言葉だって思っておくね?」


 にっこり微笑み返せば、ぐっと言葉に詰まるエリザベス。
 そんな彼女の頭をよしよしと撫でて、子供扱いはおやめになってと振り払われる。
 が、シュリの笑顔が曇ることなく、むしろよりでれでれになっていると思うのは決して気のせいではない。

 シュリの脳内では、ちょっとつれないエリザベスの態度もしっかりばっちり擬人化……いや、擬犬化され、どんなに邪険にされようとも、その姿は愛らしいわんこにしか見えないという呪いの影響下にあった。
 エリザベスは、そんなシュリの様子をちょっと気味悪そうに見つめ、一体、なんなんですの……とちょっと疲れたように小さく呟くのだった。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

処理中です...