♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第三部 学校へ行こう

第二百二十三話 そのお弁当、危険につき③

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 「えっと、僕になにか……?」


 鼻を押さえてそっぽを向いたまま、少年がいつまでたっても口火を切らないので、シュリは困ったようにそう問いかける。
 昼休みの時間は長めであるとはいえ、無限ではない。
 もたもたしていたら食事をする時間がなくなるし、なによりも学食の人気メニューが売り切れてしまう。

 シュリはこの学校の、ちょっと庶民派のメニューがいたくお気に入りだった。

 貴族のお屋敷というものは、やはり貴族らしいお食事が出てくるもので。
 前世から生粋の庶民であるシュリにとっては少々お上品すぎた。

 別にまずくて食べられないということはもちろん無く、申し分なくおいしいと思うのだが、どんなに美味しいと思っていてもフランス料理を毎日食べていたら、日本食が食べたくなるのと一緒で、ふと違うものが食べたいなぁと思ってしまうものなのだ。

 更に更に、この世界には米を食べる文化もちゃんとあるようで。
 残念ながら、貴族はどちらかというとパン食を好むようだが、庶民の食堂などでは腹持ちの良さから、米を使った料理も多かった。

 まあ、この辺りで出される料理はもちろん日本食とは違うものだが、それでも米は米。
 今までは時折お忍びで街へ出て食べるしか無かったが、学校に通い始めてからは毎日のように食堂で庶民向けの定食を食べるのが楽しみで仕方がなかった。

 が、この米を使った定食、意外と人気があるようで、気を抜くと売り切れてしまうのである。
 そんな理由もあって、シュリはじれたように目の前の年上の少年を見つめる。
 その視線に込められた熱に、少年の頬の色がどんどんその赤さを増している事になど、当然の事ながらまったく気づかずに。


 「その、先輩?用事があるなら早めに……」

 「せっ、先輩なんて、そんな!!水くさいじゃんか、兄貴!!!」

 「……兄貴??」


 思いもよらない称号で呼ばれ、シュリは深々と首を傾げた。
 目の前の彼は、おっきく見えるけどもしかして自分より年下なんだろうか、と考えてみたが、その考えは明らかに無理があった。

 それに、シュリは今現在、一番下の学年である。
 学校に入れる年齢に達してすぐに入学したのだから、この学校には同じ年の子か、年上の人しかいないはずだった。


 「え、えーと……僕の方が年下だと思うので、出来れば別の呼び方を……」

 「別の呼び方なんて無理な相談だぜ。兄貴は俺の人生を変えてくれた人なんだ。そんな人を、兄貴と呼ばずして……って、兄貴、もしかして俺のこと、覚えてないのか??」

 「しょ、初対面だと思ってましたけど??」

 「うっわぁ……まじか……」


 俺のこと、もちろん知ってるよね?という顔を向けられたが、覚えがないのは本当の事なので正直に答えたら、少年は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
 そんな彼の姿を見て、さすがにほんのちょっぴり罪悪感を覚える。


 「あ~、その、なんというか……あ、そうだ!名前!!名前を聞いたら思い出す……かも?」

 「そっ、そうだな!!名前を聞けば、きっと俺のことを思い出すよな!!!」

 「う、うん。たぶん?」


 正直、自信は無かったが、とりあえず頷いておく。
 少年は、きらきらした目でシュリを見た。
 期待に満ち満ちたそのまなざしに、聞いても思い出せなかったらどうしよう、と名前を聞く前からなんだか気が重くなってくる。


 「あ、兄貴に名乗るなんて緊張するぜ……こ、こほん。じゃあ、いくぜ?お、俺の名前は、ビリーってんだ」

 「ビリー」

 「俺のこと、思い出したか?」

 「……ごめん、全然思い出せないや」

 「まじか~~~……」


 再び、地の底に沈む勢いで落ち込む少年。
 ビリーという名の彼を、正直全然覚えていないのだが、彼の方はシュリを知っているようなので、きっとどこかで会ったことはあるのだろう。
 どこで会ったんだろうなぁと、頭の中の情報を検索しつつ、


 「僕達、いつ、どこで会ったんだっけ??」


 素直にそうたずねてみた。
 それを聞いた彼は、ああ、と一つ頷き、


 「兄貴に会ったのはずいぶん前だな。俺がもっとガキだった頃だ。んで、場所は……ん~、なんて説明すりゃわかりやすいかな~……商人街のちっせぇ広場でさ……あ、ルゥの家の近くの広場っていえばわかりやすいか?」


 時期については漠然としすぎて推測しようもなかったが、もう一つのキーワードは覚えがあった。
 ルゥの家のそばの小さな広場。
 かつて、ルゥをいじめる少年達の説教の為に、一度だけおとずれたことのある場所だ。

 その情報をふまえた上で、もう一度ビリー少年の顔を見上げてみた。
 ずいぶん成長して大人っぽい顔になっているからわからなかったが、よくよく見てみれば何となく昔の面影があるような気がしないでもない。
 といっても、一度会っただけの相手をどれだけ覚えているかという事については疑問が残るが。


 「あ~……もしかして、ルゥをいじめてた悪ガキ集団のリーダー格の人?」

 「……思い出してくれたのは嬉しいんだけど、その覚え方、どうにかなんねぇかな、兄貴」

 「っていうか、あの時、名前教えてもらったっけ??覚えがないけど」

 「ん?そういや、名乗ってねぇな……」

 「……どうりで名前を聞いても思い出せないはずだよ」

 「す、すまねぇ、兄貴!!!」

 「ちょ、いいよ、別に!謝らなくても!!っていうか、早く頭を上げて!!」


 がばりと頭を下げられて、シュリは慌てた声をあげる。
 自分より倍近く背の高い相手に謝罪させる一年生など、目立って仕方がない。
 実際、教室の中は大分ざわざわしていた。


 「……どうして、昔、一回だけ会っただけの人にこんなに慕われてるんだろうなぁ、僕……」


 教室中から突き刺さる好奇の視線にこらえきれないため息をこぼしつつ、思わずそう呟くと、


 「なにいってんだよ!兄貴は俺に人生の心理を教えてくれたじゃねぇか」


 返ってきたのは予想もしていなかったそんな言葉。


 「……人生の、心理???」


 あの日、あの場所で、自分はそんな高尚な話を彼らにしただろうか?……と思い返してみても、そんな覚えは全くない。


 「おうよ。あの日、兄貴は俺にこう言ったんだ。好きな女には優しくしろ、ってな」


 あ、そう言えば、そんな事は確かに言ったな~、とシュリは遠い目をする。
 だが、それがどうして人生の心理に繋がるのか、シュリには全く理解できなかった。


 「えっと、それが、心理?人生の??」

 「ああ!おかげで、今の俺はモッテモテだぜ!!まあ、兄貴にゃかなわねぇがよ」

 「そ、そうなんだ。よ、よかったね?」

 「おう!今の俺があるのは兄貴のおかげだぜ!!」

 「そ、そっかぁ。よかったよかった。うん。……じゃあ、僕はそろそろ食堂に……」


 とりあえず話をまとめて逃げてしまおうとしたのだが、そうは問屋がおろさなかった。
 そろそろと、彼の横をすり抜けて教室を出ようとしたシュリの手を、ビリーの手ががしっと掴む。


 「おっと、兄貴には昔の礼の他に大事な用事があるんだよ。……ちょっと、つきあってくれるよな?」


 そう言って、ビリーがにぃっと笑う。
 その顔は、どうにもこうにも悪っぽく、シュリはこれが俗に言うお礼参りって奴だろうか、ととんちんかんな事を考えつつ、ずるずると引きずられていった。
 それを見送ったクラスメイト達は口々に、


 「男の先輩まで虜にするなんて、シュリ君ってば罪な男の子ね」


 とか、


 「あんな大柄な先輩まで支配下におくなんて。さすがです、シュリ様……」


 とか、


 「わかるっ、わかるよ、先輩!!シュリちゃんが相手ならおれだって……っていうか、あんなにかわいいのにおれと同じモノが付いてるなんてしんじらんねぇっ」


 とかいいつつ、それぞれが自分勝手な妄想を膨らませた。
 お昼休みの教室には、もうすでにリアもエリザベスの姿もなく、結果、シュリが連れ去られても騒ぐ人物は誰一人いない。
 そんなわけで、この昼休みの事案が、サシャ先生やお姉様方に伝わることは無かった……らしい。
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