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出会いと再会と~悠木ソラの場合~ 3
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「かーえで♪お疲れさま~~」
舞台そでに戻ると、そんな風に声をかけられた。目を向けると同じクラスの問題児、立樹涼香の姿。
楓達、弓道部と入れ替わりに舞台に上がる軽音部所属の彼女は、舞台袖でその順番を待っていたようだ。
「いや~かっこよかったねぇ。これで、またあんたのファン倍増だわ」
ニヤニヤとからかうようにからんでくる涼香に向かって、「そんなことばかり言っていると美人が台無しだぞ」と軽口で返す。
彼女は、楓とともに学年で1,2位を争う秀才のくせに、口の悪さとふざけた性格のせいですっかり問題児扱いをされている。
見た目も頭も良いのだから、少しおとなしくしていれば文句なしの才色兼備なのに、と楓などは思うのだが、本人には全くその気がないようだ。
だが、彼女のそんなところが良いというファンもたくさんいることは確かだが。
「次は軽音部だな。準備はもういいのか?こんなところで軽口を叩いている暇などないだろう??」
「あ~、準備は男共に任せておけばいーのよ。それよりさぁ、さっきの子ってあんたの知り合いか何か?」
「さっきの??あぁ、悠木ソラか。子供の頃のな。どうやら向こうは覚えていないようだ。まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてたからな」
その時のソラの顔を思い出し、思わず口元がほころぶ。そんな楓の顔を涼香は珍しそうに見つめた。
「へぇ。あんたでもそんな優しい顔するんだね。大事な子なの?」
「大事というか……それより、お前はどうなんだ?あの子を知ってるのか」
「うん……まぁ、ね。去年の学園祭に来てた子だと思うんだよねぇ」
「学園祭で会ったのか?」
「ん~、会ったというか……」
答えようとした涼香の声を遮るように、舞台上からその名前を呼ぶ声。演奏の準備が整ったようだ。
「ありゃ、もう時間だわ。話の続きはまた今度」
片目を閉じてウィンク。
そんなのに胸をときめかせるほど初心ではないが、まぁ、素直に可愛いとは思う。
「頑張ってこいよ」
言葉とともに見送る。彼女はひらひらと手を振って、ギターを片手に光の中へと飛び出していった。
いよいよ、軽音部の演奏が始まる。ドキドキしながらほんの少し身を乗り出して舞台を見上げる。
またあの音楽が聴ける。あの声を聴き、彼女の姿を目にすることが出来ると思うと胸の高まりが止まらない。
舞台上では軽音部のメンバーが機材を設置していた。その中にまだ、彼女の姿はない。
それを見て、少しだけ不安になる。
あの人はもしかしたら、もう卒業してしまってこの学校にはいないのではないかと。
だとしたらどうしよう。自分は彼女と彼女の音に再び出会うためにここへ来たというのに。
だが、そんな思いも杞憂に終わる。
メンバーの一人が舞台袖に向かって、
「りょうか~!!!ぼちぼち準備が終わるから出てこい。音合わせすんぞ」
と声をかけ、その声にこたえて一人の少女が舞台に飛び出してきた。
彼女だった。
去年見たままの。ほんの少しだけ、去年より大人びた。
「おまたせ~。機材の設置ごくろう!!んじゃ、ちゃっちゃと音合わせしちゃいますか」
ふざけた口調とは裏腹に、真剣な表情で音合わせをする彼女の横顔にただ見とれた。
ずっと会いたかった。
やっと会えた。
その気持ちに胸が詰まる。
悲しいわけじゃないのに、なんだか溢れそうになる涙を必死に堪えているうちに、舞台上では音合わせが終わっていたようだ。
涼香と呼ばれた少女がマイクを持ち、一年生を見渡した。
「ど~も、軽音部です。長い間座りっぱなしでもうカンベンって人もいるかもしれないけど、もうちょっとだけ付き合ってね~」
彼女がにこっと笑うと、二年生、三年生の席からはそれに答えるように声が上がる。
彼女の名前を呼ぶ人の声もたくさん。涼香さんはその声に「どーも、どーも」って答えている。
人 気があるんだなぁって感心しながら舞台を見上げた瞬間、ばちっと舞台の上の彼女と目があった気がした。
気のせいかなって思っていると、気のせいじゃないよと答えるように彼女がにこっと笑う。
とたんに歓声。
きっとみんながみんな、涼香さんと目があった、笑いかけてもらったって思ってるに違いない。
だから、こっちに向かって笑ってくれたように思ったのは勘違い……きっと。
「えーっと、今日は時間の都合で演奏できるのは一曲だけ。どの曲にしようか、みんなで話し合ったけど、ちょーど新曲が出来上がってたので、今日は新曲やっちゃいまーす」
新曲という言葉に、また歓声。
中々会場は落ち着かない。それもきっと、この学校の軽音部の人気のあらわれだ。
少しだけ会場が落ち着くのを待って彼女が続ける。
「今回の新曲は、去年の学園祭であった事をもとにしてアタシが曲と詩を作りました。初めて作った曲だから、イマイチかもしれないけど、とりあえず最後まできーてやってください。じゃー、行きます。新曲で、『ひとりじゃない』」
ドラムの合図。そして始まるイントロ。
バラード調の曲のメロディは、とても優しくて。去年の学園祭で聴いた曲と全く違う曲調だけど……うん、すごくいい。
もっと曲を感じたくて、目を閉じた。それとほとんど同時に彼女の綺麗な歌声が歌詞を奏で始めた。
彼女の歌声が胸に迫る。彼女自身が作った曲であるせいか、この間の曲よりもずっと彼女の思いがダイレクトに伝わってくる気がした。
〈わたしのうたはきみのこころにちゃんととどいたのかな~なかないで、だいじょうぶ、きみはひとりじゃない~〉
その歌詞に、思わず首をかしげた。なんだか覚えのあるシチュエーション。
―これって、もしかして~~~!!!
その事に思いが至った瞬間、すごい勢いで顔が赤くなるのが自分でも分かった。
彼女が奏でる歌詞、それは正に去年の学園祭の出来事。
軽音部の演奏を聴いたソラが泣いてしまったときの事を題材にしたに違いないと確信できる内容だった。
同時に湧き起こる恥ずかしさと誇らしさ。
あの時の出来事はソラの心に深く焼きついた。
けど、もしかしたらそれと同じくらいの強さで、あの人の心にも印象を刻みつけることが出来たのかもしれない。
そう思うと、なんだか嬉しかった。
そうこうしているうちに、曲は終わりへと近づいていた。
最後の盛り上がりを、見事なまでに歌い上げ、そしてエンディング。
歓声が巻き起こる。
みんな立ち上がって、拍手・拍手・拍手……
そんな中ソラは放心したようにイスにもたれかかっていた。
すごく、気持ちが良かった。気持ちが良すぎて体に力が入らないくらいに。
今までに沢山の、様々なミュージシャンが奏でる音楽を聴いてきた。
もっと綺麗な曲も、もっと力強い曲も、もっと繊細な曲もたくさん知っていたけれど、それでも、今までに知るどんな音楽よりもこの軽音部の奏でる音が好きだと思った。
ぐったりしたまま、でも心地いい余韻に浸るように目を閉じる。
ざわざわ、ざわざわ……周りがざわめいていた。そのざわめきは少しずつ大きくなり、そして―。
「なぁんだ。今日は泣いてないのね」
間近で聞こえたその声に驚いて目を開ける。
そこには、彼女がいた。
「でも、顔がまっかっか。……もしかして、アタシの演奏でイっちゃった??」
一瞬意味が分からずきょとんとし、次の瞬間再び顔が朱に染まる。
体的な意味ではイってない。これっぽっちも、決して。
けれど、精神的なこの陶酔感と何とも言えない快感をあえて言葉で表すのであれば「イク」という表現もあながち間違いではないと思えるほど気持ち良くて……。
そんなソラの気持ちを見透かすように、彼女がニヤリと笑う。
初めて見る笑い方。でも、そんな彼女も素敵だと思ってしまう。
「なんてね。ま、冗談はさておき……君とは二度目まして、だね。一年生。折角また会えたんだし、自己紹介させて」
「じこ、しょうかい?」
そんな簡単な言葉の意味ですら分からないほど、今のソラの頭はこんがらかってしまっている。
「アタシは立樹涼香。軽音部所属。2年生。……きみは?」
促されるまま、彼女の瞳の優しさに勇気を得て、ソラは口を開く。
「ゆ、悠木ソラ。1年C組です。あの……」
「ん?」
「け、軽音部に」
「うん、軽音部に?」
「け、軽音部はいりたい、ですっ」
なんだか気合いを入れすぎて、講堂いっぱいに響くような大声での宣言になってしまった。
涼香がはじけるように笑う。
気が付けばソラも、彼女の笑顔につられて微笑んでいた。
それが2人の再開の瞬間。
2人の物語の始まりの時だった。
舞台そでに戻ると、そんな風に声をかけられた。目を向けると同じクラスの問題児、立樹涼香の姿。
楓達、弓道部と入れ替わりに舞台に上がる軽音部所属の彼女は、舞台袖でその順番を待っていたようだ。
「いや~かっこよかったねぇ。これで、またあんたのファン倍増だわ」
ニヤニヤとからかうようにからんでくる涼香に向かって、「そんなことばかり言っていると美人が台無しだぞ」と軽口で返す。
彼女は、楓とともに学年で1,2位を争う秀才のくせに、口の悪さとふざけた性格のせいですっかり問題児扱いをされている。
見た目も頭も良いのだから、少しおとなしくしていれば文句なしの才色兼備なのに、と楓などは思うのだが、本人には全くその気がないようだ。
だが、彼女のそんなところが良いというファンもたくさんいることは確かだが。
「次は軽音部だな。準備はもういいのか?こんなところで軽口を叩いている暇などないだろう??」
「あ~、準備は男共に任せておけばいーのよ。それよりさぁ、さっきの子ってあんたの知り合いか何か?」
「さっきの??あぁ、悠木ソラか。子供の頃のな。どうやら向こうは覚えていないようだ。まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてたからな」
その時のソラの顔を思い出し、思わず口元がほころぶ。そんな楓の顔を涼香は珍しそうに見つめた。
「へぇ。あんたでもそんな優しい顔するんだね。大事な子なの?」
「大事というか……それより、お前はどうなんだ?あの子を知ってるのか」
「うん……まぁ、ね。去年の学園祭に来てた子だと思うんだよねぇ」
「学園祭で会ったのか?」
「ん~、会ったというか……」
答えようとした涼香の声を遮るように、舞台上からその名前を呼ぶ声。演奏の準備が整ったようだ。
「ありゃ、もう時間だわ。話の続きはまた今度」
片目を閉じてウィンク。
そんなのに胸をときめかせるほど初心ではないが、まぁ、素直に可愛いとは思う。
「頑張ってこいよ」
言葉とともに見送る。彼女はひらひらと手を振って、ギターを片手に光の中へと飛び出していった。
いよいよ、軽音部の演奏が始まる。ドキドキしながらほんの少し身を乗り出して舞台を見上げる。
またあの音楽が聴ける。あの声を聴き、彼女の姿を目にすることが出来ると思うと胸の高まりが止まらない。
舞台上では軽音部のメンバーが機材を設置していた。その中にまだ、彼女の姿はない。
それを見て、少しだけ不安になる。
あの人はもしかしたら、もう卒業してしまってこの学校にはいないのではないかと。
だとしたらどうしよう。自分は彼女と彼女の音に再び出会うためにここへ来たというのに。
だが、そんな思いも杞憂に終わる。
メンバーの一人が舞台袖に向かって、
「りょうか~!!!ぼちぼち準備が終わるから出てこい。音合わせすんぞ」
と声をかけ、その声にこたえて一人の少女が舞台に飛び出してきた。
彼女だった。
去年見たままの。ほんの少しだけ、去年より大人びた。
「おまたせ~。機材の設置ごくろう!!んじゃ、ちゃっちゃと音合わせしちゃいますか」
ふざけた口調とは裏腹に、真剣な表情で音合わせをする彼女の横顔にただ見とれた。
ずっと会いたかった。
やっと会えた。
その気持ちに胸が詰まる。
悲しいわけじゃないのに、なんだか溢れそうになる涙を必死に堪えているうちに、舞台上では音合わせが終わっていたようだ。
涼香と呼ばれた少女がマイクを持ち、一年生を見渡した。
「ど~も、軽音部です。長い間座りっぱなしでもうカンベンって人もいるかもしれないけど、もうちょっとだけ付き合ってね~」
彼女がにこっと笑うと、二年生、三年生の席からはそれに答えるように声が上がる。
彼女の名前を呼ぶ人の声もたくさん。涼香さんはその声に「どーも、どーも」って答えている。
人 気があるんだなぁって感心しながら舞台を見上げた瞬間、ばちっと舞台の上の彼女と目があった気がした。
気のせいかなって思っていると、気のせいじゃないよと答えるように彼女がにこっと笑う。
とたんに歓声。
きっとみんながみんな、涼香さんと目があった、笑いかけてもらったって思ってるに違いない。
だから、こっちに向かって笑ってくれたように思ったのは勘違い……きっと。
「えーっと、今日は時間の都合で演奏できるのは一曲だけ。どの曲にしようか、みんなで話し合ったけど、ちょーど新曲が出来上がってたので、今日は新曲やっちゃいまーす」
新曲という言葉に、また歓声。
中々会場は落ち着かない。それもきっと、この学校の軽音部の人気のあらわれだ。
少しだけ会場が落ち着くのを待って彼女が続ける。
「今回の新曲は、去年の学園祭であった事をもとにしてアタシが曲と詩を作りました。初めて作った曲だから、イマイチかもしれないけど、とりあえず最後まできーてやってください。じゃー、行きます。新曲で、『ひとりじゃない』」
ドラムの合図。そして始まるイントロ。
バラード調の曲のメロディは、とても優しくて。去年の学園祭で聴いた曲と全く違う曲調だけど……うん、すごくいい。
もっと曲を感じたくて、目を閉じた。それとほとんど同時に彼女の綺麗な歌声が歌詞を奏で始めた。
彼女の歌声が胸に迫る。彼女自身が作った曲であるせいか、この間の曲よりもずっと彼女の思いがダイレクトに伝わってくる気がした。
〈わたしのうたはきみのこころにちゃんととどいたのかな~なかないで、だいじょうぶ、きみはひとりじゃない~〉
その歌詞に、思わず首をかしげた。なんだか覚えのあるシチュエーション。
―これって、もしかして~~~!!!
その事に思いが至った瞬間、すごい勢いで顔が赤くなるのが自分でも分かった。
彼女が奏でる歌詞、それは正に去年の学園祭の出来事。
軽音部の演奏を聴いたソラが泣いてしまったときの事を題材にしたに違いないと確信できる内容だった。
同時に湧き起こる恥ずかしさと誇らしさ。
あの時の出来事はソラの心に深く焼きついた。
けど、もしかしたらそれと同じくらいの強さで、あの人の心にも印象を刻みつけることが出来たのかもしれない。
そう思うと、なんだか嬉しかった。
そうこうしているうちに、曲は終わりへと近づいていた。
最後の盛り上がりを、見事なまでに歌い上げ、そしてエンディング。
歓声が巻き起こる。
みんな立ち上がって、拍手・拍手・拍手……
そんな中ソラは放心したようにイスにもたれかかっていた。
すごく、気持ちが良かった。気持ちが良すぎて体に力が入らないくらいに。
今までに沢山の、様々なミュージシャンが奏でる音楽を聴いてきた。
もっと綺麗な曲も、もっと力強い曲も、もっと繊細な曲もたくさん知っていたけれど、それでも、今までに知るどんな音楽よりもこの軽音部の奏でる音が好きだと思った。
ぐったりしたまま、でも心地いい余韻に浸るように目を閉じる。
ざわざわ、ざわざわ……周りがざわめいていた。そのざわめきは少しずつ大きくなり、そして―。
「なぁんだ。今日は泣いてないのね」
間近で聞こえたその声に驚いて目を開ける。
そこには、彼女がいた。
「でも、顔がまっかっか。……もしかして、アタシの演奏でイっちゃった??」
一瞬意味が分からずきょとんとし、次の瞬間再び顔が朱に染まる。
体的な意味ではイってない。これっぽっちも、決して。
けれど、精神的なこの陶酔感と何とも言えない快感をあえて言葉で表すのであれば「イク」という表現もあながち間違いではないと思えるほど気持ち良くて……。
そんなソラの気持ちを見透かすように、彼女がニヤリと笑う。
初めて見る笑い方。でも、そんな彼女も素敵だと思ってしまう。
「なんてね。ま、冗談はさておき……君とは二度目まして、だね。一年生。折角また会えたんだし、自己紹介させて」
「じこ、しょうかい?」
そんな簡単な言葉の意味ですら分からないほど、今のソラの頭はこんがらかってしまっている。
「アタシは立樹涼香。軽音部所属。2年生。……きみは?」
促されるまま、彼女の瞳の優しさに勇気を得て、ソラは口を開く。
「ゆ、悠木ソラ。1年C組です。あの……」
「ん?」
「け、軽音部に」
「うん、軽音部に?」
「け、軽音部はいりたい、ですっ」
なんだか気合いを入れすぎて、講堂いっぱいに響くような大声での宣言になってしまった。
涼香がはじけるように笑う。
気が付けばソラも、彼女の笑顔につられて微笑んでいた。
それが2人の再開の瞬間。
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