不器用なカノジョ

高嶺 蒼

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出会いと再会と~立樹涼香の場合~ 2

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 悠木ソラ。
 それが彼女の名前。クラスは1-C。
 友達は、まだあまりいないみたい。どちらかというと孤立しているのかな?

 いつ見ても、彼女は1人だった。
 何回か声をかけてみようと思ったが、涼香はその気持ちを抑え込んだ。
 もっと劇的に再会したいと思ったから。

 いよいよ今日が再会の日。
 今日は新入生歓迎会と部活紹介が行われる。軽音部は、涼香の作った新曲でミニライブを行う予定だった。

 もうほとんどの部活の発表が終わり、残るは弓道部と軽音部のみ。
 舞台上には弓道部の部長が出て、挨拶を始めてる。
 その後ろで一般部員たちが的に向かって弓を射っていた。な
 んていうか、下手な子も交じっているけど、弓を射る動作は何だかかっこいいもんだなと素直に感心する。

 弓道着を身に着けた部員達は、凛として何だかストイックな感じで、ちょっぴりエッチな感じもする。

 ―アタシって、コスチュームものに弱いのかな~?

 そんな事を考えながら舞台袖から見ていると、同級生で同じクラスの芝本楓が弓道部の部長に呼ばれた。

 楓は弓道部の期待のエースで、きりっと凛々しい顔が人気の良い女だ。
 うちの学校は共学なのに、女子の中には楓のファンも多数いる。
 バレンタインにはいつも両手で抱えきれないくらいのチョコを貰う彼女は、はっきりいってモテない男子の敵と言ってもいいだろう。

 -楓もなんかやるのかな?

 興味津々で舞台の上の楓を眺めていると、弓道部員達が急にざわざわ慌ただしく動き始め、そして。
 弓道部の部長が、なぜかあの子の名前を呼んだ。
 それから少し、やりとりがあって。

 「大丈夫。その子は動かない。大丈夫だな?悠木ソラ」

 聞こえてきたのはそんな楓の声。
 いったいあの子に何をさせる気だろうと、気になって、そうっと幕の影から体育館の中を盗み見る。
 その瞬間、

 「返事はちゃんと声に出せ!!!」

 そんな楓の声に、

 「だ、だいじょぶ……です」

 そう答えを返す聞き覚えのない声。
 それは初めて聞いたあの子の声だ。ずっと聞きたいと思っていた声。
 思ったより低くて、でも透き通るような綺麗な声だった。

 体育館の中を見回すと、的を頭上に構えて立っているあの子―悠木ソラの姿が見えた。
 その的のど真ん中に、風を切る音と共に突き刺さる弓。
 ソラは身じろぎ1つせず、それをしっかり受け止めていた。

 -結構、度胸あるじゃない。

 小さく口笛を吹く。その音に気づいた先生がこちらを見たので、慌てて幕の内側へ引っ込んだ。

 「なにやってんだよ、涼香」

 軽音部のドラム担当、高橋先輩が呆れた様にこっちを見てる。
 涼香は誤魔化すように笑って、軽音部の仲間の方へ向かった。
 弓道部の発表ももう終わる。
 聞こえてくるのは、弓道部の部長の締めの挨拶だ。

 ふと舞台の方へ目をやると、こちらにむかっ楓が戻ってくるのが見えた。
 涼香は彼女を待ちかまえ、

 「かーえで♪お疲れさま~~」

 そう、声をかけた。
 彼女はいつもの涼しげな表情でこちらを見る。
 いつ見ても綺麗な顔だ。女の子達がキャーキャー騒ぐのも無理ないなぁと思う。
 一仕事終えた楓と少し話をしながら、本当に聞きたい質問を投げかけるタイミングを計った。
 男連中はもう準備を始めているが、こっちの方が大事だ。
 準備に行かなくてもいいのか、との質問への返事と共に、

 「あ~、準備は男共に任せておけばいーのよ。それよりさぁ、さっきの子ってあんたの知り合いか何か?」

 聞きたかった質問を無理やり割り込ませる。
 楓は、そんな質問をされるとは思っていなかったらしい。
 驚いたような顔をしたが、それでも律儀に答えは返してくれる。

 「さっきの??あぁ、悠木ソラか。子供の頃のな。どうやら向こうは覚えていないようだ。まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてたからな」

 そう言って彼女は笑った。なんだかすごく、優しい顔で。

 -おっと……ライバル出現ってやつ!?

 楓がライバルとなると、かなりの強敵だ。
 何しろ、とにかく女の子にモテるのだから。

 「へぇ。あんたでもそんな優しい顔するんだね。大事な子なの?」

 内心慌てながら、でもそんな事はおくびにも出さずに、さりげなく探りを入れてみる。
 が、簡単には答えは得られなかった。

 「大事というか……それより、お前はどうなんだ?あの子を知ってるのか」

 そんな風にはぐらかされ、逆に質問をされてしまう。
 答えを一瞬躊躇する。
 だが、隠しておくほどの事でもないかと、去年の学園祭で会ったのだと話しているうちにタイムリミット。
 舞台の上の仲間から声がかかり、ギターを片手に舞台へ飛び出す。

 「頑張って来いよ」

 そんな楓の声を背中に受けながら。




 ミニライブはあっという間に終わってしまった。
 曲は初めて涼香が自作した新曲で、どんな反応が返ってくるか不安はあったけど、結果は上々。
 たくさんの拍手と歓声に、自然と顔がほころんだ。

 無意識に、あの子を探す。
 いた。悠木ソラ。
 彼女は椅子に座ったままぼーっとしてた。まるで魂が抜け出てしまったかの様に。

 泣いてはいない。だけど、頬を上気させて何だか色っぽい表情。
 さあ、会いに行くなら今だ、と自分にはっぱをかける。
 忘れられない再会を演出してやろう。
 楓になんか、負けてられるか。

 舞台を降り、ざわつく体育館の中を突っ切って、彼女の前に立つ。
 久しぶりに間近で見る顔は、やっぱり綺麗で可愛い。
 真っ赤な顔をして、彼女はまだ、目の前に立つ涼香に気づかない。
 大きく息を吸い込んで、

 「なぁんだ。今日は泣いてないのね」

 務めて普通の声を出した。
 ソラが、こっちを見る。びっくりしたような、真ん丸の目で。

 「でも、顔がまっかっか。……もしかして、アタシの演奏でイっちゃった??」

 可愛いなぁ、そんな風に思いつつ、口をつくのはからかうような言葉。
 意味が分からないというようなきょとんとした顔の後、一呼吸遅れて意味を理解したのだろう。
 ソラは可愛い顔を耳まで赤くして、恥ずかしそうに、ちょっと泣きそうな顔でそれでも目は反らさずに見つめてくる。

 そこですかさず、自己紹介。次いでソラの名前も改めて聞く。
 答えるその声は、やっぱりいい声で。軽音部にほしいなぁとちょっと思う。
 だが、軽音部は涼香以外は全員男子。
 あんなヤロー臭い部活に、こんな純真そうな子を引っ張り込むのはどうなのかとも思う。

 だが、そんな涼香の想いも何もすっかり無視して、涼香の惚れた可愛い声は叫ぶ。
 軽音部に入りたい、と。
 体育館中に、響き渡るような大音量で。

 思わず吹き出し、笑ってしまう。
 ソラは、自分の声の大きさにあわあわしていたが、涼香の笑い声につられるように、思わず目を奪われるようなすごく可愛い笑顔をみせてくれたのだった。

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