最強の建築家 ~ゲーム世界を探訪したかっただけなのに、トラウマを掘り起こしてくるから本気を……出したくない!~

まじつし

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第0章 神話に残る能力で

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 ミアが連れてきてくれたのは、研究施設の端にある小部屋だった。
 棚の上には、緑、赤、黄色、青、紫と、気味の悪い煙を噴き上げる薬瓶が並んでおり、分厚い参考書のようなものが乱雑に積み上げられている。

「こっち」

 丸椅子に座らされた俺の心臓は、変な高鳴り方をしている。
 変な薬の実験台にされそうな、そんな予感がした。

 だが、それは杞憂に終わった。
 彼女は奥の引き出しから包帯を取り出すと、俺の手にぐるぐると巻いてくれた。

「これでよし」
「……ありがとう。キレイに巻けてるね。プラムから教わったの?」

 包帯の巻かれた手を見つめながら聞く。ミアの返事がない。

「ミア?」
「……出てって」
「え?」
「出てって!」
「え、え?」

 包帯を巻いていないほうの手を引っ張り上げられて立たせられると、ぐるっとその場で半回転、背中を押されてまっすぐ部屋の外へと押し出されてしまった。

 ……なんだったんだ、今の。
 振り返ったが、鎖された扉の向こうで何が起こっているのかは分からなかった。

 とりあえず気を取り直して、プラムに今日の進捗を報告しに行こう。
 ドディシュの件と、インベントリの話も。

 研究施設の廊下を歩いて、奥の様子を覗く。
 エネルギーがないせいで、何かをやっている人は皆、ランタンのような明かりに頼っている。
 どんな研究をしているのかは知らないが、エネルギーを使うタイプのものは仕事にならないはずだ。
 気まずくなって、足早に通り抜ける。エネルギー生産施設は早急に直したほうがいいだろう。
 そうすれば、夜も内装工事できるし。

 廊下を通り抜け、階段を上る。
 ピッケルを握る手はボロボロになったが、この世界での生活に慣れてきたせいか、階段を上がるのはそんなに苦しくない。
 1階、2階、3階と上って、プラムがいつもいる部屋へ。
 コンコン、と2回ノックして顔を覗かせる。

「失礼しまーす」
「なんじゃ? おお、イツキか。どうした」
「色々報告しに来たんだよ」

 扉から内側に入り、大きな玉座に近付いていく。

「なんじゃその手」
「ピッケル振ってたらね……」
「もやしっ子じゃのう……」
「仕方ないだろ。5時間近くピッケル振ってたんだから」

 そうだ、と切り出した。

「ミア、なんか様子がおかしいんだけど」
「ふうむ?」
「この包帯、ミアがやってくれたんだけど、巻くまでは優しかったのに、急に部屋を追い出されて」
「部屋……どこの部屋じゃ」
「ここの2階の、研究室がいっぱいあるところの奥」
「ほほう……」

 プラムがニヤリと笑った。

「何がおかしい」
「いやいや。むふふふ」

 彼女のにやけ顔をじーっと見ていると、やがて彼女は俺のいら立ちに気付いたらしく、「なぁに」ともったいぶって口を開いた。

「そこは、ミアの部屋じゃ。ミアはワシ以外とはしゃべりたがらんからのう。部屋に入れるなぞ、大胆なことを」
「大胆って……手当してもらっただけだぞ」
「いやいや。お主も自分に置き換えて考えてみよ。自分の部屋に友人を招いたこともないのに、いきなり異性を連れ込んだんじゃぞ」
「いッ、異性ッ!?」
「じゃろうがぃ」

 ニヤニヤと笑いながら、肘をこちらに突き出してくる。

「ええのう、若いのう」
「やめろって……ミアだってそんなつもりじゃないでしょ」
「おンやぁ? 人間の娘は好かんか? 獣人かいいか?」
「そういうことじゃなくて!」
「ほっほっほ! 耳がパタパタパタパタ、やかましいわい!」

 まただ。もうこの厄介な感情表現装置、どうにかしてくれ。

「まっ」

 プラムがぱしりと手を打った。

「『手当てせねば』と部屋に連れてきて包帯を巻いたまでは良かったが、よくよく考えたら男のお主を部屋に入れたことに気が付いて追い出した、というところじゃろうな」
「ホントかよ」
「ミアは箱入り娘じゃからな。男とは、衛兵であってもほぼ喋らぬ。それに比べれば、イツキには随分心を開いておるほうじゃぞ、クフフ」

 まーたニヤニヤしやがって、この変態め……。

「それ以外はどうじゃ?」
「……ああ、そうだ。インベントリのことをミアにどう伝えていいかわからないんだけど」
「うん?」
「ほら、プレイヤーなことは隠した方がいいだろ? だからミアが集めてくれた木材をインベントリに回収できないんだ」

 プラムは目を閉じ、ふーっと深くため息をついた。

「分かった。インベントリの件は、ワシからミアに上手いこと言うておく。明日からは自由にインベントリを使え」
「了解。その代わり石はかなりの量が拾えたから、細かい部屋はともかく、見た目を修復するくらいはもう出来ると思う」
「……さすがプレイヤー、早いのう」
「それと、裏の立ち入り禁止区域に『ドディシュ』とかいう魔獣が出たぞ」
「にょわッ!? 賢者の丘にドディシュ!?」
「クマかと思ったんだけど、ミアが『ドディシュだ』って」
「そうか。やはり立ち入り禁止地区にしておいて正解だったようじゃな」
「モンスターって、プレイヤーが駆逐したんじゃないのか?」
「ああ、駆逐しておる。だから、ヒトの生活圏に魔獣はおらん。だがな、ここは原初の自然が残るエルフの聖地――その前にそびえる巨大建築『賢者の丘』じゃ」
「……つまり、人がいないから野生動物も残っている、と?」
「そういうことじゃな。して、そのドディッシュはどうした」
「石で囲って、太陽の光で……」
「倒したか」
「ああ……ちょっとかわいそうだったかも」

 プラムは、にやっと笑った。

「魔獣は森を破壊し、人里に下りれば住人を襲う。葬るほかに、ワシらにできることはない」

 俺がインベントリから取り出した敵探知レーダーは、スイッチをオフにしてあった。弱くなっていく光を見ていられなかったのだ。
 取り出したレーダーを、プラムがまじまじと見る。

「懐かしいのう、コレ。なんか見覚えがあるぞぃ。『一番近い敵』を映すアイテム……レーダーじゃったか?」
「ああ、合ってる。……とりあえず、明日の朝一で、もう一度様子を確認するよ。きちんとした墓も作ってやりたいし」

 モンスターの墓か、とプラムが笑う。

「飾りみたいなもんだよ。それが終わったら、ミアが集めてくれた木材を回収する。すぐ終わるだろうから、……ミアにはここで待機してもらってほしい。その間にインベントリのこと、頼んだ」
「指図するでない。ワシは偉いんじゃぞ」

 「分かっておるわ」と言って、プラムは胸を張った。

「終わったら、塔を修復するからさ」
「頼んだぞ」

 その夜、俺は塔の最上階……になってしまった事故現場に石をいくつか置いて、地下の部屋へと戻った。
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