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第0章 神話に残る能力で

秘密の研究

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 塔の裏側、立ち入り禁止地区には、昨日見たままの石棺があった。
 俺は遠くから目礼し、横を通り過ぎる。

 ミアが積んでくれた木材の山は、一括採取ツールですぐに回収できた。
 確かに、あんなに簡単にマメが出来ていた俺が、超スピードで塔を作るなんて想定外だろう。
 そうだな……。いつか、もう少し仲良くなったら、俺がプレイヤーであることは彼女に話してもいいかもしれない。

 木材を集め終わった後は、さらに塔に近いエリアへ移動する。
 賢者の塔が直ったせいで日陰になって見づらいが、明らかに金属の破片のようなものがいくつも落ちている。
 バラバラになっているコレは……ソーラーパネルだ。
 つまり、塔のどこかにエネルギー生産システムとしてソーラーパネルを置き、蓄電機を中層階に置いていたのか。

「なんで……」

 ソーラーパネルを設置するなら、屋上が定石だろう。
 そして、蓄電器はソーラーパネルに併設したほうが効率が上がる。

 だったらソーラーパネルも蓄電器も、どちらも最上階にあったほうがいいはずだ。なぜ蓄電機を中層階に置いたのだろう?
 しかも、図面では倉庫らしき場所が上層階にある。

 もしかしてここ……最初はもっと短い塔だったんじゃないのか?
 倉庫が足りなくなって、後から拡張したとか……。それで、蓄電装置まで移動するのは面倒ということになって、みたいな……。

 俺は塔を見上げた。
 だとしたら、あの設計図は……?

「まあいいか」

 考えても仕方ない。俺は肩をすくめ、ソーラーパネルの残骸を拾おうとした。

「お~いっ!!」

 ふと声がして、手を止め、顔を上げる。
 塔の窓から、ミアが手を振っていた。

「ラグ、できた! ごはんどうする!?」
「おー」

 息を胸いっぱいに吸い込む。

「こっちは、まだソーラーパネルの材料を拾えてない! さきに昼ごはんは食べててくれ!」
「は~い!」

 遠くからでも、ミアの顔が明るいのがわかる。
 プラムとの時間が、やっぱり彼女は好きなのだろう。

 ミアの姿が窓辺からいなくなったのを確認して、俺は再び金属片を拾い始めた。



 ◇◇◇



 ミアがプラムと編んでくれたラグは、どこか不器用ながら、温かみのある仕上がりになっていた。

「一人で?」
「賢者様と」

 だろうと思った。
 ミアはニコニコ顔が止まらない。

「午後からは、棚を作ったりソーラーパネルを直したりの予定だけど……ミア、棚は作れるか?」
「……いや」

 一気に彼女のテンションが下がる。

「……そう落ち込むなよ。ほとんどの人間は棚なんて作ったことないんだ。ミアができなくても普通だって」
「でも、お前はできる」

 じーっとミアを見た。ミアも俺を見ている。

「……もしかして、俺がプラムを『取り上げる』と思ってる?」

 ミアの瞳が、ふわっと大きくなる。
 図星か。

「俺はプラムと友達だけど、ここにずっといる気もないし、ましてプラムを連れてどこかにいこうとも思ってないぞ」
「……」
「プラムからなんて聞いてるかは知らないが、俺は……」
「賢者様の、大切な客人で、仲間……」

 ミアが、むっ、と口を尖らせる。

「確かにそうかもしれないけど、プラムにとってはミアのほうが大事だと思うよ」
「……そう、かな」
「そうでしょ。こんな――」

 賢者の塔をへし折った獣人より、とは、ちょっと言えそうになかった。
 だが、俺の言葉でミアは少し自信を取り戻したのかもしれない。さっきより、少しだけ血色をよくして「そうかな」と微笑んだ。



 ◇◇◇



 その夜、俺はプラムの前で状況報告をしていた。

「塔の外形は一通り修復、棚は――」
「ああ、ああ。ミアからおおよそのことは聞いておる」
「じゃあ、そういう感じで進んでますよってことで」
「さすがに早かったのう?」
「……自動建築機を使った。プラムが、ミアにインベントリのことを言っておいてくれたおかげもある」
「そうじゃろう、そうじゃろう」

 プラムは、まっすぐな胸を大きく張って、ふんと鼻を鳴らす。

「あと残ってるのは、エネルギー生産施設くらいだ。ソーラーパネルと蓄電設備を元に戻さなきゃいけないが、これは完全に『クラフト』でやらせてもらう。それなら、1日あればなんとかなりそうだ」
「好きにせい。ワシは塔の設備が戻ってくれれば、それで万事OKじゃからな」
「それで、ミアのことなんだけど……」
「ん? なんじゃ、何か気に食わんことでもあったか?」
「いや、明日は大工とかじゃなくて……それこそ、魔法みたいな仕事になるから、ミアには別の仕事を割り当ててやってほしい」
「別ぅ?」

 プラムは口を尖らせる。ミアが昼間に見せた表情とそっくりだ。

「ミアはお主の手伝いでもあるが、何よりサボらんように見張らせる意味合いが強いんじゃぞ?」
「ここ数日で分かっただろ? 俺は仕事をサボらない。特に――自分で壊したモノを直すことに関しては」
「責任感が強いのはええんじゃがのう……」

 頬杖をついたプラムは、はぁ、と肩を落とす。

「まあええわい。明日までに、何か考えといてやる」

 さて、とプラムは立ち上がる。

「報告は以上か? ワシはまだ研究の続きがあるから、ラボに戻るぞ」
「……エネルギーがないのに?」
「ちょうど『あとちょっと』のいいトコなんじゃ……今日は寝られんかもしれんのう……あー、お肌に悪い……」
「そういや、研究って何してるんだ? MOD弄り……アイテム研究みたいなこと?」
「うーむ……」

 プラムは首を傾げる。

「まあ、そうと言えばそう、みたいな感じかもしれぬな」
「曖昧だな」
「極秘なんじゃよ、この研究は」
「ルグトニアの王様が噛んでるって」
「そーそー。アヤツに機密漏洩がバレたらマズいんじゃ」

 彼女はやれやれといった顔で首を横に振った。

「じゃが、完成すればお主にとってもメリットがある。その時は、ルグトニア王の次にお前に教えちゃる」
「……楽しみにしておくよ」

 俺の言葉に満足したのか、プラムは「ほれ、明日もチャキチャキ働くために、さっさと寝んか」と、笑顔で俺を追い払った。
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