最強の建築家 ~ゲーム世界を探訪したかっただけなのに、トラウマを掘り起こしてくるから本気を……出したくない!~

まじつし

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第1章 レコンキスタ

ダンジョン探索

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 天井からコウモリがばささっと飛び降りてきて、俺の頬をかすめて飛んでいく。

 直後、後ろで叫び声がした。



「ぎひぃッ?!」

「うぉぉい! コウモリ来るなら来るって言えよ! E級! 」



 青筋を浮かべて、こちらに文句を言ってくる。

 ロイとかいうB級冒険者はまだしも、取り巻きの奴らは目も当てられない。

 まったく、コウモリくらいでビビるなよ。



 驚いて剣を振った冒険者たちに驚いて、コウモリは逃げるように身を翻す。

 そして、先人たちが壁に設置していったトーチの1つに激突して燃え上がり、やがてその命を終えた。



 地下深くへと潜っていくタイプのダンジョンでは、こういう「モンスター」と呼ぶのもバカバカしいザコが無数にいる。

 そんなのに対していちいち「コウモリ出ますよ」「足元にムカデいるから気を付けましょう」なんて、子供の引率じゃねえんだぞ俺は!



「うぃ、すいませーん」

「ったく……これだから。ねえロイさん!」

「……俺のメンバー采配に文句があるのか?」

「す、すんません」



 どうやらこのパーティーは、ロイってやつの独裁みたいだ。

 ま、ささっと行って、ぱっと帰って、金貨7枚もらって終わりにしよう。

 こんな居心地が悪いパーティーにいつまでもいたら、俺までおかしくなる。



「アレン、最底辺の貴様にいいことを教えてやる」



 うわっ。ようやく黙って仕事ができると思ったのに。

 俺は、自分ができる精一杯の笑顔で振り返って「なんですか?」と聞いた。



「このバーデンの街には、巨大なダンジョンが存在し――」

「そっすね。まさにここ」

「……で、だ! ダンジョンの内部には、20を超える分岐がある。中でも、まだ誰も立ち入ったことのないルートが8つ……これは『死の八道』と呼ばれていて――」

「はいはい、本来俺みたいなE級はすぐに命を落とす、ってやつですよね」



 呆れた口調で言った後に気付いた。マズった……ガマンできなかった……!

 明らかに、ロイの機嫌が悪くなってしまった。



「アレン、貴様」

「えっと、はは……その、受付で何回も聞かされてるんで……つい」

「俺のような『上位』冒険者が教えを説いてやっているんだぞ!」

「あ! ちょっとここ怪しそうなんで、索敵しながらでいいすか?」

「……ちっ」



 俺は前を向き、見えないように顔を歪めた。



 何食って生きてたら、そんなひん曲がったプライドが形成されるんだよッ!



 俺は口の中で絶叫して、左右に目配せをする。

 大丈夫。ここには、トラップや危険な生物はいない。



「……まあいい、よく聞け『E級冒険者』。ダンジョンのうち、すでに内部構造が把握されている12ルートは、お前らみたいな『低級』冒険者向きだ」

「うーい……」



 分かってる。

 わざわざ言われなくても、俺の目的は金を稼ぐことだけだ。

 ルグトニアが集めているという、『神の残滓』なんて、俺はこれっぽっちの興味もない。

 いや、ゼロじゃないが、それよりも金貨だ。

 金持ちになって、王都に帰って、腹いっぱい飯食って、みんなにも飯食わせて……。

 そんで、神の残滓は、博物館でもなんでも、どっかに展示されてるのを見れればいい。

 だから、わざわざ『死の八道』なんてヤバげな名前の付いたルートに行く必要なんてないんだ。



「聞いているのか?」

「聞いてますよ? ただ、ちょっと嫌な気配が……」



 わざとキョロキョロして様子を伺ってやると、後ろで剣を構える音がした。

 コイツら、ホントに上級冒険者なのかよ。気配どころか、物音ひとつしてないだろ。



「……低級冒険者の役割は、安全な12ルートの中で狩りつくされた害獣の余りをチビチビと討伐し、上級冒険者が『死の八道』へ潜っていきやすい環境を作ることだ」



 これも、ほとんど受付嬢が毎回教えてくれる内容だ。



「そして12ルートの詳細な内部調査を行い、新ルートがないか探る。これがお前たちの本来の仕事だ」



 頭が痛くなってくる。知っていることを「知らないフリ」で聞き流し、適当に相槌を打った。



「ですね」

「……アレン、俺はお前のためを思って」

「ありがとうございます!」

「おい!」



 ごんッ、と岩壁を叩く音がした。遠くで、コウモリが飛び立つ羽音。



「ロイさん、刺激するとあいつらが出てきますよ」

「コウモリごとき、貴様が斬ればいいだろう。……ああ、すまなかった。貴様が持っているそれは『打撃専用』で『最低品質』の『こん棒』だったな」



 間違ったことは言ってない。

 俺が今手に持っているのは、剣ですらない、ただの棒切れだ。



「まあ、別に危害は無いですけど」

「俺らは襲われてるんだよ。お前からドブのようなニオイがするから、仲間だと思われているんだろ」



 俺はため息をついた。

 はぁ、本当、早くこの冒険終わんないかな。



「で、次は右ですか? 左ですか?」

「……右だ」

「はいっす。段差あるんで気を付けてくださいね」



 俺が歩き出したのに少し遅れて、ロイたちも付いてくる音がした。







 ◇◇◇







 ここまでのルートは、『E級』で『下等』な冒険者の俺ですら、何度か来たことのある道だった。

 言ってしまえば、すべてのルートの中で1番ヌルいコースで、湧いてくる敵も大したことのないものばかり。

 とりあえず全部殴って倒していくが、たまに取りこぼすと後ろのロイが舌打ちをしながら退治している。



「礼は?」

「……あざっす」



 とまあ、だいたいこんな調子である。

 確かにこの程度の敵を倒しきれない俺も問題だが……それより、今回俺は索敵役って聞いてたんだけど。



 俺は立ち止まり、振り返った。



「ロイ……さん、ここって初心者向けルートですよね」

「ああ」

「こんなところを探索するだけで金貨60枚って、本当ですか」



 ロイは怪訝な顔をして振り返る。

 ほかの冒険者たちは、全員焦ったように首を横に振った。



「報酬は全体で『金貨20枚』だが?」

「あー……」



 そっか。そういうことになっているんだった。



「すんません、勘違いしてたかもです」

「気にするな。それで?」

「……いや、このド初心者向けルートで金貨20枚って、どう考えてもおかしくないですか? 俺もここに何人かのE級と潜ったことがありますけど、報酬は銀貨10枚でしたよ」



 金貨1枚は、銀貨20枚、銅銭500枚と等価。

 つまり、今回の依頼は普段の40倍の価値がある探索、ということになる。

 ……まあ、本当は金貨60枚分の報酬だから、120倍の価値がある、ってことになるわけだが。

 いくらB級冒険者がやっているからといって、それだけで探索の価値が跳ね上がるわけはない。



「……この穴へ」



 ロイはそれに答えず、左を指さした。

 そこには、幅1m、高さ2mくらいの小さな穴があった。



「……こんなところに、分岐なんてありましたっけ?」

「いいから入れ」



 なんかイヤな予感がする。

 俺は気の抜けた返事をして、その穴をくぐった。



 これまでの洞窟は、先人たちが残したであろうトーチで煌々と道が照らされていたが、ここは真っ暗で、何も見えない。



「これを持て」



 ロイが、俺に手持ちサイズのランタンを渡してきた。



「お前が先頭を行くんだ」

「……ははっ、トーチが置かれてないってことは、まだほとんど探索されてないんでしょ?」

「『ほとんど』じゃない。『まったく』だ」



 ロイはニヤっと笑った。



「『金貨20枚』でB級の俺に依頼してくる仕事だぞ? 生ぬるい既存ルートの探索なわけがないだろう」

「……てことは、これ、新規ルート……」

「その通りだ」



 ロイの後ろに付いている冒険者が、ザックからトーチを取り出して壁に設置する。そして最後尾の男が、そのトーチに1つずつ火を灯していく。



「ここは、数日前に発見された新ルートだ。当然、低級の奴らでは危険すぎるので、発見だけしてギルドに報告した。そのルートの探索依頼が、俺にやってきたわけだ」



 勘弁してくれ。俺は、「楽に小銭を稼ぎたい」だけなんだ。

 まさか新規ルートの探索とか……。



「言っただろう。貴様は鼻が利く。新規探索であればこそ、先頭を切ってこの冒険を成功に導いてほしい。……というか」



 ロイの目は、あまりに信用ならない。



「こんな崇高な探索に参加させてやってるんだから、光栄に思え。取り分も『誰よりも多い』しな」



 今からでも断って帰りたい。

 だが無理だ。頼まれていたのは見られていたし、B級冒険者の依頼から逃げ帰ったとなれば、今後の稼ぎにも悪影響が出る。



「……不満か?」

「いやあ、ロイさんの華麗な経歴に『E級冒険者の案内でダンジョン攻略』が追加されちゃうかなと」



 こんな分かりやすい煽りに乗って、少しだけでも先陣を切ってくれると助かる。

 だが、ロイにじとっとした目で睨まれて、俺は目をそらした。



「先に行くのはお前だが……確かに経歴は問題だな。全部終わったら、お前を殺して口封じとしよう」

「ッ!?」



 どれだけ内心バカにされていようが、口に出して罵倒されようが構わないが、こんなダンジョンの、しかも「まだ一般的なルートとして認知されていない場所」で殺されたら、証拠隠滅は簡単だ。

 当然、俺が『B級冒険者』に勝てる見込みは万に一つもないだろう。できて逃げることくらいだが、それだってどうなるか……。



「ハハハ! 冗談に決まっているだろ!」

「クソ、勘弁してくれよ……」



 俺はうっすらかいた脂汗を拭って、振り返った。



「まあ、冗談にするかどうかは、今後のお前の態度次第だな」

「……心掛けます」







 ◇◇◇







 ランタンの弱い明りを手に、どんどん先へと進んでいく。

 するとすぐに、二手の分かれ道が現れた。



「……どっち行きます?」

「どちらでもいいが、最終的な目標である『神の残滓』に近いほうがいい。最深部にたどり着けそうなほうを選んでくれ」

「んなメチャクチャな……」



 右を見る。暗い。

 左を見る。暗い。

 もう一度右を見る。



 どちらの道も大して変わらない。



 だが……右からは、なんか嫌な予感がする。



「左、行きますか」



 俺は左手を指さした。



「バカだなぁ、これだからE級は」



 ロイの後ろに付き従っていた冒険者……なんか入り口で名乗っていたはずだったが、どうでも良すぎて忘れてしまった。

 そいつがぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。



「いいか? ダンジョンの構造を思い出せよ。隠しルートは左側に存在したんだぞ。ここで左に進んだら、入り口側に戻っちまうだろ。つまり、正解は右! こっちが――」



 と勝手にトーチを持ち、右の分岐へと足を突っ込んでいった。



「危ない! そこには落とし穴が――」

「は? ッぉぉ~~!? ……ッあ……!」



 ばごっ、と地面が抜け、一瞬で彼の姿が見えなくなった。



「ジャック!!」



 あ、そうだ、アイツの名前、ジャックだった。じゃなくて!



「みんな動くな!」



 俺はそーっと落とし穴の上へと近付いて、大声を上げた。



「ジャックーッ! 聞こえるかぁーッ!!」



 遠くから、反響しながら返事がある。



「下は水だッ! 俺は大丈夫!!」

「そこはおそらくトラップ祭りだ! 下手に動くと死ぬぞ!」



 もう一度、思い切り息を吸い込む。埃っぽい空気が肺に溜まる。



「水に浸かり続けていると寒くて衰弱する! とりあえず岸に上がって、そこでじっとしてろ! 壁にもたれかかるのもダメだ! 座って、じっとしとけ!」



 下から返事はなかった。

 ……まあ、これで理解してもらえなきゃ、死んでも仕方ない。

 クソ……面倒ごとを増やしやがって。



 俺は振り返り、ロイを見上げた。



「ここに、とりあえず進入禁止のロープを張ってくれ」

「あ、う、うむ……」



 ロイは、さらに後ろにいた男に目配せをして、ザックからロープと杭を取り出し、打ち込ませた。



「アレン……ジャックはどうなる?」

「さあね。俺たちの運が良ければ、見つけられるだろう」

「運が良ければって……アイツも俺たちの大切な仲間だろ!」



 冒険者の一人が食ってかかってきたが、俺はため息を吐くしかなかった。



「先人切ってトラップ解除すんのが俺の仕事っすよね? それなのに勝手に動いた奴の事なんて知らねーよ!」



 そう言うと、彼は奥歯を噛んで舌打ちした。



「ダンジョンはところどころ空間が歪んでる。常識だろ? そんなことも知らずに『前は左に行ったから、次は右!』とかやられたんじゃ、たまったもんじゃないですよ。それとも、みんなで仲良く助けに行って全滅します?」



 これまでにないほど神妙な面持ちのロイが、俺に手を差し伸べている。

 俺はその手を掴んで立ち上がり、分岐の手前へと戻った。



「さっきお前、ジャックに『下はトラップだらけ』って言ったよな?」

「……言いましたね」

「なぜそんなことが分かるんだ? どれだけの距離があるか分からないが、そんなところまで分かるのか?」

「分かるっていうか……」



 俺は首を傾げた。



「1つは、ふつう落とし穴の下って、確実に仕留めるために針の山とかにするでしょ。なのに落下先は水だった。つまり、中のやつが餌なんですよ。助けに行った奴を殺すための」



 目をつぶり、肩を落とす。



「もう1つは……まあ、これはマジでオカルトみたいなもんで、なんか、このダンジョンって来た事があるような気がするんですよね……そんで、そこの落とし穴の先のことも、なんか分かるっていうか……」

「だが、それが落とし穴ではなく、ただの脆弱な岩盤だったとしたら……?」

「ぐぎゃぁぁぁッッ……!!」



 穴の中から、耳をふさぎたくなるような絶叫が聞こえる。



「ジャック! 大丈夫かジャック!!」

「……急ぎましょう。多分左側の先のどこかで、落ちた先に合流できると思いますよ。急いだほうが、ジャックさんの命も助かる可能性があるかも」



 俺は目を伏せ、歩き出した。

 ……が、みな足を止め、落とし穴のほうをのぞき込んでいる。



「ロイさん、どうするんすか?」

「落とし穴にわざと落ちて、ジャックを助けるという選択肢は……」

「分かってて聞いてますよね」



 俺は呆れて、彼の顔をじっと見た。



「……俺1人で先に進んでもモンスターと戦えないんで、皆さんが来てくれないなら流石に帰りますけど」



 みな一様に殺気立っている。俺のあまりに物言いのせいだろう。

 だが、俺にだって言い分はある。散々罵倒されて、勝手に動かれて、勝手に落とし穴に落ちて、勝手に絶体絶命になっている奴の事なんて、知ったこっちゃない。







 ◇◇◇







 左のルートは、毒矢、火炎放射、巨大岩の落下トラップなど、古典的ながらなかなか強力な罠が満載だった。



「こんだけ厳重なら、何か奥にあるかもしれないですね」



 俺はトラップの1つを解除しながら、ロイに向かってつぶやいた。



「おい危ない! 頭下げろ!」

「は?」



 訳も分からず、言われるがままに頭を下げる。

 すると直後、俺の頭の上を炎がかすめていった。



「またトラップ……!?」

「ドラゴン族だ! このッ……」



 見ると、暗闇のはるか向こうから小型のヘビみたいな奴が炎を吐いている。

 まったく気配を感じられなかった……!

 だが、ロイは俺よりも早く気付いていたらしい。



「氷瀑<アイシングフォール>ッッ!!」



 ドゴゴゴッ、と激しい音がして、炎が順々に凍っていく。

 その氷がドラゴンにまで到達すると、一瞬で敵ごと凍り付かせた。



「散……!」



 さらに凍った炎に斬撃を加えると、氷がひび割れ、砕けていき、やがてドラゴン本体までもを完全に粉砕した。



「……つえー……」



 俺は後頭部の少し焼けた髪を撫でながら、涼しげな表情を浮かべているロイを見た。

 ムカつくヤツだが、さすがはB級冒険者。魔法も剣撃も、どちらも一級品だ。

 これでA級じゃないってんだから恐ろしい。

 もしかして、冒険者のランク分けには「性格」って項目でもあるんじゃないのか?



 俺は道の奥を見た。

 このまま行けば、たぶん最深部にたどり着く、はず。

 そこに何があるのかは知らないが、コイツらが行きたいというのだから、案内してやればいい。



「貴様を連れてきて正解だったな」

「どうも。報酬を弾んでくれてもいいんですよ。正当な額にね」

「……考えておこう」



 ロイは俺をにらみつけた。
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