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第1章 レコンキスタ
どうあがいてもトラップ
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目の前に、重そうな石の扉が現れた。
「ここが恐らく最奥……」
俺は振り返って、冒険者たちの目を見た。
「扉自体にトラップはないですけど、先は分からないんで。いきなり飛び込まないこと」
ここまでの探索で、俺のトラップ解除能力は十分に伝わったのだろう。
不服そうな顔をしながらも、黙って全員が俺の話を聞いていた。
「そんじゃ……開けまーす」
手をかける。脚に力を込めて、全体重を乗せて引く。……が……。
「んぎぎッ……重ぉ……ッ!」
扉がビクともしない。
一度手を放して、軽く手首を振る。もう1回……。
「ぐッ……ぉぉッ……!?」
「何を遊んでいる」
ロイが俺の手を払いのける。勢いあまって、俺は尻餅をついた。
「こんなもの……」
彼は扉の正面に立ったまま、片手で、そのドアを開いて見せた。
「……」
「素晴らしい実力だな、アレン君」
ロイは鼻で笑うと、部屋の奥へとゆっくり入っていった。
ふん……本当に嫌味な奴だ。新種のトラップかなんかで、一度痛い目を見ればいいのに。
◇◇◇
たどり着いた部屋は、宝物庫になっていた。
「こんなの……見たことねえよ……!」
C級冒険者たちが、目を輝かせている。
でも、そいつだけじゃない。俺もこんな量のお宝、見たことがなかった。
大量の装飾品に、壁に掛けられた意味ありげな絵画。
本棚にぎっしり詰まった本の背表紙は、古代語なのか、単純に土埃で汚れているせいか、文字が読み取れない。
それから、剣、杖、防具……さらに、宝石のようなものもゴロゴロ転がっている。
この中の1個でも売れば、金貨どころか庭付きの家でも買えそうだ。
「……これだな」
ロイは壁に掛けられていた剣を下ろし、掲げた。
「よし……これで今回のミッションは完了だ……あとは」
ロイの口角が上がる。
「全員、好きなものを持っていけ!」
「うおぉぉぉッッ!!」
ロイの号令で、男たちは冒険者から夜盗に変わったようだった。
目を皿のようにして、アイテムの値踏みを始めた。
「えっと、あの、ロイ、さん?」
「……なんだ?」
「俺、何も聞いてないんですけど……どういうことですか?」
「……貴様はここまでの案内役。それ以上のことを知る必要があるか?」
「いや、だって……」
周りを見る。先ほどまでも統制が取れていたとは言い難いパーティーだったが、いきなり乱雑にアイテムを漁り始める姿は、とても正気には見えなかった。
「……まあいい、教えてやろう。今回のミッションは、この剣」
ロイは腰に差した剣を抜き、俺の前に掲げる。
先ほど壁にかかっていたその剣は、長年地下深くに眠っていたものとは思えないほどの金属光沢を保っていた。俺の顔が、刀身に反射して見えるほどだ。
「いいか? これさえ回収すれば、聖王国は満足する。今回はそういうミッションだ。ほかのものについて『どのように処理するか』の指示は得ていない。つまり、俺たちのものにしていい、というわけだ」
「……本当ですか? そんな話、今まで聞いたことないけど」
「フン。それは、貴様がE級だからだろう」
そう言われてしまうと、反論の余地がない。
「元々お前には、こっちの取り分は用意しない予定だった……が、せっかくだ。変な事を言いふらされてはたまらん。お前も、好きなものを持っていけ」
「口止め料か」
「そう思うのはお前の勝手だ。ただ……」
ロイが首を伸ばして後ろを見回す。
俺もつられて、そちらに目をやった。
「……あれだけ殺気立っている者たちが、お前などにアイテムを譲るかな?」
見ると、すでに「これは俺のもんだ」とか「俺が先に触った」だとか、激しい罵声がそこかしこで飛び交っている。
「貴様には、残り物のゴミがお似合いだ。だがまあ、宵越しの金程度にはなるだろう」
ロイが俺の肩をポンと触った。
さっき彼が思い切り開けた石扉の、あの光景が目に浮かぶ。
俺はその手を振り払いたかったが、「っすね」と、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
冒険者たちがいないところには、小さな祭壇があった。
左右対称に、見たことのない形の燭台が2つ。その中央に、祭儀用と思われる大振りの剣があった。
「これは……」
俺は、その剣に手を伸ばす。
「やっぱりあいつ、バカだぜ。儀礼用の剣を真っ先に取りやがった」
遠くから、男の一人が俺をあざ笑っている声が聞こえた。
「黙っとけ黙っとけ! あんなのに剣の良し悪しなんて分かるわけねえんだから」
「あいつには飾りの武器で十分だってか……無知ってかわいそー」
はいはい……もう少しでこのパーティーともお別れだ。事を荒立てるつもりはない。
俺は怒りを一振りに込めて、剣にうっすらかぶった土ぼこりを払った。
結構重たい。それに……。
刃先を見た。
確かに、彼らが言う通りナマクラの部類だろう。
切っ先はわざわざ丸く熔かされているため、鋭く切り裂くというよりは、圧し斬るような攻撃しかできない。
体格が貧弱な俺には、なかなか使いこなすのが難しそうではあるが……。
今装備しているものに目をやる。
ただのこん棒。これに比べれば、少しくらいはマシだろう。
俺はこん棒をその場に置いて、剣を装備する。
それ以外には……。
俺はあらかた簒奪され終わったところを歩く。
「これは……あー、これ……使い物にならないポーション……」
宝箱をのぞき込んでいた冒険者がポイっと後ろに放ったガラス瓶を、俺は慌ててキャッチした。
「ちょ、ちょっと! 割れたら危ないだろ」
「あ? いいんだよ……そいつはもう『ただの水』だ」
ガラス瓶の中で、薄緑色の液体が揺れている。
水にしては、濃い色をしてるように見えるけど。
「これまでも、冒険者が持ち帰って飲んでる。当時はポーションだったんだろうが、鑑定家曰く、『今はただのゴミ』だとさ。……ま、お前みたいなのにはちょうどいいかもしんねえぞ?」
いらっとする物言いだが……まあいい。お土産ってことで。
俺は、それを内ポケットにしまい込んだ。
それを見て、へへ、と男は笑った。もう1つ液体の入った瓶をよこす。
こちらは黄金色に輝いていて、なんとなく口に含むのはためらわれた。
「これも……」
「ああ。曰く、見た目よりも美味いんだとよ」
「……一応、おまけにもらっておこうかな」
「お前にはお似合いだぜ、へッ」
内ポケットに入れる。
大振りのナマクラ1つと、効果のないポーション2つか……まあ、まったくのゼロよりはマシ、と思えば……。
ロイを見ると、転がっている宝石をカバンに詰め込んだり、それを掲げて輝きを確かめたりしている。
街中の宝石屋で年端もいかない女が、色々試着して遊んでいるのと同じだ。
俺が思わず苦笑していると、ロイがそれに気付いたのか、俺のほうへとずんずん近付いてきた。
「……何か、おかしなことでも?」
「いや、別に。それより、ロイさんはあんまり拾わないんすね」
「何事も少数精鋭が大事だ。帰りの道のことも考えれば、大量に何でもかんでも持っていけばいいというものでもない」
「そんなもんですか……」
俺はロイに手で追い払われ、後ろへと下がる。
「パーティー、集合。荷物は纏めたか?」
「纏めましたけど、えーっ、誰かに盗られたらどうするんすか」
冒険者の一人が、俺をじろっと見た。
誰がお前のものなんて盗るかよ……どうせ狙うなら、もっと大物狙うわ。
「いいから、早く集合してくれ」
圧の強いロイの言い方に、冒険者たちは互いに顔を見合わせながら荷物を置き、ロイの元へと集まった。
またのけ者かよ。……いや、むしろ荷物と同じ扱いか。
あんまり……いや、まったくいい気はしないな。
俺は仕方なく、さっきの冒険者が漁っていた宝箱の中を覗き込んだ。
「よぉし、みんな集まったな? お前らに、重要な話がある……」
チキっ、と金属音がした。
……金属音? みんな荷物は置いていったのに?
俺は顔を上げ、振り返る。
「死ね」
「なッ――」
ロイが腰の剣を抜き、目にも止まらぬ速さで横一閃に斬撃を加えた。
大男たちが悲鳴を上げる間もなく腰から真っ二つに崩れ落ちる。
間一髪斬撃を避けられた男も、彼の手から放たれた氷撃を浴びて砕け、一瞬で息絶えた。
まだ、俺のところにまで血のニオイが届いていない。
ロイは剣に付いた血の雫を振り払い、刀身を見る。
「さすがは神の残滓だ。骨を絶っても刃こぼれ一つないとは」
「……な、なに……やって、んだ……」
俺は、震える声で、やっとそう言った。
「何って……見ればわかるだろう? 用済みの奴を消したんだ」
「用……え……?」
「分かっていないみたいだな……ま、ひよっ子のお前じゃあ、俺のことは知らないよな」
ロイは剣を鞘に納め、死体を蹴り飛ばしながらこちらへ近付いてくる。
ヤバい。殺される。
本能がそう叫んでいる。
だが、腰が引けて体が動かない。
「俺は『悪運』<バッドラック>のロイと呼ばれている。不思議な事に、俺と一緒に冒険に参加した冒険者は『モンスターに襲われて』死ぬ確率が非常に高い。……だが、常に俺だけは生き残った」
彼がすぐ俺のそばまで来て、ようやく、湿度の高い鉄錆のニオイが追い付いてくる。
「実は最近、そんな俺に大口の『お得意様』が出来てな。聖王国の10倍近い価値を付けて、神の残滓を買い取ってくれるんだ。だから、少しは聖王国に収めながら、残りはそのお得意様に売るってわけさ」
「そんなこと……知られたら、ただじゃ済まないだろ……?」
「だから目撃者を殺して……いや、『モンスターに襲われる』んだけどな」
ロイはふんと鼻で笑った。
「今までの、俺の聖王国への貢献は確かなものさ。命令された通りの残滓はギルドに収めているし、文句を言われる筋合いはない。奴らが要らないというものを、必要な奴に売っているだけでね」
「……なぜ俺だけ」
「そうだなぁ……1つは、殺すに値しなかった。お前の告発など、誰も信用しないからな」
彼が、手を差し伸べる。
「もう1つ。俺と手を組もうじゃないか」
「……は……?」
「俺は今回の冒険で、お前の探索能力と、トラップ解除の技術が確かなものだと確信した。噂通り、お前はデキる男だ……E級冒険者として日銭を稼ぐだけの生活など、貴様にはもったいない!」
ロイの手は、男たちの血で赤黒く染まっている。
彼の顔を見ると、何の疑いも、何の迷いも見えない。
「俺には御覧の通りの腕がある。だが、ダンジョントラップは多種多様で、俺一人ではどうしようもない。そんな俺とお前が組んだら、無敵だと思わないか?」
その手を、取ってはいけない。
こんなもの罠に決まっている。どう考えても適当に使って、俺を殺す気じゃないか……。
「……ふぅ……」
ロイの笑みが、ゆっくりと無表情に変わっていく。
「……まあ、もともと『お願い』などする気はないが」
手がまっすぐ、俺の首元に伸びてきた。
避けようとしたが、俺には速すぎる。しっかりと掴まれて、俺は目を閉じた。
首筋に、脈動を感じる。
「アレン……お前に与えられた選択肢は3つだ。ひとつ、今ここで死ぬ。ふたつ、そこの死体の荷物を運ぶ手伝いをして俺に命乞いをし、俺と一緒に死ぬまで探索を続ける。好きなものを選べ」
時間差はあるけど、結局どっちも死ぬんだろ……!
選べない。だが、どんどん呼吸が辛くなる。
「アレン! どうする!」
「……!」
俺は、震える手で「2」を示す。
捨て置かれるように、俺は解放された。
「げほっ……ぐはっ……はぁっ……がはっ……」
「……ああ、貴様は利口な奴だ。それじゃあ早速、荷物を運ぶ準備をしよう」
ロイが掴んでいた首に、生温い誰かの血がついている。俺はそれを手のひらで拭って、何度も深呼吸した。
「ぼさっとするな、時間がない。この荷物の量だと2回に分ける必要があるからな」
「……どういう、げほっ……手順で……」
「ルート分岐の手前まで、一度すべてを持っていく。そこからさらに地上に向けて荷物を持って往復だ」
俺はじっとロイの背中を見た。
……どうにかして、コイツを倒さなきゃ……俺が殺される!
「ここが恐らく最奥……」
俺は振り返って、冒険者たちの目を見た。
「扉自体にトラップはないですけど、先は分からないんで。いきなり飛び込まないこと」
ここまでの探索で、俺のトラップ解除能力は十分に伝わったのだろう。
不服そうな顔をしながらも、黙って全員が俺の話を聞いていた。
「そんじゃ……開けまーす」
手をかける。脚に力を込めて、全体重を乗せて引く。……が……。
「んぎぎッ……重ぉ……ッ!」
扉がビクともしない。
一度手を放して、軽く手首を振る。もう1回……。
「ぐッ……ぉぉッ……!?」
「何を遊んでいる」
ロイが俺の手を払いのける。勢いあまって、俺は尻餅をついた。
「こんなもの……」
彼は扉の正面に立ったまま、片手で、そのドアを開いて見せた。
「……」
「素晴らしい実力だな、アレン君」
ロイは鼻で笑うと、部屋の奥へとゆっくり入っていった。
ふん……本当に嫌味な奴だ。新種のトラップかなんかで、一度痛い目を見ればいいのに。
◇◇◇
たどり着いた部屋は、宝物庫になっていた。
「こんなの……見たことねえよ……!」
C級冒険者たちが、目を輝かせている。
でも、そいつだけじゃない。俺もこんな量のお宝、見たことがなかった。
大量の装飾品に、壁に掛けられた意味ありげな絵画。
本棚にぎっしり詰まった本の背表紙は、古代語なのか、単純に土埃で汚れているせいか、文字が読み取れない。
それから、剣、杖、防具……さらに、宝石のようなものもゴロゴロ転がっている。
この中の1個でも売れば、金貨どころか庭付きの家でも買えそうだ。
「……これだな」
ロイは壁に掛けられていた剣を下ろし、掲げた。
「よし……これで今回のミッションは完了だ……あとは」
ロイの口角が上がる。
「全員、好きなものを持っていけ!」
「うおぉぉぉッッ!!」
ロイの号令で、男たちは冒険者から夜盗に変わったようだった。
目を皿のようにして、アイテムの値踏みを始めた。
「えっと、あの、ロイ、さん?」
「……なんだ?」
「俺、何も聞いてないんですけど……どういうことですか?」
「……貴様はここまでの案内役。それ以上のことを知る必要があるか?」
「いや、だって……」
周りを見る。先ほどまでも統制が取れていたとは言い難いパーティーだったが、いきなり乱雑にアイテムを漁り始める姿は、とても正気には見えなかった。
「……まあいい、教えてやろう。今回のミッションは、この剣」
ロイは腰に差した剣を抜き、俺の前に掲げる。
先ほど壁にかかっていたその剣は、長年地下深くに眠っていたものとは思えないほどの金属光沢を保っていた。俺の顔が、刀身に反射して見えるほどだ。
「いいか? これさえ回収すれば、聖王国は満足する。今回はそういうミッションだ。ほかのものについて『どのように処理するか』の指示は得ていない。つまり、俺たちのものにしていい、というわけだ」
「……本当ですか? そんな話、今まで聞いたことないけど」
「フン。それは、貴様がE級だからだろう」
そう言われてしまうと、反論の余地がない。
「元々お前には、こっちの取り分は用意しない予定だった……が、せっかくだ。変な事を言いふらされてはたまらん。お前も、好きなものを持っていけ」
「口止め料か」
「そう思うのはお前の勝手だ。ただ……」
ロイが首を伸ばして後ろを見回す。
俺もつられて、そちらに目をやった。
「……あれだけ殺気立っている者たちが、お前などにアイテムを譲るかな?」
見ると、すでに「これは俺のもんだ」とか「俺が先に触った」だとか、激しい罵声がそこかしこで飛び交っている。
「貴様には、残り物のゴミがお似合いだ。だがまあ、宵越しの金程度にはなるだろう」
ロイが俺の肩をポンと触った。
さっき彼が思い切り開けた石扉の、あの光景が目に浮かぶ。
俺はその手を振り払いたかったが、「っすね」と、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
冒険者たちがいないところには、小さな祭壇があった。
左右対称に、見たことのない形の燭台が2つ。その中央に、祭儀用と思われる大振りの剣があった。
「これは……」
俺は、その剣に手を伸ばす。
「やっぱりあいつ、バカだぜ。儀礼用の剣を真っ先に取りやがった」
遠くから、男の一人が俺をあざ笑っている声が聞こえた。
「黙っとけ黙っとけ! あんなのに剣の良し悪しなんて分かるわけねえんだから」
「あいつには飾りの武器で十分だってか……無知ってかわいそー」
はいはい……もう少しでこのパーティーともお別れだ。事を荒立てるつもりはない。
俺は怒りを一振りに込めて、剣にうっすらかぶった土ぼこりを払った。
結構重たい。それに……。
刃先を見た。
確かに、彼らが言う通りナマクラの部類だろう。
切っ先はわざわざ丸く熔かされているため、鋭く切り裂くというよりは、圧し斬るような攻撃しかできない。
体格が貧弱な俺には、なかなか使いこなすのが難しそうではあるが……。
今装備しているものに目をやる。
ただのこん棒。これに比べれば、少しくらいはマシだろう。
俺はこん棒をその場に置いて、剣を装備する。
それ以外には……。
俺はあらかた簒奪され終わったところを歩く。
「これは……あー、これ……使い物にならないポーション……」
宝箱をのぞき込んでいた冒険者がポイっと後ろに放ったガラス瓶を、俺は慌ててキャッチした。
「ちょ、ちょっと! 割れたら危ないだろ」
「あ? いいんだよ……そいつはもう『ただの水』だ」
ガラス瓶の中で、薄緑色の液体が揺れている。
水にしては、濃い色をしてるように見えるけど。
「これまでも、冒険者が持ち帰って飲んでる。当時はポーションだったんだろうが、鑑定家曰く、『今はただのゴミ』だとさ。……ま、お前みたいなのにはちょうどいいかもしんねえぞ?」
いらっとする物言いだが……まあいい。お土産ってことで。
俺は、それを内ポケットにしまい込んだ。
それを見て、へへ、と男は笑った。もう1つ液体の入った瓶をよこす。
こちらは黄金色に輝いていて、なんとなく口に含むのはためらわれた。
「これも……」
「ああ。曰く、見た目よりも美味いんだとよ」
「……一応、おまけにもらっておこうかな」
「お前にはお似合いだぜ、へッ」
内ポケットに入れる。
大振りのナマクラ1つと、効果のないポーション2つか……まあ、まったくのゼロよりはマシ、と思えば……。
ロイを見ると、転がっている宝石をカバンに詰め込んだり、それを掲げて輝きを確かめたりしている。
街中の宝石屋で年端もいかない女が、色々試着して遊んでいるのと同じだ。
俺が思わず苦笑していると、ロイがそれに気付いたのか、俺のほうへとずんずん近付いてきた。
「……何か、おかしなことでも?」
「いや、別に。それより、ロイさんはあんまり拾わないんすね」
「何事も少数精鋭が大事だ。帰りの道のことも考えれば、大量に何でもかんでも持っていけばいいというものでもない」
「そんなもんですか……」
俺はロイに手で追い払われ、後ろへと下がる。
「パーティー、集合。荷物は纏めたか?」
「纏めましたけど、えーっ、誰かに盗られたらどうするんすか」
冒険者の一人が、俺をじろっと見た。
誰がお前のものなんて盗るかよ……どうせ狙うなら、もっと大物狙うわ。
「いいから、早く集合してくれ」
圧の強いロイの言い方に、冒険者たちは互いに顔を見合わせながら荷物を置き、ロイの元へと集まった。
またのけ者かよ。……いや、むしろ荷物と同じ扱いか。
あんまり……いや、まったくいい気はしないな。
俺は仕方なく、さっきの冒険者が漁っていた宝箱の中を覗き込んだ。
「よぉし、みんな集まったな? お前らに、重要な話がある……」
チキっ、と金属音がした。
……金属音? みんな荷物は置いていったのに?
俺は顔を上げ、振り返る。
「死ね」
「なッ――」
ロイが腰の剣を抜き、目にも止まらぬ速さで横一閃に斬撃を加えた。
大男たちが悲鳴を上げる間もなく腰から真っ二つに崩れ落ちる。
間一髪斬撃を避けられた男も、彼の手から放たれた氷撃を浴びて砕け、一瞬で息絶えた。
まだ、俺のところにまで血のニオイが届いていない。
ロイは剣に付いた血の雫を振り払い、刀身を見る。
「さすがは神の残滓だ。骨を絶っても刃こぼれ一つないとは」
「……な、なに……やって、んだ……」
俺は、震える声で、やっとそう言った。
「何って……見ればわかるだろう? 用済みの奴を消したんだ」
「用……え……?」
「分かっていないみたいだな……ま、ひよっ子のお前じゃあ、俺のことは知らないよな」
ロイは剣を鞘に納め、死体を蹴り飛ばしながらこちらへ近付いてくる。
ヤバい。殺される。
本能がそう叫んでいる。
だが、腰が引けて体が動かない。
「俺は『悪運』<バッドラック>のロイと呼ばれている。不思議な事に、俺と一緒に冒険に参加した冒険者は『モンスターに襲われて』死ぬ確率が非常に高い。……だが、常に俺だけは生き残った」
彼がすぐ俺のそばまで来て、ようやく、湿度の高い鉄錆のニオイが追い付いてくる。
「実は最近、そんな俺に大口の『お得意様』が出来てな。聖王国の10倍近い価値を付けて、神の残滓を買い取ってくれるんだ。だから、少しは聖王国に収めながら、残りはそのお得意様に売るってわけさ」
「そんなこと……知られたら、ただじゃ済まないだろ……?」
「だから目撃者を殺して……いや、『モンスターに襲われる』んだけどな」
ロイはふんと鼻で笑った。
「今までの、俺の聖王国への貢献は確かなものさ。命令された通りの残滓はギルドに収めているし、文句を言われる筋合いはない。奴らが要らないというものを、必要な奴に売っているだけでね」
「……なぜ俺だけ」
「そうだなぁ……1つは、殺すに値しなかった。お前の告発など、誰も信用しないからな」
彼が、手を差し伸べる。
「もう1つ。俺と手を組もうじゃないか」
「……は……?」
「俺は今回の冒険で、お前の探索能力と、トラップ解除の技術が確かなものだと確信した。噂通り、お前はデキる男だ……E級冒険者として日銭を稼ぐだけの生活など、貴様にはもったいない!」
ロイの手は、男たちの血で赤黒く染まっている。
彼の顔を見ると、何の疑いも、何の迷いも見えない。
「俺には御覧の通りの腕がある。だが、ダンジョントラップは多種多様で、俺一人ではどうしようもない。そんな俺とお前が組んだら、無敵だと思わないか?」
その手を、取ってはいけない。
こんなもの罠に決まっている。どう考えても適当に使って、俺を殺す気じゃないか……。
「……ふぅ……」
ロイの笑みが、ゆっくりと無表情に変わっていく。
「……まあ、もともと『お願い』などする気はないが」
手がまっすぐ、俺の首元に伸びてきた。
避けようとしたが、俺には速すぎる。しっかりと掴まれて、俺は目を閉じた。
首筋に、脈動を感じる。
「アレン……お前に与えられた選択肢は3つだ。ひとつ、今ここで死ぬ。ふたつ、そこの死体の荷物を運ぶ手伝いをして俺に命乞いをし、俺と一緒に死ぬまで探索を続ける。好きなものを選べ」
時間差はあるけど、結局どっちも死ぬんだろ……!
選べない。だが、どんどん呼吸が辛くなる。
「アレン! どうする!」
「……!」
俺は、震える手で「2」を示す。
捨て置かれるように、俺は解放された。
「げほっ……ぐはっ……はぁっ……がはっ……」
「……ああ、貴様は利口な奴だ。それじゃあ早速、荷物を運ぶ準備をしよう」
ロイが掴んでいた首に、生温い誰かの血がついている。俺はそれを手のひらで拭って、何度も深呼吸した。
「ぼさっとするな、時間がない。この荷物の量だと2回に分ける必要があるからな」
「……どういう、げほっ……手順で……」
「ルート分岐の手前まで、一度すべてを持っていく。そこからさらに地上に向けて荷物を持って往復だ」
俺はじっとロイの背中を見た。
……どうにかして、コイツを倒さなきゃ……俺が殺される!
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世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
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> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
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