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第5章 奴隷と死霊術師
第56話 ベネディクト
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さて、ベネちゃんによる新人奴隷殺害未遂から数刻後。
信心獣人メイドはいったんアリスパパに見張りを任せつつ部屋に隔離しつつ、アリスに新人奴隷の世話を任せ。
そして、ヴァルターと私で改めてベネちゃんから事情をうかがうことにした。
「あ、あのイオさん!
その今回は……私の妹を、マートを助けてくださいましてありがとうございます!
お、おかげで、唯一の心残りであった最後の肉親と会うことができました……!」
「え?あの子を雇う?
も、もちろん歓迎ですし、感謝です!」
もっとも、妹から引きはがした瞬間、ベネちゃんはある意味では元通りに戻ってしまうわけで。
その上で、彼女の妹とのことについて尋ねても、ある意味では表面上の事しか聞き出せず。
ある意味では、彼女は『こちらが知る彼女の姿』の域を出ない様に、つまりは演技したうえでの返答しか得られなかった。
「というわけで、ベネちゃんの本音を聞きたいんだけどどうすればいい?」
「ん~、まぁ、僕としてはそこまで聞く必要ある?とも思うけど。
イオが知りたいのなら、協力するのもやぶさかではない!」
というわけで、なんとかベネちゃんの本音を聞き出すべく、作戦を考える。
もっとも、仲間だし、彼女が本音を言わないのもこちらを思いやっての事であろうし。
かくして、合法的かつ彼女に嫌われない様に彼女から本音を聞き出す方法を実行することにした。
「は~い、というわけで、ほら、飲んで飲んで♪
ちょうど新しくできたお酒の試飲をしてほしかったんだ~」
「え、えへへ♪」
というわけで、今回取った方法はすごくシンプルに。
ベネちゃんはお酒が好き、さらに酒を飲ませれば多少のガードが緩くなる。
つまりは、イイ感じに本音を漏らすくらいまで、酒を飲ませようというのが今回の作戦である。
「ほらほら、お代わりもあるぞ~!」
「わ、わ♪
こ、こんなに飲んでいいんですか?
お、お代はいくらですか?」
すると、ベネちゃんは酒を飲むこと飲むこと。
蟒蛇やら鯨飲なんて言葉がぴったりなほど、彼女の体内に酒がスポンジのように吸収されていった。
「お代は気にしなくていいよ!
それに、この間のドラゴン狩りの時のお礼やら、今までの冒険でもいっぱい無茶をさせてきちゃったからねぇ?
それなのに裏方みたいなことをさせることが多くて……」
「そ、そんな!
私はイオちゃんやヴァルターさんたちと一緒に冒険できるだけでどれだけ幸せか……!!
むしろ、私の方こそお礼が言いたいくらいですよ!」
なかなかうれしいこと言ってくれるベネちゃん。
もっとも、それでも彼女の酒を飲むスピードは一向に収まらず。
というかすでに、彼女が飲んだ酒が質量保存の法則に反し始めたところだ。
「(どうやら、ベネちゃんは、魔力や気で体を強化して、高速で酒を分解しつつ、水分も蒸散させているみたいだね)」
「(うん、ここのところ僕の気功術を教えて、それを今実践しているみたいだからね。
……そのせいで、彼女の衣服が汗で濡れて、男である僕がいちゃいけない場面になってきていると思うんだけど。
逃げていい?)」
「(だ・め☆)」
ベネちゃんがある意味では戦闘の時以上にその体を強化しており。
発汗速度や代謝速度が上昇しているのが、見て取れる。
更に魔力感知でも彼女の体内の魔力回路がぐるぐると躍動しているのが、見て取れるぐらいだ。
「え、えっと、やっぱり、流石に飲み過ぎですか?
ならばお開きに……」
「ま、まっさか~♪
あまりにも、幸せそうにお酒を飲むから、製造者としてもうれしくてね!
ほら、今度はこっちの樽のお酒を飲んで」
「わ~~い♪」
ちぃ!逃がすか!それに、ここまで来て諦められるか!
此方にはまだ3つの酒樽が残っているのだ、いくらファンタジー酒豪であるベネちゃんと言えどこの酒の量の前では、ひとたまりもない!
そんないろいろな意味で、フラグを建てつつ、私は不安そうなヴァルターの視線を無視しつつ、嬉しそうに酒を飲むベネちゃんの杯に、追加の酒を投入するのでしたとさ。
☆★☆★
「え、えへへ~!ごちそうさまでした♪」
「ぜ、ぜ、ぜ、全滅だと……!!
酒樽4つでも足りんというのか……!!」
「おいしいお酒をごちそうしてくれたお礼に、これは私が個人的に買ってきたお酒!
この機に開けちゃいましょう♪」
「さ、さらにセルフ追加だとぉぉ!?」
☆★☆★
というわけで、もはや無限地獄になりつつ、あった酒盛りではあったが、それでもどうやらベネちゃんの酒分解速度もきちんと限界があったようだ。
酒樽2つ目くらいから、いつものおどおどした口調が薄れ、3つ目くらいからはむしろ陽気に。
「あ~♪イオちゃん、好き好き♪
ほんとに大好きで~す♡
あぁ~、イオちゃんと一緒におしゃけ飲めて幸せ~♪」
そして、酒樽が5つ目を超えた現在は、完全に愉快で陽気な絡み上戸、いや笑い上戸なのだろうか?
永遠に告白されながら、酔ったベネちゃんに引っ付かれるというなかなか意味不明な状態になっている。
「え、えっと、そのベネちゃん?
さすがに、引っ付きすぎて……んぴゃぁ!」
「はう~♪イオちゃんのお汗、最高!!!
程よい塩見と、イオちゃんの優しさで、酒が進む!おいしい!!」
そして、その絡み酒はただこちらに引っ付くにはとどまらず、こちらへ御物理的に引っ付いてきて。
さらには、こちらの肌や耳をなめたり、甘噛みしたり、なかなかのやりたい放題。
いつもの、引っ込み思案はどこへやらといった所だ。
「はぅ~、本当はヴァルターくんのお塩とも舐め比べたかった……。
仲間汁と仲間汁のミックス塩……絶対最高の酒のつまみになるとおもったのになぁ」
「んみゃぁ♪、み、耳をしゃぶりながらしゃべるのはやめて!」
なお、ヴァルターの奴はベネちゃんが絡み上戸になり始めた時点で、逃げやがったよ。
酔った年頃の娘に間違いを犯させないように配慮できる、実に紳士的ないい男だといえるだろう。
よくも私を人い置いて逃げやがったな、絶対に許早苗!!
「うゆ~♪イオちゃんホント好き♪
お肌すべすべもちもち~♪皮脂もいい匂い♪
香油も……うん!ちゃんと私の嫌いじゃないものを選んでくれる、その優しさ!!
イオちゃん、イオちゃ~ん、い、いや!これはもしや、イオ……お姉ちゃん!?
イオちゃんさんは、私のお姉ちゃんだった……?」
なんか現在進行形でいろいろと、今まで積み上げてきた彼女の尊厳が大放出しているが、これも酒の力故、仕方ないのだろう。
しかしながら、流石にこれほどの酔いならば、彼女と彼女の妹との関係性を聞けるだろう。
そう判断して、私は彼女にそのことをそれとなく聞こうと試みた。
「あ、うん!いいよ、それじゃぁあいつについてのこと、話すよ」
そして、それはあっさりとその試みは彼女にばれてしまい、同時にあっさりと話すことを了承してくれた。
「いやまぁ、あいつ……私の妹マートについてはあんまり楽しい話じゃないからねぇ?
で・も♪そもそもこんなに酔った私に付き合ってくれるほどやさしいイオお姉ちゃんなら、問題ないかなぁって!
あいつについて話しても、まぁ受け止めてくれるかなって!」
「なんだかんだ言って、私も仲間に秘密にするのは嫌だったし♪
むしろ聞いてほしいなって!」
酒の入った杯を片手に、そう宣言するベネちゃん。
苦笑しながらも、そのように話す彼女のそれは、単純な酔いだけではない、理性の光も感じられた。
おそらく、この言葉もきちんと彼女の本音なのだろう。
なので、私は気兼ねなく彼女と妹の関係を聞くことにした。
「……とはいっても、別に初めに言ったことも嘘じゃないのよ?
私はアイツを救ってくれた、イオちゃんには感謝しているよ。
なんだかんだ言って、私に残された唯一の家族だし、まあ、思うところはなくはないけど?
それでも、生きていて多少ほっとしたし、死んだら悲しむ、その程度の情はあるよ」
「そもそも私はもともと不義の子だったからね。
帝国のど田舎領主、その愛人であったのが私のお母さんなんだ~」
なるほど。
ところで、あの妹さんが獣人だということは……。
「あ、うん。
獣人なのはお母さんだね。
母さんもリスの獣人で、普段は森守をやっていたよ。
あ、それと帝国は王国よりも異種族差別が少ないとはいえ、地元はそれなりに、保守的だったから。
母さんは正妻にも側室にもなれなかったけど、夫婦間はそれなりに良好だったんだよ~」
そんな風に、ベネちゃんのかつての家族関係やその仲の良さを聞きながら、双方酒を飲み進めていく。
どうやらベンちゃんの家族仲が、かつてはよかったのは、本当らしい。
その話をするごとに、例え妹の事であっても、まるで幸せをかみしめるかのように過去の幸せの思い出を話してくれた。
「……でも、そんな幸せを全部否定したのが、あのクソ妹なんだ」
そして、その幸せな空気の話は、あっさりと崩されることになった。
「そうだよ、あのクソ妹は、父が他に正妻がいるから、母さんが側室にすらなれないから。
自分が貴族の仲間入りできないからって、全てに対して、文句を言い出したんだ」
ベネちゃんの笑顔は崩れ、声に怒気が混ざり始める
「父の黙認という名の愛を否定して、糺弾し。
母の優しさを弱さと断定して、嘲笑い。
私たちの血がひたすらに尊いと驕り高ぶる。
……まさに、反吐が出るような所業だよ」
先ほどまでの陽気な笑い声は成りを潜め、代わりに妹への悪意と殺意を見せつけんとばかりに声がから溢れていた。
「もちろん、イオちゃんは優しいから、所詮は子供の戯言。
一過性の間違い、過ちが起きても、取り戻せるっていうと思うよ?
……でも、一生治らない馬鹿は存在するし、取り戻せない失敗もある」
「そうだ、あいつは私たちの幸せな家庭を、母や父を全部否定したんだ。
その上で、『邪教』や『魔王』を讃える『獣人の群れ』。
そこへと接触を図り……そして、全てを破壊したんだ」
そして、彼女は力強く拳を床にたたきつける。
その拳はあっさりと、床を貫き、家全体に揺れが走るほど。
もちろん、彼女にそれほどのパワーがあったのも驚きだが、それ以上に彼女が物に当たったを言う事実に驚きが隠せなかった。
いや、これは恐らく、自分の怒りが制御できないほど苛立っているという事なのであろう。
「そうだ、あいつはある日から突然邪教を崇拝する獣人軍団に、入れ込むようになったんだ。
その後、彼らと協力して、母に会いに来る父を襲撃、そのせいで母は父に会えなくなった」
「それだけならまだしも、父に会えなくなった母にアイツは何をしたと思う?
『なら新しい男を紹介するよ!』……ばかじゃねぇの!?」
「今でも思い出すよ、部屋に押し入る無数の見知らぬ荒くれの男獣人。
荒らされる家、それを笑顔で見るアイツ。
家を追われ、父を襲った一味扱いで領内の騎士団にも襲われ。
ああ、そうさ、最後はあの獣人の獣に、汚される母を見てアイツがなんて言ったかわかるか?
『よかったね』だぞ?……がぁあああああああ!!!!!」
手に持つ杯を握りつぶし、手のひらから血がこぼれる。
その出血すら気にせず、彼女の怒号は上げ続けた。
「……ああ、母さんは死んだよ。獣人と邪教に存分に汚された果てに。
心も壊され、体も尊厳も壊され、命まで奪われて。
……すべてを、全てを殺したかった、恨みたかった」
「……でも、それでも、お母さんはさ、母さんは最後にこう言ったんだ。
『マートを、妹を許してあげて』……無理だよ。
私には、母さんの幸せを、父さんとの絆を、あの家全てを壊したあいつを許すなんて……」
「でもね、それでも私はお姉ちゃんだから、あの娘を許してあげなきゃいけないの。
だって、それが、母さんから私に残してくれた最後の約束だから。
だから、だから、イオちゃんがアイツを連れてきた時、ああっって思ったんだ」
「これは私たちへのご褒美なんだ、おかげで、母さんの遺言を守れるようになったんだ。
これは私たちへの罪なんだ、おかげで、母さんを見殺しにした私の罪から逃れることができないんだなって」
「……ねぇ、教えて?イオちゃん。
私はこれを感謝すればいいの?それとも恨めばいいの?
こんな運命を仕込んだ神様を、慈悲と厳しさを前面に押し付けてくる神様を」
「でも、もしこれが神様が仕組んだことなら、これだけは言わせてほしいの。
……どうか、神様、私達をほっておいてください。
そして、返して、私の幸せを、私の家族を、私の仲間を……。
それとも私は……幸せになっちゃいけないの?」
涙ながらにこちらにそう語る彼女に対して、私ができることは、唯々抱きしめて慰める。
それだけであった。
信心獣人メイドはいったんアリスパパに見張りを任せつつ部屋に隔離しつつ、アリスに新人奴隷の世話を任せ。
そして、ヴァルターと私で改めてベネちゃんから事情をうかがうことにした。
「あ、あのイオさん!
その今回は……私の妹を、マートを助けてくださいましてありがとうございます!
お、おかげで、唯一の心残りであった最後の肉親と会うことができました……!」
「え?あの子を雇う?
も、もちろん歓迎ですし、感謝です!」
もっとも、妹から引きはがした瞬間、ベネちゃんはある意味では元通りに戻ってしまうわけで。
その上で、彼女の妹とのことについて尋ねても、ある意味では表面上の事しか聞き出せず。
ある意味では、彼女は『こちらが知る彼女の姿』の域を出ない様に、つまりは演技したうえでの返答しか得られなかった。
「というわけで、ベネちゃんの本音を聞きたいんだけどどうすればいい?」
「ん~、まぁ、僕としてはそこまで聞く必要ある?とも思うけど。
イオが知りたいのなら、協力するのもやぶさかではない!」
というわけで、なんとかベネちゃんの本音を聞き出すべく、作戦を考える。
もっとも、仲間だし、彼女が本音を言わないのもこちらを思いやっての事であろうし。
かくして、合法的かつ彼女に嫌われない様に彼女から本音を聞き出す方法を実行することにした。
「は~い、というわけで、ほら、飲んで飲んで♪
ちょうど新しくできたお酒の試飲をしてほしかったんだ~」
「え、えへへ♪」
というわけで、今回取った方法はすごくシンプルに。
ベネちゃんはお酒が好き、さらに酒を飲ませれば多少のガードが緩くなる。
つまりは、イイ感じに本音を漏らすくらいまで、酒を飲ませようというのが今回の作戦である。
「ほらほら、お代わりもあるぞ~!」
「わ、わ♪
こ、こんなに飲んでいいんですか?
お、お代はいくらですか?」
すると、ベネちゃんは酒を飲むこと飲むこと。
蟒蛇やら鯨飲なんて言葉がぴったりなほど、彼女の体内に酒がスポンジのように吸収されていった。
「お代は気にしなくていいよ!
それに、この間のドラゴン狩りの時のお礼やら、今までの冒険でもいっぱい無茶をさせてきちゃったからねぇ?
それなのに裏方みたいなことをさせることが多くて……」
「そ、そんな!
私はイオちゃんやヴァルターさんたちと一緒に冒険できるだけでどれだけ幸せか……!!
むしろ、私の方こそお礼が言いたいくらいですよ!」
なかなかうれしいこと言ってくれるベネちゃん。
もっとも、それでも彼女の酒を飲むスピードは一向に収まらず。
というかすでに、彼女が飲んだ酒が質量保存の法則に反し始めたところだ。
「(どうやら、ベネちゃんは、魔力や気で体を強化して、高速で酒を分解しつつ、水分も蒸散させているみたいだね)」
「(うん、ここのところ僕の気功術を教えて、それを今実践しているみたいだからね。
……そのせいで、彼女の衣服が汗で濡れて、男である僕がいちゃいけない場面になってきていると思うんだけど。
逃げていい?)」
「(だ・め☆)」
ベネちゃんがある意味では戦闘の時以上にその体を強化しており。
発汗速度や代謝速度が上昇しているのが、見て取れる。
更に魔力感知でも彼女の体内の魔力回路がぐるぐると躍動しているのが、見て取れるぐらいだ。
「え、えっと、やっぱり、流石に飲み過ぎですか?
ならばお開きに……」
「ま、まっさか~♪
あまりにも、幸せそうにお酒を飲むから、製造者としてもうれしくてね!
ほら、今度はこっちの樽のお酒を飲んで」
「わ~~い♪」
ちぃ!逃がすか!それに、ここまで来て諦められるか!
此方にはまだ3つの酒樽が残っているのだ、いくらファンタジー酒豪であるベネちゃんと言えどこの酒の量の前では、ひとたまりもない!
そんないろいろな意味で、フラグを建てつつ、私は不安そうなヴァルターの視線を無視しつつ、嬉しそうに酒を飲むベネちゃんの杯に、追加の酒を投入するのでしたとさ。
☆★☆★
「え、えへへ~!ごちそうさまでした♪」
「ぜ、ぜ、ぜ、全滅だと……!!
酒樽4つでも足りんというのか……!!」
「おいしいお酒をごちそうしてくれたお礼に、これは私が個人的に買ってきたお酒!
この機に開けちゃいましょう♪」
「さ、さらにセルフ追加だとぉぉ!?」
☆★☆★
というわけで、もはや無限地獄になりつつ、あった酒盛りではあったが、それでもどうやらベネちゃんの酒分解速度もきちんと限界があったようだ。
酒樽2つ目くらいから、いつものおどおどした口調が薄れ、3つ目くらいからはむしろ陽気に。
「あ~♪イオちゃん、好き好き♪
ほんとに大好きで~す♡
あぁ~、イオちゃんと一緒におしゃけ飲めて幸せ~♪」
そして、酒樽が5つ目を超えた現在は、完全に愉快で陽気な絡み上戸、いや笑い上戸なのだろうか?
永遠に告白されながら、酔ったベネちゃんに引っ付かれるというなかなか意味不明な状態になっている。
「え、えっと、そのベネちゃん?
さすがに、引っ付きすぎて……んぴゃぁ!」
「はう~♪イオちゃんのお汗、最高!!!
程よい塩見と、イオちゃんの優しさで、酒が進む!おいしい!!」
そして、その絡み酒はただこちらに引っ付くにはとどまらず、こちらへ御物理的に引っ付いてきて。
さらには、こちらの肌や耳をなめたり、甘噛みしたり、なかなかのやりたい放題。
いつもの、引っ込み思案はどこへやらといった所だ。
「はぅ~、本当はヴァルターくんのお塩とも舐め比べたかった……。
仲間汁と仲間汁のミックス塩……絶対最高の酒のつまみになるとおもったのになぁ」
「んみゃぁ♪、み、耳をしゃぶりながらしゃべるのはやめて!」
なお、ヴァルターの奴はベネちゃんが絡み上戸になり始めた時点で、逃げやがったよ。
酔った年頃の娘に間違いを犯させないように配慮できる、実に紳士的ないい男だといえるだろう。
よくも私を人い置いて逃げやがったな、絶対に許早苗!!
「うゆ~♪イオちゃんホント好き♪
お肌すべすべもちもち~♪皮脂もいい匂い♪
香油も……うん!ちゃんと私の嫌いじゃないものを選んでくれる、その優しさ!!
イオちゃん、イオちゃ~ん、い、いや!これはもしや、イオ……お姉ちゃん!?
イオちゃんさんは、私のお姉ちゃんだった……?」
なんか現在進行形でいろいろと、今まで積み上げてきた彼女の尊厳が大放出しているが、これも酒の力故、仕方ないのだろう。
しかしながら、流石にこれほどの酔いならば、彼女と彼女の妹との関係性を聞けるだろう。
そう判断して、私は彼女にそのことをそれとなく聞こうと試みた。
「あ、うん!いいよ、それじゃぁあいつについてのこと、話すよ」
そして、それはあっさりとその試みは彼女にばれてしまい、同時にあっさりと話すことを了承してくれた。
「いやまぁ、あいつ……私の妹マートについてはあんまり楽しい話じゃないからねぇ?
で・も♪そもそもこんなに酔った私に付き合ってくれるほどやさしいイオお姉ちゃんなら、問題ないかなぁって!
あいつについて話しても、まぁ受け止めてくれるかなって!」
「なんだかんだ言って、私も仲間に秘密にするのは嫌だったし♪
むしろ聞いてほしいなって!」
酒の入った杯を片手に、そう宣言するベネちゃん。
苦笑しながらも、そのように話す彼女のそれは、単純な酔いだけではない、理性の光も感じられた。
おそらく、この言葉もきちんと彼女の本音なのだろう。
なので、私は気兼ねなく彼女と妹の関係を聞くことにした。
「……とはいっても、別に初めに言ったことも嘘じゃないのよ?
私はアイツを救ってくれた、イオちゃんには感謝しているよ。
なんだかんだ言って、私に残された唯一の家族だし、まあ、思うところはなくはないけど?
それでも、生きていて多少ほっとしたし、死んだら悲しむ、その程度の情はあるよ」
「そもそも私はもともと不義の子だったからね。
帝国のど田舎領主、その愛人であったのが私のお母さんなんだ~」
なるほど。
ところで、あの妹さんが獣人だということは……。
「あ、うん。
獣人なのはお母さんだね。
母さんもリスの獣人で、普段は森守をやっていたよ。
あ、それと帝国は王国よりも異種族差別が少ないとはいえ、地元はそれなりに、保守的だったから。
母さんは正妻にも側室にもなれなかったけど、夫婦間はそれなりに良好だったんだよ~」
そんな風に、ベネちゃんのかつての家族関係やその仲の良さを聞きながら、双方酒を飲み進めていく。
どうやらベンちゃんの家族仲が、かつてはよかったのは、本当らしい。
その話をするごとに、例え妹の事であっても、まるで幸せをかみしめるかのように過去の幸せの思い出を話してくれた。
「……でも、そんな幸せを全部否定したのが、あのクソ妹なんだ」
そして、その幸せな空気の話は、あっさりと崩されることになった。
「そうだよ、あのクソ妹は、父が他に正妻がいるから、母さんが側室にすらなれないから。
自分が貴族の仲間入りできないからって、全てに対して、文句を言い出したんだ」
ベネちゃんの笑顔は崩れ、声に怒気が混ざり始める
「父の黙認という名の愛を否定して、糺弾し。
母の優しさを弱さと断定して、嘲笑い。
私たちの血がひたすらに尊いと驕り高ぶる。
……まさに、反吐が出るような所業だよ」
先ほどまでの陽気な笑い声は成りを潜め、代わりに妹への悪意と殺意を見せつけんとばかりに声がから溢れていた。
「もちろん、イオちゃんは優しいから、所詮は子供の戯言。
一過性の間違い、過ちが起きても、取り戻せるっていうと思うよ?
……でも、一生治らない馬鹿は存在するし、取り戻せない失敗もある」
「そうだ、あいつは私たちの幸せな家庭を、母や父を全部否定したんだ。
その上で、『邪教』や『魔王』を讃える『獣人の群れ』。
そこへと接触を図り……そして、全てを破壊したんだ」
そして、彼女は力強く拳を床にたたきつける。
その拳はあっさりと、床を貫き、家全体に揺れが走るほど。
もちろん、彼女にそれほどのパワーがあったのも驚きだが、それ以上に彼女が物に当たったを言う事実に驚きが隠せなかった。
いや、これは恐らく、自分の怒りが制御できないほど苛立っているという事なのであろう。
「そうだ、あいつはある日から突然邪教を崇拝する獣人軍団に、入れ込むようになったんだ。
その後、彼らと協力して、母に会いに来る父を襲撃、そのせいで母は父に会えなくなった」
「それだけならまだしも、父に会えなくなった母にアイツは何をしたと思う?
『なら新しい男を紹介するよ!』……ばかじゃねぇの!?」
「今でも思い出すよ、部屋に押し入る無数の見知らぬ荒くれの男獣人。
荒らされる家、それを笑顔で見るアイツ。
家を追われ、父を襲った一味扱いで領内の騎士団にも襲われ。
ああ、そうさ、最後はあの獣人の獣に、汚される母を見てアイツがなんて言ったかわかるか?
『よかったね』だぞ?……がぁあああああああ!!!!!」
手に持つ杯を握りつぶし、手のひらから血がこぼれる。
その出血すら気にせず、彼女の怒号は上げ続けた。
「……ああ、母さんは死んだよ。獣人と邪教に存分に汚された果てに。
心も壊され、体も尊厳も壊され、命まで奪われて。
……すべてを、全てを殺したかった、恨みたかった」
「……でも、それでも、お母さんはさ、母さんは最後にこう言ったんだ。
『マートを、妹を許してあげて』……無理だよ。
私には、母さんの幸せを、父さんとの絆を、あの家全てを壊したあいつを許すなんて……」
「でもね、それでも私はお姉ちゃんだから、あの娘を許してあげなきゃいけないの。
だって、それが、母さんから私に残してくれた最後の約束だから。
だから、だから、イオちゃんがアイツを連れてきた時、ああっって思ったんだ」
「これは私たちへのご褒美なんだ、おかげで、母さんの遺言を守れるようになったんだ。
これは私たちへの罪なんだ、おかげで、母さんを見殺しにした私の罪から逃れることができないんだなって」
「……ねぇ、教えて?イオちゃん。
私はこれを感謝すればいいの?それとも恨めばいいの?
こんな運命を仕込んだ神様を、慈悲と厳しさを前面に押し付けてくる神様を」
「でも、もしこれが神様が仕組んだことなら、これだけは言わせてほしいの。
……どうか、神様、私達をほっておいてください。
そして、返して、私の幸せを、私の家族を、私の仲間を……。
それとも私は……幸せになっちゃいけないの?」
涙ながらにこちらにそう語る彼女に対して、私ができることは、唯々抱きしめて慰める。
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