花と散る

ひのま

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2 出会い

高校一年生

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 桜舞う4月。今日は泉ヶ丘高校の入学式。俺はここの一年生になる。

「かけるぅー!同じクラスじゃん!やった!」
「・・・そうだね」
「なんか、うれしくなさそうなんですけど!」

 この男は泉亮介。俺の幼馴染で幼稚園のときからの付き合い。

「まってよ、麗奈も麗奈も!麗奈も一緒だよー!」

 この女は田村麗奈。麗奈も俺の幼馴染。麗奈に関しては親同士が同級生ということもあり、本当に小さなときからの付き合いだ。

「麗奈うっさい!今お前麗奈って何回言った?」
「でも亮介も麗奈っていっぱい言ったよ?」
「えー、絶対お前の方がいってるだろ、な、翔?」
「うん」
「ほうらー、ざまあみろー!」

 ただのうるさいような奴らに見えるけど、俺はこの明るさに何度も救われてきた。俺にとっては唯一無二の頼れる親友たちだ。
 自分たちのクラスに入る。この高校には俺らと同じ中学の奴ばっかりだから、あまり緊張はしなかった。中には見たことがない奴らもいるけど、きっと南中とかだろう。泉ヶ丘高校は市の真ん中にあるから、北中、西中、南中、そして東中の奴らが集まる。特に、俺らが通っていた東中はニュータウンということもあり、子供がわんさかいる。
 席に着き、黒板を見ると今日の日程が書かれていた。入学式まで、あと一時間か。

「翔、緊張する?」
「全然。亮介は自分の席に着かないの?」
「だってさ、出席番号順だから俺とお前、超遠いじゃん!お前が寂しいかなって思って遊びに来た!」
「暇人だね」
「うっせー!そういう翔も暇人だろ?」
「・・・俺は挨拶の準備があるから」
「げっ!お前、挨拶やんの?あったまいいー!」

 亮介が大きな声で話す。そのせいで目立ちたくないのに自然と目立ってしまう。入学式の挨拶をやるってだけで十分目立つのに。だいたい入試の結果が一番いい奴が挨拶をするっていうシステムがおかしい。話が上手い奴がやったほうが確実にいいのに。



 入学式が終わり教室に戻って、ホームルームの時間になった。

「じゃあ早速、自己紹介してもらおうか!」

 担任の松村、が会を進めていく。俺はあまりこういう熱血タイプの先生は苦手だ。

「泉亮介です!東中出身です!気軽に絡んでねー!よろしく!」

 パチパチと拍手が響く。さすが亮介。つかみは順調だ。

「田村麗奈ですっ!東中からきましたっ!部活は決めてないけどテニスやってましたっ!よろしくね!」

 こういう時、あいつらみたいに元気な奴は印象に残る。それにあいつらは自分の見せ方がわかってるから、すぐに友達もできるはずだ。一方で俺は・・・

「東中出身、矢澤翔です。よろしく」

 こんな愛想のないことしか言えないし、これが精一杯だ。別に自己紹介で自分をよく見せようとも、友達を作るために一生懸命になろうとも思っていない。他人にどう思われようが構わない。だから残り数人で自己紹介が終わると思うと気が楽になった。こんなくだらないことを終わらせて早く帰りたかった、そのはずだった。だけどどうしても1人だけ気になる人がいた。

「渡辺・・・蘭、です。聖マリアンヌ中等部から来ました。よろしくお願いします・・・」

 聖マリアンヌ中等部・・・・・・。そこは幼稚園から試験があり、その試験に合格すればエスカレーター式で大学までいくことができる、県内屈指の名門私立女子校だ。なぜわざわざこんな地方の公立高校に入学したのだろうか。聖マリアンヌ高等部だったら確実に大学に行けるし、偏差値だってこことそんなには変わらないはずだ。
 なぜ。なぜここに・・・?
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