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第四章 因縁の導き
解放 2
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それから一時間ほど後──
アディーヌと啼義は、中庭にいた。
先ほど、アディーヌの気持ちが通じたのか、しばらくして武器屋から戻った啼義が、自ら彼女の部屋へやって来て、言ったのだ。「竜の加護の使い方を、教えて欲しい」と。
「ではあの的を魔物と思って、意識を集中してみてください」
アディーヌが、庭の奥に立っている木の枝を組み合わせて造られた的を指差した。いきなりの指示に、啼義は戸惑う。
<どうやるんだ?>
最初は的をじっと見つめるも無反応、今度は眉間あたりに意識を集めてみたが、皺が寄っただけだ。それでもしばらくあちこちに集中を変えて試みてみたものの、何も起こらない。困っていると、アディーヌが口を開いた。
「竜の加護は、啼義様の内なる処にあります」
「内なる処?」
「こう──心臓の奥へ。目を閉じて、ご自身の鼓動に、意識を重ねてみてください」
啼義は言われたまま瞼を閉じ、右手を心臓のある付近に重ねた。トクトクと規則正しい鼓動が、手のひらを通して伝わってくる。
<ダリュスカインに追撃された時、俺はどうやったんだ?>
思い出すのも嫌だが、なんとか記憶を掘り起こそうとした。だがあの時は咄嗟すぎて、それこそ何も覚えているわけがない。あとは──淵黒の竜の像を破壊した時。
<でもあれこそ、自分の意思なんて全くなかった>
それどころか、何かに集中してすらいなかったのだ。強いて言えば、集中しようとした時に起こった事件だった。
<あれは俺じゃなくて、蒼空の竜の意思だったのか?>
だとしたら、いくら考えたところで答えなど出ないだろう。もっと有益な情報はないかと、さらに記憶を探る。
<いつかの山火事で、雨を降らせた時は?>
あれは時間をかけて力を発動したものだったが、今のように鼓動に意識を重ねた覚えなどない。ただ、願ったのだ。そこまで考えた時、ふと浮かんだ。
<"竜の神様にお願い"だ>
幼い日の自分が、何かを望む際になんとなく口にしていた言葉。時には本当に願う通りになることがあったが、自分はどうやってその力を起こしていたのだろう?
鼓動に意識を集め、その奥に何かを感じられないかと模索する。どのくらいそうしていたのか──それらしい兆しは全く起こらない。次第に集中が切れて、
「駄目だ。わかんねぇ」
啼義は音を上げた。アディーヌは攻めるでも落胆している風でもなく、納得したように頷いた。
「おそらく竜の加護は、啼義様の内に引き継がれた当時、肉体が未熟だっために、眠りのような状態についたと思われます。それが時折、上手く波長があって発動していたものの、恐らく今も、眠ったままなのでしょう」
「眠ったまま……」
アディーヌが続ける。
「本来は受け継いでから、波長を合わせて操るための訓練を重ねていき、そこそこ自由に同調できるようになるまで、一年ほどかかります」
啼義は目を見開いた。
「一年?」
そんな時間が、もちろんあるわけがない。啼義の表情が険しくなった。
「それじゃ、ダリュスカインに追いつかれちまう」
すると、アディーヌの左右色違いの瞳が、静かに啼義を見上げた。
「彼の居場所は、じきにわかるでしょう」
「え?」
「啼義様から取り出した魔の刻石は、非常に強い波動を持っています。その波動を読み解けば、彼がどこにいるのか、おおよその見当がつきます」
二人の間に沈黙が降りた。ダリュスカインは今、どこにいるのだろう。まだ、山を越えて来ることはないのだろうか。
「今日はもう、探れるほどの魔力が私にはありません。魔力が回復したら、明日にでも試そうと思います」
黙ったままの啼義に、アディーヌは微笑んだ。
「啼義様、これには時間がかかります。気を楽にして、もう一度やってみましょう」
アディーヌと啼義は、中庭にいた。
先ほど、アディーヌの気持ちが通じたのか、しばらくして武器屋から戻った啼義が、自ら彼女の部屋へやって来て、言ったのだ。「竜の加護の使い方を、教えて欲しい」と。
「ではあの的を魔物と思って、意識を集中してみてください」
アディーヌが、庭の奥に立っている木の枝を組み合わせて造られた的を指差した。いきなりの指示に、啼義は戸惑う。
<どうやるんだ?>
最初は的をじっと見つめるも無反応、今度は眉間あたりに意識を集めてみたが、皺が寄っただけだ。それでもしばらくあちこちに集中を変えて試みてみたものの、何も起こらない。困っていると、アディーヌが口を開いた。
「竜の加護は、啼義様の内なる処にあります」
「内なる処?」
「こう──心臓の奥へ。目を閉じて、ご自身の鼓動に、意識を重ねてみてください」
啼義は言われたまま瞼を閉じ、右手を心臓のある付近に重ねた。トクトクと規則正しい鼓動が、手のひらを通して伝わってくる。
<ダリュスカインに追撃された時、俺はどうやったんだ?>
思い出すのも嫌だが、なんとか記憶を掘り起こそうとした。だがあの時は咄嗟すぎて、それこそ何も覚えているわけがない。あとは──淵黒の竜の像を破壊した時。
<でもあれこそ、自分の意思なんて全くなかった>
それどころか、何かに集中してすらいなかったのだ。強いて言えば、集中しようとした時に起こった事件だった。
<あれは俺じゃなくて、蒼空の竜の意思だったのか?>
だとしたら、いくら考えたところで答えなど出ないだろう。もっと有益な情報はないかと、さらに記憶を探る。
<いつかの山火事で、雨を降らせた時は?>
あれは時間をかけて力を発動したものだったが、今のように鼓動に意識を重ねた覚えなどない。ただ、願ったのだ。そこまで考えた時、ふと浮かんだ。
<"竜の神様にお願い"だ>
幼い日の自分が、何かを望む際になんとなく口にしていた言葉。時には本当に願う通りになることがあったが、自分はどうやってその力を起こしていたのだろう?
鼓動に意識を集め、その奥に何かを感じられないかと模索する。どのくらいそうしていたのか──それらしい兆しは全く起こらない。次第に集中が切れて、
「駄目だ。わかんねぇ」
啼義は音を上げた。アディーヌは攻めるでも落胆している風でもなく、納得したように頷いた。
「おそらく竜の加護は、啼義様の内に引き継がれた当時、肉体が未熟だっために、眠りのような状態についたと思われます。それが時折、上手く波長があって発動していたものの、恐らく今も、眠ったままなのでしょう」
「眠ったまま……」
アディーヌが続ける。
「本来は受け継いでから、波長を合わせて操るための訓練を重ねていき、そこそこ自由に同調できるようになるまで、一年ほどかかります」
啼義は目を見開いた。
「一年?」
そんな時間が、もちろんあるわけがない。啼義の表情が険しくなった。
「それじゃ、ダリュスカインに追いつかれちまう」
すると、アディーヌの左右色違いの瞳が、静かに啼義を見上げた。
「彼の居場所は、じきにわかるでしょう」
「え?」
「啼義様から取り出した魔の刻石は、非常に強い波動を持っています。その波動を読み解けば、彼がどこにいるのか、おおよその見当がつきます」
二人の間に沈黙が降りた。ダリュスカインは今、どこにいるのだろう。まだ、山を越えて来ることはないのだろうか。
「今日はもう、探れるほどの魔力が私にはありません。魔力が回復したら、明日にでも試そうと思います」
黙ったままの啼義に、アディーヌは微笑んだ。
「啼義様、これには時間がかかります。気を楽にして、もう一度やってみましょう」
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