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翌日は非番だったが、昨晩のイルギネスは飲みに行かなかった。朝、一瞬だけ、驃が朝練をしている稽古場に顔を出そうかとも思ったが、サブの剣しか手元になく、あの言われようの後では気が引けた。ひと通りの雑用が終わると、特にやることも浮かばず、なんとなく武器屋に足が向かっていた。ちょうどディアが表に出てきて、扉にかけた札を『昼休み中』に掛け替えるところだった。
「あら」
「ちょっと早く来てしまったんだが……出直した方がいいか?」
札を見てイルギネスが尋ねると、「ううん。大丈夫」とディアは答えた。
「でも父が、ちょうどさっき商談に出かけてしまって──剣はちゃんと、補修してあるけど」
「なら、問題ない。入っても?」
「どうぞ」
札を『昼休み中』に掛け替えたまま、ディアは彼を中に通した。
彼女はイルギネスを待たせて、店の奥に一度消え、すぐに彼の愛剣を抱えて出てきた。机の上に乗せられた剣を見て、彼は目を見張った。見るからに昨日と雰囲気が違っている。
「父が剣身を補修したあと、手入れさせてもらったの。余計なことかもと思ったんだけど、放っておけなくて……」
「君が?」聞くと、ディアは頷いた。
イルギネスは、急に胸が詰まるのを感じた。こんなに違って見えるほど、消耗して汚れていたのか。
「抜いてみても、いいか?」
「もちろん」
厳かに剣を取り、右手で鞘から引き抜く。
眩い剣身が、キラリと光を反射した。
「──綺麗だ」
それしか言葉が出なかった。そこにあったのは、テオディアスが憧れていた剣の、あの輝きだった。思えばだいぶ長いこと、この輝きを見ていなかった気がする。その瞬間──
『やっぱり、兄貴はかっこいいな』
弟の嬉しそうな顔が、はっきりと脳裏に浮かんだ。目に熱いものがこみ上げてきて、イルギネスは慌てて目を拭った。昨日、墓の前で泣かせてくれとは言ったが、こんなところで泣くわけにはいかない。
「大丈夫?」ディアが気づいて、少し心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ」
強がったが、少しだけ泣き笑いのような顔になった。必死に思いを引っ込めて、拳で顔を拭うと、あらためて柄から剣先まで眺めた。磨き抜かれて蘇った愛剣は美しく、あらためて見惚れた。
「やっぱり、かっこいい」
振り向くと、ディアが羨望の眼差しで、こちらを見ている。その明るい瞳に、彼は無意識に目を奪われた。
「ちゃんと面倒見てあげてよね。私も、この剣が好きだから」彼女は諭すように言った。
「なんだ。剣のことか」
「え?」
「いや、なんでもない──幾らだ?」
「二千リドよ」
「そんな安くていいのか。全部綺麗にしてもらったのに」
「刃の補修以外は、私の勝手だから。これで腑抜け野郎から、抜け出してちょうだい」
イルギネスは驚いた。自分の弱っていた心を、剣を通してすっかり見透かされていたようだ。どこか気恥ずかしくはあったが、嫌な気持ちにはならなかった。
「──そうか。ありがとう」
料金を払って、腰のベルトに元通り剣を装備する。馴染んだ重さが、心地よかった。
「あら」
「ちょっと早く来てしまったんだが……出直した方がいいか?」
札を見てイルギネスが尋ねると、「ううん。大丈夫」とディアは答えた。
「でも父が、ちょうどさっき商談に出かけてしまって──剣はちゃんと、補修してあるけど」
「なら、問題ない。入っても?」
「どうぞ」
札を『昼休み中』に掛け替えたまま、ディアは彼を中に通した。
彼女はイルギネスを待たせて、店の奥に一度消え、すぐに彼の愛剣を抱えて出てきた。机の上に乗せられた剣を見て、彼は目を見張った。見るからに昨日と雰囲気が違っている。
「父が剣身を補修したあと、手入れさせてもらったの。余計なことかもと思ったんだけど、放っておけなくて……」
「君が?」聞くと、ディアは頷いた。
イルギネスは、急に胸が詰まるのを感じた。こんなに違って見えるほど、消耗して汚れていたのか。
「抜いてみても、いいか?」
「もちろん」
厳かに剣を取り、右手で鞘から引き抜く。
眩い剣身が、キラリと光を反射した。
「──綺麗だ」
それしか言葉が出なかった。そこにあったのは、テオディアスが憧れていた剣の、あの輝きだった。思えばだいぶ長いこと、この輝きを見ていなかった気がする。その瞬間──
『やっぱり、兄貴はかっこいいな』
弟の嬉しそうな顔が、はっきりと脳裏に浮かんだ。目に熱いものがこみ上げてきて、イルギネスは慌てて目を拭った。昨日、墓の前で泣かせてくれとは言ったが、こんなところで泣くわけにはいかない。
「大丈夫?」ディアが気づいて、少し心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ」
強がったが、少しだけ泣き笑いのような顔になった。必死に思いを引っ込めて、拳で顔を拭うと、あらためて柄から剣先まで眺めた。磨き抜かれて蘇った愛剣は美しく、あらためて見惚れた。
「やっぱり、かっこいい」
振り向くと、ディアが羨望の眼差しで、こちらを見ている。その明るい瞳に、彼は無意識に目を奪われた。
「ちゃんと面倒見てあげてよね。私も、この剣が好きだから」彼女は諭すように言った。
「なんだ。剣のことか」
「え?」
「いや、なんでもない──幾らだ?」
「二千リドよ」
「そんな安くていいのか。全部綺麗にしてもらったのに」
「刃の補修以外は、私の勝手だから。これで腑抜け野郎から、抜け出してちょうだい」
イルギネスは驚いた。自分の弱っていた心を、剣を通してすっかり見透かされていたようだ。どこか気恥ずかしくはあったが、嫌な気持ちにはならなかった。
「──そうか。ありがとう」
料金を払って、腰のベルトに元通り剣を装備する。馴染んだ重さが、心地よかった。
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