あの約束を、もう一度

夕凪

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第五章

熱い視線

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「えー、2点A,Bの座標はA(cos α,sin α),B(cos β,sin β)であるからして、2点間の距離の公式により───」



呪文のような公式が栗林の低い声に乗って流れている教室内。



今日は授業参観の日だ。



栗林の目を盗んで教室の後方を盗み見る。



想像以上に父兄の数は多かった。



見るからに教育熱心そうな親、授業内容のせいか眠そうな目をしばしばさせている親、我が子の姿など見ようともせずママ友とコソコソ話し込んでいる親もいる。



静かに正面に向き直って黒板の文字をノートに書き写す。



『今日行くからな』



今朝そう言った父親の顔を思い出す。



来なくていい、そう願った俺の願いは叶ったようだ。



安堵のため息が意図せず漏れたのも束の間、後方から遠慮がちにゆっくり静かにスライドドアが開く音がした。



教壇の栗林、クラスメイト、父兄の視線が音のした方に一点集中する。



嫌な予感がして視線をそちらに向けると、スーツをビシッと綺麗に着こなした父親の姿が目に入る。



父親が栗林に軽く会釈をすると、栗林も少し頭を下げる。



げっ・・・。



なんでよりによってこのタイミングで来るんだよ・・・!!!



「やだ、誰の親御さんかしら?」
「新しく転校して来た子のお父さんじゃない?素敵な人ねぇ・・・」
「うちの旦那と大違いだわ」



色めき立つ父兄達。



「超かっこいいんだけど」
「もしかして龍ちゃんのお父さんじゃない?」
「あたしもあんなお父さんがよかったなー」



クラスメイトの視線を痛いくらいに感じる。



「・・・静かに!」



栗林の声が教室に響くとクラスメイトの視線はあるべき場所に戻り、再び教室は静寂に包まれた。



恨みの視線を父親に向けていると、黒板を指差しながら『前を向け』とサイレントで注意される。



仕方なく前を向き、黒板に書かれた理解できていない内容を写していく。



───20分後、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。



「今日はお忙しい中お越しくださってありがとうございました」



父兄に深々と頭を下げて授業は終わりを迎えた。



後方にいた父兄達が子供の元へ向かってくる。



父親も例外ではなく俺の元に───、と思ったが栗林の元に向かってなにやら話している。



お互いにペコペコ頭を下げ合って、やっとこちらに向かってきた。



「よそ見してないでちゃんと前向いて授業受けないと駄目じゃないか」



「・・・父さんが変なタイミングで来るからだよ」



教科書を片付けながら少し不機嫌に言う。



ちょうどその時、智也と雄大がそろってやって来た。



「───龍」



諒太がこちらを見つめている。



俺達を紹介しろと言うことだろう。



3人をざっと紹介する。



「みんなのことは息子から聞いてるよ。いつも息子と仲良くしてくれてありがとう。雄大くん、君は前に挨拶をしてくれたね。また良かったら泊まりにおいで。───智也くん諒太くんもね」



「・・・おい、てめえいつ龍んちに泊まったんだよ」



諒太が雄大を締めあげている。



「龍ちゃーーーん!!!」



・・・まためんどくさいやつが来た。



大男3人をいとも簡単に弾き飛ばし、美奈子率いるギャル軍団が俺と父親を取り囲む。



「やだぁ、もしかして龍ちゃんのお父さまぁ?」



「父さん、矢野美奈子ちゃんだよ」



げんなりしながら紹介する。



「美奈子でーーーす☆」



愛嬌たっぷりに自己紹介をしていくギャル軍団。



美奈子のインパクトが強烈すぎて他の子たちは父親の中ではほとんど印象に残っていないだろう。



「ばいばーい、お父様ぁ!」



「・・・ははは、さようなら」



ケバい女子達にもみくちゃにされた父親は逃げるように帰っていた。


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